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本編
8.商会
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いつものようにメルヘンチックなカフェテリアに集まって、りす獣人クロエのおすすめのキャラメルと絡めたナッツをたっぷりと盛り付けたチョコレートケーキを口に運ぶ。しあわせな味が口の中に広がっていく。
「冬休みに発売される新作ロマンス小説は、学園ロマンスみたいよ」
「騎士を目指す狼獣人の男の子と幼馴染のねずみ獣人の女の子との学園ロマンスなんて絶対に素敵に決まってる!」
「今から楽しみね。冬休み明けにいっぱい語りましょうね」
新作のしあわせな話題で、わたしのたれ耳はぷるぷるゆれて、クロエのしましま尻尾がもふもふとゆれて、エミリーのゆるふわウェーブの髪もふわふわゆれた。
わたしたちは、ロマンス小説の感想をいっぱい話す約束をして冬休みを迎えた。
アレックス様は王宮魔術師の仕事が年末までぎっしり詰まっていて、魔術塔に寝泊まりをしていて会えない。わたしは久しぶりにコリーニョ伯爵家に戻って冬休みの課題をして過ごした。
「ソフィア様、本日はありがとうございました」
モモンガ獣人のプッサン商会は、異国の珍しいものをたくさん取り揃えている。綺麗な布やさまざまな道具を仕舞おうとしたプッサン商会を引き留めた。
「東の国の商品がほしいのだけど」
「ええ、ございますよ。今日持ってきているものだと、このあたりのものですね――これ以外のものでも、欲しいものが決まっておりましたら後ほどお待ちしますよ」
深緑の釉薬のかかった陶器や桜と梅の透かし模様の入った薄紙を見せながら答えてくれる。アレックス様に手紙を書くのによさそうな和紙と呼ばれる美しい紙をいくつか選びながら口をひらく。
「すごく美しい紙ね。わたしのほしいのは、またたびなんだけどお願いできる?」
わたしの言葉に沈黙が落ちている。不思議に思って和紙に落としていた視線をうつすと目の合ったプッサン商会の方はにこりと笑みを浮かべていた。
「本日はお持ちしておりませんが、またたびもございます。ソフィア様はどのようなものをご希望でしょうか?」
「わたしの婚約者に使いたいと思っていて、最近とっても疲れているみたいだから元気になってもらいたくて……。お香を焚くものがあるって聞いたけど、他にも色々試してみたいからお勧めのまたたびの商品があるなら色々持ってきてほしいと思っているの」
ばふんばふんという変わった音が聞こえて首を傾げると、プッサン商会のモモンガの尻尾が膨らんで左右にゆれている。
「なるほど、なるほど。プッサン商会にあるお勧めのものでしたら、すぐにお届けにあがります」
「新年に会う予定だから、お願いね」
その日の内にプッサン商会から色々な種類のまたたび商品が届いた。
◇◇◇
新年を迎え、疲れた顔のアレックス様がコリーニョ伯爵家にやってきた。
ティーグレ公爵家の馬車にエスコートされ乗り込むと、ふかふかの座面ではなくアレックス様の膝の上に乗せられる。
「ソフィー、会いたかった」
包みこむように抱きしめられると落ち着くのに落ち着かなくて、たれ耳がぷるぷるしてしまう。
「ああ、ソフィーが今日もかわいい……。本当に癒される……」
たれ耳にすりすり頬を寄せてくるアレックス様は、大人の男性なのにとてもかわいく見える。久しぶりに会えたときめきと一緒に胸がきゅう、と甘く締めつけられる。
アレックス様は、わたしのたれ耳を撫でたり頬ずりしたり、キスを落としていく。かわいい、癒される、会いたかった、好きだよの甘い言葉をひたすらささやき続けるから恥ずかしくなってきてしまい、たれ耳がぷるぷる震えながらぺたりと垂れる。
「も、もう、だめ……っ」
ぐいっとアレックス様の胸を押して、アレックス様とたれ耳の距離を置いた。心臓がどきどきし過ぎて、胸を押さえているとアレックス様の縞模様の尻尾がしゅんと垂れて、黒い瞳がせつなさそうにゆれる。
「ソフィー、もう少しだけ僕を癒してほしいけど、だめかな?」
「う、ううん……。アレクさま、本当に、本当に、少しだけだよ」
ふわりと嬉しそうに笑ったアレックス様は、端正な顔をたれ耳にもふふんと埋めて、すりすりをはじめる。かわいい、癒される、愛おしい、好きだよの言葉を心臓がどきんと跳ね上がるような低い声でささやき続けるからたれ耳も心臓もぷるぷる震え続けてしまう。
たれ耳の内側にある短いふわわんとした毛をアレックス様の指先がやわらかくふれるのがくすぐったくて、身をよじるとようやくおしまいにしてくれた。
息を整えてからアレックス様にプッサン商会から届いた東の国の桜模様のきれいな風呂敷を見せる。
「これ、アレックス様の疲れに効くと思ってお願いしていたものだよ」
そう言いながらアレックス様にうっすらできている目のクマを指先でそっとなぞる。くすぐったそうにするアレックス様は今日もすごく格好よくて思わず見惚れてしまうと甘く目を細められた。
「ソフィーすごく嬉しいよ。手がふさがっているから見せてもらってもいい?」
「うん。この風呂敷、匂いが漏れない魔道具にもなってるみたい」
わたしを支えて、ふわふわの髪を梳きなでるアレックス様の代わりに風呂敷をするりとほどくと、またたびの匂いがほんのり立ちのぼる。
「――っ!」
アレックス様の瞳が大きくひらいて、またたびグッズに釘付けになった。
猫にまたたび、虎にもまたたび。
虎獣人のアレックス様に、またたびを喜んでもらえそうな予感が嬉しくて説明をひとつずつはじめる。
「あのね、このまたたびのお香を焚くとじんわり効くものとすぐに効くのがあるみたい。これはね、またたびの成分をぬり薬にしているから直接マッサージすると効果がすごくあるらしいよ」
アレックス様の縞模様の尻尾がばたばた動いているのを見て、嬉しくなって思わずぴょん、とまるい尻尾を弾ませてしまう。
「それでね、これは栄養剤なんだけど錠剤と液体があったよ。錠剤は飲み続けると体質改善されて、疲れにくく持久力がつくみたい。この液体は、すごく強力だからすごく疲れている時や、ここぞという時に飲むのがおすすめだと聞いたよ――あっ、今、飲んでみる?」
ピンク色の液体の入った小瓶をとっても疲れているアレックス様に向けて首を傾げると、喉仏が動いてごくっと大きな音が鳴った。
「っ、今から――…………」
視線を彷徨わせて、言葉を濁すアレックス様を不思議に思ってアレックス様の視線を追うと馬車の窓から見える景色を見てうなずいた。
「もうすぐ馬車が揺れる道になるから飲み物は、後にしたほうがいいよね」
馬車が揺れたときに、またたび商品を落とさないように風呂敷に戻した。一番気になっていた商品を馬車が揺れはじめる前に説明したいと思って手に取った。
「アレク様と一緒に使える商品もおすすめしてもらったよ。このまたたびの紅茶は、またたびが効かない他の獣人にもリラックス効果がすごくあるから一緒に飲むといいみたいだよ。今度、一緒に使いたいね」
ずっと黙ったままのアレックス様をちらりと窺うと、ほんのり目元が赤くて、縞模様の尻尾はばたんばたんと座面にぶつけて動いている。
「このまたたび紅茶の心をときほぐす甘い匂いがどんな香りかずっと気になってて、香りを確かめてもいい?」
アレックス様の許可を取って、またたび紅茶の蓋をあけた。
ふわっとジャスミンやバラのような華やかな花の甘い香り広がる。すごく惹きつけられる匂いに鼻をぐっと近づけてしまう。アレックス様にも確かめてもらおうと思って紅茶缶を近づけたところで、ガタンと馬車が大きく揺れる。
「――っ!」
わたしのたれ耳が弾み、またたび紅茶缶の中からぶわっと飛び出した茶葉は、やわからな日差しにきらきら輝きながらアレックス様にどっさりかかってしまった。
「冬休みに発売される新作ロマンス小説は、学園ロマンスみたいよ」
「騎士を目指す狼獣人の男の子と幼馴染のねずみ獣人の女の子との学園ロマンスなんて絶対に素敵に決まってる!」
「今から楽しみね。冬休み明けにいっぱい語りましょうね」
新作のしあわせな話題で、わたしのたれ耳はぷるぷるゆれて、クロエのしましま尻尾がもふもふとゆれて、エミリーのゆるふわウェーブの髪もふわふわゆれた。
わたしたちは、ロマンス小説の感想をいっぱい話す約束をして冬休みを迎えた。
アレックス様は王宮魔術師の仕事が年末までぎっしり詰まっていて、魔術塔に寝泊まりをしていて会えない。わたしは久しぶりにコリーニョ伯爵家に戻って冬休みの課題をして過ごした。
「ソフィア様、本日はありがとうございました」
モモンガ獣人のプッサン商会は、異国の珍しいものをたくさん取り揃えている。綺麗な布やさまざまな道具を仕舞おうとしたプッサン商会を引き留めた。
「東の国の商品がほしいのだけど」
「ええ、ございますよ。今日持ってきているものだと、このあたりのものですね――これ以外のものでも、欲しいものが決まっておりましたら後ほどお待ちしますよ」
深緑の釉薬のかかった陶器や桜と梅の透かし模様の入った薄紙を見せながら答えてくれる。アレックス様に手紙を書くのによさそうな和紙と呼ばれる美しい紙をいくつか選びながら口をひらく。
「すごく美しい紙ね。わたしのほしいのは、またたびなんだけどお願いできる?」
わたしの言葉に沈黙が落ちている。不思議に思って和紙に落としていた視線をうつすと目の合ったプッサン商会の方はにこりと笑みを浮かべていた。
「本日はお持ちしておりませんが、またたびもございます。ソフィア様はどのようなものをご希望でしょうか?」
「わたしの婚約者に使いたいと思っていて、最近とっても疲れているみたいだから元気になってもらいたくて……。お香を焚くものがあるって聞いたけど、他にも色々試してみたいからお勧めのまたたびの商品があるなら色々持ってきてほしいと思っているの」
ばふんばふんという変わった音が聞こえて首を傾げると、プッサン商会のモモンガの尻尾が膨らんで左右にゆれている。
「なるほど、なるほど。プッサン商会にあるお勧めのものでしたら、すぐにお届けにあがります」
「新年に会う予定だから、お願いね」
その日の内にプッサン商会から色々な種類のまたたび商品が届いた。
◇◇◇
新年を迎え、疲れた顔のアレックス様がコリーニョ伯爵家にやってきた。
ティーグレ公爵家の馬車にエスコートされ乗り込むと、ふかふかの座面ではなくアレックス様の膝の上に乗せられる。
「ソフィー、会いたかった」
包みこむように抱きしめられると落ち着くのに落ち着かなくて、たれ耳がぷるぷるしてしまう。
「ああ、ソフィーが今日もかわいい……。本当に癒される……」
たれ耳にすりすり頬を寄せてくるアレックス様は、大人の男性なのにとてもかわいく見える。久しぶりに会えたときめきと一緒に胸がきゅう、と甘く締めつけられる。
アレックス様は、わたしのたれ耳を撫でたり頬ずりしたり、キスを落としていく。かわいい、癒される、会いたかった、好きだよの甘い言葉をひたすらささやき続けるから恥ずかしくなってきてしまい、たれ耳がぷるぷる震えながらぺたりと垂れる。
「も、もう、だめ……っ」
ぐいっとアレックス様の胸を押して、アレックス様とたれ耳の距離を置いた。心臓がどきどきし過ぎて、胸を押さえているとアレックス様の縞模様の尻尾がしゅんと垂れて、黒い瞳がせつなさそうにゆれる。
「ソフィー、もう少しだけ僕を癒してほしいけど、だめかな?」
「う、ううん……。アレクさま、本当に、本当に、少しだけだよ」
ふわりと嬉しそうに笑ったアレックス様は、端正な顔をたれ耳にもふふんと埋めて、すりすりをはじめる。かわいい、癒される、愛おしい、好きだよの言葉を心臓がどきんと跳ね上がるような低い声でささやき続けるからたれ耳も心臓もぷるぷる震え続けてしまう。
たれ耳の内側にある短いふわわんとした毛をアレックス様の指先がやわらかくふれるのがくすぐったくて、身をよじるとようやくおしまいにしてくれた。
息を整えてからアレックス様にプッサン商会から届いた東の国の桜模様のきれいな風呂敷を見せる。
「これ、アレックス様の疲れに効くと思ってお願いしていたものだよ」
そう言いながらアレックス様にうっすらできている目のクマを指先でそっとなぞる。くすぐったそうにするアレックス様は今日もすごく格好よくて思わず見惚れてしまうと甘く目を細められた。
「ソフィーすごく嬉しいよ。手がふさがっているから見せてもらってもいい?」
「うん。この風呂敷、匂いが漏れない魔道具にもなってるみたい」
わたしを支えて、ふわふわの髪を梳きなでるアレックス様の代わりに風呂敷をするりとほどくと、またたびの匂いがほんのり立ちのぼる。
「――っ!」
アレックス様の瞳が大きくひらいて、またたびグッズに釘付けになった。
猫にまたたび、虎にもまたたび。
虎獣人のアレックス様に、またたびを喜んでもらえそうな予感が嬉しくて説明をひとつずつはじめる。
「あのね、このまたたびのお香を焚くとじんわり効くものとすぐに効くのがあるみたい。これはね、またたびの成分をぬり薬にしているから直接マッサージすると効果がすごくあるらしいよ」
アレックス様の縞模様の尻尾がばたばた動いているのを見て、嬉しくなって思わずぴょん、とまるい尻尾を弾ませてしまう。
「それでね、これは栄養剤なんだけど錠剤と液体があったよ。錠剤は飲み続けると体質改善されて、疲れにくく持久力がつくみたい。この液体は、すごく強力だからすごく疲れている時や、ここぞという時に飲むのがおすすめだと聞いたよ――あっ、今、飲んでみる?」
ピンク色の液体の入った小瓶をとっても疲れているアレックス様に向けて首を傾げると、喉仏が動いてごくっと大きな音が鳴った。
「っ、今から――…………」
視線を彷徨わせて、言葉を濁すアレックス様を不思議に思ってアレックス様の視線を追うと馬車の窓から見える景色を見てうなずいた。
「もうすぐ馬車が揺れる道になるから飲み物は、後にしたほうがいいよね」
馬車が揺れたときに、またたび商品を落とさないように風呂敷に戻した。一番気になっていた商品を馬車が揺れはじめる前に説明したいと思って手に取った。
「アレク様と一緒に使える商品もおすすめしてもらったよ。このまたたびの紅茶は、またたびが効かない他の獣人にもリラックス効果がすごくあるから一緒に飲むといいみたいだよ。今度、一緒に使いたいね」
ずっと黙ったままのアレックス様をちらりと窺うと、ほんのり目元が赤くて、縞模様の尻尾はばたんばたんと座面にぶつけて動いている。
「このまたたび紅茶の心をときほぐす甘い匂いがどんな香りかずっと気になってて、香りを確かめてもいい?」
アレックス様の許可を取って、またたび紅茶の蓋をあけた。
ふわっとジャスミンやバラのような華やかな花の甘い香り広がる。すごく惹きつけられる匂いに鼻をぐっと近づけてしまう。アレックス様にも確かめてもらおうと思って紅茶缶を近づけたところで、ガタンと馬車が大きく揺れる。
「――っ!」
わたしのたれ耳が弾み、またたび紅茶缶の中からぶわっと飛び出した茶葉は、やわからな日差しにきらきら輝きながらアレックス様にどっさりかかってしまった。
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