【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣

文字の大きさ
上 下
77 / 95
恋を泳ぐ

聖女と逆鱗

しおりを挟む



「っ、あ、あの、ノ、ノワル…………?」


 ノワルに覆いかぶされて、間近に端正な顔がある状況に鼓動がとんでもなく速くなっていく。

「花恋」

 低い声で呼び捨てにされると心臓がきゅう、と跳ねる。黒い瞳がいつもより熱くゆらめいていて、いつものノワルではない。

「あの鱗がなにか知ってる?」

 首を横に振ると、頬をするりと撫でられて肌が粟立つ。

「龍の逆鱗げきりんって聞いたことない?」
「っ!」

 龍の逆鱗は、私でも聞いたことある。龍に生えている鱗の中に一枚だけ逆さに生えている鱗があり、逆鱗を触ると激しく怒らせてしまうという。

「ご、ごめんなさい……っ!」

 とんでもない鱗に触ってしまったことに今さら気づいて、涙が込み上げてくる。龍は、逆鱗に触れられることをとんでもなく嫌がり、触られると激昂し、触れた者を即座に殺すという。

「ごめんなさい、ノワル……っ。ノワルの嫌がることをしちゃって、本当にごめんなさい!」

 ノワルに殺されるかもしれないことより、ノワルが殺意を覚えるほどのことをしてしまったことに後悔の涙がこぼれる。

「はああ、もう、花恋かわいい」

 ちゅ、ちゅ、と目尻の涙を吸い取られて、甘やかに見つめられた。

「逆鱗をつがい以外に触れられるのは激昂するくらい嫌なんだけど、つがいに触られると──」

 ノワルの手が頬に添えられて、言葉を切ったノワルに瞳を覗き込まれる。まっすぐな眼差しに思わず喉がこくりと鳴った。

「──とんでもなく欲情する」
「ふえええ……っ?!」

 あまりにびっくりして目を見開いて、変な声がこぼれ落ちる。

「気持ちのコントロールが難しくなって発情する」
「……は、はつじょう」
「うん、発情。とんでもなく欲情して止まらなくなるからね、龍の間では絶倫の鱗なんて呼ばれているよ」
「……ぜつりんのうろこ」

 欲情も発情も絶倫のとんでもない発言に思考が停止してしまって、ノワルの言葉をオウム返しにしてしまう。今までの人生にまったく馴染みのない単語の羅列すぎる。

「ああ、絶倫っていうのは、元々の抜群に優れているって意味じゃなくて、性的な持久力が桁外れに旺盛って意味の方だからね」
「ひ、ひゃ、ひゃあ…………っ!」

 ノワルに絶倫の意味を耳元で解説されて、思いっきり叫び声を上げながら両手で顔を覆った。私、とんでもない鱗を何度も何度も触って撫でてキスしていたよね?!?! もしかして金色からピンク色に変わっていたのが発情してたってことなのかな?!
 も、もう、恥ずかしすぎて鯉のぼりの紐を切って、空へ飛んでいってしまいたい。

「ねえ、花恋。絶対に触ったら駄目だって言ったよね?」
「……うん。ごめんなさい」

 顔を覆う手の甲に、ちゅ、と優しくキスが落ちてくる。甘い音が部屋に響いて、触れた体温に心臓がきゅううと締め付けられた。

「俺はね、本当はいつでも花恋といちゃいちゃしたいけど、必死に我慢してるんだよ」
「……う、うん。ごめんなさい」

 顔を覆っていた両手を優しく剥がされれば、いつもより熱くて甘い瞳に射抜かれて。ノワルの顔がゆっくり下がり、至近距離で見つめ合う。
 火傷しそうな熱いまなざしに焦がされる。身体中の体温が上がり、心臓がどきどき痛いくらいに鼓動を打つ。


「花恋、好きだよ」
 
 まっすぐな想いを告げられてしまったら、もう瞳を逸らせない。宝石みたいな瞳の中に映る私の顔は、ノワルが好きだと書いてある。

「私もノワルが好き……」
「ああ、もう……っ! 本当に花恋はかわいいね」

 私は近づいてくる顔に、そっとまぶたをとじた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな

弥生菊美
恋愛
付き合った相手から1人で生きていけそう、可愛げがない。そう言われてフラれた主人公、これで何度目…もう2度と恋愛なんかしないと泣きながら決意する。そんな時に出会った巫女服姿の女性に異国での生活を勧められる。目が覚めると…異国ってこう言うこと!?フラれすぎて自己評価はマイナス値の主人公に、獣人の青年に神使に騎士!?次から次へと恋愛フラグ!?これが異世界恋愛!?って、んな訳ないな…私は1人で生きれる系可愛げの無い女だし ありきたりで使い古された逆ハー異世界生活が始まる。 ※登場キャラ「タカちゃん」の名前を変更作業中です。追いついていない章があります。ご容赦ください。2024年7月※

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。

氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。 それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。 「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」 それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが? 人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。 小説家になろうにも投稿しています。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

処理中です...