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リセット
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
物心ついた頃には孤児院にいて
貧しいながらも神の教えと慈悲によって十人並みに成長した私は
人並みに恋をした
その恋は実ることを許されなかったが
愛を宿す事は出来た
愛が生を享け
私から麦穂のような強かさを
彼から白百合のような気品を
其々確りと継いだ事を喜び
母娘2人細々と生きるには十分過ぎる援助を受けながら暮らした10年
幸せだった
流行り病に罹り伏せた床で振り返る
どうやらいよいよお迎えが来るようだ
愛しい我が娘よ
そんな悲しい顔をしないで?
貴方には笑顔が…
貴方のその笑顔が
ーー攻略対象にずっきゅん!
????
なんでしょうか?この記憶?
情報が…頭に…
私は、私の…
『聖進』
この言葉に意識がハッキリすると共に
「いや、お母ちゃんの方かーい!」
と思わず突っ込んでしまった
お陰で主人公のリリィが目を白黒させている
とりあえず咳払いで誤魔化すことにしたのだが、そこは病状の身である
「…んんっ!ゴホッ!ガホッ!?グフッ!ゲハァッ!!?」
咳払いを呼び水に本気で咽せた
「お母さんっ!!」
その様子にリリィが泣きながら抱きついてくる
このシーンは知っている
ゲームだとプロローグ部分だ
リリィはこの後実の父である辺境伯に引き取られ、5年間継母に厳しくも優しく貴族の礼儀作法や歴史を詰め込まれ
16歳の時に学園に通い始める
乙女ゲーム“聖女の行進”略して“聖進”は
そこから開始するのだ
私の前世である須藤 凛は死後、神と名のる存在に会い交渉の末に心残りであったゲーム世界に転生して貰う事に成功した
もちろん知識、記憶はそのままというのも織り込んで
すべては誰も見た事のない真実の為に
新たな人生はそうして始まる
…筈だったのだが
私はどうみても終わりを迎えようとしている
なんだこれは意味がわからん
「リセット案件でしょこんなの」
つい癖でこう呟いてしまうと
『リセットしますか はい / いいえ』
目の前に懐かしいレイアウトが浮かんできた
マジかよできるのかよ
身体もだいぶ苦しくなってきたしリセット出来るなら万々歳!ってことで承諾する…
その前に
愛する娘の顔が見たくなった
前世の記憶が蘇ったとは言え人一人の人生を歩んできたのだ、幼い娘を残して逝くのはやはり偲び無い
せめて、娘の手助けとなる事を最後に伝えたかった
「リリィ、よく聞いてね?貴方はこれから沢山苦労をする事になります」
息が続かない
「それでも笑顔を忘れないでほしいの。
教えられた事は疑わず、人の倍頑張れば幸せは必ず花開きます」
またひとつ呼吸をおく
「私が禁止した魔力循環の練習ですが、今日を持って解禁します。毎日行って完璧に制御できるようになりなさい」
少し無理をしてしまった
言葉がつまってしまい咳き込む
口の中には鉄の味が広がっている
「最後に」
もう単語くらいしか喋れそうに無い
「愛、しています」
重たい腕を持ち上げて泣き縋る娘の頬をなでる
「幸せ、でし、た」
「あな、たも…」
もうこれ以上は空気しか出ない
口の動きのみで“幸せに”と伝えたつもりだが届いただろうか?
届いているといいな
そう思いつつ目の前で開きっぱなし表示しっぱなしだった“はい”部分に意識を集中するのだった
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやー、前回といい今回といい凛ちゃん根性あるよね!」
2度目の訪問となる何もない空間で軽薄そうに私に話しかけているのは紛れも無く神様だ
「神様……せっかく転生してくれたのに舞い戻って来てしまい、お恥ずかしい限りです」
色々と思う所はあるものの、しおらしくそんな返事をする
機嫌を損ねたら次の交渉に支障がでるからね
落ち着くのよ凛
相手は神様、理不尽が形を成した存在なのは神話が証明している
さぁ、再交渉開始だ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
物心ついた頃には孤児院にいて
貧しいながらも神の教えと慈悲によって十人並みに成長した私は
人並みに恋をした
その恋は実ることを許されなかったが
愛を宿す事は出来た
愛が生を享け
私から麦穂のような強かさを
彼から白百合のような気品を
其々確りと継いだ事を喜び
母娘2人細々と生きるには十分過ぎる援助を受けながら暮らした10年
幸せだった
流行り病に罹り伏せた床で振り返る
どうやらいよいよお迎えが来るようだ
愛しい我が娘よ
そんな悲しい顔をしないで?
貴方には笑顔が…
貴方のその笑顔が
ーー攻略対象にずっきゅん!
????
なんでしょうか?この記憶?
情報が…頭に…
私は、私の…
『聖進』
この言葉に意識がハッキリすると共に
「いや、お母ちゃんの方かーい!」
と思わず突っ込んでしまった
お陰で主人公のリリィが目を白黒させている
とりあえず咳払いで誤魔化すことにしたのだが、そこは病状の身である
「…んんっ!ゴホッ!ガホッ!?グフッ!ゲハァッ!!?」
咳払いを呼び水に本気で咽せた
「お母さんっ!!」
その様子にリリィが泣きながら抱きついてくる
このシーンは知っている
ゲームだとプロローグ部分だ
リリィはこの後実の父である辺境伯に引き取られ、5年間継母に厳しくも優しく貴族の礼儀作法や歴史を詰め込まれ
16歳の時に学園に通い始める
乙女ゲーム“聖女の行進”略して“聖進”は
そこから開始するのだ
私の前世である須藤 凛は死後、神と名のる存在に会い交渉の末に心残りであったゲーム世界に転生して貰う事に成功した
もちろん知識、記憶はそのままというのも織り込んで
すべては誰も見た事のない真実の為に
新たな人生はそうして始まる
…筈だったのだが
私はどうみても終わりを迎えようとしている
なんだこれは意味がわからん
「リセット案件でしょこんなの」
つい癖でこう呟いてしまうと
『リセットしますか はい / いいえ』
目の前に懐かしいレイアウトが浮かんできた
マジかよできるのかよ
身体もだいぶ苦しくなってきたしリセット出来るなら万々歳!ってことで承諾する…
その前に
愛する娘の顔が見たくなった
前世の記憶が蘇ったとは言え人一人の人生を歩んできたのだ、幼い娘を残して逝くのはやはり偲び無い
せめて、娘の手助けとなる事を最後に伝えたかった
「リリィ、よく聞いてね?貴方はこれから沢山苦労をする事になります」
息が続かない
「それでも笑顔を忘れないでほしいの。
教えられた事は疑わず、人の倍頑張れば幸せは必ず花開きます」
またひとつ呼吸をおく
「私が禁止した魔力循環の練習ですが、今日を持って解禁します。毎日行って完璧に制御できるようになりなさい」
少し無理をしてしまった
言葉がつまってしまい咳き込む
口の中には鉄の味が広がっている
「最後に」
もう単語くらいしか喋れそうに無い
「愛、しています」
重たい腕を持ち上げて泣き縋る娘の頬をなでる
「幸せ、でし、た」
「あな、たも…」
もうこれ以上は空気しか出ない
口の動きのみで“幸せに”と伝えたつもりだが届いただろうか?
届いているといいな
そう思いつつ目の前で開きっぱなし表示しっぱなしだった“はい”部分に意識を集中するのだった
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやー、前回といい今回といい凛ちゃん根性あるよね!」
2度目の訪問となる何もない空間で軽薄そうに私に話しかけているのは紛れも無く神様だ
「神様……せっかく転生してくれたのに舞い戻って来てしまい、お恥ずかしい限りです」
色々と思う所はあるものの、しおらしくそんな返事をする
機嫌を損ねたら次の交渉に支障がでるからね
落ち着くのよ凛
相手は神様、理不尽が形を成した存在なのは神話が証明している
さぁ、再交渉開始だ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
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