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土を泳ぐ
聖女と混浴
しおりを挟む「かれんさまーまわすなのー!」
「、う、うん」
ラピスの元気な声に、熱の引かない顔でうなずいた。
ロズに取ってもらったイヤリングとかんざしは、回転球と矢車のついた鯉のぼりのポールに変わっている。
きつね獣人さんたちがいるのも忘れて、ロズと魔力のたっぷりこもったキスをしてしまい、コンキチさんからの生温かい視線が恥ずかしくてたまらない。
「いっぱーい いちゃいちゃしたから、もぐーらこないなのー!」
「っ、う、うん……そうだね」
「はやくなのー!」
茹で鯉のぼりになっている私を見て、にこにこ笑うラピス。
恥ずかしくて堪らないけど、天使みたいににっこにこのラピスにつられてへにゃりと笑い返す。促されるままたっくんの鯉のぼりポールを温泉街の入り口に立てた。
――カラカラ カラカラ……
回転球がきらきらピンク色に光り、矢車が風に吹かれてカラカラと音を出す。この世界の神様に見つけてもらい結界が張られていく音が静かに響いていく。
「花恋様、お疲れさま。これでモグーラは近づけないよ」
「ノワル、ありがとう。温泉は大丈夫かな?」
「うん、そうだね。今から元通りにするから大丈夫だよ」
にこりと笑ったノワルがぱちん、と指を鳴らす。
風の音に混ざって、水の流れるような音が聞こえてくるときつね獣人さんたちがざわめいた。みんなで温泉を見に行って、温泉が湧き出て流れる音だとわかって歓声が上がる。
コンキチさんがふわふわな尻尾をぶんぶん振っているのを見ないようにして、お礼の言葉を受け取った。
「聖女様、ぜひぜひ自慢の温泉に浸かってください」
「温泉大好きだから嬉しいです!」
「はいっ! ノワル様、ロズ様、ラピス様と混浴できるように準備してまいります!」
「…………へ?」
コンキチさんの声にまぬけな声が出る。ぴょこんと不思議そうに動く三角耳を見ないように首を横に振った。
「あ、あの、コンキチさん、混浴じゃなくて一人で入りたいです」
「ええっ? 番なのですよね?」
目をぱちぱち瞬かせ、驚くコンキチさんにびっくりしてノワルを見上げる。
「花恋様、番は混浴するのが普通なんだよ」
「ふえっ?」
変な声が漏れた。頬に添えられた手のひらからノワルの体温が伝わってきて、心臓がどきどきうるさくなる。
「一緒に入ろうか?」
ノワルの言葉で全身から顔に血が集まってきた。
「っ、ひゃあああ―――っ! む、むむむ、無理だから……っ!」
鼓動がびっくりするくらい速くなり、涙目で首を思いっきり横に振る。
「花恋様、かわいい」
くすくす笑うノワルに頬を膨らませて、じとっと睨む。とろりと甘さのにじんだ瞳に囚われてしまいそうで、ノワルの胸にぽすりと逃げ込んだ。
「ああ、もう、本当に花恋様はかわいいね。ゆっくり温まっておいで」
「うん……」
ひだまりの匂いに包まれて、柔らかく髪を撫でられる。ノワルがコンキチさんに露天風呂の準備を頼む声を聞きながら、ふにゃりと身体をノワルに預けた。ノワルの体温が心地よくて、離れたくなくなってしまう。
「花恋様、コンキチ殿が露天風呂の準備を始めたよ」
「……うん」
「甘えた花恋様になってるね」
言葉にするのは恥ずかしくて、小さくうなずいた。
「うん、かわいい。じゃあ、露天風呂はあとでゆっくり入る?」
「……うん」
ノワルから離れたくなくて、背中に腕を回す。
ふふっと息を揺らしたノワルを窺うと、甘やかな瞳に囚われた。
大きな手が頬に添えられるとノワルしか目に入らない。まぶたを落とせば、優しい感触が唇におりてきて――…
「んっ、……っ」
小鳥みたいについばむ口づけは、優しくて甘くて、でもちょっと足りなくて、もっと欲しくなる。
「ノワル……」
「ああ、もう、本当に花恋様はかわいいね……」
親鳥にエサをねだる小鳥のようにノワルにねだる。
ついばむ口づけは、深くなって水音が耳に届く。恥ずかしい気持ちは一瞬で、ノワルから与えてもらう甘やかなキスに私は夢中になって、ひたすら溺れていった。
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