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森を泳ぐ
聖女は優しい雨に包まれる
しおりを挟むコツンとノワルがおでこを合わせる。
伏せていた目を開くと、愛おしいと語るようなノワルの眼差しと目が合い、これ以上ないくらいに胸が高鳴っていく。
「——花恋様」
「うん……」
優しく名前を呼ばれ、ぽんやりとした目でノワルを見つめる。
ノワルの大きな手がゆっくり髪に差し込まれ、親指が耳朶をくすぐるので、んん、と身をよじる。
「花恋様、髪を乾かしているから動かないでね」
「んん、でも、くすぐったいよ……」
ノワルがくすくす笑いながら髪をゆっくり丁寧に梳いていく。
魔法を使っているのかノワルに梳き撫でられた髪は、さらりと乾いていく。
親指が耳朶や首すじを掠めると、んん、と声が漏れたり、身をよじってしまったり、肩が揺れてしまうのが恥ずかしくて真っ赤な顔を両手で覆うことに決めた。
「——終わったよ」
最後に耳朶をなぞりながら髪をゆっくりと梳いたノワルの声に、ようやく顔をあげる。
「ありがとう……」
「花恋様、明日も乾かしてあげるね」
何でもないように、にこりと微笑んだノワルに、やっぱりこくんと頷いていた。
ノワルに抱きよせられ、胸元に頬が触れる。
優しくぽんぽんと髪を撫でられ、甘やかされていると、ててっと走る音が聞こえた。
「かれんさまー! みてなのー!」
ラピスがぎゅっと抱きついて来た。
しっとり髪が濡れているので、ラピスもお風呂に入っていたみたい。いつも春の柔らかな雨の匂いに爽やかな果実の匂いが混じっている。
「ラピスもお風呂入ってたの?」
「ロズにあらってもらったのー。かれんさま、みてなの! ぼくのパジャマは、スーパーせんたい『こいのぼりジャー』なの」
えっへんと胸を張ってラピスがパジャマを見せてくれる。
鯉のぼりのヒーローが描かれた半袖の水色パジャマに青い短パンを履いていた。くるくるの髪の毛を撫でるとふにゃりと笑う様子は天使すぎる。
「格好いいね!」
「そうなのー。よるになると、ひかるのー! かれんさま、いっしょによるみてくれる?」
こてんと首を傾けてお願いをするラピスが可愛すぎて、大きく頷いた。
「うんっ! 光るパジャマなんて、すごいね! 後で見せてね!」
「やくそくなのー」
「うん、約束ね!」
甘い空気はどこかに去って行き、ラピスと一緒に食卓に座る。私がのんびり薬湯に浸かっている間に、美味しそうなチラシ寿司やお吸い物などが所狭しと並んでいた。
みんなで賑やかに食べるご飯は美味しくて幸せを感じ、食後の温かいほうじ茶を飲んでいると、ラピスが眠たそうに目をこする。
ノワルが優しくラピスの頭を撫でる。その様子に胸がキュンとときめいた。
「ラピスは、そろそろ寝る時間だな」
「うん、なのー。でも、ぼく、かれんさまとやくそくしたの……」
「あっ! 光るところ見せてくれるんだよね?」
「そうなのー……かれんさまといっしょに、ねたいのー……」
ラピスの小さな手が半袖パーカーの裾をきゅっと握りしめる。うるうるした青い瞳で見つめられ、胸が再びキュンとする。
「うんっ! ラピス一緒に寝よう」
「うん、なのー」
眠たそうなラピスは直ぐに寝ちゃうだろうなと思いつつ、ノワルとロズにお休みを告げて二人で寝室に入る。
ラピスの光るというパジャマを見るために、電気を付けないで扉を閉める。ぽわんと暗闇に淡い光が浮かぶ。
「わあ! 鯉のぼりが光ってて、格好いいね」
「えっへんなのー! かっこいいのー」
ぴょんぴょん飛び跳ねるラピスは眠気も飛んでいったようで、ヒーローポーズを沢山見せてくれた。その後もベッドに寝転がっているものの目がぱっちり開いている。
まだ眠らなそうなラピスにずっと聞きたかったことを聞いてみることにした。
「ラピスは龍のままでいることは出来るの?」
「できるのー」
ラピスがにこにこ教えてくれる。
くるくるの柔らかい髪を撫でると、ふにゃりと笑う様子に胸がキュンとする。
「どうしてなのー?」
「あのね、ラピスが嫌じゃなかったら、龍の姿のラピスを撫でたいなって思ってるの。どうかな?」
「いいよ、なの! ラピスなでられるの、きもちいいし、だいすきなのー!」
言い終わるや否や、かわいい天使の唇がぷにっと押し付けられる。
——ぽんっ
豆電球のオレンジ色の部屋で、小指がぽわりと可愛らしく光る。
目の前のラピスは青いもふもふ龍に変身していた。
ペロペロと私の顔を舐め続けるのが、くすぐったくて身をよじる。
「ラピス、くすぐったいよ!」
「やなのー! かれんさまは、あまくておいしいのー。かわいいあじがして、すきなのー」
夢中になってペロペロと舐められてしまい、ラピスをぎゅっと抱きしめて、顔から離した。
手のひらいっぱいに、もふもふの感触が広がると我慢出来なくて、今度は私がラピスのもふもふの海に顔を埋めて、もふもふを味わう。ラピスは優しい雨と果実の混ざったいい匂いがするので、くんくん嗅いでしまう。
「ラピス、もふもふだね……っ」
「かれんさまーくすぐったいのー」
短いもふもふの前足で、テシテシと優しく叩かれる。もふんと顔を埋めるのを止めて、今度はちゃんと背中に沿って撫でたり、首の後ろや耳の付け根を撫でてあげると、ラピスの目がとろんとしていく。もふもふな尻尾の付け根を撫でると、目はとろとろに蕩けている。
——くるぅくるぅ……
気持ち良さそうに喉を鳴らすもふもふ龍のラピスを撫で続ける。とろんとした瞳は、今はもうすっかり閉じていて、身を任せてひたすら撫でられている様子に胸がキュンとしてしまう。
「うふふ、ラピス気持ちいい?」
「うん、……なの……」
「また明日も、もふもふなラピスを撫でてもいい?」
「うん、……なの……」
その夜は、ラピスのかわいい声を聴きながら、もふもふと優しい雨の匂いに包まれて、私は深い眠りに落ちていった。
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