【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣

文字の大きさ
上 下
74 / 95
土を泳ぐ

聖女と尻尾

しおりを挟む

 村の門に薬玉くすだまを飾る。どこからか清廉な風が吹きはじめ、薬玉の下に垂れる四色の糸を揺らしていく。

「村に結界が張れました。これでモグーラが温泉を駄目にすることはないでしょう」

 まわりの空気が澄み、さらにロズの言葉を聞いて安心する。薬玉を作り終えたあとに入った温泉は、やっぱり心地よくて最高だった。

「よかった。温泉が無くならないの嬉しいな」
「ええ、カレン様の願いを叶えることができてよかったです──村の者たちも喜んでいますね」

 薬玉くすだまの説明を聞いて喜ぶ村の人たちに頬が緩む。空気が澄む感覚が嬉しくて、ロズに大きくうなずく。

「聖女様! もう出発されるのですか?」

 ノワルから出発することを聞いたコンキチさんが、パタパタと尻尾と三角耳を揺らして駆けてきた。

「うん、最後に温泉も入れたし、今から出発するつもりだよ」

 びっくりするコンキチさんの尻尾がぶわっと広がる。表情も豊かなんだけど、尻尾や耳の動きで感情がわかりやすくて、にこにこしてしまう。

「そうなんですね……。もっと聖女様に温泉に入ってもらったり、案内したかったです……」
「ありがとう、コンキチさん! とっても素敵な温泉だったから、すぐにまた沢山の人が訪れるようになるよ」
「はい……っ、すべて聖女様と聖獣様のおかげです。なんにもお礼ができてない──っ!」

 しゅんと尻尾が下がった後に、なにかひらめいたようにピンっと耳と尻尾が立つ。ぐっと近づいてきたコンキチさんが内緒話をするように声をひそめた。

「あ、あの、聖女様……」

 決意したような表情に思わずこくりと喉を鳴らす。

「もしよかったら、耳と尻尾を触りませんか……?」
「…………へ?」

 ノワルから獣人の耳や尻尾に触らないかと誘うのは、交わりを誘う意味になると聞いていたので、びっくりして固まった。

「あああ、いっ、いえ、もちろん交わりに誘う意味ではなくてですね……あわわわ」

 コンキチさんの顔が真っ赤に染まったので、私も釣られて顔に熱が集まる。

「えっと、あの、ずっと耳や尻尾を見ていたので……その、ただ触ってみたいのかなと思っていたんです。ち、ちがいましたか?」
「ひゃ、いや、あの、……じろじろ見てごめんなさい!!」

 顔が痛いくらいに熱くなっていく。さり気なく見ていたつもりだったのに、バレバレだったことも恥ずかしくて泣きたい。


「毎日温泉に浸かるので、耳も尻尾も、もふもふでふわふわでつやつやです。聖女様に喜んでもらえることなんて、これくらいしか思いつかなくて……。最後にどうぞ好きなように触ってください……っ!」

 ぴょこぴょこ動く三角耳、ふさふさ動く尻尾が誘惑する。魅力的な提案に頭がくらくらするけれど、首を横に振った。

「耳も尻尾も私のいた世界にはなくて、初めて見るから気になって見ちゃって、ごめんなさい」
「いいんです! 聖女様に興味を持っていただけるなんて光栄ですから! さあさあ、いくらでもどうぞ?」

 触りやすいように尻尾を横に突き出すコンキチさんをまっすぐに見つめる。

「気持ちだけ受け取るね、ありがとう──でも、ごめん。コンキチくんの耳も尻尾も触らない。私はノワルとロズとラピスが大好きだから、三人が嫌がることは、絶対にしたくないんだ! もふもふならラピスがいいし、ふわふわならロズがいい、つやつやならノワルがいい……!」

 口にすれば、今までどうして耳や尻尾に惹かれていたのか不思議なくらい心にすとん、と落ちてきた。後ろに下がっていたロズに振り向くと、口角が弧を描いている。
 
「カレン様、浮気しなくてよかったのですか?」
「うう、ロズの意地悪……」
「嘘ですよ。カレン様が断ってくれて嬉しかったです──ご褒美ほしい?」

 するりと頬を撫でられて、赤い瞳に見つめられた。こくんと頷けば、くすりと意地悪に笑う。

「ご褒美は、なにが欲しいか教えて?」
「ロズ、うう、もう、やっぱりいじわる……」
「嫌いになる?」
「……ロズのばか。大好き」
「カレン様は仕方ないですね」
「うん……」

 唇が落ちてきて、ちゅっと甘い音を立てた。すぐに離れていく温度が寂しくて、ロズの洋服の裾をきゅっと掴む。ねだるように見つめれば、ロズに甘く見つめられていて。

「カレン様は仕方ないですね」
「うん……」

 もう一度、唇を重ねる。目の前のロズのことしか考えられなくて、熱い口づけに気持ちがとろりと溶けていった。




「花恋様、そろそろ行こうか?」
「…………ひゃ!」

 ノワルの言葉で、みんなの前だったことを思い出して、心臓がぴょんと跳ねる。

「花恋様、おいで」

 恥ずかしくて鯉のぼりになって飛んで行きたい私は、ノワルの広げた腕の中に飛び込む。逞しい胸に真っ赤な顔を隠すと、頭をぽんぽん撫でられた。

「では、私達はこれで失礼するね」

 ノワルに抱き上げられて、黒い瞳と視線が絡む。優しく微笑まれて、村のみんなにそっと視線を向けると、みんなの笑顔があった。

「温泉、気持ちよかったです。ありがとうございます!」
「聖女様、ありがとうございました」

 コンキチさんに視線を移すと、にこにこ笑って手を振っていて、怒ってなくてよかったと安堵の息をつく。私も笑顔で手を振ると、ぶんぶん両手を振り返してくれて笑ってしまった。

「花恋様、それじゃあ行こうか?」
「うん……っ!」


 私達は、温泉地を後にした。



✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


 これで土を泳ぐ編は終了です♪
 次は登龍門編に突入します。
 プロットはざくっと書いたので、更新できるように頑張ります。

 恋愛大賞に参加中です。
 投票していただけると、めっちゃ励みになります(ㅅ⁎ᵕᴗᵕ⁎)よろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな

弥生菊美
恋愛
付き合った相手から1人で生きていけそう、可愛げがない。そう言われてフラれた主人公、これで何度目…もう2度と恋愛なんかしないと泣きながら決意する。そんな時に出会った巫女服姿の女性に異国での生活を勧められる。目が覚めると…異国ってこう言うこと!?フラれすぎて自己評価はマイナス値の主人公に、獣人の青年に神使に騎士!?次から次へと恋愛フラグ!?これが異世界恋愛!?って、んな訳ないな…私は1人で生きれる系可愛げの無い女だし ありきたりで使い古された逆ハー異世界生活が始まる。 ※登場キャラ「タカちゃん」の名前を変更作業中です。追いついていない章があります。ご容赦ください。2024年7月※

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。

氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。 それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。 「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」 それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが? 人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...