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第三章 黒猫杯

今も昔も人間の王族は最悪です

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「あいつの名前はアヴリル、普通の人間だ」
「ええっ!
 そうなの!?
 当然のように転移とか使ってたよ?」
「オレの力を使ってるだけだ。
 あいつ自身の能力じゃねーわ」
「あ、でもあーちゃんは自分のことを魔神アスモデウスって言ってたよ?」
「マジか!?
 もうごちゃまぜになってんだろうな……」
「えーっと、キミがアスモデウスってことは、キミもあーちゃんって呼べばいいの?
 あーちゃんが二人になっちゃうけどどうしよう!」
「んな呼び方すんじゃねーよ!
 普通にアスモデウスでいい」
「ちょっと長いな。
 アスモって呼んでもいい?」
「馴れ馴れしいなおい!
 まぁ、別にいいけどよ」
「それで、あーちゃんは今どうなってるの?
 どこにいるの?」
 ぶっちゃけ俺の気になってることはこれだけなんだよな。
「あいつはここだ」
 そう言ってアスモは自分の胸を指差す。
「ん?どういうこと?」
「そのまんまの意味だ。
 オレの中にいる。
 まぁ、正確に言えば、オレはあいつの体に封印されていて、あいつの意識がない時なんかにオレが表に出たりするってこった」
「じゃあ今あーちゃんは寝てるってこと?
 で、あーちゃんは無事だってことだよね?」
「ああ。
 あいつが死ぬと、封印されてるオレもどうなるかわかんねーからな。
 むしろオレはあいつを守ってきたんだっつーの」
「なるほど、そうなんだ!
 なら安心だ!
 じゃあアスモもこれからよろしく!」
「ちょっと待て。
 これからよろしくってなんだ?」
「え、あーちゃんに聞いてない?
 あーちゃんは昨日から俺たちの家で暮らすことになったんだよ。
 ってことは、アスモもそうなるってことだよね?」
「はあ!?
 聞いてねーぞそんなこと!
 そんなのオレは絶対許さねー!」
 強い拒否反応に俺は驚いた。
「えっと、何かダメな理由があるの?」
「あるに決まってんだろ!
 人間となんか一緒にいられるか!」
 えぇー……、ここにきて人間嫌いとか……。
「なんで人間がダメなの?」
「逆にテメーはなんで人間のようなゲスい種族とつるんでんだよ。
 人間なんて世界の嫌われ者じゃねーか」
「ええっ!そうなの!?」
「そこのドラゴンと天使ならわかんだろ?
 テメーらは人間の監視か?」
「まぁ、確かに一般的に人間族は評判は悪いっすね」
「人間が嫌いだなんて、わりと普通のことっすね」
 さらっとすっげーこと言ってるんだけどこの二人!
 え、この二人澪と雫が人間だってこと知ってるよね!?
「もしかしてアンタ、結構長生きしてるし?」
「長生きなんじゃねーか?
 たぶん生まれて千年くらいは経ってると思うぞ」
「千年!?」
「だと思ったし。
 長命種で昔のことを知ってるやつになればなるほど人間が嫌いだし、人間に対するイメージは悪いし。
 あっしは最近生まれた天使だからそのへんの偏見はないけど、人間は昔から相当やらかしてるらしいかんね。
 人間も大勢の一般人は普通にまともだってのはわかってるけど、人間の王族が昔からゲスすぎるせいで人間全体が嫌われてるらしいし」
「「「「あー……」」」」
 俺と薫子さんと澪と雫、四人はなるほどと思うしかなかった。
 俺たちも人間の王族の被害者みたいなもんだしなぁ。
 こんなに強い拒否反応を示すんだから、アスモも何か人間にされたのかもしれない。
「人間に対するイメージが悪いのも、嫌いなのも、すっごく理解できたよ。
 俺たちも人間の王族はちょっと思うところもあるしね。
 でも、澪と雫を王族の連中と同じに考えるのはやめてくれないかな」
「なんでだよ。
 そりゃただの人間の一般人に対してこんな事は言わねーけど、そいつらは違うだろ?
 そいつら、魔女と聖女だろ。
 思いっきり王族の関係者じゃねーか」
 そう言って、心底蔑んだような目を澪と雫に向ける。
 よっぽど人間の王族が嫌いなんだな。
「たしかに魔女と聖女だけど、この二人はちょっと事情があるんだよ」
 アスモの誤解を解くために、澪と雫が召喚されたこととかを話した。
「というわけで、澪と雫は関係者どころか、ただの被害者なんだよ」
「そ、そうだったのか……!
 テメーらもひどい目にあわされたんだな……。
 それなのに……、すまねえ!」
「いいよいいよ、気にしないで」
「そうだよ~。
 悪いのは王族だからね~」
 殺意のこもった目で睨んでたアスモだったが、話を聞くとガバッと頭を下げて謝ってきた。
 なんだ、やっぱりアスモも悪い人じゃなさそうだ。
 誤解とはいえ、自分に非があると思ったらちゃんと謝る。
 あたり前のことだけど、できない人も多い世の中。
 それがちゃんとできる人は人として信用できる。
「でも、それだけ毛嫌いしてるってことは、アスモも人間に何かされたの?」
 そう聞くと、アスモにまた不機嫌になる。
「されたに決まってんだろ。
 今の状況がまさにそうだ」
 そして、アスモは人間が嫌いな理由を話し始めた。

 数百年前、ニーゲン王国で大飢饉と疫病が発生した。
 王族と貴族は民に支援をすることなく、食糧不足と生産力低下に対する策を講じることもなかった。
 自分たちの生活に変わりがなければ問題がないといった感じで、これまでと変わらない量の税を民に課した。
 当然そのようなことは無理に決まっていて、ただ死者が増えていく一方だった。
 民の国に対する不満と怒りが爆発寸前にまで高まると、それを察知した王と側近は、今回の大飢饉と疫病は魔族が仕組んだ事だということにして民の怒りを魔族へとそらした。
 思惑通り民の怒りは魔族へと向いたが、そうした以上魔族に対して何もしないわけにはいかなかった。
 そこでニーゲン王国は魔国マゾックに戦争を仕掛けた。
「同じような話を聞いたことあるね……」
「はぁ……、何百年も前から一ミリも進歩してないんだねあの王族……」
「体中の力が抜けるね~……」
 戦争を仕掛けたところで、疫病で兵力は低下してる上に大飢饉で兵糧もかなり不足しているので士気も低いので勝てるわけがない。
 しかし後には引けないニーゲン王国の王は、どんなに戦局が悪くなってもひたすら派兵を続けた。
 負け続けるのに侵攻はやめないので、当然兵力差は開く一方で戦況は悪化していく。
 国王は当たり前のように民から徴兵した。
 普通はそれで戦況が変わるわけはないが、徴兵された民の中に強力な力を持った者が六人いた。
 後に英雄と讃えられるようになる者たちだ。
 王国軍は英雄の六人を最前線に出すことで戦況をひっくり返し、魔族の国へ徐々に侵攻していった。
 戦場が自国となったことで、魔族側も魔神と呼ばれる強力な力を持った魔族を投入して対抗した。
 魔神の活躍により、魔族軍は王国軍を押し返し、そのまま王国へと侵攻した。
 だがこれは、王国軍の士気が低下したことも原因の一つだった。
 戦争の中で、英雄たちは魔族は大飢饉と疫病に関して何もしていないと知ったのだ。
 魔族が何もしていないのなら、今回の戦争には大義名分がないことになる。
 むしろ、失態を誤魔化すための愚かな戦争だ。
 だからといって、家族や友人、大事な人を守るために負けるわけにもいかない。
 そこで英雄たちは、魔族に謝罪した上で和平交渉をもちかけた。
 人間側の事情を知った魔神は和平に応じる構えを見せ、条件面の交渉が何度か行われた。
 しかし、王の監視の者により、王にこの動きを察知されてしまう。
 事実を公表されることを恐れた王は、英雄たちの故郷の人々を人質にとり、和平交渉で魔神を騙し討ちにするように英雄たちに命じた。
 たとえ故郷が滅ぶことになっても、そのようなことをしてはいけないと理屈ではわかっているが、故郷の人々を見捨てることができなかった英雄たちは王の命令通りに動いてしまった。
 騙し討ちを受けた魔神だったが、深手を負いながらもたんとかその場から離脱した。
 しかし逃げ切れず、森の中で英雄たちに囲まれた。
 英雄たちは魔神を拘束しようとしたが、同行していた王の監視の者たちの一人が魔神を殺すように命令した。
 罪悪感でいっぱいだった英雄たちはそれを拒否したが、監視の者が偶然近くで果物を採っていた人間の娘を見つけると、その娘を人質にとり英雄たちを拘束し、別の場所に連行した。
 邪魔者もいなくなったので監視の者たちは魔神を殺そうとしたが、監視の者たちでは魔神の魔力の結界を破れなかった。
 しかし魔神も深手を負い、転移をする魔力もなく動くことはできなかった。
 そこで監視の者たちは魔神を封印することにしたが、この場には依代となるものがなかった。
 依代には魔力や生命力の宿った物などが使われる。
 この場には魔力や生命力の宿った物はなかったが、魔力や生命力の宿った「者」ならばいる。
 英雄たちは王にとってまだ利用価値があるので依代には使えないが、ただの人間の娘は王にとってなんの価値もない。
 監視の者たちは娘を依代にして魔神を娘の中に封印した。
 娘は意識を失い、魔神は娘に吸い込まれるように消えた。
 依代である娘が死ねば魔神は復活してしまう恐れがあるので、監視の者たちは娘を地中深くに埋めようとした。
 しかし、娘の中の魔神が娘の魔力を使って転移し、その場から逃げることに成功した。
 その後しばらくして人間と魔族は停戦した。
 魔族側は魔神を失い、人間側も兵糧が尽きたからだ。
 そして王は英雄たちを表向きは王国の救世主として扱ったが、程なくして口封じとして秘密裏に六人全員を処刑した。

「そういうわけだ。
 言うまでもねえが、話に出た魔神ってのがオレだ。
 そして……」
「依代にされた人間の娘というのがあーちゃんってことか……」
「なるほどね~。
 そりゃ人間なんて嫌いになっちゃうのもわかるよ~」
「あれ、でもあーちゃんって人間なんだよね?
 なんで千年も生きてるの?
 しかも見た目とか普通に若いし」
「オレの魔力が馴染んじまったせいだろうな。
 体の成長は当時のまま止まっちまってる。
 寿命もオレと同じくらいになってんじゃねーかな」
「てことは、アスモの封印を解いたらあーちゃんは一気に老いて死んじゃうとか?」
「いや、あいつ自体すでに普通の人間とは言えないような存在になっちまってるから大丈夫だ。
 だが、封印を解く方法がわからねーんだ」
「魔神でもできないことなんて私じゃお手上げだけど、こういうのは薫子とかジズーでなんとかできたりするんじゃないの?」
 澪が無茶振りしてくる。
「いや、薫子さんならまだしも俺は無理でしょ」
「長い間、一つの体に二つの魂が混在していたせいでかなり混ざり合ってるから、今の私の神気じゃ足りなくて私も無理だよ……。
 あーちゃんが自分のことをアスモデウスって言ってたのは、相当混ざり合ってるせいだね。
 そんな状態から無理なく二つに分けるにはかなりの神気が必要になるの……」
「そ、そっか……」
「でも、ジズーならなんとかできるかもしれない」
「え、まじで?
 どうすればいいの?薫子さん!」
「ジズーってイメージした通りに魔法が使えるでしょ?
 あそこまでイメージ通りの魔法が使えるのはジズーだけなんだよ。
 竜族でもあそこまでは無理。
 ジズーの魔法は特殊で、魔力と神気で発動しているの。
 心も体も何の問題もなく封印が解けるイメージをしっかり持てば、ジズーの魔法でいけるんじゃないかな」
「……本当に封印が解けるのか……?
 てか、お前らは一体なんなんだ!?」
 アスモが俺と薫子さんに向かって言う。
「薫子はこのガイアの管理者の女神様で、こっちの小さな黒いのはその眷属なんだよ」
「小さな黒いのって……」
 澪が雑に説明する。
「はああああああああ!?
 女神様と眷属ううううう!?」
 アスモはズコーッ!っといった感じで、ひっくり返ったカエルのようにひっくり返って驚いた。
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