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第十三章

アカネ・ゴー・ラウンド(5)

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 ぎゅっとまぶたを閉じて横たわるあたしの頬に、あたたかい涙が落ちていく。
 そういえばあの日、鮮やかにライトアップされた観覧車にお母さんと乗ったあと、あたしたちはどうなったんだっけ?

 …………。

 記憶がよみがえってくる……。たしかあのときも、一周回って降りてきたときにはもう、息を切らしたお父さんが観覧車の出口に立っていた。よっぽど慌てて探したんだろう。胸には区役所の名札が付いたままでとても情けない顔をしていた。
「……おかあさん? みつかっちゃったね」
「そうだね……」
 お母さんはあたしの手を握ったままで、立ち尽くすお父さんを見つめていた……。

 ――バシンッ!

 突然大きな音がして、まぶしさに目が眩む――観覧車の電飾が突然点灯し輝き出すと、カゴがゆっくりと動き始めた。ガラス張りの窓から顔をのぞかせると、遊園地の敷地内はまだ暗闇のままで、観覧車の電飾だけが点灯している。メリーゴーランドやパンダのゴーカートはポツンと眠ったまま。
 観覧車はあたしを乗せ、ゆっくりと地上へおりていく。
 扉の向こうから、誰かが強烈な光であたしを照らした。
「いたぞー! この中だ‼」
 観覧車の扉は開かれ、あたしは知らない男の人に連れ出される。突然の出来事に、目に映る光景がなんだかスローモーションに見えた。暗い空に、円を描いて宙を照らす懐中電灯の光が、妙にゆっくりと見えて、孤独に回り続ける観覧車みたいだった。
 遊園地の人らしい男の人がいて、その後ろにお父さんがいた。こちらを心配そうに見つめて肩を縮めている。

 ――そっか……やっぱりまた、あたしはお父さんに見つかっちゃったんだ……。

     ♮

 あたしたちは遊園地の偉い人に連れられて、港湾会館と書かれた建物に入った。
 カツン、カツン……と暗い廊下に足音が響く。
「茜、ここで待ってなさい」
 お父さんは、突き当りの小部屋に入っていき、ひとり残されたあたしは廊下のベンチに座った。冷たくて、かたくて、座り心地の悪いベンチ……。
 病院の待合室にひとりでぽつんと取り残されている気分だ。ドアの向こうから話し声が聞こえているけど内容までは聞き取れない。
 ベンチはペンキが剥げてすごくザラザラしている。遊園地で使っていた古いやつなのかもしれない。無機質な暗い廊下に不似合いな、ペンキの剥げた赤だった。
 壁には《交通死亡事故ゼロ》と描かれたポスターがぽつんと一枚だけ貼られている。廊下の奥にみえる緑の非常灯は、チラチラと今にも切れそうに点滅していた。
 あたしたち子どもの世界でも、お父さんみたいな大人の世界でも、似たようなものなのかな。職員室で先生にお説教されたみたいに、お父さんも偉い人にお説教されている。
 あたしはベンチにそっと横になり、目を閉じた。
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