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 今日からクラウト王国の王立アカデミーで魔法薬師の勉強がはじまる。新しい制服に袖を通し眼鏡をかけた私は、浮き立つ気持ちでアカデミーの門をくぐった。

「まあ、素晴らしいわ……っ」

 華やかに咲きほこるロンダンの花に息を呑む。ドラゴンの胆のうという意味を持つロンダンは、クラウト王国のみに咲く銀色と青色のバイカラー咲きの薬草である。

 美しすぎるロンダンに見惚れていたら、足音がして振り向いた。


「まさか隣国にいたとはな。どうりで探しても見つからないはずだ……」
「あの、どうかしましたか……?」

 学園の制服を着た長身の青年に怖いくらいに見つめられていたので、思わず声をかける。

「いや、なんでもないよ。君は、今日からやってきた留学生だろう? よかったらアカデミーの校舎を案内しよう──俺は、レオナード・クラウトだ」

 クラウト王族の象徴である銀髪に青色の瞳。私は、王太子であるレオナード様に淑女の礼を取る。

「サルーテ国のアイリーン・メディケルトと申します。本日より王立アカデミーで学ばせていただきます」

「ああ。困ったことがあれば、俺になんでも相談してくれ」

 大きな手を差し出されて握手を交わすと、レオナード殿下が柔らかく微笑んだ。





 畏れ多くもレオナード殿下にアカデミーを案内してもらうことになり、温室に到着した。

「わあ、ドラゴーネ草にロンドラーク! 本物を初めて見たわ……っ!」

 書物で知っている薬草が目の前にあることに感動してしまう。薬草に駆け寄り観察をはじめる。

「あなたに気に入ってもらえて、とても嬉しい」
「っ! で、殿下……申し訳ありません」

 珍しい薬草に夢中になって、誰に案内されていたのか忘れていた。


「駄目だな」

 レオナード殿下は言葉を切ると、私の顔を不安になるくらい凝視する。魔法薬師になる夢を叶えようと留学してきたのに、サルーテ国に戻されたら困ってしまう。

「殿下ではなくレオナードと呼んでほしい。あなたには名前で呼ばれたいんだ」
「えっ……と、それは……」

 私が公爵令嬢と言っても、大国のクラウト王国の王太子とはあまりに立場が違いすぎる。

「どうしても駄目だろうか……?」

 あからさまにしょんぼりする姿に、罪悪感が芽生える。このまま固辞を続ける方が失礼なのかもしれないと悩んでしまう。


「あの、では、レオナード様……?」


 私が名前で呼ぶと、レオナード様が嬉しそうに目を細めた。
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