時間泥棒【完結】

第六章

スカーフェイスを追って（１）

　ライオン公園はとにかく広い。僕たちは手分けしてスカーフェイスを探すことにした。
「分かれたほうがいいわよね？　通信機もあるし、でも誰がどこに行こうか。あたしが奥まで行く？」
　紅葉が、公園内に建てられた大きな地図の看板の前で僕をふりかえる。
「しかしクレイジーな広さだぜ」
「ボク、心配だなあ」
　みんなが、やる気と不安を半々に見せながらつぶやいた。
　ミチルは黙って地図を、端から端まで見ながら考えている。
「そうだね。紅葉は足が速いし体力もあるから、距離のあるハイキングコースを探してもらいたいんだ。池の辺りは複雑だからミチルに、マルコは遊具広場、ジョージはグラウンド方面でどうかな？　僕は芝生広場へ行くよ」
「そうね、わたしはそれでいいと思う」
　ミチルが肯くと、ジョージが「よし決まった！」とやる気を見せた。
「じゃあ、途中、スカーフェイスを見つけたり、被害にあった人を見かけたら、すぐに通信機で必ず連絡を取り合うこと！」
「了解！」

　　　《芝生広場》

　みんなと別れ、僕は芝生広場を中心に探し始める。
　黄道区は、全体的にゆるやかな高低差のある土地だ。海に近い北の方ほど低くなっている。
　南側にある獅子丘町の裏手は山で囲まれていて、自然も多いし、高台までのぼるとすごく見晴らしもいい。自然の立地を生かした起伏は運動にも最適で、黄道区一大きなライオン公園がここに作られたのも納得がいく話だ。
「だけどやっぱり広いな……」
　芝生広場と言っても結構な広さで、学校のグラウンドより広い。見落としのないように、ところどころに植えられた木の裏側や、茂みの奥なんかも意識して探すけど、ふと立ち止まるとその広さにがっくりしてしまう。
「時間なんていくらあっても足りないよ……」
　みんな必死で探しているのか、通信機は沈黙していた。
　この広いライオン公園を隈なく探すのは難しい。スカーフェイスがここにいる保障もないし、捜索にそんなに時間をかけてたら、それこそ一日がかりになってしまう。なんとか効率よく探すにはどうしたらいいんだろう。
　芝生広場は、公園の外周部分と、ハイキングコースの小高い山へと向かう手前の約二カ所に広がっている。僕は、公園外周に広がる桜並木がある方へと小走りに進んでいった。
　土曜日の昼下がりで天気もいい。まだ桜の残る園内には、花見客が沢山いて、宴会用のシートを広げて桜の木のまわりを占拠している。
　ただ広いだけの一面の芝生！　なら、そこに黒猫の一匹でもいればかなり目立つんだろうけど、お花見をしている人たちに紛れ込んでるかと思うと途方にくれる。
　なんとか遠目から、黒色のものだけに集中してみる。黒色、黒色……僕は必死に黒色だけを探して、あちこちにいる花見客や、桜の木の辺りをじっと見定めた。
　そのときふと誰かの足元で、なにか黒いものが動いたのに気づいた。
　スカーフェイス⁉　だけど、小さい！
　ここからじゃ距離がありすぎる！
　確認しようと慌てて走り出すと、次の瞬間その黒い物体の側に立っていた男の人が、急に倒れこむようにしゃがみこんだ！
　やっぱりスカーフェイスか⁉
　僕は腕時計のボタンをとっさに押して、大声でみんなに呼びかけた。
「こちら千斗！　スカーフェイス発見‼　芝生居広場の桜並木だ！　外周沿いだよ！」
『千斗⁉　ひとりじゃ危険よ！　あたしたちが行くまで待って！』
　紅葉の声が息を切らすように荒く聞こえる。
　僕は全速力で、桜並木の男の人に向かって走った。
「でも、たった今、時間をかすめ取られた人が座り込んでるんだ！　周りに沢山人もいるし、早くしないと逃げられちゃうよ！」
『千斗君！　危ないよ！』
『無理しちゃよくないわ！』
　マルコとミチルの声もした。でも今スカーフェイスの一番近くにいるのは僕なんだ！　とにかく追いかけなくちゃ！　スカーフェイスが逃げる先をつきとめて、みんなと合流できればきっと捕まえられる！