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門出
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▼△▼△▼△▼△
「行ってきます!!」
響く声は屋外のそれではなく、体育館とか劇場だろうか?広めの空間で声を出した時の感覚に似ていた
しかし周りは俺の頭の中を反映するかのように真っ白で
処理の追いつかないままその中心地に誰か居ると知覚するも
「「えっ?」」
と言う声が聞こえた時には
「失礼しました!」
そう言ってそそくさと扉を閉めて部屋へ戻った、念の為鍵もかけた
出勤から5秒も経たぬ内に帰宅である
「え?何だあれ!?すんごい美人となんか普通の人?」
ようやく追いついた知覚情報を処理していく
美術品のような美しい女性とそれに釣り合わない平凡な男性がこちらを見ていた…気がする
驚いた声を出されたので咄嗟に逃げ出してしまった
あれから暫く時間が経ったが、扉が外からノックされる事はない
置き時計の呼吸音は淡々と時を刻む
意を決して次は少しの隙間で外の様子が見られるように引いて開けてみる事に
すると
今度は宇宙空間のような星空を全方位に散りばめた闇が広がっていた
俺はそっと扉を閉じて鍵をかけ
「早く目を覚さないと遅刻してしまう」
言葉を呪詛のように口に纏わせ、いそいそと布団に潜り込んだ
▼△▼△▼△▼△
…おかしい
一向に目が醒める気配が無い
目を瞑ってみるも眠れるわけもなく
眠れたからと言って夢から醒める保証もない
何かアクションをと何度か扉を開けるもののその度に外の景色は変わり、つい先程などは
「皆さんには殺し合いをしてもらいます」
なんていう物騒な言葉すら聞こえた
もちろん直ぐに閉めた
その後も開け閉めと気付かれたり気が付かれなかったりを繰り返すうちに
「転生」
「転移」
「異世界」
「スキル」
「チート」
「死んでしまうとは情けない」
「お前が俺で俺がお前で…お前は誰だ!?」
出るわ出るわのテンプレワード
最後らへんはなんか違う気はするがその辺りになるとだいぶ麻痺してきていた
現実逃避とも言う
とりあえず落ち着くためにコーヒーを入れたのだが、普段通りに行くわけもなく
しっかりこぼして火傷した
冷ますのも兼ねて冷蔵庫から牛乳を取り出して半分くらいになってしまったコーヒーへ注ぎ、一口飲んでカフェオレの味を堪能する
「痛覚も味覚もあるなぁ」
呟きながらふと時計を見る
今から出ないと営業開始時間にすら間に合わない
「夢だろうがやれる事はやらないととダメだよな」
という事で
栄治は職場に遅刻してしまう連絡を入れる事にした。
遅刻理由としては素直に“家から出られない”で行こうと思っているあたりなかなかぶっ飛んでいる
「おはようございます!相模商事の内山です」
3回目のコールの後、女性の凛とした声が栄治の鼓膜と琴線を震わせる
この声は同期入社の内山さんだ!
同じ事務所に配属されていたのか!!
研修の時から気になっていた女の子と同じ事務所に配属された事を喜ぶ反面、これから言う言葉はマイナス評価だろうなぁと落ち込みつつ言葉を絞り出す
「おはようございます、内山さん。
同期入社の轟です本日なのですがーー」
「轟さん??あ!轟さんですね!丁度良かったです」
用件を話す前に遮られてしまった
しかし丁度良いとはどう言う事だろうか?
「所長に代わりますね!」
彼女はそう告げると保留メロディが流れ出す
なんだか妙な流れを感じるも、現状どうする事も出来ないので
とりあえず謝罪の言葉を考えようとしたら
「おはよう轟君、所長の二階だ。電話越しで申し訳ないが初めまして」
ワンコーラスもしないうちに渋いバリトンボイスが耳に響いた
所長!早いっす!まだ心の準備がですね…
しかしこんな半端な時間に遅刻連絡をよこすような新人にこの対応、この所長めちゃくちゃ人徳がありそうだぞ?
「は、初めまして!轟です!こちらこそ電話越しで申し訳ありません…」
恐縮しながらも挨拶を返す、この後遅刻の報告をしないといけないと思うと気分はどんどん重くなるがやらないわけにはいかず、報告を済ませると
「はっはっは!構わんよ!何しろ我が社始まって以来の“本社勤務者”だ!詳しい事は聞かされていないが君が出勤出来ない事は聞いているよ」
「は!?」
明るい様子のダンディ(仮)所長の発言に思わず素の声が出てしまった
「君は本社勤務となり、就業時間等は現地に合わせると言う話だ!基本的には“直行直帰”の通勤レスらしいが羨ましい限りだよ」
はっはっはと爽やかに笑う上司
他にも何か言っていたが
完全にキャパオーバーとなった栄治の脳は
・遅刻にはならない
・本社勤務になった(栄転?)
・社内で使用するメールアカウントに詳細が送られている
・後日、仕事道具が届けられる
・道具が届くまでは自宅待機
そのくらいしか処理出来なかった
「轟さん!こっちに戻ってきた時は盛大に歓迎会してくれるそうですよ!ちなみに私は今週末だそうです♪」
いつの間にか変わっていた内山さんの可愛らしい声を最後に
栄治の遅刻報告は辞令と共に返されたのであった
「行ってきます!!」
響く声は屋外のそれではなく、体育館とか劇場だろうか?広めの空間で声を出した時の感覚に似ていた
しかし周りは俺の頭の中を反映するかのように真っ白で
処理の追いつかないままその中心地に誰か居ると知覚するも
「「えっ?」」
と言う声が聞こえた時には
「失礼しました!」
そう言ってそそくさと扉を閉めて部屋へ戻った、念の為鍵もかけた
出勤から5秒も経たぬ内に帰宅である
「え?何だあれ!?すんごい美人となんか普通の人?」
ようやく追いついた知覚情報を処理していく
美術品のような美しい女性とそれに釣り合わない平凡な男性がこちらを見ていた…気がする
驚いた声を出されたので咄嗟に逃げ出してしまった
あれから暫く時間が経ったが、扉が外からノックされる事はない
置き時計の呼吸音は淡々と時を刻む
意を決して次は少しの隙間で外の様子が見られるように引いて開けてみる事に
すると
今度は宇宙空間のような星空を全方位に散りばめた闇が広がっていた
俺はそっと扉を閉じて鍵をかけ
「早く目を覚さないと遅刻してしまう」
言葉を呪詛のように口に纏わせ、いそいそと布団に潜り込んだ
▼△▼△▼△▼△
…おかしい
一向に目が醒める気配が無い
目を瞑ってみるも眠れるわけもなく
眠れたからと言って夢から醒める保証もない
何かアクションをと何度か扉を開けるもののその度に外の景色は変わり、つい先程などは
「皆さんには殺し合いをしてもらいます」
なんていう物騒な言葉すら聞こえた
もちろん直ぐに閉めた
その後も開け閉めと気付かれたり気が付かれなかったりを繰り返すうちに
「転生」
「転移」
「異世界」
「スキル」
「チート」
「死んでしまうとは情けない」
「お前が俺で俺がお前で…お前は誰だ!?」
出るわ出るわのテンプレワード
最後らへんはなんか違う気はするがその辺りになるとだいぶ麻痺してきていた
現実逃避とも言う
とりあえず落ち着くためにコーヒーを入れたのだが、普段通りに行くわけもなく
しっかりこぼして火傷した
冷ますのも兼ねて冷蔵庫から牛乳を取り出して半分くらいになってしまったコーヒーへ注ぎ、一口飲んでカフェオレの味を堪能する
「痛覚も味覚もあるなぁ」
呟きながらふと時計を見る
今から出ないと営業開始時間にすら間に合わない
「夢だろうがやれる事はやらないととダメだよな」
という事で
栄治は職場に遅刻してしまう連絡を入れる事にした。
遅刻理由としては素直に“家から出られない”で行こうと思っているあたりなかなかぶっ飛んでいる
「おはようございます!相模商事の内山です」
3回目のコールの後、女性の凛とした声が栄治の鼓膜と琴線を震わせる
この声は同期入社の内山さんだ!
同じ事務所に配属されていたのか!!
研修の時から気になっていた女の子と同じ事務所に配属された事を喜ぶ反面、これから言う言葉はマイナス評価だろうなぁと落ち込みつつ言葉を絞り出す
「おはようございます、内山さん。
同期入社の轟です本日なのですがーー」
「轟さん??あ!轟さんですね!丁度良かったです」
用件を話す前に遮られてしまった
しかし丁度良いとはどう言う事だろうか?
「所長に代わりますね!」
彼女はそう告げると保留メロディが流れ出す
なんだか妙な流れを感じるも、現状どうする事も出来ないので
とりあえず謝罪の言葉を考えようとしたら
「おはよう轟君、所長の二階だ。電話越しで申し訳ないが初めまして」
ワンコーラスもしないうちに渋いバリトンボイスが耳に響いた
所長!早いっす!まだ心の準備がですね…
しかしこんな半端な時間に遅刻連絡をよこすような新人にこの対応、この所長めちゃくちゃ人徳がありそうだぞ?
「は、初めまして!轟です!こちらこそ電話越しで申し訳ありません…」
恐縮しながらも挨拶を返す、この後遅刻の報告をしないといけないと思うと気分はどんどん重くなるがやらないわけにはいかず、報告を済ませると
「はっはっは!構わんよ!何しろ我が社始まって以来の“本社勤務者”だ!詳しい事は聞かされていないが君が出勤出来ない事は聞いているよ」
「は!?」
明るい様子のダンディ(仮)所長の発言に思わず素の声が出てしまった
「君は本社勤務となり、就業時間等は現地に合わせると言う話だ!基本的には“直行直帰”の通勤レスらしいが羨ましい限りだよ」
はっはっはと爽やかに笑う上司
他にも何か言っていたが
完全にキャパオーバーとなった栄治の脳は
・遅刻にはならない
・本社勤務になった(栄転?)
・社内で使用するメールアカウントに詳細が送られている
・後日、仕事道具が届けられる
・道具が届くまでは自宅待機
そのくらいしか処理出来なかった
「轟さん!こっちに戻ってきた時は盛大に歓迎会してくれるそうですよ!ちなみに私は今週末だそうです♪」
いつの間にか変わっていた内山さんの可愛らしい声を最後に
栄治の遅刻報告は辞令と共に返されたのであった
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