81 / 95
登龍門を泳ぐ
聖女と龍の実
しおりを挟むテントや結界を仕舞い、いざ登龍門に向かって一歩を踏み出した途端、ロズに止められた。
「カレン様、登龍門に行く前に『龍の実』を採っていきましょう」
「龍の実?」
初めて聞く単語に首を傾げるとラピスに手を繋がれる。手を引いて、たたっと走り出すラピスに一緒に着いて行く。
「かれんさまーこっちなのー! ここにあるのー」
もしゃもしゃと伸びている草むらにしゃがみ込む。深緑色の細長い葉っぱの中で、青色の髪の毛がぴこぴこ動いているのがかわいい。
「あったのーこれなのよー!」
ただの草むらだと思っていたのに、ラピスがビー玉くらいの真っ青な実を掲げて見せてくれた。龍の実は、ラピスラズリみたいな青色なので、神秘的で本物の宝石みたい。
「すごく綺麗な実だね」
「うんなのー! りゅうの実はーりゅうになるための実なのー」
えっへんと胸を張るラピスが可愛い。大人可愛い系のラピスも可愛かったけど、やっぱり小さなラピスは天使。好き、かわいい、好きのエンドレスリピートする感想しか浮かばない。
「そうなんだっ!」
今ひとつ内容が分からないけど、ラピスが可愛いことは分かった。もうそれだけでいいんじゃないかな? と思ってぎゅううとラピスを抱きしめて、おでこにちゅ、とキスをする。ふにゃりと頬を緩ますラピスに胸がきゅんっと弾けて、キスを落とす。
「カレン様は仕方ないですね……」
「うう、だって、可愛かったから?」
横に来たロズに呆れられてしまったので、素直に謝った。
「龍の実は、龍の髭と呼ばれる植物になる実です。龍の実や龍の玉と呼ばれていますが、変わった実で空気が沢山つまっています」
「空気がつまってるの?」
「ええ、そうです。見せたほうが分かりやすいですね」
ロズがそう言うと、龍の実の空色の皮を剥くと真っ白の玉が出てきた。
「カレン様、見ててくださいね──」
真っ白な龍の実をロズが草の生えていない地面に投げると、ぴょーんと大きく弾む。軽々と私の背丈を越えて弾む玉に、目がまん丸になる。
「ええっ……? スーパーボールみたいだね……!」
「空気がつまっているので、とても弾みます。弾み玉と呼はれていて、子供たちが遊ぶために集めることもありますね」
「そうなんだ! 楽しそうだから、私もやってみてもいい?」
うずうずしてロズに聞くと、龍の実をひとつ渡してくれた。ロズの真似をして剥いてみるけど、意外と難しい。なんとか真っ白な玉を取り出して、地面に投げてみる。
ぽーん、とスーパーボールみたいに弾む玉に感動した。見た目が植物なのに、弾むっていうギャップがたまらない。
「すごいね……っ!」
「ええ、すごいです。空気がつまっている龍の実を口に含んでいると、どんな急流のなかでも楽に息をすることができますから」
「そうなんだ」
「前回の登龍門を昇り切れたのは、龍の実を見つけたおかげです」
「水の中にも生えてるの?」
鯉のときは、地上にある龍の実を採ることができないから、不思議に思って口にする。
「龍の髭は、季節を問わず緑の葉っぱを深緑色に茂らせています。その様子から花言葉が『変わらぬ想い』『不変の心』なのです──強く龍になりたいと変わらず思い続けている鯉に与えられるのが、龍の実なんですよ」
「そうなんだ……っ! ロズ達の想いが叶って、龍の実がもらえたんだね。すごいね……っ!」
さらりと話してくれたけれど、三人の想いが届いたなんてすごい強い想いだったんだと思う。
「龍の実って自分たちで見つけてもいいの?」
「ええ。今のわたしたちは、鯉になれますが、龍なので龍の実がなくても平気なのです」
「ええっ、そうなの? 龍の実がいらないのに、なんで採りにきたの?」
びっくりして目を瞬かせると、ロズの口角が綺麗な弧を描く。
「龍になれた縁起のいい実なのと、うっかり者なカレン様と登龍門を昇るなら必要かと思いまして?」
「ふえっ……?」
驚いて変な声をあげれば、ロズが意地悪そうに瞳を覗きこむ。
「嘘ですよ」
「ふええ……? うう、ロズの意地悪……っ」
「嫌いになった?」
じとりと見つめても艶やかに笑うロズに心臓が跳ねた。
「カレン様は、隣にいて守られていてください。必ず元の世界に連れて帰ります」
優しさのにじんだロズの言葉が景色がぼやけていく。意地悪のあとに甘やかなことを言うから、ロズはずるい。ますます好きになっちゃう。
「ロズの意地悪なところも好き」
「はあ……まったくカレン様は仕方ないですね」
「ふええ? な、なんで……?」
「そんな可愛い反応されるとますますいじめたくなりますけど──カレン様、お仕置きされたいの?」
ロズの長い指がするりと頬を撫でて、顎を掬われる。熱の集まる顔で小さく頷けば、とんでもなく甘やかなお仕置きのキスが落ちてきた。
0
お気に入りに追加
192
あなたにおすすめの小説

異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。
氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。
それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。
「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」
それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが?
人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。
小説家になろうにも投稿しています。
【完結】見習い魔女は、副騎士団長に片想いしている
楠結衣
恋愛
見習い魔女のジャスミンは薬師の魔女を目指して魔法塔で働いている。
師匠の黒猫ルーナを保護してくださったのをきっかけに副騎士団長のフィリップ様と言葉を交わすようになる。
毎朝話せるだけでしあわせだったのに、フィリップ様は魔の物の討伐に向かうことになって……。
これは見習い魔女と副騎士団長の恋のおはなしです。全7話。
*表紙イラストは、汐の音さまに描いていただきました。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

捕まり癒やされし異世界
波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。
飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。
異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。
「これ、売れる」と。
自分の中では砂糖多めなお話です。


【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる