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 アカデミーでは魔法薬の講義や実習、それからクラウト王国の歴史と文化を学ぶ。中でも、クラウト王族がドラゴンに変化できることにとても驚いた。

 育てた薬草から魔法薬を生成する手順を黒板から書き写しながら、目を細める。次からはもっと前に座ろうと決めて、眼鏡を外し目頭を軽く揉む。眼鏡を掛け直し、魔法薬の素材である薬草や道具に向き合った。

「よし……っ!」

 乳鉢ですりつぶした数種類の薬草を混ぜ合わせ、熱魔法と氷魔法で温めるのと冷やすのを繰り返して粉にする。秤で計量し風魔法を使い圧縮させ錠剤にすれば魔法薬の完成となる。
 すべての魔法薬を薬瓶に詰め終わり一息つくと、隣に座るレオナード様に声をかけられた。

「アイリーンできた?」
「はいっ! バッチリです!」

 上手くできた魔法薬が嬉しくて笑顔で見せると、レオナード様の手が伸びてきて私の頭にぽんっと置かれた。


「「…………っ!?」」


 私の肩が大きく跳ねて目を丸くすると、レオナード様も目を見開いて手を引っ込める。すぐに手が離れたのでホッとして視線を向ければ、片手で顔を覆ったレオナード様と目が合った。

「ああ──…ごめん。アイリーンがあまりにも嬉しそうに笑うから、可愛くて、つい手が伸びてしまった……ごめん」

「…………へ? えっと、あの、だ、だ、大丈夫です……っ!」

 レオナード様の言葉にじわじわと顔に熱が集まり火照ほてる。どうしていいか分からず動揺していると、わざとらしく咳払いをしたレオナード様が口をひらいた。
 

「アイリーン、そうだ、もしかして眼鏡の度数が合ってない?」
「えっ? っ、あっ! そ、そうなんです……っ! アカデミーにある魔法薬の本が面白くて、つい夜更けまで読んでいるので……視力が落ちたのかもしれませんっ!」

 レオナード様の気まずい空気を変えようとしてくれる優しさに全力で甘え、こくこくと頭を縦に振る。

「度数が合っていないのは困るよな。俺のお勧めの眼鏡店に連れていってあげるよ」
「えっ……? あの、お店を教えてもらえるだけでも……? レオナード様はお忙しいでしょうし……っ」

 なぜか話が違う方向に変わっていて、目を瞬かせた。

「いや、大丈夫だよ。俺も自分用にひとつ作りたいと思っていたからね。ちょうど薬草マーケットもあるし、案内してあげるよ」
「薬草マーケットの案内……?」
「うん。世界一と呼ばれるクラウト王国自慢の薬草マーケットの定番から穴場まで、俺なら自信を持って案内できるよ」

 ずっと行きたかった憧れの薬草マーケットに気持ちが大きく揺れ動く。でも、王太子のレオナード様と出掛けるのはハードルが高すぎて悩んでしまう。

「アイリーンは、他では見られない珍しい薬草見たくない?」
「見たいですっ!」

 私の頭の中から迷いがあっさり消え去る。

「それじゃあ、決まりね。一緒に薬草マーケットデートに出かけよう」

 レオナード様の言葉に、私は期待に胸を弾ませて大きくうなずいた。
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