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第十三章

アカネ・ゴー・ラウンド(8)

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 ところどころ、インクの滲んだお母さんの手紙を抱きしめて、あたしは声をあげて泣いた。
 お母さんにあいたい! そして思いっきり抱きしめてほしい!
 ずっと心の重しで閉じこめていた感情が一気にあふれ出していた。手紙を握りしめ、街灯の立ち並ぶ防波堤へと続く道を泣き叫びながら歩く。
「お父さん!」
「……少しは、茜の悩みを解消する手助けになったかな? 駄々っ子モンスターが、ぼくの手に負えなくなったときに、渡してってお母さんにいわれてたんだ」
 お父さんは海を見つめたまま、振り返らずにつぶやいた。
「…あた、あたし…ごっ…ごめ、ごめんな、さっさい」
 お父さんはなにもいわず防波堤に腰をおろす。
「本当は、お母さんに少しでも望みがあるのなら、入院でもなんでもして、諦めずに最後まで病気を治すために闘ってほしかったんだ……」
 声が、波の音でかすれて聞こえる気がする。
 声が、波のせいで揺れて聴こえる気がする。
 お父さんはやはり背中を向けたままで、いくらその声が揺れていても、泣いているのかどうかはわからなかった。
「でもね、お母さんは僕の考えを聞き入れてくれなかった。時間を一秒だって無駄にしたくないってだんだん弱っていく病の体にムチ打って、お母さんは茜のそばに居続けたんだ」
 自分が許せない気持ちでいっぱいだった。
 そんな大変だった時期に、あたしは……。
「だけどね、そのうちお父さんも、お母さんが取った行動は、正しかったんだと思えるようになったんだよ。だって病気で体を動かすのだってつらいはずなのに、茜のそばにいるお母さんは、本当に幸せそうに笑って、充実した時間を過ごしているように思えたから」
 お父さんは立ちあがり、振り返るとあたしを抱きしめた。
「茜、お母さんとお父さんのところに生まれてきてくれてありがとう」
 お父さんが泣いている。顔なんて見えなかったけどわかった。
 だって、あたしも泣いてたから……。
「お母さん、お母さんに……あっ、あいたい……」
「うん、お父さんも、お母さんにあいたいよ……」
 ごめんね、つらいのはあたしだけじゃないはずなのに……。
 あたしはやさしさにきつく抱きしめられながら心の中でつぶやいた。
「さあ、帰ろうか?」
 お父さんがあたしの手を取り歩き出す。
 いつしか空は茜色に彩られ、新しい一日の始まりを知らせているよう。
 心地いい波の音と生温い風、あたしたちはまだ泣きやまないまま、手をつないで家路を照らす陽の光の中をたどっていった。
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