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恋を泳ぐ
聖女とただひとつの鱗
しおりを挟むびっくりしている私の頬や首筋に、ノワルの鼻先が擦りつけられる。
「一生懸命隠していたけど、花恋様が尻尾と耳に夢中だったのは分かっていたから、ずっとやきもち妬いてた」
「うう、ごめんなさい……」
「あの村にいたキツネ族、変化が得意だから耳も尻尾も隠せるんだよ」
「ええっ?! そうなの……?」
ノワルに告げられた事実に驚いて目を見開いた。異世界だから知らなかったけれど、言われてみればキツネとタヌキは化けることが出来るかもしれない。
「うん、そうなんだ。聖女の花恋様が滞在するだけで村を浄化できるからね」
私は、こくんと頷く。聖女と聖獣が一緒にいるだけで、どんどん浄化されていくのは、ベルテさんの村の時で実感している。しかも以前とは比べ物にならないくらいノワル達と沢山のキスをしているから、浄化力が高くなっていると思う。
「キツネ族は、長く滞在してもらえるように花恋様が興味を持った耳と尻尾を出していたんだと思うよ」
「そ、そうだったんだ……」
もしかして天然に見えていたコンキチさんの態度もわざとだったのかな、と思うと急に寂しい気持ちになってしょんぼりしてしまう。
「ああ、言い方が悪かったね、コンキチ殿は天然だよ。わざと花恋様を誘惑するようなら近くに寄せるつもりはなかったから──まあ、思った以上に天然だったのには参ったかな」
ノワルは困ったように笑う。
「本当は花恋様が望むならなんでも叶えてあげたい……。だけど、ロズとラピス以外が花恋様といちゃいちゃするを見るのは嫌だったから早めに出発したんだ──俺の器が小さくて、幻滅した?」
不安そうに揺れる黒い瞳に見つめられると、どうしようもなく胸がきゅううと甘く締めつけられる。いつも大人なノワルのかわいい姿にきゅん、と好きが弾けた。
「もう、ノワルに幻滅なんてするわけないよ……っ」
鱗龍にぺたりと抱きつく。つるつるの鱗を優しくなぞって撫でて、黒い鱗に繰り返しキスを落とす。好き、愛おしい、好きの気持ちが溢れて、止まらない。ノワルの顔が近づいて、龍の口にもキスをして、沢山の鱗に一枚一枚キスを落とす。
「ん、好き……、ノワル、好き……」
一枚だけある金色の鱗がきらきらと煌めく。淡い金色がピンク色に変わりはじめていて、どうしようもなく惹かれて指先を伸ばす。
「ノワルの鱗、本当に綺麗……っ」
つう、と触れた一枚だけの鱗は、ほわりとあたたかくて、吸い寄せられるようにキスをした。
「っ、か、花恋、さま……?」
何度もキスを落とすと、金色の鱗がピンク色に染まっていく。ノワルの溢す吐息がとても色っぽくて、ますます夢中になって唯一の鱗になぞって撫でてキスを落とす。
「好き、ノワル……」
「っ、ああっ、花恋さま」
「ノワル、好き、大好きだよ」
「ん、もう、やめて……? 本当、それ以上はだめだから……」
「やっ、もっと触りたい」
「っ、花恋……っ!」
切羽詰まるノワルの声に顔を上げると、めちゃくちゃにキスをされた。長い舌で口内を舐められて、どこも触れてないところなんてないくらいのキスに身体の力がくたりと抜ける。
「──ごめん、もう無理」
ノワルの言葉と共に鱗龍の姿がきらきらと煌めいて人間の姿に戻っていた。
「ひゃあ……っ」
突然の浮遊感に変な声が出てしまう。
ノワルが私を横抱きにしたので、あわてて首の後ろに腕をまわす。珍しく焦っているような様子のノワルが、テントの中に入っていく。そのまま乱暴に私の部屋の扉をあけると、ベッドに私を押し倒した──!
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