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番外編Ⅲ (※はイラストがあります)

てへぺろ妖精 2

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 ふにゃりと力が抜けてしまった私を、喉の奥で笑ったガイ様が軽々横抱きにして夫婦の寝室の扉を開ける。
 ガイ様にこてりと頭をあずけるとガイ様の甘い匂いにお酒の匂いが混じっていて、いつもより体温も高い。
 たくましい太い腕の中でガイ様の凛々しい横顔をそっと見つめていると、ふっと笑われて顔をこちらに向けられる。見つかってしまった気まずさと凛々しい表情から甘く目を細めて見つめられる恥ずかしさに、どきりと胸が高鳴ってしまうの。
 そのままゆったりした大きめのソファに座ると、外していたたれ耳うさぎのフードをぽすりとかぶせられる。

「アリーは、うさぎになってもかわいいな」

 ガイ様に低い声でささやかれると嬉しくなってしまって頬がゆるんでしまうの。
 くつくつとからかうように笑うと、ガイ様の大きな手がへにゃりとした耳や、ぴょこりと飛びだしたまん丸尻尾をゆるゆる撫でるのがくすぐったい。
 ガイ様からたれ耳うさぎの夜着はどうしたのか、と聞かれて答える間も、ガイ様はふわもこの感触を確かめるように背中から腰にかけて、するすると触り続けるので、息が漏れたり肩がぴくんと揺れてしまう。

「どんなアリーも好きだから、俺に隠しごとはしないで欲しい」

 こくんとうなずくと、ガイ様は大きな手でうさぎのたれ耳を撫でる。どこか困ったように眉を下げているのが気になり、首を傾げるとたれ耳がへにゃりとゆれた。

「アリー、ガイ様に隠しごとはありません! に言えないような秘密はないの!」
「ぶはっ、それは本当か?」
「はいっ!」

 ガイ様の困った顔は見たくなくて勢いよく答えるとぶはっと大きな声で笑われる。
 たれ耳うさぎのフードからこぼれる髪を一房すくい上げて軽いキスを落とすと、思いもよらないくらい真剣な眼差しで見つめられる。

「アリーは、てへぺろをするのか?」
「――っ!」

 思わず息を呑んだの。

 ガイ様の眼差しに捕らわれていた瞳が左右にゆれてしまう。ガイ様はきっと誰かから私がてへぺろをしていたことを聞いたのよね……。
 ガイ様は、他の女性にされたてへぺろの仕草が心底不愉快だったとおっしゃっていたから、私がてへぺろをしていたと知って不愉快に思っているに違いないわ。

「ガイ様――ごめんなさい」
「いや、謝る必要はないぞ」
「でも、ガイ様は以前ララ様にてへぺろをされて不愉快だったと聞いていたのに……」

 いつの間にか目尻に涙がたまっていたの。泣き顔を見られないように両手で顔を覆うとすると、ガイ様の大きな温かな手にあっさり捕まってしまう。
 私の両手を大きな片手で簡単に捕まえると、もう片手が伸びてきて頬や首筋をなぞっていく。
 肉厚な唇を目尻に押し当て浮かんでいた涙を吸いとると、瞳を覗きこまれる。

「どんなアリーも好きだと言っただろう?」

 色気たっぷりのかすれた声と甘い感触を耳元に落とされて、身体がしびれたように震えてしまう。こめかみやまぶたに肉厚な唇を押し当てられ、ガイ様の体温が伝わってくる。

「てへぺろは――その、練習したのか?」

 てへぺろはエトワル学園のときに一度したけれど、どうして練習をしていたことまで知っているのかしら……。
 だけど夫婦の間で嘘をつくのはもっとだめなことよね――恥ずかしさで熱の集まる顔を厚い胸板にうずめながら小さくうなずいた。
 とんとんと背中をあやすように撫でていた大きな手が、ふいにゆれる尻尾を撫であげると「んっ」と驚いて声がもれてしまう。

「どうして練習したんだ?」

 ガイ様の大きな手が丸く撫でるように尻尾を撫でつづけ、くすぐったくてお尻をぴょんぴょんゆらしてしまうと、くすりと艶のある声で笑われてしまう。
 ガイ様に甘く名前を呼ばれて見上げると、うながされるように見つめられる。

「てへぺろは、あざと可愛くて――んっ、ガイ様に、好きになってもらえるって……あんっ、やっ、ガイ様、くすぐったいの――」

 うさぎのようにお尻がぴょんぴょん跳ね上がってしまうのが恥ずかしくて、ガイ様の太い首にぎゅっと腕をまわしたの。

「うさぎのアリーもかわいいな」

 ガイ様はくつくつと笑うと、たくましい腕で抱きしめてくれる。すきまのないくらい抱き寄せられると、ガイ様の甘い匂いにお酒がまざったものに包まれる。うさぎのように鼻をひくひく動かして、首筋の甘い匂いをたっぷり吸いこむとするりと言葉が出てきたの。

「ガイ様、大好きです」
「ああ、俺もアリーが好きだ――」

 ガイ様の匂いに酔ったみたいに、とろりとうるんだ瞳で告げると、柔らかく微笑まれ、ゆっくり近づく甘い予感にまぶたをとじる。

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