15 / 95
森を泳ぐ
聖女は優しい雨に包まれる
しおりを挟むコツンとノワルがおでこを合わせる。
伏せていた目を開くと、愛おしいと語るようなノワルの眼差しと目が合い、これ以上ないくらいに胸が高鳴っていく。
「——花恋様」
「うん……」
優しく名前を呼ばれ、ぽんやりとした目でノワルを見つめる。
ノワルの大きな手がゆっくり髪に差し込まれ、親指が耳朶をくすぐるので、んん、と身をよじる。
「花恋様、髪を乾かしているから動かないでね」
「んん、でも、くすぐったいよ……」
ノワルがくすくす笑いながら髪をゆっくり丁寧に梳いていく。
魔法を使っているのかノワルに梳き撫でられた髪は、さらりと乾いていく。
親指が耳朶や首すじを掠めると、んん、と声が漏れたり、身をよじってしまったり、肩が揺れてしまうのが恥ずかしくて真っ赤な顔を両手で覆うことに決めた。
「——終わったよ」
最後に耳朶をなぞりながら髪をゆっくりと梳いたノワルの声に、ようやく顔をあげる。
「ありがとう……」
「花恋様、明日も乾かしてあげるね」
何でもないように、にこりと微笑んだノワルに、やっぱりこくんと頷いていた。
ノワルに抱きよせられ、胸元に頬が触れる。
優しくぽんぽんと髪を撫でられ、甘やかされていると、ててっと走る音が聞こえた。
「かれんさまー! みてなのー!」
ラピスがぎゅっと抱きついて来た。
しっとり髪が濡れているので、ラピスもお風呂に入っていたみたい。いつも春の柔らかな雨の匂いに爽やかな果実の匂いが混じっている。
「ラピスもお風呂入ってたの?」
「ロズにあらってもらったのー。かれんさま、みてなの! ぼくのパジャマは、スーパーせんたい『こいのぼりジャー』なの」
えっへんと胸を張ってラピスがパジャマを見せてくれる。
鯉のぼりのヒーローが描かれた半袖の水色パジャマに青い短パンを履いていた。くるくるの髪の毛を撫でるとふにゃりと笑う様子は天使すぎる。
「格好いいね!」
「そうなのー。よるになると、ひかるのー! かれんさま、いっしょによるみてくれる?」
こてんと首を傾けてお願いをするラピスが可愛すぎて、大きく頷いた。
「うんっ! 光るパジャマなんて、すごいね! 後で見せてね!」
「やくそくなのー」
「うん、約束ね!」
甘い空気はどこかに去って行き、ラピスと一緒に食卓に座る。私がのんびり薬湯に浸かっている間に、美味しそうなチラシ寿司やお吸い物などが所狭しと並んでいた。
みんなで賑やかに食べるご飯は美味しくて幸せを感じ、食後の温かいほうじ茶を飲んでいると、ラピスが眠たそうに目をこする。
ノワルが優しくラピスの頭を撫でる。その様子に胸がキュンとときめいた。
「ラピスは、そろそろ寝る時間だな」
「うん、なのー。でも、ぼく、かれんさまとやくそくしたの……」
「あっ! 光るところ見せてくれるんだよね?」
「そうなのー……かれんさまといっしょに、ねたいのー……」
ラピスの小さな手が半袖パーカーの裾をきゅっと握りしめる。うるうるした青い瞳で見つめられ、胸が再びキュンとする。
「うんっ! ラピス一緒に寝よう」
「うん、なのー」
眠たそうなラピスは直ぐに寝ちゃうだろうなと思いつつ、ノワルとロズにお休みを告げて二人で寝室に入る。
ラピスの光るというパジャマを見るために、電気を付けないで扉を閉める。ぽわんと暗闇に淡い光が浮かぶ。
「わあ! 鯉のぼりが光ってて、格好いいね」
「えっへんなのー! かっこいいのー」
ぴょんぴょん飛び跳ねるラピスは眠気も飛んでいったようで、ヒーローポーズを沢山見せてくれた。その後もベッドに寝転がっているものの目がぱっちり開いている。
まだ眠らなそうなラピスにずっと聞きたかったことを聞いてみることにした。
「ラピスは龍のままでいることは出来るの?」
「できるのー」
ラピスがにこにこ教えてくれる。
くるくるの柔らかい髪を撫でると、ふにゃりと笑う様子に胸がキュンとする。
「どうしてなのー?」
「あのね、ラピスが嫌じゃなかったら、龍の姿のラピスを撫でたいなって思ってるの。どうかな?」
「いいよ、なの! ラピスなでられるの、きもちいいし、だいすきなのー!」
言い終わるや否や、かわいい天使の唇がぷにっと押し付けられる。
——ぽんっ
豆電球のオレンジ色の部屋で、小指がぽわりと可愛らしく光る。
目の前のラピスは青いもふもふ龍に変身していた。
ペロペロと私の顔を舐め続けるのが、くすぐったくて身をよじる。
「ラピス、くすぐったいよ!」
「やなのー! かれんさまは、あまくておいしいのー。かわいいあじがして、すきなのー」
夢中になってペロペロと舐められてしまい、ラピスをぎゅっと抱きしめて、顔から離した。
手のひらいっぱいに、もふもふの感触が広がると我慢出来なくて、今度は私がラピスのもふもふの海に顔を埋めて、もふもふを味わう。ラピスは優しい雨と果実の混ざったいい匂いがするので、くんくん嗅いでしまう。
「ラピス、もふもふだね……っ」
「かれんさまーくすぐったいのー」
短いもふもふの前足で、テシテシと優しく叩かれる。もふんと顔を埋めるのを止めて、今度はちゃんと背中に沿って撫でたり、首の後ろや耳の付け根を撫でてあげると、ラピスの目がとろんとしていく。もふもふな尻尾の付け根を撫でると、目はとろとろに蕩けている。
——くるぅくるぅ……
気持ち良さそうに喉を鳴らすもふもふ龍のラピスを撫で続ける。とろんとした瞳は、今はもうすっかり閉じていて、身を任せてひたすら撫でられている様子に胸がキュンとしてしまう。
「うふふ、ラピス気持ちいい?」
「うん、……なの……」
「また明日も、もふもふなラピスを撫でてもいい?」
「うん、……なの……」
その夜は、ラピスのかわいい声を聴きながら、もふもふと優しい雨の匂いに包まれて、私は深い眠りに落ちていった。
1
お気に入りに追加
192
あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。
氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。
それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。
「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」
それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが?
人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる