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第十章
不法の器の代償(3)
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「スカーフェイスの姿を隠せるような、丈夫な袋はないかな?」
「カラス神社になにかあるかもよ?」
紅葉がそう言って神社に向かって走っていく。僕たちもすぐに後を追ってなにか使えそうな物がないか探し始めた。神社で見つけたのは、中身の入っていない土嚢袋と、ボロボロに劣化したビニールひも。
「もらっても、バチは当たらないかな?」
マルコが心配そうにつぶやいた。
「大丈夫だよマルコ、いいか? 見てろ。おお! 髪よ! このクレイジーな子羊たちに、このスペシャルアイテムをお与えください!」
ジョージが空に両手を広げて叫ぶ。
髪様か神様か知らないけど、もし僕が神様なら君みたいなやつにはなにもあげたくないよ。カラス神社のカラスたちもジョージの雄叫びを聞いて、カーッ! カーッ! と激しく威嚇するように鳴いている。
ジョージといると、もらわなくてもいい罰まで貰ってしまいそうで僕は肝を冷やされっぱなしだ。
僕たちが空の土嚢袋にスカーフェイスを移そうとすると、運悪く彼の意識が戻り始めた。
「みんな! 気をつけて! スカーフェイスの意識が戻ったよ!」
スカーフェイスの様子を、ずっと心配そうに見ていたマシュマロが叫ぶ。僕たちは、とりあえず土嚢袋にスカーフェイスを移すのを諦め、目を見ないように虫網を押さえつけた。
「アァァ! 出せー! ぼくを早くここから出せー!」
ミチルとマルコがスカーフェイスと対峙しているときに、腕時計から聞こえて来た声だ。
「クロ! もうやめようよ! なんで突然こんなことするんだよ!」
網の中でバタバタもがくスカーフェイスに、マシュマロがかけ寄った。
「おまえにも話したろ⁉ ぜんぶ黒野のじいさんが悪いんだ!」
もがいて暴れるスカーフェイスが、牙をむき出すような声でマシュマロに怒鳴りつけている。
「ぼくがブッチにくっついて正確に時間を刻まないものだから、じいさんはブッチをぼくたちから引き離したんだ!」
「でもクロ! それはボクたちが一人前になって、三匹でしっかり時間を刻めるようになるまでって、そうお爺さんが言ってたじゃないか!」
「そんなのデタラメに決まってるよ! だって時計堂の中をいくら探しても、僕がいくら時間を正確に刻まなくても、ブッチは僕をしかりに来てくれないんだ!」
スカーフェイスは、まるで聞き分けのない子供みたいに、体をねじりながらもがいていた。
「だからきっと町にいるんだと思って、町中で悪さしたんだ! でもやっぱりブッチはしかりに来てくれない! きっとじいさんは、ぼくたちの知らない場所までブッチを連れてってしまったんだ! もう会わせないつもりなんだ!」
激しく言い争う二匹の怒鳴り声の中、ジョージが突然スカーフェイスに向かって叫んだ。
「おまえ、そんなクレイジーな理由で町の人たちの時間を盗んでたのか⁉」
そんなジョージのあとに、我慢できなくなった紅葉も叫ぶ。
「ジョージの言うとおりよ! あんたのその子供じみたワガママで、一体どれだけの人たちが迷惑したと思ってるのよ!」
あまりに身勝手な理由に、気持ちを抑えられずに身を乗り出して叫んだ二人に、スカーフェイスが喉元に食らいつくような勢いで振り返った。
「だまれ! ぼくはただブッチに会いたいだけだ! おまえたちにぼくの気持ちがわかるのか⁉」
スカーフェイスが、すごい形相でこちらを見る。
その次の瞬間、マシュマロが叫んだ。
「ダメだ! 目を合わせないで!」
その必死の訴えもむなしく、ジョージと紅葉の体が一瞬ビクッと痙攣したように震えると、二人はそのまま人形のように静かにその場に立ち尽くしていた。
「カラス神社になにかあるかもよ?」
紅葉がそう言って神社に向かって走っていく。僕たちもすぐに後を追ってなにか使えそうな物がないか探し始めた。神社で見つけたのは、中身の入っていない土嚢袋と、ボロボロに劣化したビニールひも。
「もらっても、バチは当たらないかな?」
マルコが心配そうにつぶやいた。
「大丈夫だよマルコ、いいか? 見てろ。おお! 髪よ! このクレイジーな子羊たちに、このスペシャルアイテムをお与えください!」
ジョージが空に両手を広げて叫ぶ。
髪様か神様か知らないけど、もし僕が神様なら君みたいなやつにはなにもあげたくないよ。カラス神社のカラスたちもジョージの雄叫びを聞いて、カーッ! カーッ! と激しく威嚇するように鳴いている。
ジョージといると、もらわなくてもいい罰まで貰ってしまいそうで僕は肝を冷やされっぱなしだ。
僕たちが空の土嚢袋にスカーフェイスを移そうとすると、運悪く彼の意識が戻り始めた。
「みんな! 気をつけて! スカーフェイスの意識が戻ったよ!」
スカーフェイスの様子を、ずっと心配そうに見ていたマシュマロが叫ぶ。僕たちは、とりあえず土嚢袋にスカーフェイスを移すのを諦め、目を見ないように虫網を押さえつけた。
「アァァ! 出せー! ぼくを早くここから出せー!」
ミチルとマルコがスカーフェイスと対峙しているときに、腕時計から聞こえて来た声だ。
「クロ! もうやめようよ! なんで突然こんなことするんだよ!」
網の中でバタバタもがくスカーフェイスに、マシュマロがかけ寄った。
「おまえにも話したろ⁉ ぜんぶ黒野のじいさんが悪いんだ!」
もがいて暴れるスカーフェイスが、牙をむき出すような声でマシュマロに怒鳴りつけている。
「ぼくがブッチにくっついて正確に時間を刻まないものだから、じいさんはブッチをぼくたちから引き離したんだ!」
「でもクロ! それはボクたちが一人前になって、三匹でしっかり時間を刻めるようになるまでって、そうお爺さんが言ってたじゃないか!」
「そんなのデタラメに決まってるよ! だって時計堂の中をいくら探しても、僕がいくら時間を正確に刻まなくても、ブッチは僕をしかりに来てくれないんだ!」
スカーフェイスは、まるで聞き分けのない子供みたいに、体をねじりながらもがいていた。
「だからきっと町にいるんだと思って、町中で悪さしたんだ! でもやっぱりブッチはしかりに来てくれない! きっとじいさんは、ぼくたちの知らない場所までブッチを連れてってしまったんだ! もう会わせないつもりなんだ!」
激しく言い争う二匹の怒鳴り声の中、ジョージが突然スカーフェイスに向かって叫んだ。
「おまえ、そんなクレイジーな理由で町の人たちの時間を盗んでたのか⁉」
そんなジョージのあとに、我慢できなくなった紅葉も叫ぶ。
「ジョージの言うとおりよ! あんたのその子供じみたワガママで、一体どれだけの人たちが迷惑したと思ってるのよ!」
あまりに身勝手な理由に、気持ちを抑えられずに身を乗り出して叫んだ二人に、スカーフェイスが喉元に食らいつくような勢いで振り返った。
「だまれ! ぼくはただブッチに会いたいだけだ! おまえたちにぼくの気持ちがわかるのか⁉」
スカーフェイスが、すごい形相でこちらを見る。
その次の瞬間、マシュマロが叫んだ。
「ダメだ! 目を合わせないで!」
その必死の訴えもむなしく、ジョージと紅葉の体が一瞬ビクッと痙攣したように震えると、二人はそのまま人形のように静かにその場に立ち尽くしていた。
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