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第四章-4
パール
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[遡ること、マッシュがオトリとなって町で真珠たちを逃がした頃]
マッシュはいまだ男たちに追われ、町を縦横無尽に逃げ回っていた。
「ああ、本当にしつこいなぁ。さすがの私も少しくたびれてきたよ」
マッシュはとっさに閃き、路地の角を曲がると大きくジャンプし、民家の屋根に身を隠した。
「あの角を曲がったぞ!」
「見失ったぞ! 探せ! 探せ!」
マッシュを見失い、混乱する男たちの声が聞こえてくる。
マッシュはジェリービーンズを一粒食べると、屋根に寝そべり足を組んで喉を大きく膨らました。青空を眺めながら男たちの声が遠くへいくのをのんびり待つ。
「ああ、今日も気持ちの良い青空だ」
男たちの声が聞こえなくなると体を起こし、屋根から顔を出し通路を覗いて、辺りを確認する。
「よし。誰もいないな」
辺りを確認してマッシュは屋根から飛び降り、ステッキをクルクル回しながら口笛を吹いて歩き出した。陽気な足取りで路地の角を曲がる。突如目の前に現れた見慣れた顔に驚いてマッシュは思わず声を上げた。
「真珠!?」
目の前の少女もひどく驚き、目を丸くしてマッシュに指を突きつけた。
「あ! 森で見たカエルの異種族!?」
マッシュはその声を聞き、初めて目の前の少女が真珠ではないことに気がついた。しかし双子のようにそっくりだ。
「これは失礼した。あなたが私の友人にとても良く似ていたので、勘違いを」
少女は警戒し、口をつぐんだ。
「失礼、自己紹介をさせて頂きたい。私は、ルイ・マッシュ・ギャレットⅡ世。旅の途中、わけあってこの町にお邪魔させて頂いている」
マッシュは帽子を少し高く掲げ会釈する。
少女はそんなマッシュを見て、完全には警戒心を解かないものの、マッシュに少し興味が湧いてきていた。
――なんか変なカエル……。
「お名前を頂戴してもよろしいかな?」
マッシュがうやうやしく訊ねると、少女はようやく口を開いた。
「あ、ああ……ごめんなさい。わたしの名前はパール。この町に住んでるわ」
「パール。実に良い名前だ」
「ところでさっきから大人たちが騒いでるのはあなたのせい?それと、わたしを誰かと勘違いしていたみたいだけれど、その人はどんな人なの?それから何しに森に――」
パールと名乗った少女が、まくし立てるようにマッシュに質問を始める。マッシュが答えきれないといった風に、言葉を制す。
「おっとっと、まずは落ち着いてマドモアゼル。まず、さっきから大人たちが騒いでいる理由に関して言えば半分正解だろう。つまり、私は他の仲間とこの町に来たので、彼らが探しているのは私一人じゃないということさ」
続けてマッシュが説明する。
「続いて君に似ている誰かについてだが、彼女は一緒にこの町に来た私の友人でね。名前を真珠というのだが、寸分違わず君に姿がそっくりなのだ。異国から来た少女なのだが、私たちの旅をいつも助けてくれる素晴らしい女性だ」
異国の少女――パールは森で見た後ろ姿を思い出す。
「異国の……そんな人と一緒に旅をして、あなたは怖くないの?」
「なるほど……」
マッシュはそう言うとパールの後ろにあったレンガの花壇の縁に腰かけて、土の上に這っていたムカデを手に乗せパールの目の前に差し出した。
「君はこのムカデが怖いかね。怖いと思うためには、まずその相手とコミュニケーションを取らねばならない。でなければ、その相手が怖いのかどうかもわからないからだ。もし、私が君とコミュニケーションを取る前から君を怖いと感じていたら、今のこの会話は成立しないことになるとは思わないかい?」
マッシュは、凝視するように自分を見つめる少女に向かって、逆に問いかけた。
パールは少し頭を悩ましてからあっさりとまとめた。
「あなたって少し難しい言い方するのね」
それから平気な顔をして、ムカデをひょいと摘まみ上げると花壇に投げ入れた。マッシュは
「ハハ! これは新鮮!」と笑って喉を膨らました。
路地の先の方から声が響く。
「見つけたぞ! あそこだ!」
おっとマズイ! というように帽子を深く被りなおし、マッシュはパールに言った。
「あなたとお話できてとても楽しかったよ。それでは、ご機嫌よう!」
そう言って走りだそうとするマッシュをパールが引き留めた。
「待って! いい場所を知ってる! わたしと来て!」
パールがマッシュの手を取る。その手はぬめっとして湿っていた。
パールは一瞬、彼が異種族だったことを忘れていたことを思い出したが、そのまま路地を走り始めた。
走りながらパールは考えていた。――マッシュのことが気になりつい引き止めて、いい場所があるなんて言ってしまったけれど、大人たちに見つからない都合のいい場所なんて……。
――あった! すごくいい場所が!!
マッシュはいまだ男たちに追われ、町を縦横無尽に逃げ回っていた。
「ああ、本当にしつこいなぁ。さすがの私も少しくたびれてきたよ」
マッシュはとっさに閃き、路地の角を曲がると大きくジャンプし、民家の屋根に身を隠した。
「あの角を曲がったぞ!」
「見失ったぞ! 探せ! 探せ!」
マッシュを見失い、混乱する男たちの声が聞こえてくる。
マッシュはジェリービーンズを一粒食べると、屋根に寝そべり足を組んで喉を大きく膨らました。青空を眺めながら男たちの声が遠くへいくのをのんびり待つ。
「ああ、今日も気持ちの良い青空だ」
男たちの声が聞こえなくなると体を起こし、屋根から顔を出し通路を覗いて、辺りを確認する。
「よし。誰もいないな」
辺りを確認してマッシュは屋根から飛び降り、ステッキをクルクル回しながら口笛を吹いて歩き出した。陽気な足取りで路地の角を曲がる。突如目の前に現れた見慣れた顔に驚いてマッシュは思わず声を上げた。
「真珠!?」
目の前の少女もひどく驚き、目を丸くしてマッシュに指を突きつけた。
「あ! 森で見たカエルの異種族!?」
マッシュはその声を聞き、初めて目の前の少女が真珠ではないことに気がついた。しかし双子のようにそっくりだ。
「これは失礼した。あなたが私の友人にとても良く似ていたので、勘違いを」
少女は警戒し、口をつぐんだ。
「失礼、自己紹介をさせて頂きたい。私は、ルイ・マッシュ・ギャレットⅡ世。旅の途中、わけあってこの町にお邪魔させて頂いている」
マッシュは帽子を少し高く掲げ会釈する。
少女はそんなマッシュを見て、完全には警戒心を解かないものの、マッシュに少し興味が湧いてきていた。
――なんか変なカエル……。
「お名前を頂戴してもよろしいかな?」
マッシュがうやうやしく訊ねると、少女はようやく口を開いた。
「あ、ああ……ごめんなさい。わたしの名前はパール。この町に住んでるわ」
「パール。実に良い名前だ」
「ところでさっきから大人たちが騒いでるのはあなたのせい?それと、わたしを誰かと勘違いしていたみたいだけれど、その人はどんな人なの?それから何しに森に――」
パールと名乗った少女が、まくし立てるようにマッシュに質問を始める。マッシュが答えきれないといった風に、言葉を制す。
「おっとっと、まずは落ち着いてマドモアゼル。まず、さっきから大人たちが騒いでいる理由に関して言えば半分正解だろう。つまり、私は他の仲間とこの町に来たので、彼らが探しているのは私一人じゃないということさ」
続けてマッシュが説明する。
「続いて君に似ている誰かについてだが、彼女は一緒にこの町に来た私の友人でね。名前を真珠というのだが、寸分違わず君に姿がそっくりなのだ。異国から来た少女なのだが、私たちの旅をいつも助けてくれる素晴らしい女性だ」
異国の少女――パールは森で見た後ろ姿を思い出す。
「異国の……そんな人と一緒に旅をして、あなたは怖くないの?」
「なるほど……」
マッシュはそう言うとパールの後ろにあったレンガの花壇の縁に腰かけて、土の上に這っていたムカデを手に乗せパールの目の前に差し出した。
「君はこのムカデが怖いかね。怖いと思うためには、まずその相手とコミュニケーションを取らねばならない。でなければ、その相手が怖いのかどうかもわからないからだ。もし、私が君とコミュニケーションを取る前から君を怖いと感じていたら、今のこの会話は成立しないことになるとは思わないかい?」
マッシュは、凝視するように自分を見つめる少女に向かって、逆に問いかけた。
パールは少し頭を悩ましてからあっさりとまとめた。
「あなたって少し難しい言い方するのね」
それから平気な顔をして、ムカデをひょいと摘まみ上げると花壇に投げ入れた。マッシュは
「ハハ! これは新鮮!」と笑って喉を膨らました。
路地の先の方から声が響く。
「見つけたぞ! あそこだ!」
おっとマズイ! というように帽子を深く被りなおし、マッシュはパールに言った。
「あなたとお話できてとても楽しかったよ。それでは、ご機嫌よう!」
そう言って走りだそうとするマッシュをパールが引き留めた。
「待って! いい場所を知ってる! わたしと来て!」
パールがマッシュの手を取る。その手はぬめっとして湿っていた。
パールは一瞬、彼が異種族だったことを忘れていたことを思い出したが、そのまま路地を走り始めた。
走りながらパールは考えていた。――マッシュのことが気になりつい引き止めて、いい場所があるなんて言ってしまったけれど、大人たちに見つからない都合のいい場所なんて……。
――あった! すごくいい場所が!!
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