47 / 60
番外編 I
いただきます 1
しおりを挟む※いただきます編(全三話)は、ガイフレート視点です。
窓から晴れ切った朝の陽射しが差し込む。
秋の朝は少し肌寒い。愛しい妻は俺に甘えるように身体を寄せ、穏やかな寝息を立てている。顔にかかる一房の髪を掬い耳に掛けると、ん……と昨夜の余韻のような甘い声が漏れた。アリーから無意識に溢れた声に、思わずごくりと喉が鳴る。柔らかな頬に優しく触れ、桃花のような甘い匂いのする髪や可愛い額に優しくキスを落とす。
くすぐったいのか身を捩りながら俺の胸に隠れようとする愛しい仕草や薄布をまとう身体から誘うような体温と柔らかな膨らみの感触に甘い痺れが走る。背中や細い腰を撫でながら頭にキスの雨を降らせていると、アリーが寝ぼけ眼で俺を見つめる。
「ん……ガイ、さま?」
掠れた声で尋ねるアリーの無防備な姿に、昨夜のように甘く啼かせたくなる本能と理性がせめぎ合う。
「朝から誘ってるのか?」
甘く耳元に囁けば、暫しの沈黙の後、アリーは自分の置かれている状況が分かったらしい。
はだけた寝間着から覗く素肌が赤く染め上がった。羞恥で潤んだ瞳で小動物のように震えて首を横に降る仕草は、食べてくれと言ってるのと同じだぞ? 思わず笑いが漏れる。わざと視線を逸らした隙に、アリーがはだけた寝間着を搔き合せると可愛いアリーうさぎになって脱兎の如く扉に向かって飛び出した。
これで朝からトーマスに怒られる事は無さそうだなと独り言つ。
「おや、よく我慢出来ましたね?」
いつの間にか入室していた執事のトーマスの言葉に恨みがましげにじとりと睨む。
「旦那様が我慢出来ないと思って早めの時間をお伝えしていたのですが? 支度する時間が随分増えたとサラが喜んでいましたよ」
「なっ! くっ! 今からでも遅くない!」
「それは無理ですね!」
満面の笑みを浮かべて即答したトーマスは、部屋を明るくするためカーテンを開け始める。眩しい朝日に目を細めていると、トーマスが呆れたような表情を浮かべた。
「さあ、旦那様も結婚式の支度に取り掛かって下さい」
諦めきれずアリーが出て行った扉を見つめていたら最後通告だと言わんばかりに、湯殿に向かうようにトーマスに告げられた。
はあ、と深くため息を零して湯浴みを済ませる。その後いつもより丁寧に身仕度を整え、花婿衣装、アリーの熱烈な希望によって決まった騎士団の正装に袖を通した。
可愛い妻は俺の騎士団の正装姿がよほど気に入っているらしく結婚前から着用する度に見に来ていた。ほんのり桃色に頬を染め、熱い吐息を零して、俺にうっとりと見惚れるものだからソファに押し倒したい衝動を何度我慢したことか。結婚した今は押し倒す時間も含めて早めの支度をしている。
我が家の使用人達に生温かい目で見られているが、可愛い妻だけは俺が押し倒す時間を設けているのに気付く事もなく、俺が遅刻するかもと朱色に身体を染めて心配をしている。そんないじらしい妻が可愛い抵抗をやめ、身を委ねる瞬間が堪らなく愛らしいのだ。
椅子に座った拍子に勲章が音を立てる。一番新しい勲章をふと手に取り見ていると、トーマスが笑いを堪える気配を感じ、きつく睨む。
「言いたい事があるならハッキリ言え」
「え? 宜しいのですか?」
「…………やっぱり言うな」
トーマスが肩を震わせる。むすっと顔を顰めると、俺の好きな紅茶を丁寧に淹れる。悔しいがこんな時でもトーマスの淹れる紅茶は絶品だ。
叙勲を受けた最大の理由は、本人は知らないがアリーになると思う。
ようやく身も心も手に入れ、結婚して初めてのアリーの誕生日が間近に迫った頃、不穏な動きを見せる間の悪い王国があったのだ。夫婦になって初めて迎えるアリーの誕生日を一緒に過ごす以外の選択肢があるわけないだろう? 国王陛下が腰を抜かす程、あっと言う間にその国を制圧した俺に軍神や死神などの呼び名がついたようだが、俺は可愛い妻と過ごしたいだけだ。
結婚する前からアリーの誕生日に結婚式を挙げる予定でずっと準備を進めていたから今日に間に合って本当に良かったと思う。
「重すぎる……」
「ごほ! な? え?」
トーマスの漏らした言葉にごほごほと紅茶を咳き込む。トーマスは俺からそっと目を逸らした——
0
お気に入りに追加
841
あなたにおすすめの小説
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
お前を誰にも渡さない〜俺様御曹司の独占欲
ラヴ KAZU
恋愛
「ごめんねチビちゃん、ママを許してあなたにパパはいないの」
現在妊娠三ヶ月、一夜の過ちで妊娠してしまった
雨宮 雫(あめみや しずく)四十二歳 独身
「俺の婚約者になってくれ今日からその子は俺の子供な」
私の目の前に現れた彼の突然の申し出
冴木 峻(さえき しゅん)三十歳 独身
突然始まった契約生活、愛の無い婚約者のはずが
彼の独占欲はエスカレートしていく
冴木コーポレーション御曹司の彼には秘密があり
そしてどうしても手に入らないものがあった、それは・・・
雨宮雫はある男性と一夜を共にし、その場を逃げ出した、暫くして妊娠に気づく。
そんなある日雫の前に冴木コーポレーション御曹司、冴木峻が現れ、「俺の婚約者になってくれ、今日からその子は俺の子供な」突然の申し出に困惑する雫。
だが仕事も無い妊婦の雫にとってありがたい申し出に契約婚約者を引き受ける事になった。
愛の無い生活のはずが峻の独占欲はエスカレートしていく。そんな彼には実は秘密があった。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる