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王立エトワル学園 4
しおりを挟む元気いっぱいのヒロインルルがカフェテリアに現れた。大きな声がカフェテリア中に響き渡り、とても注目を集めているのが分かる。
「リック様、お隣いいですか?」
ルルがフェリックス殿下を砂糖菓子のような甘い声で愛称呼びをしたのと同時に、フェリックス殿下から冷気が発せられ、思わず身震いをした。
私達は三人でランチを食べに来たので、壁際にある少し広めの四人掛けのテーブルに座っていた。
フェリックス殿下が私の隣に腰を下ろし、フェルカイト様はパーティー席に座っていて、もう満席なのは見たら分かると思うのだけど……?
「ーー席はもう埋まっているが」
「ルルなら狭くても大丈夫!」
フェリックス殿下の温度のない声に怯まず、ルルは「これ貸りるね」と隣の席の椅子を引っ張り、殿下の隣に押し入れた。
殿下を押し退けるなんて図々しい、いえ、メンタルが強いヒロインだなと私は小さくため息をつく。
「あっ、ルル、注文まだだった! ルルったらドジっ子だから! てへっ」
ルルがこつんと自分の頭を拳で叩いて、てへっと言いながら、ぺろっと舌を出した。ヒロイン、メンタルが強すぎるわ!
フェリックス殿下とフェルカイト様の動きが優雅なのに、手が高速に動き皿の上のパスタを減らして行く。それをうっとり眺めるルル……ランチを食べなくてもいいのかしら?
そのルルの視線を華麗に無視して、綺麗にランチを食べ終えたフェリックス殿下が、急にキラキラした笑顔で私を見たの。
「わたしの愛しのアリー、いい返事をいつまでも待つよ」
「ちょっとアリーシア! 私のリック様に何かしたの?」
いつからルルのフェリックス殿下になったのだろうと思うと同時に、すっとフェリックス殿下の顔が耳元に近付き「先程の礼を貰うぞ」と私にだけ聞こえる様に小声で囁いた。
先程の礼の意味が分からず、首を傾けた私を無視したまま、フェリックス殿下はルルに見せつける様に、私の髪を一房掬い、口づけをした……
「ああ、君まだいたの? アリーシア、いや、アリーは、魔道書士長の息子の妹で、騎士団長の息子と婚約中なんだ。だけど、アリーは賢く美しく……わたしの妃に相応しいと思い、騎士団長の息子と別れて、わたしのものになって欲しいと何度も求愛しているのさ」
「えっ、えっ、求愛……? そ、そんな……王子ルートもバグってる?」
「確かに君が言った通り、ソフィアとの婚約は政略によるものだ……君に言われて、真実の愛は違うのだと気づいたよ。君も美しいが……王妃に必要な賢さを備えているのは、入学試験トップのアリーだから……」
「ま、まって! リック様! ルルが次の試験でトップだったら……王妃に、いえ、まずデートしてもらえますか?」
「もし、愛しのアリーから学年トップが取れたら考えてみよう……? 比較するために選択科目を見せてごらん」
「はい!」
ルルが勢いよく鞄から必須科目と選択科目の時間割表を取り出し、テーブルに広げる。
フェリックス殿下と婚約者のソフィア・キャメロン公爵令嬢は確かに政略による婚約だが、幼馴染の二人はとても仲が良いと評判だ。
今朝も一緒の馬車で登園していたのを見たところだ。
大体、先程初めてお会いしたフェリックス殿下に求愛されるなんてあり得ない……!
ああ、頼んでもいないガイ様の作戦会議にフェリックス殿下が勝手に入ってきた御礼なのかとようやく気付いたが、もう遅いわね……。
「ああ、選択科目には、王妃に必要なダンス、礼儀作法、哲学も加えるといい」
「王妃に必要……!」
王妃の言葉に目を潤ませ、頬を桃色に染めたルル。フェリックス殿下が温度のない笑顔で、次々にルルの選択科目を増やして行ったの。
ちらりと時間割表を覗くと……これは休み時間が一コマもない魔王の時間割だわ!
無駄にキラキラしたフェリックス殿下に「アリーのも見せて?」と上目遣いに言われ、渋々……本当に渋々、先程完成した時間割表をテーブルに広げたの。
追加する選択科目をサラサラと書き足され、フェリックス殿下が「ああ、これでいい」と私とルルの時間割表を見て、満足そうに頷いた。再びキラキラした笑顔で私を見たの。
もう嫌な予感以外しないわ……
「二人には必修科目と共通の選択科目の順位で競ってもらおう!」
「あなたになんか負けないんだから!」
ギラギラ闘志を燃やしたルルにライバル宣言をされた——敵意むき出しのルルに睨まれ、ぐったりした私が帰りの馬車に乗り込もうとしたら王家の馬車に引き摺り込まれた。
中に居たのは勿論、ミエーレ王国の王太子、フェリックス殿下だ。因みに全くキラキラしていない。多分この人はこれが素だと思う。
「先程は助かった」
「……そうでしょうね」
「そんなに怒るな。俺もピンク頭に一日付き纏われただけで疲れた……。ソフィアも悪役令嬢扱いされるし、不敬罪で斬り捨てたくなったが……特待生のピンク頭は一学期までは斬り捨て禁止だからな。まあ、あれだけ選択科目を詰め込み、試験トップならデート出来る餌もやったんだ。これで当分忙しくて、わたしとソフィアのクラスには来ないだろう?」
ピンク頭の特待生は魔力量が王侯貴族と同等あり、ミエーレ王国にとって貴重な魔力になる。
ピンク頭の特待生を直ぐに不敬罪で処罰しないのは、歴代のピンク頭のヒロイン病の者達がヒロイン病から正気に戻った後のミエーレ王国への貢献が著しいからだ。
「……何故、私なのですか? 私は入学試験でトップは取っておりません。新入生代表の挨拶はモブモーブ伯爵家のガニアン様だったと記憶しております」
「ああ、ウィンザー侯爵から聞いていないのか? 間違いなくトップはアリーだ。しかも満点だった。記述に至っては満点を通り越して加点もされていたから満点超えだった。新入生代表の挨拶は、ウィンザー侯爵が『狼の前に娘を晒すなら魔道書士長を辞める!』と言ったからだ……」
「そ、そうですか……」
「あとは、そうだな……」
フェリックス殿下が立ち上がり、私の隣に座り、髪を一房手に取り、甘く潤んだ上目遣いで「わたしの事をどう思う?」と聞いて来た。
「……不敬罪で処罰されませんか?」
「ああ、約束しよう」
「そうですね……私のことを全然好きでも無いのに、よくそんな芝居が出来るなと感心しております」
真顔で答えると、フェリックス殿下はくつくつ腹を抱えて笑った後「アリーを選んだのは、わたしに見惚れない所だ」と真顔で言われ、何言ってるんだこの人はと言わなかった私を誰か褒めて欲しい
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