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第三章 黒猫杯

アスモ、街を観光する

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「あらみなさん、いらっしゃいませ」
 商人ギルドに入るとアキナさんが出迎えてくれた。
「こんにちわ~、アキナさん。
 調子はどうですか~?」
「ぼちぼちいい感じです。
 黒猫商会さんのおかげでこの街の経済が少し活発になってきてまして、喜ばしいことですね」
「それは良かったです。
 今日はですね~、新しくうちで一緒に暮らすことになった子がいるので紹介にきました~。
 お買い物なんかで困ってることがあったら助けてあげて下さいね~」
「おい、なんだよその紹介の仕方!
 オレは子供か!?」
「そちらの方ですか?
 始めまして。
 私は商人ギルドのギルドマスターをしております、アキナ・イスールと申します。
 どうぞ、よろしくお願い致します」
「あー、オレはアスモデウスだ。
 街に来ることはほとんどないとは思うが、まあよろしく頼むわ」
「アスモデウス……様ですか……?
 あの、もしや……、人魔大戦で一人で人間族の英雄六人を圧倒して奇跡の魔神と言われたあのアスモデウス様ですか?」
「え、オレってそんな風に言われてたのか?
 いやー、照れるなー、ふふふふふふ」
「何その照れ方。
 キモイし」
「キモイって言うなよ!」
 フランはアスモには厳しいなぁ。
「すでにすごい方々の集まりですから驚きはしませんが……。
 いや、やっぱ驚きますよ!」
「魔神とか呼ばれてたのは昔のことだ。
 今は国となんの関わりもないただの魔族だ。
 普通に接してくれればいいさ」
「か、かしこまりました……」
 さっきのコロさんの時もそうだったけど、魔神と聞いて怖がられるかなと思ってたけど、そんなことは全然なくてむしろ感激しているというかなんというか……。
 俺はいまいちわからないけど、もしかしたらアスモって今のガイアの人からすると、過去の偉人っていうカテゴリーに入るのだろうか。
 戦争で他国を圧倒したってことだから……、脳筋具合を考えると項羽とか呂布とかそんな感じかな?
 そう考えると、もっとアスモのこと丁重に接さなきゃって一瞬思ったけど、家ではフランと同じで基本何もしないで、ただフランとギャーギャー言い合ってるだけだしなぁ。
 うん、今のままでいいよね。
「ところで黒猫杯のことですが。
 最近は参加申し込みは落ち着きまして、この街の住人や滞在してる方で参加したい方々はもうほとんど申し込みを終えたのではないかと思います。
 子供の部は十チーム、大人の部は五十チームを超えたところですね」
「子供の部が思ったより少ないな~。
 逆に大人の部が思ってたよりかなり多いかも~」
「我が国は他国と比べると識字率が低いですからね。
 街でルールを配布致しましたが、文字が読めないと誰かに教えてもらうとかしないとルールを知る機会はありません。
 特に識字率の低い子供層にサッカーのルールが浸透するのは時間がかかりそうです」
「そうですか~。
 まぁ、そこはゆっくりと確実に、ですね~」
「大人の部の参加者は、大半が経済的に余裕のある冒険者です。
 一般市民の方は、今回は様子見といった感じでしょうか」
「なるほど~。
 もっといろんな人に参加してもらいたかったけど、しょうがないかな?
 今回の大会が盛り上がれば、いろんな人にサッカーに興味を持ってもらえるよね~」
「そうですね。
 私も参加しますので空いた時間に練習していますが、けっこう楽しんでますよ。
 グラウンドにいる竜族の方が審判をしてくれることもあり、たまに練習試合をすることもあります。
 見物している方々も結構楽しんでいるようです。
 何度か試合をしましたが、私のチームはまだ負けたことがないんですよ。
 本番で黒猫商会さんのチームと当たらなければ、結構いいところまでいけるかもしれませんね」
 そう言って上品に笑うアキナさん。
 練習試合なんてやってるんだなぁ。
 全然知らなかった。
 サッカーを広めるために練習試合をするのもいいかもしれない。
 まぁその辺はみんなに相談かな。
 てか、アキナさんがサッカーしてる姿って想像できないな。
 ここの商人ギルドは、アキナさんも含めほとんどの職員が小柄な事務のお姉さんって感じだ。
 それが練習試合で負けたことがないって……。
 うーん、だめだ。
 全然想像できない。
 OLが昼休みに屋上でキャッキャウフフな感じで食後の運動に戯れているようなビジョンしか思い浮かばない!
 ……今度アキナさんたちの練習見に行ってみようかな……。
 いや、やっぱりやめよう。
 本番の楽しみにとっておこう。
 雫とアキナさんが少し情報交換をしたあと、俺たちはギルドを出た。
「さて、アスモの紹介も済んだし、練習しに行く?」
 澪がそう問いかけると、
「練習するのだ!」
「もうすぐ大会っすからね!
 追い込みかけるっすよ!」
「モチのロンっす!」
「当然やるし」
 一部の連中が即答してきた。
「オレはサッカーとかいうの興味ねーから、適当に街ぶらついてから帰るわ」
 さすがはアスモ。
 みんなに合わせるとかいう概念はないようだ。
「じゃあ心配だから俺はアスモと一緒にいるよ。
 そっちは任せるね。」
 俺はアスモについていくことにした。
 一人にするのはやっぱ不安だしね。
 暴れたりするなんてことはすると思ってないけど、数百年間人里離れて生きてきたわけだし、何かトラブルはあるかもしれない。
 それなら誰かが一緒にいるべきだ。
 この街なら俺も随分と街の人たちに認知されてきていて、俺でも十分トラブルに対処できる。
「別に一人で大丈夫だって」
「いいからいいから、邪魔はしないからさ」
「子供じゃねーんだから心配いらねーのによ……」
「街なんて数百年ぶりっしょ?
 まぁ、俺は保険ってことで」
「はいはい、勝手にしろ」
 そう言ってアスモは歩きだした。
「じゃあみんな、また後でね。
 練習頑張って!」
 シュタッ!っと前足を上げて、俺はアスモを追いかけた。
 てかアスモもうすっごい遠くにいるし!
 俺を撒く気とか?
 そうはさせるかあああ!
「ちょ、待てよ!」
 俺がダッシュで追いつくと、アスモは呆れてるような顔で言った。
「オレについてきてもおもしれーことなんてねーぞ?
 本当にただブラつくだけなんだからな。」
「全然いいよそんなの。
 街をブラつくなんて久しぶりなんでしょ?
 何かわかんないこととか困ったこととかあったら、誰かいたほうがいいでしょ」
「はぁ……、物好きだなお前も」
 それから適当に街を歩いた。
 ちょっとお腹が減ったというので、屋台で適当に買い食い。
 一口食べて、アスモが顔をしかめる。
 まぁ、何を考えているかはわかるけど。
 少し歩いてからアスモが小声で言った。
「ダメだな、澪と雫のメシを知った後だとまずく感じるな……。
 まずくはないはずなんだよな、昔魔都で食ってたメシもこんなんだったしよ。
 やべーな……。
 オレ、あいつらから離れられなくなっちまうんじゃねーか……?」
「いいんじゃない?
 うちにいるみんなもそうだと思うよ?
 パレオとアレッサンドラなんか、仕事をお願いしにいった時に渡したおみやげのプリンを食べて、うちに住むって言って押しかけてきたくらいだよ」
「あー、プリンなー。
 気持ちはわかるわー」
「うちのご飯は使ってる食材もかなりの高級品らしいからね。
 まぁ、おかげでみんな澪と雫に逆らえないっていうか、怒らせないようにって思ってるね。
 やっぱり胃袋を掴まれると人は弱いね」
「なるほどな。
 ドラゴンやら天使やら、オレでもどうしようもないようなヤツらもあの二人には頭が上がらない感じだもんな。
 最初は不思議だったけど、今は納得だわ」
 その後も適当な店を見たりしながら歩き回った。
 昔なかったような物を見つけては珍しそうに見たり、なんか普通の観光だ。
 なんだかんだでアスモはケモッセオ観光をガッツリ楽しんで、俺たちは家路についた。
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