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 ずっとエリック殿下から地味だと言われ続けていたので、予想外の言葉に驚くしかできない。
 

「あの、レオナード様、ありがとうございます……」


 レオナード様の言葉が枯れていた心のどこかにゆっくり染みていき、胸の奥があたたかくなった。



 目の前をひらひらと妖精が横切り、エルフがにこやかに近づいてくる。

「お客様、眼鏡チェーンもいかがですか?」
「あっ、ぜひ、お願いします!」

 棚に乗っている眼鏡チェーンに目を向けた。シンプルな革から、お洒落な装飾の付いているものまで多岐に渡る。精霊たちにどんな物を選んでもらえるか気になり、エルフの言葉に前のめりで頼んでしまった。

「ふふっ、アイリーンにこの店を気に入ってもらえてよかったよ」
「っ! ああ、あの、レオナード様より先にお願いしてしまってすみません……っ! 精霊さんに会ったのも初めてで、嬉しくて、その、つい……」
「気にしないで。かわいいアイリーンが見れて嬉しいから」
「っ、か、揶揄わないでください……っ!」

 子どもみたいな振る舞いをしたことが恥ずかしくなって、顔に熱が集まる。くすくす笑うレオナード様をじとりと見ると、なぜか嬉しそうに笑うから困ってしまった。

「ほら、アイリーン、精霊たちが選んでくれたみたいだよ?」

 レオナード様の言葉で精霊たちが眼鏡チェーンを手のひらに乗せてくれる。シルバーチェーンに小さなサファイアが等間隔にあしらわれた繊細なデザイン。派手ではないけれど女性らしくてアカデミーの制服にも似合いそうで頬が緩んだ。

「眼鏡も買ったことだし、とっておきの薬草を見に行こう」
「はい! 楽しみにしてます」
 
 新しい眼鏡を二人で掛けて薬草マーケット散策を再開する。

 とっておきだと見せてもらったのは、薬草鳥の薬草だった。魔法鉢に、宝石のように輝く若草色の薬草がたった一本だけ生えている。本当に美しいものを見ると言葉も出ないのだと初めて知り、レオナード様と時間を忘れて見つめていた。
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