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土を泳ぐ
聖女と準備
しおりを挟むラピスで顔を隠したあと、ノワルとロズとコンキチさん、それに温泉宿のきつね獣人のみなさんが集まり、浄化について話し合った。
私も参加しようと思ったけど、もふふわな尻尾とぴょこぴょこ耳の誘惑をラピスのもふんもふんを抱きしめてやり過ごした。
そして、今――きつね獣人のみなさんと温泉街の入り口で、ロズと浄化の準備をしている。
「カレン様、動かないでください」
「っ、うん……」
ロズの手が右耳のイヤリングにかかるのが、くすぐったくて肩が揺れる。
浄化をするのは、鯉のぼりのポール。
鯉のぼりのポールは、上についている回転球と矢車が風でぐるぐる回って地面に振動が伝わると、もぐらや蛇が逃げていく効果がある。たっくんの鯉のぼりに聖女の魔力を込めれば、魔物のモグーラにもばっちり効くので、私の身につけているイヤリングとかんざしを取っていく。
左耳のイヤリングに手を伸ばすロズは、最初に出会った頃より背が伸びて、見上げる高さにどきどきする。こっそり見ていたらロズの唇が美しい弧を描いた。
「カレン様、そんなに見惚れないでください」
「ひ、ひゃあ! ご、ごめんなさい……」
ロズの赤い瞳に捕われて、熱の取れた頬にあっさり熱が戻ってきた。
「カレン様、キスしましょう」
「ふえっ?」
「カレン様の魔力をたっぷり込めてキスをすると、浄化する効果も範囲も広がります」
「ふ、ふえっ? た、たっぷり……?」
「ええ、たっぷりです」
色気たっぷりに告げられる言葉に身体中に熱が駆けめぐる。
最後のかんざしを抜き終わったロズと私の間をさらさらと風の音が抜けていく。
「カレン様、赤い顔をしてどうしましたか?」
「ロズの、い、いじわる……」
「そんな可愛い反応されるとますますいじめたくなりますよ」
ふるふる首を横にふる。
くすりと笑みをこぼしたロズが、あごをくいっと掬う。ゆっくり近づいてくるロズにどきどきが止まらない。甘い予感にまぶたを閉じた途端、
「でもーーカレン様が嫌ならやめましょうね」
「…………え?」
びっくりしてロズの顔を見つめる。ロズとキスするのは嫌じゃなくて、思いきり首を横にふった。
「カレン様は嫌ばっかりですね。どうしたいか、教えてくれないとわからないです」
ロズの言葉に、かあ、と頬に熱が集まる。
じっと見つめてくるロズの赤い瞳は、私が素直に言うまで待っているのがわかって、覚悟を決めた。
「あ、あの、ね……、キス、したい、です……」
赤い瞳をやわらかく細めるのを見て、ほっと安堵の息をつく。なぜか両手を広げるロズに首を傾げたら、ロズも同じ方向に首を傾げてきた。
「カレン様がキスしたいのですから――カレン様からキスしてくださいね」
「ふえっ?」
「ああ、やっぱり嫌なんですね」
風のなくなった鯉のぼりが、だらんと尾っぽを下げるように、広げた腕がゆっくり下がっていく。ぴょん、と跳ねてロズの腕の中に飛び込んだ。
「ち、違う……っ! わ、わたし、ロズとキスしたい!」
ロズの腕が私の腰を引き寄せる。赤い瞳に熱が灯っていて、赤い瞳に映る私も熱を灯していた。意地悪な赤い鯉のぼりは、いつも私の気持ちを引っ張り出してしまうのに、意地悪なロズが大好きだから困ってしまう。
「ロズのいじわる……」
「好きな子はいじめたくなるんです――嫌いになった?」
「もう、いじわる……でも、好き」
意地悪な唇に私の唇を重ねた。
とじたまぶたの向こう側でピンク色の光が煌めき、しあわせな温度を感じていたら、ロズに唇をはむりと甘く噛みつかれる。
「カレン様、浄化に必要な魔力は満ちましたよ」
「っ、あ、そうなんだ。うん、わかった……」
ロズの口角がゆっくり弧を描いていく仕草が色っぽい。
「ねえ、どうしてほしい?」
ロズを見つめると、熱に揺らめく赤い瞳に見つめられていた。
いつも丁寧なロズの言葉使いが変わると、心臓がどきん、と跳ね上がってしまう。胸がぎゅうってして、ロズの言葉に惹きつけられて心の声がするりと落ちる。
「……ロズに、もっと、キス、してほしい」
「カレン様は仕方ないですね」
「うん……」
「ちゃんと素直に言えたから、ご褒美あげる」
ロズの手がすごく優しく私の頬を撫でる。頬に触れた体温は耳を伝って、頭の後ろに回るとロズの甘やかなキスが降りてきた。
「っ、んん……」
とろりと体温がまざっていくキスに心がふわふわして、意地悪な動きに胸のきゅんきゅんが止まらなくて、ロズとの甘いキスに時間を忘れて夢中になっていった。
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