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第五話 好きになってもいいのかな
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「わたし、美波さんのこと大好きです。美波さんはどうなんですか? わたしのこと、どう思ってるんですか」
すぐ近くのメリーゴーラウンドが動き始めた。視界の端で、愉快な音楽とともに馬や奇妙な動物が馬車を引いてくるくると回りだす。桜庭は本気で私に告白している。私は、昨日も言った言葉を再び返すしかなかった。
「……ごめん、昨日も言ったけど、好きとか以前の問題だよ。私たちは付き合えない」
「違います。まずは好きなのかどうかです。付き合うかどうかは、その後でしょう」
そんなことはない。付き合えないのに、好きになったらいけないんだ。私はそう思っているが、桜庭は違うのだろうか。
「……わたし、分かりました。美波さんが何を怖がっているのか」
桜庭が立ち上がり、座っている私の両肩に手を掛けた。顔が近づいてくる。
「……止めないんですね」
私は抵抗できず、そのままキスをされた。周りのことが気になるが、意識的に気にしないフリをした。
「美波さんは……わたしを好きになるのを怖がってるんです。わたしを好きになっちゃいけない理由を一生懸命探してるように見えます。デートしてくれるのは友達や先輩としてですか? キスを受け入れてくれるのはセフレだからですか? そうじゃないでしょう。わたしのこと、好きだからじゃないんですか? これはわたしの自惚れですか?」
「……何を……言ってるの? 私が、あなたを好き? 好きになってもしょうがないのに……」
口にした瞬間、何かが脳裏をかすめた。思い出さないようにしていた、遠い記憶。
――私が大学に入って間もない頃。中学高校と周りに馴染めなかった私は、大学という自由の利く形式が性に合っていた。不特定多数の人間と交流しなくても不都合なく生活できるのが嬉しかった。
だが、恋愛関係となると話は別だ。私の性的指向とは関係なしに男の人は声をかけてくるし、女の人は私を恋愛対象として見てくれない。マッチングアプリに登録するまで、それほど時間はかからなかった。十何人かとチャットのやり取りをし、何人かと直接会い、何度目かに肌を合わせた。
好きな人が出来た。初めて抱かれた相手に浮かれていたのかもしれない。今となっては、それが本当に恋愛感情だったのかどうかすら怪しい。だが当時の私にとっては、それがすべてだった。本気で付き合ってほしいと心から思って、告白した。しかしその答えは……。
「そういうの、嫌なんだよね。好きとか愛してるとか。どうせ結婚できるわけじゃないんだし、本気で好きになってもしょうがないよ」
それは彼女なりの経験から生まれた個人的な人生哲学だったのかもしれない。だが、若かった私がその言葉に強く影響を受けるのも仕方のない事だった。以降、私も割り切った関係を持つために出会いを繰り返していた。本当の恋愛を知ることもなく、ただ漠然と『同性愛者』として生きていた。別に恋愛が全てではない。私は自分の人生にそれなりに満足していた。だから、こんなに直球で、真っ直ぐに『好き』をぶつけられて、戸惑ってしまったのだろう。私は自分の心を分かっていなかった。自分が彼女を、桜庭ハルナを好きであることに気づかないフリをしていた。
「私、ハルナのことを好きになってもいいのかな……」
自分の思考より先に言葉が出ていた。それが素直な気持ちだったのだろう。いつの間にか桜庭は、――ハルナは泣いていた。潤んだ目で力強く私の目を見つめてくる。
「好きになるのに許可なんか要りません。わたしは無断で美波先輩のことを好きになったんですよ。誰の許可も貰ってません」
ハルナは座った私を、肩から抱きしめて耳元で囁いた。
「わたしを好きになるのを、怖がらないでください」
私からも、腕をまわして抱きしめ返した。
その後も、遊園地デートを続けた。夕方になり、最後は観覧車で終わりにしようと決めて乗った。暗くなってきた園内はイルミネーションが灯り、青、ピンク、黄色、様々な光が観覧車のゴンドラをまばゆく照らし上げていた。
「来て良かった……」
電飾の光で浮かび上がるハルナを見て、心からそう思った。手を繋いで、肩を寄せ合う。
「ハルナ、ありがとう。ここに連れてきてくれたこともだし、好きって言ってくれたこと。私が自分の想いを自覚できるようにしてくれたこと。それに、きっとこれからもたくさんのことでありがとうを言うことになる」
「そんなこと……わたしは自分の欲望に忠実だっただけです」
「私……ハルナが好き。大好き」
「はい。わたしも美波さんが好きです」
「もっともっと、好きになりたい。一緒にいたい」
「……わたしもです」
「好き。好き……」
今まで言わなかった分を取り戻すように、何度も伝えてキスをした。
駅で帰りの電車の時間を確認しようとしたときだった。ハルナが、甘えたように腕を取ってもたれかかってきた。
「なんかぁ、帰るの面倒臭くないですか?」
確かにだいぶ園内を歩き回って疲れてしまったが、帰らないわけにもいかないわけで。……と、ハルナがちらちらと見ている目線を追うと……。
「ああ、そういう……」
ライトアップされたホテルだった。あの建物の感じは、おそらくラブのやつ。ハルナとはいつも家でしていたから、一緒に行ったことはない。今日は記念にも丁度いいかもしれない。
「ご飯はどうする?」
「さっき調べてみたんですけど、あのホテルのルームサービスけっこう評判いいみたいですよ」
「用意のいいことで……」
部屋に入ると、大きなシャワー室と天蓋付きのゴージャスなベッド。
「ね、一緒にシャワーしましょうシャワー♪」
ハルナはワクワクしてはしゃいでいる。私も疲れと汚れを流したいので、早くシャワーに入りたかった。
「バスルーム広くていいねえ。こんな家に住みたい」
「こんなえっちな部屋に住んでたら、毎日大変ですよ」
「それは部屋がえっちなんじゃなくて、誰かさんがえっちなんでしょう」
「えへへ、誰のことでしょうか。美波さん、お背中流しますよ」
バスチェアに座り、自分では力の入れられない背中を誰かに洗ってもらうのは、なかなかに気持ちがいい。
「はぁ~、気持ちいい……あとでハルナも洗ってあげるね」
背中だけではなく、後ろから肩、腕、立ち上がってお尻や脚まで洗ってもらった。ハルナは、こんな風にお風呂でイチャイチャしたがるような可愛いところがある。
「洗ってもらうのって極楽~」
「ああ、キレイな体……早く食べたいです」
「ちょっと?」
意外と前は洗ってくれなかったので、自分で洗った。ちょっと期待していたが、あとでいくらでも触ってもらえるのだ。
泡を流し、次は私がハルナを洗ってやろうと思っていたら……。
「じゃあ、次行きますね」
背中にトロリとした感触。ボディミルクか何かだろうか? こんなタイミングで? ハチミツのような甘い匂いがする。
「これって……」
「ローションです」
ぬるり、と首筋を覆うハルナの手のひら。
「ひゃうっ」
完全に油断していた。不意打ちで変な声を出してしまった。
「ただでさえスベスベの美波さんの柔肌が、ローションでさらに滑らかに。いつまででも撫でていたいですね~」
背中から、前に回ってお腹、胸の周りをひたすらに撫でる細い指と小さい手のひら。
「はっ……んっ……!」
くすぐったさと快感の狭間で、耐えることしかできなかった。
ハルナはもう一度ボトルから中身を手に取り、両手で掬い上げた。
「もちろんここも……」
両手のひらが私の胸全体にローションを塗りたくる。
「んああっ……! っふああ……っ!」
乳房が指の摩擦から逃れ、擦れる度に快感が襲う。
「ああ、最高の触り心地。ぬめぬめの丸い胸の上で、先っぽが硬くアピールしてきてますよ」
ハルナの指全体が、乳首の上を何度も往復する。胸への刺激が連続してビクビクと体が律動する。
「はっあぁうぅ……!」
体がうずくまり、ハルナが私の体を抱きかかえるように寄りかかる。後ろから胸を抑えられ、背中にハルナの乳首の感触を感じる。
「逃げないでください、美波さん。ほら、もうすぐイッちゃいそうですね。分かりますよ」
「待って、待って……まだ嫌っ……!」
まだイキたくなかった。こんなに早くイッてしまっては勿体ないと思った。しかし、彼女の指の勢いは収まらない。人差し指と中指が交互に乳首を引っ掻き回す。
「まだイギっ……やだ、イクっ……んん……っ!」
時間にして、二、三分程度だった。たぶん、歴代最速昇天速度を更新した。
「まずは一回目ですよ」
今日は何回、イかせられるのだろう。
すぐ近くのメリーゴーラウンドが動き始めた。視界の端で、愉快な音楽とともに馬や奇妙な動物が馬車を引いてくるくると回りだす。桜庭は本気で私に告白している。私は、昨日も言った言葉を再び返すしかなかった。
「……ごめん、昨日も言ったけど、好きとか以前の問題だよ。私たちは付き合えない」
「違います。まずは好きなのかどうかです。付き合うかどうかは、その後でしょう」
そんなことはない。付き合えないのに、好きになったらいけないんだ。私はそう思っているが、桜庭は違うのだろうか。
「……わたし、分かりました。美波さんが何を怖がっているのか」
桜庭が立ち上がり、座っている私の両肩に手を掛けた。顔が近づいてくる。
「……止めないんですね」
私は抵抗できず、そのままキスをされた。周りのことが気になるが、意識的に気にしないフリをした。
「美波さんは……わたしを好きになるのを怖がってるんです。わたしを好きになっちゃいけない理由を一生懸命探してるように見えます。デートしてくれるのは友達や先輩としてですか? キスを受け入れてくれるのはセフレだからですか? そうじゃないでしょう。わたしのこと、好きだからじゃないんですか? これはわたしの自惚れですか?」
「……何を……言ってるの? 私が、あなたを好き? 好きになってもしょうがないのに……」
口にした瞬間、何かが脳裏をかすめた。思い出さないようにしていた、遠い記憶。
――私が大学に入って間もない頃。中学高校と周りに馴染めなかった私は、大学という自由の利く形式が性に合っていた。不特定多数の人間と交流しなくても不都合なく生活できるのが嬉しかった。
だが、恋愛関係となると話は別だ。私の性的指向とは関係なしに男の人は声をかけてくるし、女の人は私を恋愛対象として見てくれない。マッチングアプリに登録するまで、それほど時間はかからなかった。十何人かとチャットのやり取りをし、何人かと直接会い、何度目かに肌を合わせた。
好きな人が出来た。初めて抱かれた相手に浮かれていたのかもしれない。今となっては、それが本当に恋愛感情だったのかどうかすら怪しい。だが当時の私にとっては、それがすべてだった。本気で付き合ってほしいと心から思って、告白した。しかしその答えは……。
「そういうの、嫌なんだよね。好きとか愛してるとか。どうせ結婚できるわけじゃないんだし、本気で好きになってもしょうがないよ」
それは彼女なりの経験から生まれた個人的な人生哲学だったのかもしれない。だが、若かった私がその言葉に強く影響を受けるのも仕方のない事だった。以降、私も割り切った関係を持つために出会いを繰り返していた。本当の恋愛を知ることもなく、ただ漠然と『同性愛者』として生きていた。別に恋愛が全てではない。私は自分の人生にそれなりに満足していた。だから、こんなに直球で、真っ直ぐに『好き』をぶつけられて、戸惑ってしまったのだろう。私は自分の心を分かっていなかった。自分が彼女を、桜庭ハルナを好きであることに気づかないフリをしていた。
「私、ハルナのことを好きになってもいいのかな……」
自分の思考より先に言葉が出ていた。それが素直な気持ちだったのだろう。いつの間にか桜庭は、――ハルナは泣いていた。潤んだ目で力強く私の目を見つめてくる。
「好きになるのに許可なんか要りません。わたしは無断で美波先輩のことを好きになったんですよ。誰の許可も貰ってません」
ハルナは座った私を、肩から抱きしめて耳元で囁いた。
「わたしを好きになるのを、怖がらないでください」
私からも、腕をまわして抱きしめ返した。
その後も、遊園地デートを続けた。夕方になり、最後は観覧車で終わりにしようと決めて乗った。暗くなってきた園内はイルミネーションが灯り、青、ピンク、黄色、様々な光が観覧車のゴンドラをまばゆく照らし上げていた。
「来て良かった……」
電飾の光で浮かび上がるハルナを見て、心からそう思った。手を繋いで、肩を寄せ合う。
「ハルナ、ありがとう。ここに連れてきてくれたこともだし、好きって言ってくれたこと。私が自分の想いを自覚できるようにしてくれたこと。それに、きっとこれからもたくさんのことでありがとうを言うことになる」
「そんなこと……わたしは自分の欲望に忠実だっただけです」
「私……ハルナが好き。大好き」
「はい。わたしも美波さんが好きです」
「もっともっと、好きになりたい。一緒にいたい」
「……わたしもです」
「好き。好き……」
今まで言わなかった分を取り戻すように、何度も伝えてキスをした。
駅で帰りの電車の時間を確認しようとしたときだった。ハルナが、甘えたように腕を取ってもたれかかってきた。
「なんかぁ、帰るの面倒臭くないですか?」
確かにだいぶ園内を歩き回って疲れてしまったが、帰らないわけにもいかないわけで。……と、ハルナがちらちらと見ている目線を追うと……。
「ああ、そういう……」
ライトアップされたホテルだった。あの建物の感じは、おそらくラブのやつ。ハルナとはいつも家でしていたから、一緒に行ったことはない。今日は記念にも丁度いいかもしれない。
「ご飯はどうする?」
「さっき調べてみたんですけど、あのホテルのルームサービスけっこう評判いいみたいですよ」
「用意のいいことで……」
部屋に入ると、大きなシャワー室と天蓋付きのゴージャスなベッド。
「ね、一緒にシャワーしましょうシャワー♪」
ハルナはワクワクしてはしゃいでいる。私も疲れと汚れを流したいので、早くシャワーに入りたかった。
「バスルーム広くていいねえ。こんな家に住みたい」
「こんなえっちな部屋に住んでたら、毎日大変ですよ」
「それは部屋がえっちなんじゃなくて、誰かさんがえっちなんでしょう」
「えへへ、誰のことでしょうか。美波さん、お背中流しますよ」
バスチェアに座り、自分では力の入れられない背中を誰かに洗ってもらうのは、なかなかに気持ちがいい。
「はぁ~、気持ちいい……あとでハルナも洗ってあげるね」
背中だけではなく、後ろから肩、腕、立ち上がってお尻や脚まで洗ってもらった。ハルナは、こんな風にお風呂でイチャイチャしたがるような可愛いところがある。
「洗ってもらうのって極楽~」
「ああ、キレイな体……早く食べたいです」
「ちょっと?」
意外と前は洗ってくれなかったので、自分で洗った。ちょっと期待していたが、あとでいくらでも触ってもらえるのだ。
泡を流し、次は私がハルナを洗ってやろうと思っていたら……。
「じゃあ、次行きますね」
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「これって……」
「ローションです」
ぬるり、と首筋を覆うハルナの手のひら。
「ひゃうっ」
完全に油断していた。不意打ちで変な声を出してしまった。
「ただでさえスベスベの美波さんの柔肌が、ローションでさらに滑らかに。いつまででも撫でていたいですね~」
背中から、前に回ってお腹、胸の周りをひたすらに撫でる細い指と小さい手のひら。
「はっ……んっ……!」
くすぐったさと快感の狭間で、耐えることしかできなかった。
ハルナはもう一度ボトルから中身を手に取り、両手で掬い上げた。
「もちろんここも……」
両手のひらが私の胸全体にローションを塗りたくる。
「んああっ……! っふああ……っ!」
乳房が指の摩擦から逃れ、擦れる度に快感が襲う。
「ああ、最高の触り心地。ぬめぬめの丸い胸の上で、先っぽが硬くアピールしてきてますよ」
ハルナの指全体が、乳首の上を何度も往復する。胸への刺激が連続してビクビクと体が律動する。
「はっあぁうぅ……!」
体がうずくまり、ハルナが私の体を抱きかかえるように寄りかかる。後ろから胸を抑えられ、背中にハルナの乳首の感触を感じる。
「逃げないでください、美波さん。ほら、もうすぐイッちゃいそうですね。分かりますよ」
「待って、待って……まだ嫌っ……!」
まだイキたくなかった。こんなに早くイッてしまっては勿体ないと思った。しかし、彼女の指の勢いは収まらない。人差し指と中指が交互に乳首を引っ掻き回す。
「まだイギっ……やだ、イクっ……んん……っ!」
時間にして、二、三分程度だった。たぶん、歴代最速昇天速度を更新した。
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