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第五章

うるさい! うるさい! うるさい!(4)

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 Re.ハローワールド
『朱里、ただいま。
 あたし、今日生理が来ちゃったよ……。』

 返信はすぐにやって来た。

『おかえり、茜!
 おめでとう!
 これで茜も大人の仲間入りだね!』

 朱里も保健の先生と同じ反応だ。……こんなに痛いのに素直によろこべない。
 ちょっとだけもやっとしたけど、お父さんに話すなんて絶対できないし、朱里しか相談できる相手がいない。
 友子からは、「生理になったら絶対に教え合おうねっ」っていわれてたのに、まだなにも聞いてないし、先にこんなこといえない。
 こんなとき、普通にお母さんがいる家の子はきっと楽なんだろうな……。

『でも、どうしよう。
 保険の先生が少しだけナプキンをくれたけど、絶対足りない。
 はずかしくてお父さんにも話せないし……。
 買いに行くのもはずかしすぎるよ。』

 すると、意外な返信が届いた。

『そうだね、はずかしいよね。
 でもあたしに任せて!
 商店街に薬局があるでしょ?
 首のぷらぷら揺れる、オレンジの象が入口に置かれた薬局よ。』

 オレンジの象?
 薬局は何軒かあるけど、どこのことだろう。

 返事に困っているとまたポロンと音が鳴った。二通続けてメールが来るなんてはじめてだ。

『思い出せない?
 港の水族館に向かう途中に商店街があるでしょ。
 そこの小さな薬局よ。』

 思い出した! 観覧車に行く途中にあった商店街の薬局だ! たしかにあそこには首のぷらぷら揺れるオレンジの象が置かれていたような気がする。

『思い出した!
 でも、その薬局がどうしたの?』

『薬局のおばさんはあたしの知り合いなの。
 話しておくから茜はお店に行って!』

 また朱里がわけのわからないことをいい出す。
 どういうこと? 薬局のおばさんと知り合い?
 疑問がいろいろと浮かんでくる。なんて返事を書こうか思い悩んだ。
 朱里はハローワールドに住んでるっていってたはず。いつも謎かけみたいな答えしかくれないから、ハローワールドがどこにあるかはわからないままだけど、少なくとも〝この辺りじゃないどこか〟だと思っていた。
 ハローワールドの住人であるはずの朱里が、なんでこの街のことを知ってるの? ひょっとしてそんな場所はでたらめで、今もこの街に住んでる? それとも昔に住んでた?

『朱里の知り合いってどういうこと? 
 朱里はこの町に住んでるの?
 それにあたし、今はお金持ってないのよ。
 お店に行ってもどうしたらいいかわからないし。』

 ヤマタケにも、生理用品のコーナーはあるけど、はずかしすぎて前を歩いたことなんてない。
 時計を見ると午後四時半になっていた。今から港の商店街に行ったら、五時半くらいには戻ってこれるのかな? お父さんはいつも六時くらいまでは帰ってこないから、たぶん間に合うとは思うけど……。
 それにしてもどうしよう。逆にお父さんが帰ってくるまで待って、お金をもらってから行ったほうがいい? でも、なんに使うのか聞かれたら困るし……それに薬局も閉まってしまうかも?
 あぁ、もう! 朱里ったら!
 ……早く返事くれないかな……。
 
 ポロン♭

『お金の心配なんてしなくていいわ。
 いったでしょ?
 あたしに任せてって。
 とにかく茜はそのお店に行って、
「朱里にこのお店に来るようにいわれました」
 っておばさんに伝えるだけでいいわ!
 必ず行くのよ?
 帰ったらまたメールちょうだいね。』

 そんな自信たっぷりのメール。不安は取り除かれないままだけど、それでもとにかく行くしかないって考える。えーい!

『わかったよ。
 とりあえず行ってくるね!
 また帰ったらメールするよ。
 朱里ありがと!』

 だけどお金の心配は要らないっていわれたって、そんなに簡単には安心できないよ!
 お腹も痛いし、なんだかイライラする。あたしは頭を抱えながら勉強机を見た。
 ――そうだ! たしかお年玉の残りがあったはず!
 引き出しを開きお年玉袋を探ると、そのうちのひとつから五百円玉が出てくる。
 ――足りるかな?

 ポロン♭

 部屋を出ようとしていると、パソコンから着信を知らせる音が鳴った。のぞくと朱里から『いってらっしゃい!』とだけ届いていた。心の中でもう一度「いってきます」とつぶやいてパソコンを閉じる。
 あたしはお金を握りしめると商店街を目指した。
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