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登龍門を泳ぐ

聖女と第三の滝

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「ロズにいにと交代するなのー!」

 ちゅ、と甘い音を鳴らしてラピスがぷるんと結界を越えていく。第一の滝より水流は激しくて外の様子がわからない。ただ、私が結界もなく滝を泳ぐのは絶対に無理なのは分かる。みんな、本当にすごい。
 泳ぐことはできないけれど、みんなの為にできることはあるから恥ずかしいけど沢山の魔力を届けようと決意した。

「カレン様、ただいま戻りました」
「ロズ……っ! お帰りなさい」

 結界に勢いよく飛び込んできたロズに泳ぎ寄る。煌めく赤い鱗に身体をすりすりしてしまう。離れていたのは少しの間なのに、ロズに会えたことが嬉しくて纏わりつくのをやめられない。

「カレン様、そんなに寂しかったですか?」

 くすりと艶やかに囁かれて尾ヒレがぴょんと跳ねる。赤い瞳に見つめられて恥ずかしいのに、まぶたがないから視線を逸らすことができない。じっと見つめられる眼差しにこくんと頷く。

「うん、寂しかった……」

 赤い胸ビレが身体をするりと撫でた感触に上を向いた。宝石のように綺麗な瞳に見つめられて心臓がどきどき鼓動を打っていく。近づく唇に胸をときめかせて甘い感触を待っていると、ピタリと止まった。

「カレン様、ご褒美はまだですか?」
「……ひゃああ!」

 触れそうなくらい近い距離で色っぽく囁かれる。ロズからのキスを待っていたのが恥ずかしくて、思いっきり変な声がこぼれた。

「うっ、うう、ロズのいじわる~~~」
「意地悪なのはカレン様ですよ? 第二の滝を昇ってきたから、もう数ミリも泳げそうにありません」

 ふう、と吐息をこぼすロズを見て、文句を言ってしまったことを反省する。胸ビレでロズの赤い鱗をするりと撫で、口を寄せた。

「ロズ、意地悪なんて言ってごめんなさい。お疲れさま、本当にありがとう……っ」

 労いの気持ちを込めて口を合わせる。ちゅ、と音を立てて離れて、また近づいた。一度唇を重ねれば、身体中を甘やかな想いが駆け抜けて止まらなくなる。あふれる好きを伝えたくて、何度も何度も唇を寄せて甘やかな音を鳴らした。
 
「ん、ロズ、っ、好き……」
「……ええ、知ってますよ」

 キスの合間に好きを伝えるのに、意地悪ロズモードらしくて好きって言ってもらえない。受け止める唇はやさしくて、ロズから好きな気持ちは伝わってくるけれど。なぜかどうしても好きという言葉がほしくて、追いかけキスをしてしまう。

「ロズ……っ、ロズ、好き……っ」

 唇に吸い付き、胸ビレで鱗を触る。まぶたのない瞳で見つめあってもキスをするのは私だけで、ロズからのキスがほしくて水中なのに涙があふれてきた。

「そんな可愛い反応されるとますますいじめたくなります」
「やっ、意地悪しないで……?」
「仕方ないですね。カレン様がどうして欲しいか教えてください」
「うう、やっぱり意地悪……っ」
「教えてもらわないと分かりませんからね」

 完全なる意地悪モード。うう、赤い瞳が揶揄っていて、口角の上がる唇は色っぽい。

「……えっと、あの、私のこと好き……?」
「カレン様好きです」

 赤い瞳に熱っぽく見つめられて、尾ひれが跳ねた。言ってほしかったのに、いざ言われると恥ずかしくて嬉しい。ふにゃりと口元が緩んでいくのがわかったけれど。


「──これまで好きを伝えてきたのに、伝わっていなかったなんて……カレン様にはたっぷり教えてあげなくてはいけませんね?」
「っ、ひゃあ……っ! ロ、んんっ、ん……」

 とんでもない色気を真正面から受け止めて、ぴょん、と心臓も尾ひれも跳ね上がる。ちょっと言葉が書きたかっただけなのに、唇を熱烈に塞がれて、息もできない。エラがあってよかったな、なんて頭を掠めたのも一瞬で、あとは甘くて熱くて甘やかなキスに溺れていった。

「カレン、愛しています」
「……うん。私も、ロズが大好き」
「登龍門を昇って、一緒になりましょうね」
「うん……っ! 日本に戻っても絶対に一緒だよ」

 二匹で唇を重ねていると、ノワルの声が頭に響く。


『花恋様、ロズ、第三の滝を昇り終わるよ』


 ノワルの言葉でロズと一緒に前を見る。泡だらけの水中の先に光るなにかが見える。あれが登龍門だと理解して潜り抜けた直後に──目の前がまぶしいくらいの光に包まれた。
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