【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣

文字の大きさ
上 下
66 / 95
土を泳ぐ

聖女と空の旅

しおりを挟む
 

 それから順調にノワルの背中に乗る空の旅が続いていた。

 龍の上に乗って空を飛ぶ体験なんて初めてでどきどきしたけれど「だいじょうぶなのー」というラピスの言葉通り、快適すぎて拍子抜けしてしまった。
 ノワルのまわりに透明な魔法の膜ができていて、ぐんぐん過ぎ去る景色なのに頬をなでる風はそよそよとやわらかい。

 空の上にいる時は、もふもふ天使のラピスが腕の中にいて、くるぅくるぅという鈴の音みたいな愛らしく喉を鳴らしていて、日差しが少し強い日の休憩はノワルのひんやりつるつるのうろこに寝転び涼を取り、風が少し強い日の休憩はロズのふわふわビロードの毛に包まれてぬくぬく過ごしていた。


 いつの間にか空から見える景色も様子を変えていき、眼下に竹林が広がる上空を飛んでいる。
 お昼を過ぎて日差しが強い時間なので、小さな湖のほとりでノワルのつるすべうろこにすりすりする休憩を取ることに決めた。

「ん……ひんやりして気持ちいい」

 指先でつるんという感触を楽しんでいると鱗龍のノワルがぺろりとおでこをなめる。
 龍になると舌が長くなるせいなのかラピスもロズも顔や首、耳をなめることが増えた。

「ん、ひゃ……」

 ノワルのつるつるうろこに身体を預けているのでぺろぺろなめられると逃げ場がなくて、不慣れな空の旅を労わる気持ちでなめてくれているのに耳や首筋をなぞるようにじっくりなめられると肩がはねて、息も上がってしまう。

「ん、ノ、ノワル……」
「うん、どうしたの?」

 ノワルの黒い瞳に甘く見つめられると心がとろりとほぐれて触れたくなって手を伸ばす。

「花恋様、かわいい」

 きらきらと光ると人間の姿になったノワルの膝の上で横抱きにされていた。
 優しく抱きしめられ、甘い感触をこめかみに落とされると胸の奥がきゅう、とする。

「それじゃあ花恋様、キスしようか?」
「ふえ……っ?」

 ノワルの直接的な言葉に変な声がもれた。
 休憩中は魔力の補給をするために大人のキスをするのだけど、改めて口にされると顔に熱がたまっていく。
 何回休憩中にしても大人のキスは慣れなくて恥ずかしい。

「花恋様、桃色の鯉のぼりみたいだね」

 くすくす笑って、ちゅ、と触れるようにキスをするから桃色を通り越して赤色になっていると思う。
 恥ずかしくてノワルの肩に顔を埋めると、ひだまりのいい匂いに包まれる。ぽんぽんと甘やかすように背中に触れるノワルの背中に腕をまわすと、頭に甘い感触が落とされた。

「そういえば、この辺りは温泉が有名なんだよ」
「えっ? そうなの?」

 ノワルの言葉に思わず顔を上げる。
 目尻をゆるめたノワルと目があった。

「うん、そうなんだよ。花恋様は温泉に入りたい?」
「うん! 温泉は大好きだから入りたい!」

 鯉のぼりの尾っぽが風に揺れるようにノワルの言葉にこくこくとうなずくと、黒い瞳に甘やかに見つめられる。

「それなら温泉行こうか?」
「えっ、いいの?」
「ここから温泉まで歩いて一時間くらいなんだけど大丈夫?」
「もちろん歩けるよ! ノワル、ありがとう」

 嬉しそうに目を細めたノワルの手にあごを掬われ、親指が唇をなぞる。

「どういたしまして――早く休憩を終えないと日が暮れるまでに温泉に着かなくなるね」
「…………ふえ?」

 予想もしていなかった答えが返ってきて心臓がどきどき跳ねていく。
 魔力の補給をしないとノワルの身体が辛いのだとわかっていてもキスをする雰囲気やキスのはじまりはいつも照れてしまう……。

「花恋様、かわいい」

 そおっとまぶたを閉じるとノワルの香りがゆっくり近づいてきて私の唇と重なっていく。

 ちゅ、ちゅ、と小鳥のさえずりみたいなキスはまぶたやおでこにも落とされる。
 甘い音が弾けるたびに心がきゅうんと音を鳴らす。
 恥ずかしかった気持ちは甘い音が弾けるたびに遠くに去っていき、この先にあるともっと甘いものを求めてノワルの手に自分の手をからめ、きゅっと握ってしまう。

「ああ、もう……。本当にかわいいね……」

 キスの合間にノワルに吐息でささやかれると身体の力が抜けた。
 小鳥のさえずりが聞こえなくなると甘やかな水浴びに変わっていく。

 ノワルの大きな舌に掬われ、上あごや根元をなぞられるとくらくらするくらい気持ちよくて頭の中はノワルでいっぱいになる。

「ん、んっ、……」


 キスの合間に桃色の吐息を漏らして、桃色鯉のぼりは黒色鯉のぼりと魔力補給を泳いでいった――。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな

弥生菊美
恋愛
付き合った相手から1人で生きていけそう、可愛げがない。そう言われてフラれた主人公、これで何度目…もう2度と恋愛なんかしないと泣きながら決意する。そんな時に出会った巫女服姿の女性に異国での生活を勧められる。目が覚めると…異国ってこう言うこと!?フラれすぎて自己評価はマイナス値の主人公に、獣人の青年に神使に騎士!?次から次へと恋愛フラグ!?これが異世界恋愛!?って、んな訳ないな…私は1人で生きれる系可愛げの無い女だし ありきたりで使い古された逆ハー異世界生活が始まる。 ※登場キャラ「タカちゃん」の名前を変更作業中です。追いついていない章があります。ご容赦ください。2024年7月※

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。

氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。 それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。 「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」 それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが? 人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。 小説家になろうにも投稿しています。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

処理中です...