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異世界を泳ぐ
聖女は聖獣の名前を考える
しおりを挟む「元の世界に戻るので決まりだな。先ずは、この彷徨いの森を出た方がいいよな」
「そうですね、彷徨いの森もカルパ王国も早めに出ましょう」
「このもりは、やな感じなのー」
三人が彷徨いの森を出ようと話し合っている様子を見ていると、ぱっと三人がこちらを向いた。
「聖女様、まずは彷徨いの森を出るのでいいか?」
「うん、元の世界に戻れるようにお願いします。……あとね、聖女様じゃなくて、名前の花恋って呼んでもらえないかな? 聖女様って呼ばれるの、落ち着かなくて……」
「花恋様」
「カレン様」
「かれんさまー」
「えっと、『様』もいらないよ?」
それは無理ですと、にっこり笑って受け入れてもらえなかった。うん、聖女様の呼び方じゃなくなって良かったと思おう。
「三人のことは、なんて呼べばいいのかな?」
「花恋様の好きなように呼んで欲しい。それが俺たちの名前になって、俺たち聖獣と花恋様の結びつきが強くなるんだ」
「かれんさまーなまえつけてー」
「カレン様、お願いします」
期待するようなキラキラした目で見つめられる。
三人の願いを叶えてあげたいけれど、たっくんの鯉のぼりに私が勝手に名前付けてもいいのかな?
悩んでしまい、その疑問を三人に伝えると黒髪さんがふっと笑う。
「俺たちはもう花恋様の聖獣なんだ。それに名前を付けてもらえないと、花恋様から力を分けてもらえない」
——黒髪さんが説明してくれた。
聖獣の多くは、犬や猫や小鳥など、聖女が元の世界で飼っている動物が多いが、ぬいぐるみなど生き物ではないものの場合も過去にはあったらしい。
聖女から愛されていて、聖女も愛されている、という事が大切になるらしい。
召喚され、異界を越える時に聖獣としての力を授かり、異世界で『聖女に名前を呼ばれる』か『聖女の聖なる魔力』を浴びると獣人に変化し、聖獣となる。
私の場合は、鯉のぼりを「たっくんの鯉のぼり」だと言ったことで聖女ではないと判断されてしまったそうだ。
聖女の魔力を試さないで私を聖女ではないと決めつけたカルパ王国を、鯉のぼりの中で見ていた三人は、すごく怒っていた。
「なるほどね、私が偽聖女や仮聖女って言われた理由が分かったよ……」
理由は分かったけど、勝手に召喚しておいて、あんな失礼なことを言った人達を許せるほど、私はお人好しではないけれど……一応、酷い扱いをされた理由は、理解は出来た。
「私たちのカレン様を聖女と気づけないなんて、カルパ王家の者達は、全く愚かな大馬鹿ですね。彷徨いの森を出た暁には、カルパ王がカツラを乗せようとすると、つるつる滑って乗せることの出来ない呪いをかけて参ります」
赤髪の美少女が、とっても悪い顔をして黒い笑みを浮かべていた。
美少女を怒らせると恐ろしいことが分かった。
「あ、あの……『聖なる魔力』なんて出した覚えがないんだけど、いつの間に出したことになってるの?」
黒髪さんの説明だと、私が三人に『聖なる魔力』を浴びせたことになると思い、訊ねる。
「それは花恋様の涙だ。聖女の魔力が涙に溶けていたのが俺たちにかかって、龍の獣人化することが出来た」
そういえば、泣いたあとに鯉のぼりが光って三人が現れたなと思い出した。
あの時、泣いていなかったら三人にずっと会えないまま途方に暮れていただろう。
「ありがとう。みんなに会えて本当によかった」
そう言って私が笑うと、みんなもほっとしたような綺麗な笑顔を見せてくれた。
「かれんさまーなまえつけて?」
青髪の天使が、こてんと首を傾げる。
「うんっ! どんな名前がいいかな? たっくんにも名前付けてもらってたの?」
「たつや様からもなまえもらってたよ。ぼくはね、あおくんなのー」
名前の参考にしようと思い確認したら、黒髪さんはくーろ、赤髪ちゃんはあっちゃん、青髪君はあおくんだった。
たっくんが鯉のぼりを呼んでいる姿を想像すると、可愛すぎて自然と頬がゆるゆると緩んだ。
(たっくん、この世界にいる間は鯉のぼり達を貸してね。元の世界に戻ったら絶対にたっくんにこの子達を返すんだ……!)
私もたっくんと同じように色の名前にしようと決め、浮世離れした和風顔じゃない三人を見て、ぱっと思いついた名前に決めた。
大学の語学選択で単位を取ったフランス語が、初めて役に立ったかもしれない。
「よしっ、決めたよ! 黒髪さんがノワル、赤髪ちゃんはロズ、青髪君はラピスはどうかな?」
——ぽわん
名前を呼んだ瞬間。
私とノワル、ロズ、ラピスの身体が淡く光り始める。
私の小指から細い金色の糸が伸びると、三人の小指に絡みつき、三人からも金色の糸が私の小指にキラキラと金色の粉が煌めきながら小指に絡みつく。
ほわりと温かな気持ちが広がっていき、柔らかな優しさに包まれたみたい。
煌めいた金色の粉がゆっくり消えていき、左手の小指を見てみると黒、赤、青色の波みたいな模様が三本描いてある。
三人の光っていた右手の小指も見せてもらうと、ノワルは黒、ロズは赤、ラピスは青の波の模様が一本描かれていた。
「三人とお揃いの指輪みたい! なんか波みたいで、かわいい模様だね」
「俺たちの鯉のぼりのウロコの模様だと思う」
「あっ、本当だ。鯉のぼりの模様かも!」
じっくり見てみると、たっくんの鯉のぼりのウロコの模様だと思う。三人の鯉のぼり姿も好きだから、嬉しくなる。
お揃いの模様が嬉しくて、小指を見つめていると、視線を感じて顔を向けると、ノワルと目が合った。
「花恋様、この彷徨いの森を出るには俺たちの魔力が心許ないんだ。魔力をもらってもいいかな?」
「カレン様、私もお願いします」
「ぼくもーおなかすいてるのー」
「もちろん、いいよ! でも、私、意識して泣けないんだけど……どうしたらいいかな?」
魔力のあげ方なんて分からないと思って、三人に訊ねた。
「ああ、一番簡単な方法はキスすることだよ」
黒髪のノワルが、なんでもないことのように、にこりと微笑んだ。
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