34 / 46
5度目の転生(3)
しおりを挟む
「こちらブリーフボーック! この世の地獄、山林地帯の中心にある要塞化して欲しいくらい危険な駐屯地から独言でお送りするよ。さぁこの重要な公共広報をよーく聞くんだ。野生動物に餌をやるな、それだけだ」
うん?
いきなり1人で何おかしな事やってるんだってか?
山林警備隊に所属して2年が過ぎたわけだけど、一番手間がかかって金にもならないどころか経費が無駄遣いされて、助けたり処理しても感謝どころか批判される面倒な仕事に対する愚痴をゲーム『荒廃世界3』のDJ風に表現しただけだ。
あっちは餌になるなという警告だけど、こっちは本当に餌をやってるんだよ。
日本でも熊や猪や猿に餌をやってて問題になる事もあったわけだけどさ、平和ボケしている時代でも非難されてた行為なのに、安全なところで守られている貴族や富裕層の子女の間で野生動物と触れ合うのが流行ってるみたいなんだよ……。
何かあっても言い出した本人や護衛に責任が発生するのは当然だけどね、強制的に駆り出されて、時には命がけで探索したり戦って、それなのに関係の無いこっちにまで責任が波及したり恨まれたりするのは納得がいかないよ……。
あ、ちなみにDJの名前だけど、今の俺は体を動かす時は納まりがいいからブリーフタイプの下着を……。
「先輩、独特なストレス解消をしてるところ申し訳ないんですがね、隊長と商人さんが先輩の事で頭抱えてましたよ」
「お、おう。で、内容は?」
「……次からは学校を出てない平民の官吏試験は生涯に3度までしか受けられない事に変更するって通達が来てるぜ。まったく、これだからお貴族さまは嫌いなんだよ!」
「こいつはあからさまな坊主対策だな。いや、他にも坊主みたいなのがいるのかもしれないが、貴族や金持ちってだけで無能が優遇されるような制度に何の意味があるんだろうな? 自殺願望でもあるんだろうか?」
「目先の欲望さえ満たされれば良くて、あとは自分たちの言い分だけを聞く都合のいい連中だけを集めたいんだろう。ま、次も受からなくてもうちでこのまま面倒を見てやるさ。あいつが居なくなるとみんな困るんだわ」
「あいつを紹介したこちらとしても有難い申し出なんだが、あいつは普段は冷静で聞き分けもいいんだが、実は熱くて直情的な奴でね……。こういう事態を避けるためにここを紹介したのが裏目に出ちまったようだ。どんな顔して会えばいいのかわかんねぇよ」
「あんたはあいつの兄貴分なんだから弟分に伝えてやってくれよ。じゃあ俺は仕事に戻るぜ」
「あ、汚ねーぞ! さっきまで暇そうにしてただろうが! おいっ! 嘘だろ、勘弁してくれよ……」
なんて会話が先ほどまで警備隊長と商人の間で交わされていたらしい。
俺よりも後から入隊した彼は俺の補佐、というか俺自身が見習い身分だから部下とはいえない微妙な立場に置かれた人だ。
15歳とまだ若くて常識人なんだけど、チンピラや輩みたいな隊長や先輩たちに凄まれて無理矢理事務方に回されて、回された先にはまだ成人もしてない見習いが一番でかい顔をしているんだから心中はどんなものだろうか。
そんなわけで彼はちょっと、いや、かなりかわいそうな人なのだ。
もし俺が抜ける事になると彼には更なる悲劇が降り注ぐ事になるんだけど、その時は何とか頑張って欲しい。
さて、簡単に俺を取り巻く状況をを説明すると、俺が年1回の下級官吏試験に2年連続で落ちて、制度まで変更になって追い詰められてるのでどうやって慰めればいいのか頭を悩ませていたらしい。
2回とも自己採点してほぼ満点だったからね、考えられるのは採点での不正か試験自体がフェイクで最初から合格者が決まっているかのどちらかなんだろう。
しかし中級官吏試験や上級官吏試験ならまだしも、ある程度の人数の必要な下級官吏試験でこんな不正しなければいけないのかね。
ある程度覚悟はしてたけど、こうもあからさまな手を使われると流石に腹は立つね。
どうしてくれようかと対策を練りだしていた時、商人のあんちゃんが深刻そうな顔をして重い足を引き摺るようにして近づいてきていた。
ここは悟らせないように耐えねばならないと頑張れば頑張るほどに込み上げてくる。
「……プーックスクスクス」
「オイコラ! 何でお前が笑ってんだよ!」
「いやだってさ、他人の俺の事で死刑宣告されたみたいな顔してるからさ、我慢出来なかった」
「そこは我慢しろよ! ……って知ってたのか!?」
「うん、その場に居た彼から報告が来てたからね。やられた事は腹が立つけれど方法が無いわけではないよ」
「追い込まれてるってのにずいぶん冷静だな」
「まさか。腸が煮えくり返りそうなくらい腹が立ってるさ。ただね、やられたら倍にして返すか別の方法を考える、もしくは抜け道を探せばいいしどうしようもないなら他の国にでも行くよ」
「ふぅ……。心配してた俺が馬鹿みたいだな」
「あのさ、ちょっと依頼したい事があるんだけど」
「依頼? 依頼だと料金取るぞ?」
「うん、今まで助けてもらってきたから今回はちゃんと払うよ。依頼料とは別に成功報酬もきちんと出すよ」
「はあ? お前の村での金策と薄給じゃ無理だろ……」
「持ってるよ。気になるなら今から応接室にでも行くかい?」
「わかった。しかしよお、隊長さんに許可も取らずに応接室使ってもいいのか?」
「いいんだよ、ほぼ俺しか使わない俺の仕事場なんだから」
「お前さんってまだ見習いだったよな? 何か副長みたいな仕事してないか?」
「頭の痛い事に実質副長扱いされてるね。隊長から面倒な仕事を全部押し付けられて、それをこなしていくうちにいつの間にか隊長の代理扱いになっててさ、補助としてついてた彼も実質俺の部下だよ」
「うわぁ……」
「この状況から抜け出すためにも話し合いが必要なんだ」
「こんな辺境なのに意外としっかりした部屋だな」
「殆どが近隣の領主たちの文官や役所の担当者との情報交換くらいだけど、中央から下級貴族や中級官吏が来る事もあるんでね、豪華さは無理でも馬鹿にされない程度にはしておかないといけないんだよ」
「それでこの前に職人まで連れてきてこの動物の皮や剥製を用意したのか」
「その鹿は見事でしょ? 上手く傷が目立たないように仕留める事が出来たんだよね」
「マジか! これお前さんが仕留めたのかよ?」
「その鹿だけはね。じゃあ依頼内容について話し合おうか」
「さっきも聞いたけどよ、報酬はちゃんと払えるのかよ?」
「依頼内容は鉱山利権を持ってて中堅以上、出来るだけ高位の貴族への直接面会が1つ目。鉱山関係の官吏で跡継ぎが居ない、あるいは婿を探している家を見つけて欲しいのが2つ目」
「おい、聞いてるか? 2つ目はともかく、1つ目のは報酬は薄給のお前さんじゃ一生分かき集めても足りねーぞ?」
「3つ目は1つ目の貴族の庶子を、認知されていなくて平民あるいは奴隷の身分になっている娘を見つけて欲しい。費用はこっちで用意するから」
「……お前さ、そんなに簡単に乗っ取りが上手くいくと思ってんの? その程度の浅知恵で上手くいくなら誰も苦労はしないぜ……」
「大丈夫だって、失敗したら俺の命がなくなるだけだよ。俺は全財産つぎ込んでの一世一代の大勝負に出る。悪いんだけど大旦那さんにも協力してもらうよ。これがあんちゃんへの依頼料、使いやすくて換金しやすいように砂金50個ね」
「50個!?」
「こっちは大旦那さん宛ての手紙と依頼料。大旦那さんには協力出来なかったとしても返してくれなくてもいいって伝えて欲しい。だから確実に届けてね。大旦那さんへの成功報酬は手紙に書いてあるからたぶん協力してくれると思う」
「ぜ、全部本物じゃねーか……。村で見たのよりも質も大きさもいいな……。これだけあれば……フヒヒ」
「……しょうもない使い方して散財しないでよ?」
「……文字通り金で女を買う奴の言う事か?」
「……恨まれたとしても、やらなきゃいけない事だと思ってるからね。もちろん説明はするし、理解してもらえて協力してもらえれば一番良いんだけどね」
「お前さんは相変わらず頑固だねぇ……」
「あははは。じゃあ頼んだよ」
◇
大旦那さんへ無茶な依頼をしてから3ヶ月が過ぎた。
商人はそれまでは用がある時くらいしか駐屯地に顔を見せなかったのに、あれ以来毎月確実に来るようになった。
酒なんかの嗜好品を持ち込んで、俺たち警備隊がここで仕留めた動物の皮や角なんかをちゃっかり仕入れるようになっていたのだ。
おまけに行商のついでに各農村からの手紙も格安で運ぶようになっていて、近隣の農村出身者の多い警備隊にとっていつの間にか無くてはならない存在になっていた。
依頼料として渡した砂金は、しょうもない使い方されたわけではなく有意義な使い方がされているようだった。
そしてついに待ちに待った依頼の結果が商人の手によって持ち込まれた。
「よう、大旦那からの手紙を持ってきたぜ」
「ありがとう、待ってたんだよ」
「2つ目はいいところが見つかったみたいだぞ。貴族とまではいえないが、前の当主が中級官吏に受かってて貴族に準じる扱いの家があるらしいんだが、今の当主がヘマをしたのか責任を擦り付けられたのかはわからんが当主以外の血縁者は居ないらしい」
「こわっ! ねえ、それって本当にいいところなの!? どう考えても違うでしょ!?」
「問題は3つ目なんだが……」
「ねえ、ヤバイ物件は不味いんだけど聞いてる? って3つ目に何か問題でもあるの?」
「ん~……」
「何なんだよもう……」
「お前さあ、奴隷でもいいんだよな?」
「うん、いいって言ったはずだけど?」
「年上でもいいか?」
「え、そんなに離れてたりするのかい?」
「あー、確か10歳ほど違うって聞いたな」
「じゃあ20~23歳くらいか、俺は構わないけど……。あ、それって向こうが難色示してるって事?」
「……」
「何黙ってんのさ?」
「いやね、俺としてもお前さんの要求通りの人物だと思うんだけどさ、出来れば紹介したくないというか、面会させるのも躊躇われるというか……」
「えっと、ちゃんと人間を紹介してくれるんだよね?」
「……もちろんだ。特別に美人ってわけじゃないけど普通よりは上だよ」
「いい加減はっきり答えて欲しいんだけど、それのどこに問題があるんだよ? あ、もしかして子どもがいるのか?」
「いや、たぶん経験もないんじゃないのかな」
「はぁ……。殴って欲しいの?」
「わかったわかった、話すから。ただその前に彼女の複雑な経歴からな」
商人のあんちゃんは躊躇いがちに彼女の事を話し始めたが、確かに話し辛い内容だった。
彼女の名前はミルシェ。
母親が貴族に乱暴されて生まれた娘で、生まれてすぐに孤児院に捨てられて名前もそこで付けられたらしい。
子どものない夫婦に引き取られたが、しばらくすると夫婦に子どもが出来た事で再び孤児院に捨てられたのだ。
容姿が整っていた事もあり再び引き取られたのだが、そこは山奥の小さな集落で、血が濃くなり過ぎるのを防ぐためだったというわけだ。
我が子と分け隔てなく育ててくれた養父母には感謝していたそうだが、自分の力で生きていくために狩人になり、集落の中でもかなりの実力になっていたそうだ。
そうなると実力に加え優れた容姿で選ばれる側から選ぶ側になり、集落での生活も悪くないと思い始めた時に悲劇が起きた。
彼女が早朝からの狩猟で留守にしている間に集落が襲撃されたのだ。
この地で密かに鉱山開発をして利益を得ようと企んだ貴族が、情報漏えいを防ぐ目的で派遣した私兵たちによる虐殺だった。
狩猟で留守にしていたために偶然生き延びた彼女だったが、容姿の優れた彼女もまた貴族の目的の1つであったために大規模な捜索の末、数日後に発見されたのだそうだ。
「なるほどね。悲劇的な人生だったのはわかったけど、奴隷になった事と未経験と思われる理由がわかんないんだけど?」
「兵士たちが傷つけないように取り押さえようとした時に派手に暴れてな、兵士2人が死んだ。それを見た他の兵士たちが逆上して命令無視して殺そうとしたり、まあなんだ、ヤろうとして襲い掛かったところがもう3人殺られれた」
「うわぁ……」
「それでその貴族の前に出すのは無理だと判断されて奴隷として売られたんだが、売られた先でも、な」
「無理無理無理っ! 死んじゃうっ! 殺されちゃうって! それ俺の息子、切り取られちゃうでしょ!? サダられちゃうよ!」
「落ち着けって。っていうかわけのわからん事言うな」
「うるさい! お前冗談顔だけにしろよ!? こっちは必死に貯めた全財産を突っ込んで、結婚も視野に入れて計画してるのに、これじゃ全部ダメじゃないか!」
「ははっ、オモシロ顔のお前さんよりは顔には自信あるからな。いや、冗談抜きで落ち着いてくれって」
「……」
「実はな、俺が紹介するのを躊躇ってる理由ってのがだな……」
「……」
「その貴族への確実な復讐を求めてるんだよ」
「……気持ちはわからないでもないけど、確実にとまで言われると厳しいな」
「だろ?」
「期限はあるのかい? なければ俺のほうの目処が立てば可能かもしれないけど……」
「復讐が果たされないと協力しないだとよ」
「それじゃ結局ダメじゃないか……」
「……実はもう1つ条件があってだな、こっちが本命らしい」
「ん?」
「俺にはどうしても理解出来ないし、交渉に当たってくれた若旦那も首を傾げてたんだけどよ……」
「復讐よりも優先されて、首を傾げるほど理解しがたい条件って何よ?」
「男を用意しろって言うんだよ。若ければ若いほど良くて、成人前なら一番いいんだとさ」
「……は?」
「よかったな、相思相愛みたいだぞ」
「はぁ!? ショタ好きかよ!」
うん?
いきなり1人で何おかしな事やってるんだってか?
山林警備隊に所属して2年が過ぎたわけだけど、一番手間がかかって金にもならないどころか経費が無駄遣いされて、助けたり処理しても感謝どころか批判される面倒な仕事に対する愚痴をゲーム『荒廃世界3』のDJ風に表現しただけだ。
あっちは餌になるなという警告だけど、こっちは本当に餌をやってるんだよ。
日本でも熊や猪や猿に餌をやってて問題になる事もあったわけだけどさ、平和ボケしている時代でも非難されてた行為なのに、安全なところで守られている貴族や富裕層の子女の間で野生動物と触れ合うのが流行ってるみたいなんだよ……。
何かあっても言い出した本人や護衛に責任が発生するのは当然だけどね、強制的に駆り出されて、時には命がけで探索したり戦って、それなのに関係の無いこっちにまで責任が波及したり恨まれたりするのは納得がいかないよ……。
あ、ちなみにDJの名前だけど、今の俺は体を動かす時は納まりがいいからブリーフタイプの下着を……。
「先輩、独特なストレス解消をしてるところ申し訳ないんですがね、隊長と商人さんが先輩の事で頭抱えてましたよ」
「お、おう。で、内容は?」
「……次からは学校を出てない平民の官吏試験は生涯に3度までしか受けられない事に変更するって通達が来てるぜ。まったく、これだからお貴族さまは嫌いなんだよ!」
「こいつはあからさまな坊主対策だな。いや、他にも坊主みたいなのがいるのかもしれないが、貴族や金持ちってだけで無能が優遇されるような制度に何の意味があるんだろうな? 自殺願望でもあるんだろうか?」
「目先の欲望さえ満たされれば良くて、あとは自分たちの言い分だけを聞く都合のいい連中だけを集めたいんだろう。ま、次も受からなくてもうちでこのまま面倒を見てやるさ。あいつが居なくなるとみんな困るんだわ」
「あいつを紹介したこちらとしても有難い申し出なんだが、あいつは普段は冷静で聞き分けもいいんだが、実は熱くて直情的な奴でね……。こういう事態を避けるためにここを紹介したのが裏目に出ちまったようだ。どんな顔して会えばいいのかわかんねぇよ」
「あんたはあいつの兄貴分なんだから弟分に伝えてやってくれよ。じゃあ俺は仕事に戻るぜ」
「あ、汚ねーぞ! さっきまで暇そうにしてただろうが! おいっ! 嘘だろ、勘弁してくれよ……」
なんて会話が先ほどまで警備隊長と商人の間で交わされていたらしい。
俺よりも後から入隊した彼は俺の補佐、というか俺自身が見習い身分だから部下とはいえない微妙な立場に置かれた人だ。
15歳とまだ若くて常識人なんだけど、チンピラや輩みたいな隊長や先輩たちに凄まれて無理矢理事務方に回されて、回された先にはまだ成人もしてない見習いが一番でかい顔をしているんだから心中はどんなものだろうか。
そんなわけで彼はちょっと、いや、かなりかわいそうな人なのだ。
もし俺が抜ける事になると彼には更なる悲劇が降り注ぐ事になるんだけど、その時は何とか頑張って欲しい。
さて、簡単に俺を取り巻く状況をを説明すると、俺が年1回の下級官吏試験に2年連続で落ちて、制度まで変更になって追い詰められてるのでどうやって慰めればいいのか頭を悩ませていたらしい。
2回とも自己採点してほぼ満点だったからね、考えられるのは採点での不正か試験自体がフェイクで最初から合格者が決まっているかのどちらかなんだろう。
しかし中級官吏試験や上級官吏試験ならまだしも、ある程度の人数の必要な下級官吏試験でこんな不正しなければいけないのかね。
ある程度覚悟はしてたけど、こうもあからさまな手を使われると流石に腹は立つね。
どうしてくれようかと対策を練りだしていた時、商人のあんちゃんが深刻そうな顔をして重い足を引き摺るようにして近づいてきていた。
ここは悟らせないように耐えねばならないと頑張れば頑張るほどに込み上げてくる。
「……プーックスクスクス」
「オイコラ! 何でお前が笑ってんだよ!」
「いやだってさ、他人の俺の事で死刑宣告されたみたいな顔してるからさ、我慢出来なかった」
「そこは我慢しろよ! ……って知ってたのか!?」
「うん、その場に居た彼から報告が来てたからね。やられた事は腹が立つけれど方法が無いわけではないよ」
「追い込まれてるってのにずいぶん冷静だな」
「まさか。腸が煮えくり返りそうなくらい腹が立ってるさ。ただね、やられたら倍にして返すか別の方法を考える、もしくは抜け道を探せばいいしどうしようもないなら他の国にでも行くよ」
「ふぅ……。心配してた俺が馬鹿みたいだな」
「あのさ、ちょっと依頼したい事があるんだけど」
「依頼? 依頼だと料金取るぞ?」
「うん、今まで助けてもらってきたから今回はちゃんと払うよ。依頼料とは別に成功報酬もきちんと出すよ」
「はあ? お前の村での金策と薄給じゃ無理だろ……」
「持ってるよ。気になるなら今から応接室にでも行くかい?」
「わかった。しかしよお、隊長さんに許可も取らずに応接室使ってもいいのか?」
「いいんだよ、ほぼ俺しか使わない俺の仕事場なんだから」
「お前さんってまだ見習いだったよな? 何か副長みたいな仕事してないか?」
「頭の痛い事に実質副長扱いされてるね。隊長から面倒な仕事を全部押し付けられて、それをこなしていくうちにいつの間にか隊長の代理扱いになっててさ、補助としてついてた彼も実質俺の部下だよ」
「うわぁ……」
「この状況から抜け出すためにも話し合いが必要なんだ」
「こんな辺境なのに意外としっかりした部屋だな」
「殆どが近隣の領主たちの文官や役所の担当者との情報交換くらいだけど、中央から下級貴族や中級官吏が来る事もあるんでね、豪華さは無理でも馬鹿にされない程度にはしておかないといけないんだよ」
「それでこの前に職人まで連れてきてこの動物の皮や剥製を用意したのか」
「その鹿は見事でしょ? 上手く傷が目立たないように仕留める事が出来たんだよね」
「マジか! これお前さんが仕留めたのかよ?」
「その鹿だけはね。じゃあ依頼内容について話し合おうか」
「さっきも聞いたけどよ、報酬はちゃんと払えるのかよ?」
「依頼内容は鉱山利権を持ってて中堅以上、出来るだけ高位の貴族への直接面会が1つ目。鉱山関係の官吏で跡継ぎが居ない、あるいは婿を探している家を見つけて欲しいのが2つ目」
「おい、聞いてるか? 2つ目はともかく、1つ目のは報酬は薄給のお前さんじゃ一生分かき集めても足りねーぞ?」
「3つ目は1つ目の貴族の庶子を、認知されていなくて平民あるいは奴隷の身分になっている娘を見つけて欲しい。費用はこっちで用意するから」
「……お前さ、そんなに簡単に乗っ取りが上手くいくと思ってんの? その程度の浅知恵で上手くいくなら誰も苦労はしないぜ……」
「大丈夫だって、失敗したら俺の命がなくなるだけだよ。俺は全財産つぎ込んでの一世一代の大勝負に出る。悪いんだけど大旦那さんにも協力してもらうよ。これがあんちゃんへの依頼料、使いやすくて換金しやすいように砂金50個ね」
「50個!?」
「こっちは大旦那さん宛ての手紙と依頼料。大旦那さんには協力出来なかったとしても返してくれなくてもいいって伝えて欲しい。だから確実に届けてね。大旦那さんへの成功報酬は手紙に書いてあるからたぶん協力してくれると思う」
「ぜ、全部本物じゃねーか……。村で見たのよりも質も大きさもいいな……。これだけあれば……フヒヒ」
「……しょうもない使い方して散財しないでよ?」
「……文字通り金で女を買う奴の言う事か?」
「……恨まれたとしても、やらなきゃいけない事だと思ってるからね。もちろん説明はするし、理解してもらえて協力してもらえれば一番良いんだけどね」
「お前さんは相変わらず頑固だねぇ……」
「あははは。じゃあ頼んだよ」
◇
大旦那さんへ無茶な依頼をしてから3ヶ月が過ぎた。
商人はそれまでは用がある時くらいしか駐屯地に顔を見せなかったのに、あれ以来毎月確実に来るようになった。
酒なんかの嗜好品を持ち込んで、俺たち警備隊がここで仕留めた動物の皮や角なんかをちゃっかり仕入れるようになっていたのだ。
おまけに行商のついでに各農村からの手紙も格安で運ぶようになっていて、近隣の農村出身者の多い警備隊にとっていつの間にか無くてはならない存在になっていた。
依頼料として渡した砂金は、しょうもない使い方されたわけではなく有意義な使い方がされているようだった。
そしてついに待ちに待った依頼の結果が商人の手によって持ち込まれた。
「よう、大旦那からの手紙を持ってきたぜ」
「ありがとう、待ってたんだよ」
「2つ目はいいところが見つかったみたいだぞ。貴族とまではいえないが、前の当主が中級官吏に受かってて貴族に準じる扱いの家があるらしいんだが、今の当主がヘマをしたのか責任を擦り付けられたのかはわからんが当主以外の血縁者は居ないらしい」
「こわっ! ねえ、それって本当にいいところなの!? どう考えても違うでしょ!?」
「問題は3つ目なんだが……」
「ねえ、ヤバイ物件は不味いんだけど聞いてる? って3つ目に何か問題でもあるの?」
「ん~……」
「何なんだよもう……」
「お前さあ、奴隷でもいいんだよな?」
「うん、いいって言ったはずだけど?」
「年上でもいいか?」
「え、そんなに離れてたりするのかい?」
「あー、確か10歳ほど違うって聞いたな」
「じゃあ20~23歳くらいか、俺は構わないけど……。あ、それって向こうが難色示してるって事?」
「……」
「何黙ってんのさ?」
「いやね、俺としてもお前さんの要求通りの人物だと思うんだけどさ、出来れば紹介したくないというか、面会させるのも躊躇われるというか……」
「えっと、ちゃんと人間を紹介してくれるんだよね?」
「……もちろんだ。特別に美人ってわけじゃないけど普通よりは上だよ」
「いい加減はっきり答えて欲しいんだけど、それのどこに問題があるんだよ? あ、もしかして子どもがいるのか?」
「いや、たぶん経験もないんじゃないのかな」
「はぁ……。殴って欲しいの?」
「わかったわかった、話すから。ただその前に彼女の複雑な経歴からな」
商人のあんちゃんは躊躇いがちに彼女の事を話し始めたが、確かに話し辛い内容だった。
彼女の名前はミルシェ。
母親が貴族に乱暴されて生まれた娘で、生まれてすぐに孤児院に捨てられて名前もそこで付けられたらしい。
子どものない夫婦に引き取られたが、しばらくすると夫婦に子どもが出来た事で再び孤児院に捨てられたのだ。
容姿が整っていた事もあり再び引き取られたのだが、そこは山奥の小さな集落で、血が濃くなり過ぎるのを防ぐためだったというわけだ。
我が子と分け隔てなく育ててくれた養父母には感謝していたそうだが、自分の力で生きていくために狩人になり、集落の中でもかなりの実力になっていたそうだ。
そうなると実力に加え優れた容姿で選ばれる側から選ぶ側になり、集落での生活も悪くないと思い始めた時に悲劇が起きた。
彼女が早朝からの狩猟で留守にしている間に集落が襲撃されたのだ。
この地で密かに鉱山開発をして利益を得ようと企んだ貴族が、情報漏えいを防ぐ目的で派遣した私兵たちによる虐殺だった。
狩猟で留守にしていたために偶然生き延びた彼女だったが、容姿の優れた彼女もまた貴族の目的の1つであったために大規模な捜索の末、数日後に発見されたのだそうだ。
「なるほどね。悲劇的な人生だったのはわかったけど、奴隷になった事と未経験と思われる理由がわかんないんだけど?」
「兵士たちが傷つけないように取り押さえようとした時に派手に暴れてな、兵士2人が死んだ。それを見た他の兵士たちが逆上して命令無視して殺そうとしたり、まあなんだ、ヤろうとして襲い掛かったところがもう3人殺られれた」
「うわぁ……」
「それでその貴族の前に出すのは無理だと判断されて奴隷として売られたんだが、売られた先でも、な」
「無理無理無理っ! 死んじゃうっ! 殺されちゃうって! それ俺の息子、切り取られちゃうでしょ!? サダられちゃうよ!」
「落ち着けって。っていうかわけのわからん事言うな」
「うるさい! お前冗談顔だけにしろよ!? こっちは必死に貯めた全財産を突っ込んで、結婚も視野に入れて計画してるのに、これじゃ全部ダメじゃないか!」
「ははっ、オモシロ顔のお前さんよりは顔には自信あるからな。いや、冗談抜きで落ち着いてくれって」
「……」
「実はな、俺が紹介するのを躊躇ってる理由ってのがだな……」
「……」
「その貴族への確実な復讐を求めてるんだよ」
「……気持ちはわからないでもないけど、確実にとまで言われると厳しいな」
「だろ?」
「期限はあるのかい? なければ俺のほうの目処が立てば可能かもしれないけど……」
「復讐が果たされないと協力しないだとよ」
「それじゃ結局ダメじゃないか……」
「……実はもう1つ条件があってだな、こっちが本命らしい」
「ん?」
「俺にはどうしても理解出来ないし、交渉に当たってくれた若旦那も首を傾げてたんだけどよ……」
「復讐よりも優先されて、首を傾げるほど理解しがたい条件って何よ?」
「男を用意しろって言うんだよ。若ければ若いほど良くて、成人前なら一番いいんだとさ」
「……は?」
「よかったな、相思相愛みたいだぞ」
「はぁ!? ショタ好きかよ!」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる