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第六章
スカーフェイスを追って(8)
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土曜日の午後、コスモ小のグラウンドでは部活動の生徒たちがグラウンドの整備をし、帰る支度を整えている。
「あたしとミチルは、後輩たちに黒猫を見なかったか聞いてくるわ」
紅葉がそう言って、グラウンドの方へとかけていく。
「じゃあ僕たちは、花園の方を探してくるよ」
紅葉とミチルを見送って、僕はジョージとマルコ、そしてマシュマロを連れ、演芸部が管理する花園の周辺とその中を捜索することにした。
僕とジョージの二人は、花園周辺と花園を見下ろせる小高い丘から注意深く黒猫を探す。花園の中では、演芸部員や一般人に混ざって黒猫を探すマルコとマシュマロの姿が見える。
「こりゃハズレだったか?」
ジョージが残念そうにつぶやくと、どこかで救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
「どこからだ⁉」
ジョージが音のする方向に耳を傾けるけど、ここからでは救急車の姿は見えない。そのとき、腕時計から通信が入った。
「千斗⁉ 救急車のサイレンが聞こえない?」
グラウンドにいる紅葉たちだ。
「うん! でもサイレンは聞こえるけど、救急車は見えないんだ」
僕が紅葉に答えると、ミチルが訊ねる。
「千斗君? そこからサイレンは、どっちの方角から聞こえてくる?」
コスモ小学校のグラウンド側の正門は北にある。だから、校舎の真裏にあるこの花園は南向き。僕たちは、花園を見渡せる西側の小高い丘の上から正面にサイレンの音を聞いていた。
「西側から聞こえるよ! たぶん、天秤池町か蠍通り町だよ」
現場までははっきりと確定できないうちに、救急車は現場に到着したのか、いつしかサイレンは鳴りやんでいた。
やがてマルコとマシュマロ、そして後から紅葉とミチルが丘をかけのぼって来る。その場に立ち尽くしたまま十五分ほど過ぎると、救急車は再びサイレンを響かせながら、病院へ急いでいるようだった。
「やっぱり、あのまま西へ天川の方だったのね」
遠のいていくサイレンに耳をすましながら、ミチルが静かにつぶやく。
「天秤池町の方かな? それとも蠍通り町かな?」
マルコが不安そうに、サイレンの鳴る方角を見つめていた。
「明日は朝から集まって、天秤池町から情報を集めましょ」
紅葉が唇をかみしめて、くやしそうに言った。
僕たち全員が紅葉と同じ気持ちだ。
今は離れていくこのサイレンが、スカーフェイスの仕業によるものだったのかどうか、僕たちにはわからない。でも少なくとも、今日僕たちはスカーフェイスを捕まえることに失敗した。それが今日の結果だ。
僕たちがあいつを捕まえていれば、あのサイレンは鳴らなかったかもしれない……。そう思うと、僕の中にくやしさがわき上がった。
「じゃあ、また明日。十時にライオン公園に集合よ」
そう言って紅葉は丘をおりていく。
その日僕たちは、言葉少なく、自宅へと続く道を静かにたどっていった。
「あたしとミチルは、後輩たちに黒猫を見なかったか聞いてくるわ」
紅葉がそう言って、グラウンドの方へとかけていく。
「じゃあ僕たちは、花園の方を探してくるよ」
紅葉とミチルを見送って、僕はジョージとマルコ、そしてマシュマロを連れ、演芸部が管理する花園の周辺とその中を捜索することにした。
僕とジョージの二人は、花園周辺と花園を見下ろせる小高い丘から注意深く黒猫を探す。花園の中では、演芸部員や一般人に混ざって黒猫を探すマルコとマシュマロの姿が見える。
「こりゃハズレだったか?」
ジョージが残念そうにつぶやくと、どこかで救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
「どこからだ⁉」
ジョージが音のする方向に耳を傾けるけど、ここからでは救急車の姿は見えない。そのとき、腕時計から通信が入った。
「千斗⁉ 救急車のサイレンが聞こえない?」
グラウンドにいる紅葉たちだ。
「うん! でもサイレンは聞こえるけど、救急車は見えないんだ」
僕が紅葉に答えると、ミチルが訊ねる。
「千斗君? そこからサイレンは、どっちの方角から聞こえてくる?」
コスモ小学校のグラウンド側の正門は北にある。だから、校舎の真裏にあるこの花園は南向き。僕たちは、花園を見渡せる西側の小高い丘の上から正面にサイレンの音を聞いていた。
「西側から聞こえるよ! たぶん、天秤池町か蠍通り町だよ」
現場までははっきりと確定できないうちに、救急車は現場に到着したのか、いつしかサイレンは鳴りやんでいた。
やがてマルコとマシュマロ、そして後から紅葉とミチルが丘をかけのぼって来る。その場に立ち尽くしたまま十五分ほど過ぎると、救急車は再びサイレンを響かせながら、病院へ急いでいるようだった。
「やっぱり、あのまま西へ天川の方だったのね」
遠のいていくサイレンに耳をすましながら、ミチルが静かにつぶやく。
「天秤池町の方かな? それとも蠍通り町かな?」
マルコが不安そうに、サイレンの鳴る方角を見つめていた。
「明日は朝から集まって、天秤池町から情報を集めましょ」
紅葉が唇をかみしめて、くやしそうに言った。
僕たち全員が紅葉と同じ気持ちだ。
今は離れていくこのサイレンが、スカーフェイスの仕業によるものだったのかどうか、僕たちにはわからない。でも少なくとも、今日僕たちはスカーフェイスを捕まえることに失敗した。それが今日の結果だ。
僕たちがあいつを捕まえていれば、あのサイレンは鳴らなかったかもしれない……。そう思うと、僕の中にくやしさがわき上がった。
「じゃあ、また明日。十時にライオン公園に集合よ」
そう言って紅葉は丘をおりていく。
その日僕たちは、言葉少なく、自宅へと続く道を静かにたどっていった。
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