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土を泳ぐ
聖女と聖獣の色
しおりを挟む「ん、んん……」
塞がれた口からノワルの舌が滑り込む。いつもより強引に入ってきた舌は、熱くて甘い。胸がきゅうきゅう鳴くのが止まらなくなっていく。しばらく甘い時間を過ごすと、頬に添えられた手の親指がひと撫でして、終わりの合図を送られた。
「……や、ノワル……」
離れようとするノワルに、もう少し甘えたくて唇を尖らせて、ちゅと触れた。
「花恋様、かわいい」
甘えたくなった私の顔に、ノワルが小鳥のさえずりみたいなキスを落とす。甘い黒い瞳と見つめ合い、瞳を閉じた。宥めるように体温を感じるキスをした後、ノワルが口をひらく。
「くす玉は、薬に玉と書いて薬玉と言うんだ」
「お祝いの時に、見かけるのとは違うの?」
「今は、くす玉と言うと、お祝いの時の装飾や割り玉を指すことが多いけど、元々の薬玉は、端午の節句のしつらえ飾りなんだよ」
「そうなんだ!」
くす玉を作ると言われて、紐を引っ張ると中から紙吹雪やメッセージを書いた紙が垂れるものを想像していた。薬玉のことが気になって視線を動かすと、蓬や菖蒲が並んでいる。
「香りの強い薬草を袋に詰め、菖蒲や五色の糸を使って装飾したものを薬玉と呼ぶよ。延命長寿、無病息災の願いを込めて作るから、花恋様が作った薬玉を村の入り口に掛けておけば、長い時間結界が張られるよ」
「わあ、すごいね。作るの難しいのかな……?」
「ううん、作るのは難しくないから大丈夫だよ。花恋様の魔力を薬玉に込める必要があるんだ。だから──」
言葉を切ってたノワルの片手が伸びてきて、顎をくいっと上げられた。ゆっくり親指が私の唇をなぞる。
「俺とキスをしながら作ろうね」
嬉しそうに告げたノワルが、にこりと微笑む。とろりと甘い瞳に見つめられて、心臓が大きく飛び跳ねる。胸に手を当てて鼓動を感じた。
「花恋様、いっぱいキスすると効果が長続きするから頑張ろうね」
「……う、うん」
こくんと頷くと、指がずらされてキスされる。ちゅ、ちゅ、と角度を変えて何度も触れ合う。
「この葉は、ハランの葉と言うんだけど、細長く切るんだ」
小指がピンク色に光る。ノワルが大きくて細長い葉を手に持つと、小指と同じピンク色がハランの葉に纏って吸い込まれていく。
「細くした葉が球体になるように丸く形を作るんだ」
「ん、……うん」
食むようにキスをされて、心臓がどきどき煩くて。しばらくキスが続くと離れる。細くした葉っぱを放射状に重ね、丸い形にする間にピンクの光が消えた。
「次はね、球体になったハランの縦の葉に交互になるように、葉を織るように重ねて行くんだよ」
「……んっ、うん……」
「花恋様、かわいい」
頬に手を添えられてキスをする。ノワルのキスから受け取る甘さは心地いい。力が抜けて、頭をこてりとノワルの胸に預けた。
ノワルに抱き寄せられるような格好で、長い指が器用に動くのを見つめる。籠みたいな球が出来上がり、すう、とピンク色の煌めきを纏ってゆっくり消えていく。
「ノワル、すごく綺麗だね。これで完成?」
「この中に薬草を入れたら、ほとんど完成だよ。花恋様、薬草を選んでもらえるかな?」
「えっ、私が選んでもいいの?」
「うん。もちろん」
ふわりと優しく笑ったノワルが机に並んでいる薬草を順番に教えてくれた。匂いを嗅いで、蓬と菖蒲以外に枇杷の葉、月桂樹、アザミ、最後に爽やかな清涼感が気に入ったユーカリーを選んだ。
「花恋様もやってみる?」
「えっ、いいの?」
「もちろん。好きな色の絹布に、選んだ薬草を詰めていくよ」
色とりどりの絹布から桃色のものを広げて、薬草を入れていく。薬草が詰まってふっくらとした包みを黒と赤と青の色糸で巻いて結んだ。
「うん、すごく上手だよ。たっぷり浄化の力を込めようね」
「……うん」
改めて言われると照れ臭くて、顔が熱くなる。
「花恋様、かわいい」
ゆっくり顔が近づいてきて目蓋を閉じた。柔らかな唇の感触、触れ合う体温、甘く絡みあう舌。吐息と水音だけが部屋に響いている。
「好きだよ、花恋様……」
つう、と透明な糸が引き、ぷつんと切れて。見つめられて、甘い言葉に頬が熱を持つ。同じ気持ちを伝えたくて、また目蓋を閉じてキスをねだった。
「ああ、もう、花恋様は、本当にかわいいね」
唇がくっついたと思うくらい甘い時間をたっぷり過ごしていたら、扉がバンっと勢いよく開いた。びっくりして、思いっきりノワルに抱きつく。
「ずるいなのー! ずるいなのー!」
「ラ、ラピス」
「ラピス、扉はゆっくり開けないと花恋様が驚くよ」
ノワルに抱きつく私にラピスがぎゅっと抱きついてきた。
「びっくりさせてーごめんなさいなのー!」
「大丈夫だよ。おはよう、ラピス」
きゅるんとした瞳で見上げられると、胸がきゅんきゅんときめく。かわいい青色天使の髪を撫でる。ノワルが薬草の包みを両手で持つと眩しいくらいのピンク色の光が包みを覆った。
「花恋様、この包みをハランの籠の中に入れてね」
「ぼくもーやるなのー!」
「うん、一緒にやろうね」
ぷにぷにの手が薬草の包みを持つ。ハランの葉っぱを指で少し開いて隙間から入れてもらう。えっへんと得意気な顔が可愛くて、おでこにキスをした。かわいい。
「普通は、五色の糸を薬玉の下に結び付けるんだけど、今回は花恋様のピンク色と俺たちの色の四色にするね」
ノワルはそう言うと、吊るしやすいように頂点の位置に輪っかを結び、四色の糸をくす玉の下に結び付けた。
「これで完成だよ」
「ありがとう、ノワル」
「どういたしまして」
出来たばかりの薬玉の下に垂れる四色の糸に手を触れると、さらさらと逃げていく。
「ノワルとラピスとロズの色、大好き……」
「ぼくもーかれんさまの色ーだいすきなのー!」
ぽんっともふもふ龍になったラピスに、ちゅ、とキスされる。ぴかぴかとピンク色に光った薬玉に流れていく。完成したと言うように、大きく煌めいてから光がゆっくり消えていった。
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