89 / 95
登龍門を泳ぐ
聖女と第二の滝
しおりを挟む元気いっぱいのラピスの声が聞こえて、ノワルにいってらっしゃいのキスを送る。まぶたのない鯉は瞬きしない。艶やかな黒い瞳を見つめながら、ちゅうとキスをした。
「ノワル、いってらっしゃい。よろしくお願いします」
「うん、ありがとう。花恋様はラピスを癒してあげてね」
「うんっ!」
ぷるん、と結界が揺れてノワルが激流に飛び出していく。ノワルの後ろ尾を目で追うけれど、気泡だらけの結界の外では、あっという間に見えなくなった。
「かれんさまー! がんばったなのー!」
次に勢いよくラピスが結界に入ってきて、驚いて鯉の尾がぴょんっと跳ねる。
ラピスのひらひら動く胸ビレでぎゅううっと抱きしめられて、胸がきゅんと弾けた。ラピスは大きな鯉になっても、人懐こい、いや、この場合は鯉懐こいになるのかなあと思う。とにかくかわいいラピスを私もひらひらの胸ビレで抱きしめ返す。
「ラピス、ありがとう! あっという間に第一の滝を昇っちゃってびっくりしちゃったよ。ラピスはすごいね」
「えっへんー! すごいなのー!」
「うん、すごいね!」
得意そうに胸ビレを動かして上を向くラピスがかわいくて堪らない。胸ビレで労わるようにラピスを撫でると、青い尾が嬉しそうに揺れた。
「かれんさまーごほうびほしいなのー」
「うん! なにがいい?」
にこにこ笑いながら話しかけられて、つられて笑顔で答える。
「かれん様、ちゃんとラピスのこと見てほしいなの」
「えっ」
「かれん様のほうが小さいなのよ?」
ラピスの顔が近づいて、私の口より大きな口に捕まる。ちゅう、ちゅう、と離れては吸いつくキスが繰り返されていく。今まで過ごしてきた幼い男の子だったラピスの印象のまま話してしまうけど。大人で天使で格好いい姿も見ているし、鯉の姿のラピスは私よりも大きくて、意識した途端に駄目になってしまう。
「んっ……あっ……」
自然と甘い吐息が漏れた。今までラピスにときめいていたものとは違う。一人の男性として見ていることを認めるしかない。大きな青鯉から、逃さないというようにキスを繰り返され、胸ビレで撫でられると身体が甘やかに痺れて尾ヒレが跳ねた。
「かれん様ーかーわいいー」
「ひゃあ……っ」
色っぽいラピスに思わず変な声がこぼれる。胸がどきどき高鳴って、どうしようもない。二匹しかいない結界の中は甘い空気が流れていてラピスの視線も熱を持つ。
大人っぽくてドキドキするラピスの視線から逃げるように、ラピスの身体にそっと頭を寄せる。それなのに、まぶたのない鯉の瞳に映るのは宝石みたいに煌めく青色の鱗。
「……綺麗」
「かれん様、こっちむいてほしいなの」
「うん」
鱗よりずっと綺麗なラピスの瞳と向き合う。窺うような表情を見て、ラピスを不安にさせていることにようやく気付く。小さく息を吐くと、細かな空気の泡が水中をのぼった。
「……あのね、私、ラピスが好き。ちゃんと男性として好きだよ」
「かれん様、大好きなの」
破顔して笑うラピスに口を寄せる。ちゅう、と大きな音が鳴って、二匹で見つめあう。ラピスから甘い音のするキスをもらい、私も贈る。二匹で甘やかな世界を創り出していく。
『カレン様、ラピス、第二の滝を昇り終わりました。交代の時間ですよ』
一際甘い音を弾けさせたあとに聞こえてきたのは、ロズの第二の滝を登り終えた報告だった。
0
お気に入りに追加
192
あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな
弥生菊美
恋愛
付き合った相手から1人で生きていけそう、可愛げがない。そう言われてフラれた主人公、これで何度目…もう2度と恋愛なんかしないと泣きながら決意する。そんな時に出会った巫女服姿の女性に異国での生活を勧められる。目が覚めると…異国ってこう言うこと!?フラれすぎて自己評価はマイナス値の主人公に、獣人の青年に神使に騎士!?次から次へと恋愛フラグ!?これが異世界恋愛!?って、んな訳ないな…私は1人で生きれる系可愛げの無い女だし
ありきたりで使い古された逆ハー異世界生活が始まる。
※登場キャラ「タカちゃん」の名前を変更作業中です。追いついていない章があります。ご容赦ください。2024年7月※

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる