【完結】妹が魔法少女だったので、姉のわたしは立つ瀬がない

千鶴田ルト

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第二章 敵は魔法少女

第六話 二人の魔法少女

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 美冬ミトとオーちゃんは、何もない空間から突然現れた。おそらく瑛夏エナたちと同様、外から見えなくする〈サダメ〉の力を使っていたのだろう。美冬ミトは既に純白に輝く〈修繕者リペアラー〉の鎧を身に着け、槍を携えていた。オーちゃんは単身空高く舞い上がり、手にした水晶玉からシャボン玉を繰り出した。それはどんどん大きく広がり、周囲一帯を囲むほどの大きさとなった。美冬ミトとオーちゃん、彩芽と瑛夏エナも含め、ゴスロリの少女も気にすることなくそのシャボン玉に包まれた。なるほど、先日住宅街でもこのように周辺一帯を外から見えなくしたのか、と瑛夏エナは思った。

 美冬ミトは、ゴスロリの少女を見据え槍を構えて警戒している。
「またあなたね。邪魔をしないで」
 瑛夏エナは理解した。少女は美冬ミトの敵であること。そして、前回負傷したときの相手であること。つまり、妹の太腿に怪我を負わせたのはこのゴスロリの少女の杭だったのだろう。
「そーゆーわけには行かないんだよねー。あなたをやっつけないといけないの。悪いけど」
 感情の分からない無表情でそう言って、ゴスロリの少女は杭を一本投げつけた。
 美冬ミトは、タン、と小気味良い足音を鳴らし前に出る。飛んでくる杭を槍の柄で弾き、一歩で少女の眼前に辿り着いた美冬ミトは槍の石突側で少女に突きを繰り出す。少女は杭を両手に持ち、短剣のように器用に扱って槍の直撃をいなしている。どちらの動きも目にも止まらぬ速さであり、明らかに人間の動きではなかった。あの衣装を纏うことで人ならざる力が宿るのだろうか。

「ねー、ナメてんの? 槍の向き反対じゃない?」
「あなたが何者か分からない以上、必要以上に傷つけたくない!」
「やっぱりナメてるー」
「嫌なら正体を言いなさい!」
「それはできなーい」
 かなりの悪意を持って攻撃してきている相手に対して優しさを見せる妹を誇らしく思うと同時に、どうか怪我のないように終えてほしいと願った。決定的なダメージを与えてはいないものの、美冬ミトが優勢に見える。だが、ゴスロリ少女は依然として無表情を保っているのが不気味だった。槍の攻撃の合間に、美冬ミトが不意を突いて繰り出した蹴りが少女の体を吹き飛ばした。距離を取ったところで、美冬ミトは槍を地面に突いてその勢いで〈ホコロビ〉に飛びかかる。光り輝く切っ先が〈ホコロビ〉の亀裂に接触しそうになった瞬間。飛んできた杭が槍を弾く。
「あぶないあぶない」
 バランスを崩しながらも、少女が杭を投げつけたようだ。少女は明らかに〈ホコロビ〉が直されることを防いでいる。

「しょうがないですね……」
 隣で一緒に見ていた彩芽がつぶやくのを聞き、瑛夏エナが振り向くと既に彼女はいなかった。
 突然、大きなハンマーが現れた。さっきまで美冬ミトの居た地面を叩きつけ、飛び退いた美冬ミトと〈ホコロビ〉の間にハンマーが割って入る形になった。その持ち主は、神宮寺彩芽。先程までの制服姿とは打って変わって、黒のパンツスーツにネクタイというフォーマルな衣装に身を包んでいた。前髪はひっつめにして後ろにポニーテールを流している。髪が一つに纏められて顔がよく見え、見惚れるほどのクールビューティーだった。突然変わった姿は、やはり〈修繕者リペアラー〉の衣装なのだろう。
「よく避けましたね」
 振り降ろされていたハンマーを持ち上げながら、彩芽は言った。
「ずっと不意打ちを警戒してたからね。この前みたいには行かない」
 美冬ミトが少女への警戒を怠らず彩芽に向かって答えた。

「彩芽、おそいー」
 彩芽も敵だった。瑛夏エナは自分の浅はかさを恥じた。美冬ミトの額にあった痣は、彩芽のハンマーによるものではないか? そんなやつの言うことに従って、おめおめとここまで来て話を聞かされるとは、なんて醜態だろうと思った。しかし、憤りながらもこの場で出来ることは自分にはなかった。

乃愛のあ。こちらは私が相手をするので〈ホコロビ〉をお願いします」
「がってんしょー」
 先程シャボン玉を出すのに使ったステッキを彩芽から受け取り、乃愛と呼ばれたゴスロリ少女は踵を返し〈ホコロビ〉に向かった。
「させない!」
 美冬ミトがしなやかに飛びかかった。不意を突かれた乃愛は防御できず、後ろから槍の柄ではたき落とされた。
「させません」
 さらに、彩芽のハンマーが美冬ミトの背を狙う。美冬ミトはそれを読んでいて、切っ先を地面に突き、槍を軸に回転して避けた。美冬ミトは〈ホコロビ〉を背に向けて二人の間に入り込んだ。
美冬ミト、すごい。二対一でも負けていないどころか、有利に事を進めてる)
 思わず瑛夏エナは感心したが、乃愛はすぐに起き上がり彩芽の隣に立った。まだピンチであることに変わりはなかった。

「さすがにお強い。でも一人で戦うのは大変ですね、美冬ミトさん。後ろを御覧なさい」
 〈ホコロビ〉から出現した灰色のモヤが美冬ミトを襲う。意識の外だったようで、反応が遅れてしまった。
 その時、白い光の弾がどこからか飛んできて、モヤを消滅させた。さらにもう二発の光の弾が彩芽と乃愛に向かう。彩芽はハンマーで弾き、乃愛は飛び退いて身を躱した。弾はゴスロリ衣装のフリルを掠めて消えていき、そのとき初めて乃愛の表情に憤慨の色が見えた。三人が光の弾の出処でどころを目で追うと、遠方の樹上に立っているのは西部劇のガンマンのような装いでカウボーイハット、バンダナ、コートを身につけている長身長髪の女性だった。手には小銃を構え、鋭い目つきで牽制している。
「動くな! ぼくたちは美冬ミトさんの仲間だ」
 声はちょうどガンマンと反対方向から聞こえた。声の主は、乃愛よりもさらに若い少年のように見えた。武器のようなものは持っていない。髪型はベリーショートで、ワンレングスの前髪をサイド分けにしておでこを出している。だぼだぼパーカーに膝丈ハーフパンツ、スニーカーというラフな格好で公園の休憩所屋根の上に立っていた。美冬ミトたち三人を両側から挟み込む立ち位置である。

 乃愛と背中合わせになり、双方を警戒しながら彩芽は言った。
「……増援ですか。知っていますよ。芦屋あしや雛菊ひなぎくさんと十文字じゅうもんじさやかさん」
「光栄だね。じゃあ勝ち目がないのも分かるよね」
 雛菊と呼ばれた少年(?)が余裕ありげに挑発する。
「この場は引きましょうか、乃愛」
「えー、いらいらするー」
「後でよしよししてあげますから」
「やったー」
 そう言って、乃愛がステッキを振ると二人は姿を消した。

 [[また明日会いましょう、長谷川瑛夏エナさん]]
 去り際に彩芽から念話が届いた。おそらくあのステッキはオーダードラゴンの持つ水晶玉と同じことができるのだろう。

 美冬ミトは、しばらく周りを警戒した後、本当に去ったと判断したようだった。〈ホコロビ〉を槍で突くと亀裂が消滅し、オーちゃんがやってきて水晶玉にモヤモヤを吸い込んだ。
「ヒナ、助けに来てくれてありがとう。危ないところだった」
 美冬ミトは、隣りに来た雛菊に対して礼を述べた。
「ミッちゃんの頼みとあらば、喜んで」
「また呼ぶことになるかも。でも、逆に助けが欲しいときは私も呼んでね」
「うん、お願いするよ」
 少し会話を交わした後、美冬ミトは帰っていった。
 そのとき、もう一人のさやかと呼ばれたガンマンがいないのに気づいた。
「さて……」
 雛菊が独り言を呟いたと思ったら、突然瑛夏エナと目が合って言った。
瑛夏エナさん」

 瑛夏エナの後ろで、いつの間にかさやかが銃口を向けていた。いや、後ろ向きなので見たわけではないが、これが所謂いわゆる『殺気』というものなのだろう。背筋が凍りつき、汗が吹き出した。全く気配を感じなかった。雛菊はゆっくり歩いて近づきながら言った。
「さやかはスナイパーだからね。視線には人一倍敏感なんですよ」
 心なしか憐れみの目で瑛夏エナを見ているような気がした。
瑛夏エナさん、来てしまったんですね。でも、もう二度と関わらない方がいい。ミッちゃんを苦しめることになります。ミッちゃんに悲しい思いをさせたくないんです。それは瑛夏エナさんも同じ考えのはず……」

 雛菊とさやかが姿を消すまで、瑛夏エナは何も返事ができなかった。
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