【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣

文字の大きさ
上 下
70 / 95
土を泳ぐ

聖女と準備

しおりを挟む
 
 ラピスで顔を隠したあと、ノワルとロズとコンキチさん、それに温泉宿のきつね獣人のみなさんが集まり、浄化について話し合った。
 私も参加しようと思ったけど、もふふわな尻尾とぴょこぴょこ耳の誘惑をラピスのもふんもふんを抱きしめてやり過ごした。

 そして、今――きつね獣人のみなさんと温泉街の入り口で、ロズと浄化の準備をしている。

「カレン様、動かないでください」
「っ、うん……」

 ロズの手が右耳のイヤリングにかかるのが、くすぐったくて肩が揺れる。

 浄化をするのは、鯉のぼりのポール。
 鯉のぼりのポールは、上についている回転球と矢車が風でぐるぐる回って地面に振動が伝わると、もぐらや蛇が逃げていく効果がある。たっくんの鯉のぼりに聖女の魔力を込めれば、魔物のモグーラにもばっちり効くので、私の身につけているイヤリングとかんざしを取っていく。

 左耳のイヤリングに手を伸ばすロズは、最初に出会った頃より背が伸びて、見上げる高さにどきどきする。こっそり見ていたらロズの唇が美しい弧を描いた。

「カレン様、そんなに見惚れないでください」
「ひ、ひゃあ! ご、ごめんなさい……」

 ロズの赤い瞳に捕われて、熱の取れた頬にあっさり熱が戻ってきた。

「カレン様、キスしましょう」
「ふえっ?」
「カレン様の魔力を込めてキスをすると、浄化する効果も範囲も広がります」
「ふ、ふえっ? た、たっぷり……?」
「ええ、たっぷりです」

 色気たっぷりに告げられる言葉に身体中に熱が駆けめぐる。
 最後のかんざしを抜き終わったロズと私の間をさらさらと風の音が抜けていく。

「カレン様、赤い顔をしてどうしましたか?」
「ロズの、い、いじわる……」
「そんな可愛い反応されるとますますいじめたくなりますよ」

 ふるふる首を横にふる。
 くすりと笑みをこぼしたロズが、あごをくいっと掬う。ゆっくり近づいてくるロズにどきどきが止まらない。甘い予感にまぶたを閉じた途端、

「でもーーカレン様が嫌ならやめましょうね」
「…………え?」

 びっくりしてロズの顔を見つめる。ロズとキスするのは嫌じゃなくて、思いきり首を横にふった。

「カレン様は嫌ばっかりですね。どうしたいか、教えてくれないとわからないです」

 ロズの言葉に、かあ、と頬に熱が集まる。
 じっと見つめてくるロズの赤い瞳は、私が素直に言うまで待っているのがわかって、覚悟を決めた。

「あ、あの、ね……、キス、したい、です……」

 赤い瞳をやわらかく細めるのを見て、ほっと安堵の息をつく。なぜか両手を広げるロズに首を傾げたら、ロズも同じ方向に首を傾げてきた。

「カレン様がキスしたいのですから――カレン様からキスしてくださいね」
「ふえっ?」
「ああ、やっぱり嫌なんですね」

 風のなくなった鯉のぼりが、だらんと尾っぽを下げるように、広げた腕がゆっくり下がっていく。ぴょん、と跳ねてロズの腕の中に飛び込んだ。

「ち、違う……っ! わ、わたし、ロズとキスしたい!」

 ロズの腕が私の腰を引き寄せる。赤い瞳に熱が灯っていて、赤い瞳に映る私も熱を灯していた。意地悪な赤い鯉のぼりは、いつも私の気持ちを引っ張り出してしまうのに、意地悪なロズが大好きだから困ってしまう。

「ロズのいじわる……」
「好きな子はいじめたくなるんです――嫌いになった?」
「もう、いじわる……でも、好き」

 意地悪な唇に私の唇を重ねた。
 とじたまぶたの向こう側でピンク色の光が煌めき、しあわせな温度を感じていたら、ロズに唇をはむりと甘く噛みつかれる。

「カレン様、浄化に必要な魔力は満ちましたよ」
「っ、あ、そうなんだ。うん、わかった……」

 ロズの口角がゆっくり弧を描いていく仕草が色っぽい。

「ねえ、どうしてほしい?」

 ロズを見つめると、熱に揺らめく赤い瞳に見つめられていた。
 いつも丁寧なロズの言葉使いが変わると、心臓がどきん、と跳ね上がってしまう。胸がぎゅうってして、ロズの言葉に惹きつけられて心の声がするりと落ちる。

「……ロズに、もっと、キス、してほしい」
「カレン様は仕方ないですね」
「うん……」
「ちゃんと素直に言えたから、ご褒美あげる」

 ロズの手がすごく優しく私の頬を撫でる。頬に触れた体温は耳を伝って、頭の後ろに回るとロズの甘やかなキスが降りてきた。

「っ、んん……」

 とろりと体温がまざっていくキスに心がふわふわして、意地悪な動きに胸のきゅんきゅんが止まらなくて、ロズとの甘いキスに時間を忘れて夢中になっていった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな

弥生菊美
恋愛
付き合った相手から1人で生きていけそう、可愛げがない。そう言われてフラれた主人公、これで何度目…もう2度と恋愛なんかしないと泣きながら決意する。そんな時に出会った巫女服姿の女性に異国での生活を勧められる。目が覚めると…異国ってこう言うこと!?フラれすぎて自己評価はマイナス値の主人公に、獣人の青年に神使に騎士!?次から次へと恋愛フラグ!?これが異世界恋愛!?って、んな訳ないな…私は1人で生きれる系可愛げの無い女だし ありきたりで使い古された逆ハー異世界生活が始まる。 ※登場キャラ「タカちゃん」の名前を変更作業中です。追いついていない章があります。ご容赦ください。2024年7月※

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。

氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。 それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。 「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」 それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが? 人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。 小説家になろうにも投稿しています。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

処理中です...