【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣

文字の大きさ
上 下
33 / 95
村を泳ぐ

聖女は魔力を渡したい

しおりを挟む


 風鈴の柔らかな光が収まる頃には、辺りはすっかり日が暮れていた。
 
 こじんまりとした家の中に入ると、少し埃っぽいけれど、木の柔らかさを感じる心地よい空間だった。漆喰の壁にレトロな灯りがついていて、ノワルがスイッチをつけると、ふんわりと部屋を照らす明るさにほっと安心する。

「カレン様、ちょっとお手伝いをお願いできますか?」
「うん! ちょっと埃っぽいからお掃除する? 私、中学生の時は、美化委員だったから掃除は割と得意だよ!」

 台所に立つロズが手招きするので、もしかして掃除じゃなくて料理のお手伝いかな、と思いながら近づいた。
 ゆっくりロズの腕を背中に回されて、ふわふわな赤髪がふわりと揺れて、肩にロズの頭が寄りかかって来た。ずしりと重みを感じて、支えるように両腕を回す。
 
「カレン様、魔力切れしそうです」
「ええっ? それって大変だよね? ど、どうしたらいい?」
「カレン様は、どうしたらいいと思う?」

 赤い瞳に上目遣いで窺うよう見つめられて、思わず目を反らしてしまう。いつもより熱っぽいような瞳に、心臓がとくとくとく、と大きな音を立て動き出す。

「——カレン様」

 名前を呼ばれ、彷徨っていた視線がもう一度、熱を持つ赤い瞳にたどり着いた。
 魔力を渡す方法を口にするだけなのに、ぱくぱくと鯉のように口を動かすだけで、言葉が、声が上手く出て来ないままでいると、ロズが眉を寄せて苦しそうに息を吐き出した。
 その様子を見て、はっと我に返る。照れてる場合じゃない、ロズは魔力が切れたら大変なんだ。

「ロ、ロズ、は、はやく、私とキスしようっ!」

 恥ずかしいことを言っているような気がしたけど、顔が熱くて、それに無我夢中でよく分からない。
 ロズがまた大きく息を吐き出した。さっきよりも顔が赤く染まっていて、苦しくて辛いのだと思うと、胸がきゅっと痛くて苦しくなる。

「ロズ……」

 とくん、とくんと高鳴る鼓動を感じながら、口を開くと今度は言葉がするりと出て来る。

「私の魔力、いっぱいあげる! いっぱいキスしたらいっぱい魔力もあげられるのかな? ロズ、——目、とじて?」

 ロズのふわふわな赤髪の中に手をいれると、ロズは赤い顔で熱っぽい息を吐いた。苦しそうな様子に、急がなくちゃと思うのに、ほんの少し寄せられた眉や長いまつ毛が伏せた瞳、上気したような頬の色気に頭がくらくらしてしまう。
 ロズのぷるりとした唇に目がいくと、吸い寄せられるように、唇を押し当てる。いつもより長い時間、唇が触れ合っていると溶けていくみたいな感覚になっていく。境界線がなくなる、みたいな……。

 ほんの少し、目を開けてロズを窺うと、ぱちりと目が合い、驚いて離れようとすると、今度はロズにするりと耳朶の後ろに手を差し込まれる。

「もうやめて欲しい?」

 ほんの少し離れたロズの唇から動く気配と色気たっぷりの言葉が耳に届く。
 その言葉に心臓がどきんと跳ね上がり、目の端で小指が甘い桜色にゆっくり煌めいていて、もう魔力切れは大丈夫だと分かってしまう。
 ロズが、ふっと吐息を漏らす。
 もう魔力とは関係なく、あと少しこのままキスしていたいなんて、そんなのこと恥ずかしくて言えない。さっきは魔力切れの緊急事態だったし、なんというか火事場の馬鹿力みたいな感覚だったのだ。でも、いまは違う。似ているようで、全然ちがう。

 顔が熱いし、頭もくらくらしてくる。
 だけど、きっとロズは口角を綺麗に上げていて、伝えないと離れてしまうと思うと、もうどうにでもなれと思って、言葉の代わりに、もう一度、自分から触れるようなキスをした。

「カレン様、やめて欲しくないって思ってたんだ?」
 
 こつんとおでこを合わせられると、ロズの瑞々しい春の匂いが掠め、少し意地悪そうな声が耳元で響く。
 自分がしたことなのに、恥ずかしくなって目を伏せようとすると、くすっと笑う声が聞こえて。

「カレン様?」

 ロズの赤い瞳を見つめるよう両頬を包まれる。射抜くような熱を感じて、とくとくと胸が高鳴り、苦しくなっていく。

「そう、だよ……」

 本当に小さな震える声で囁くと、今度は楽しそうにふふっと笑われる声が聞こえた。

「なら、いっぱいキスしましょうね、カレン様」

 色気を纏うロズの顔がゆっくり近づいて、優しくキスを落とされる。ロズが啄ばむように何度も何度も、ちゅ、と甘い音を立てて重ねていく。ロズの唇に触れるたびに、ふわりと身体の力が抜けていく。ロズに何度も何度も求められている感覚に、胸の高鳴りが止まらない。胸が甘くて痛くて苦しい。

「……そろそろ、時間切れみたいですね」

 はあ、とロズが大きなため息を吐くと、名残惜しそうに、ちゅ、とキスを落とされる。
 ぽやんと力が抜けて、どこか艶やかになったロズに首を傾げた私の頬に、ロズがもう一度キスを落とした瞬間。

「カレン殿! 目を覚ましたんだ! 助かったんだ!」

 ドアが激しく開かれて、目元が潤んだベルデさんがずんずん歩いて近づいて来ると、ものすごい勢いでガシッと両手で手を繋がれて、ぶんぶんと痛いくらいに上下に振り動かす。

「よかった! ベルデさん、本当によかったですね!」 

 ベルデさんが大粒の涙を溢れさせるのを見ていたら、私も嬉しくなってしまい、次から次へと涙が溢れてもらい泣きが止まらなくなった。
 ロズに優しく抱きしめてもらい、涙を優しく拭ってもらっても、しばらくベルデさんと二人でたくさん泣いていた。

 ようやく涙が止まった後は、勝利草で助かった村人の家族の方たちが次から次へと訪れて、やっぱりどこか艶やかなロズが赤熊レッドベアーの肉を解体して、とっても美味しい料理を村人たちに振る舞い、幸せな笑顔に包まれた夜は更けていった——。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな

弥生菊美
恋愛
付き合った相手から1人で生きていけそう、可愛げがない。そう言われてフラれた主人公、これで何度目…もう2度と恋愛なんかしないと泣きながら決意する。そんな時に出会った巫女服姿の女性に異国での生活を勧められる。目が覚めると…異国ってこう言うこと!?フラれすぎて自己評価はマイナス値の主人公に、獣人の青年に神使に騎士!?次から次へと恋愛フラグ!?これが異世界恋愛!?って、んな訳ないな…私は1人で生きれる系可愛げの無い女だし ありきたりで使い古された逆ハー異世界生活が始まる。 ※登場キャラ「タカちゃん」の名前を変更作業中です。追いついていない章があります。ご容赦ください。2024年7月※

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...