【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣

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空を泳ぐ

聖女と青い龍

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 ぴちゃぴちゃとした水音が耳をふさぐ。
 ぬるりとする感触から逃げようと身をよじるのに執拗に追いかけられ、なめあげられ、身体が震えたところを甘噛みされれば吐息がこぼれた。

「ん、やっ、はあ……」

 ゆっくり動きまわる熱が境界線をとかしていく心地よさに力が抜けていく。
 抵抗が弱くなると熱いぬめりがゆるゆると動き、その刺激に身体が逃げようとすると、やわらかにかじられてしまう。

「あっ、はあ……んん……」

 甘さのはらんだ息があがっていく。ぴちゃりと耳を支配する水音はくらくらするような濃厚な雨の気配で満ちていて――?
 まぶたをとじた夢と雨のはざまにもふもふが押しつけられた途端に意識が浮上した。

「かれん、しゃま……もうたべれにゃい、なの……」

 まぶたをひらくと目の前に広がるもふもふパラダイスと雨の気配に状況を理解した。ロズの話を聞いて、ロズとノワルが飛行するのを見送りしたくて、早めに寝て夜中に起きようとラピスと一緒に寝たのだった。

 耳元で「かれんしゃま」とむにゃむにゃ寝言を言いながら耳を食べ物だと思い込むラピスが、ぺろぺろと耳をなめて、あむあむと甘噛みをしていたらしい。変な夢を見たのは、ラピスの行動とロズと練習した魔力補給が原因だと思う。なんだか、とんでもなく恥ずかしい夢を見ていたような気がする……。

「もう――ラピス、重たいよ」
「めっ、にゃのよ……」

 こめかみを押さえている前足のもふもふをそっと持ち上げようとすると、むにゃりと怒られてしまった。

「ぼくの、にゃのよ……」

 どうしよう、寝ぼけ天使がここにいる。変な夢を見たことをちょっとだけラピスのせいと思ったことを反省した。
 どうして私の耳が果物や食べ物じゃないのだろうと残念に思うくらい胸がきゅんきゅんしてしまう。

「うん、ラピスのだね」
「そうにゃのよー」

 ふにゃりと笑ったラピスは幸せな表情を浮かべると夢の中に戻っていったらしい。
 すうすうと穏やかな寝息に変わったのを確かめて、そおっともふもふから抜けだした。

「かわいい」

 ベッドから起き上がって薄明かりの下で逆さまに寝ているもふもふ天使を眺める。
 小さなおでこがかわいくて眉間の短いもふもふ毛をなでると、んん……小さな甘える声と指先にすりよる仕草に胸がきゅんと打ち抜かれていると控えめに扉をたたく音がした。


「――花恋様、起きてる?」
「うん、起きたところだよ」

 ノワルがベッドまで迎えにきてくれると、くすくす笑いながら、ぱちんと指を鳴らした。
 ふわりと石けんの香りが鼻先をかすめたと思ったら、さらりと乾いた髪をノワルが梳きなでる。

「花恋様、ラピスのよだれまみれだったね」
「ふふっ、ラピスに食べ物だと思われていたみたいだよ――ありがとう」

 ノワルの大きな手の感触が心地よくて目をつむって受け入れる。やわらかな手つきやあたたかさにすごく安心する。

「どういたしまして。まだ遅いから、このまま寝ていてもいいよ」
「ううん、龍になるところ見たいし、二人を見送りしたい……っ!」

 あわてて目をぱちりとひらいてノワルを見上げる。

「そういえば花恋様は、龍が怖くないの?」
「えっ? どうして?」
「ラピスは小さな龍だけど、俺はすごく大きいから怖くないのかなと思ったんだよね」
「えっ、だってノワルとロズなんだよね? いきなり知らない龍が現れたら、すごく怖いと思うけど――ノワルとロズは怖くないよ」

 ロズのビロード龍のしっとりした手触りやノワルの鱗龍のきれいなうろこを想像すると、胸の中がぽかぽか温かくなる。きっと赤色と黒色の龍なんだろうな、と思っていると視線を感じて目を向ければ黒い瞳に優しく見つめられていて、心臓がどきん、と大きく跳ねた。

「花恋様、かわいい」

 やさしいキスをおでこに落とされ、甘やかな視線を浴びた心臓がとくとくと早鐘を打っていく。とろりとうるんでいく瞳をかくすように、あげたばかりのまぶたをおろす。

「ああ、もう本当にかわいいね……」

 ノワルのつぶやいた言葉とひだまりの匂いに遅れて、甘やかな感触が唇に届けられる。
 ノワルに抱きしめられて、どきどき心臓が落ち着かないのにすごく落ち着いてしまう矛盾した私をあやすように、大きな手のひらで頬をなでられる。

「好きだよ、花恋様」
「ぼくもすき、にゃの……」
「えっ」

 寝ぼけたラピスの返事にノワルと顔を見合わせた後、思わず二人して吹き出してしまったら「めめ、にゃの……」とラピスに寝ぼけたまま叱られてしまった。
 怒っても天使なんて、ずるい天使だと思う。ずるいずるい賞を贈りたい。

 数分後、すうすう穏やかに寝息をたてているのを確認してからノワルを見送るために、そっとベッドを抜け出した――。
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