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第三話 桜庭ハルナの超絶技巧

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 桜庭さくらばについて、いくつかの謎が解けた。一つ目、彼女は先週の夜のことはおそらく本当に覚えていないようだった。だがそれはもう問題ではない。二つ目、彼女はレズビアンであるか、少なくとも女性との経験がある。あの感じでは、女を抱いた経験はありそうだし、何ならかなり手慣れている。三つ目、彼女は明確に私のことを好きと言ってくれた。セックスの流れで言っただけの可能性もあるが、満更でもない感じではある。
 では、私に関してはどうだろう。桜庭は、正直可愛い。これは後輩としてではなく、一人の女性としてそう感じている。セックスもうまく、昨晩は三回イかされた。これも正直なところ、とても魅力的だ。
 では、彼女と付き合いたいだろうか?
 その答えは――。

 隣りに寝ている顔を見ると、とても愛らしい。こんな子が私の彼女になったら、どんなに幸せだろう。でも、私は彼女を幸せにしてやることができるのだろうか。
 頬を突ついてみた。もにゃもにゃする様子は幼く見え、昨晩あんなに私を攻め立てた子には見えない。
「桜庭さん、おはよう」
「うにゃ……おはようございます、先輩」
「昨晩のことは、覚えてる?」
 眠たげだった顔に恥じらいの赤みが差し、無邪気にほころんだ。
「はい、よく覚えてます」
 私は思わず桜庭を抱き寄せ、頬にキスをした。
「きゃああ」
 大げさにはにかむ桜庭に癒されながら尋ねた。
「シャワー浴びる?」
「あはい、いただきます」
「先いいよ。タオル用意しておくね」
「……先輩も、一緒に入りましょうよ」

「体、本当にキレイですよね……惚れ惚れします」
「いや、桜庭さんこそ……」
 チラリと見ると、桜庭の下の毛はしっかりと整えられている。こうなることは想定済だったのかもしれない。
「朝の日光に照らされる先輩のおっぱい、略して先パイは芸術ですよ」
「うわ、それ言ってたよ……酔いながら襲ってきたときに」
「え、本当ですか……普段から思ってたことだから出ちゃったのかな……」
「へえ、普段から思ってたんだ。仕事しながら、私のおっぱいをずっと狙ってたんだ」
「すみません、ずっと狙ってました……このおっぱいを」
 言いながら、私の胸をつかむ。
「あんっ……!」
 そして、浴室でもう一回戦したのだった。

 玄関で靴を履き、立ち上がった桜庭は振り向いて言った。
「あの、また来て良いですか」
「……うん、事前に連絡してね。昨日みたいにいきなり来られても、居ないかもしれないし」
「やったー、分かりました。じゃあ、失礼します」
「また、月曜日に」
「はぁい」

 扉が閉まるのを見送った後、罪悪感に襲われた。彼女と付き合うか否か。私は、答えを先延ばしにした。そのことは、桜庭も気づいているだろう。いま食い下がっても、望む答えが得られないことを。
 理由は単純な話ではない。今どき職場恋愛なんて、流行らない。しかも先輩後輩関係だ。公私混同の恐れもあり、あまり好ましくはない。別れたときの面倒臭さも考えると、それに同性同士ということもあって職場には秘密にしておきたい。そんな窮屈な関係、耐えられるだろうか?
 そもそも、私は恋人を欲しているのだろうか。桜庭とのセックスは楽しめると思う。しかし、それ以外はどうだろう。そんな不誠実な状態では、彼女に対して失礼ではないか。
 自分の心が分からない。私は、まともに女性と付き合ったことがなかった。

「おはようございます」
「おはよう、桜庭さん」
 会社ではいつも通りの月曜日が始まっていた。心の中は、少し緊張している。彼女も大人だし、私と関係を持ったことをわざわざ誰かに言いふらさないだろう。二人は秘密の関係になっている。仕事中、目が合うとニコッと笑う桜庭に、自然とこちらも笑顔になる。

、ちょっといいですか」
「……いいよ、どうかした?」
 桜庭に呼び止められた。今日は名前呼びになっている。少し戸惑ったが、周りに怪しまれないよう自然に接する。
「メールチェックお願いします」
 こっそり手を握られる。ちょっと近すぎるぞ。

 昼休みは、桜庭はいつも通り同期の女子社員と昼食に行ったので話す機会はなかった。今日は午後に、二人の打ち合わせがある。私は彼女のOJT担当なので、二人きりになることも多いのだ。四人用の小さな会議室。前まであまり意識しなかったが、密閉された会議室の中だと彼女の匂いを強く感じる。
「ねえ、ちょっと危ないよ。あんまり近いと、バレちゃうよ。呼び方も……」
 もともと桜庭は男性社員にも人気があり、目で追われることも多いはずだ。こっそりとは言え、ボディタッチが増えるのは危険だ。
「え~。何がバレちゃうんですか。ただの先輩と後輩なのに。それに女性社員同士なら下の名前で呼び合ってる人も多いですよ」
 私は言葉を詰まらせた。彼女の言い分はもっともである。意識しすぎているのは私の方なんだろうか。
「ねえ、今日、家行ってもいいですか?」

 終業後、私達は一緒に帰った。私のアパートは、会社から歩いて二十分ほどの距離にある。アパート近くのコンビニで夕食を買い、そこからは桜庭に手を握られた。ドキッとしたが、気取られないよう平静を保った。

 玄関の扉が閉まる。二人だけの空間。どちらからともなく、互いの視線が交差する。
「美波さん、分かりやすいですよ」
「えっ?」
「すごく欲しそうな顔してます」
 土間に立ったまま、キスをされた。
「わたしを求めてくれてるんですね。嬉しいです」
 その笑顔を見て、また罪悪感が私の心をチクリと刺す。

 ベッドに寝転がる、下着姿になった私と桜庭。
「シャワーはいいの……?」
「今日は帰らないといけないので。時間が勿体ないじゃないですか」
 桜庭はやる気満々だ。平日の、しかも月曜日からこんなことになるとは思っていなかったが、私としては願ってもいない状況だった。
「見てください、わたしのここ……もう濡れてるんですよ」
 桜庭の薄紫色の上下セット下着の、ショーツに染みができている。
「……でも、美波さんほどじゃないみたいです。期待してくれてたんですね」
 その通りだった。私の体は、桜庭がこれから期待に応えてくれるのを知っている。
「今日もいっぱいしてあげますからね」
 桜庭に、ぎゅうっと抱きしめられる。ブラジャーの肌触りが肌に強く残る。彼女は仰向けの私に四つん這いに乗りかかった。耳や首筋にキスをしながら、私のブラジャーに手を差し込んだ。カップの中で先端を見つけて、人差し指と中指の間で挟まれ転がされる。
「ここも硬くなってますね」
「んっ……あんまり言わないで……」
 桜庭の手が私の背中に回り、ホックを外した。
「わたし、ホック外すの好きなんですよね。おっぱいが晒される瞬間の、開放感が」
「そういう人、多いみたい」
「ちょっと美波さん、それ過去の人のこと言ってますね?」
「……そっちこそでしょ」
 腕を肩紐から抜く暇もなく、露出した乳房が桜庭の両手に揉まれる。
「はぁ……っ」
 強すぎず弱すぎない、丁度良い力加減で愛撫される。揉みながら、指も乳首を擦り上げて刺激する。私は耐えきれず声を上げてしまう。桜庭が舌と唇で乳房の下端をなぞる。膨らみ全体を口で優しく撫でていく。弱い刺激が焦れったい。
「本当に分かりやすいですね。こうして欲しいんですか?」
 そう言うと、彼女の舌が乳首を弾くように舐め上げた。
「はぅっ……!」
 先端から電流が走り、脳を突き抜ける。思わず体を仰け反らせ、胸を突き出してさらに刺激を求める。
「美波さん、感じやすくて可愛いです……」
「さ、桜庭さんがうますぎるから……」
「……美波さんは、わたしのこと名前で呼んでくれないんですか?」
「……」
「いいですよ。じゃあ名前で呼んでくれたらイかせてあげます」
「うう……」
「わたし、美波さんの弱いところいっぱい知ってるんですから」
 ピクピクと反応する乳首をよそに、膨らみ全体を揉みながら人差し指が乳輪の周りをくるくるとなぞる。
「しっかり見ててください」
 人差し指を浮かせ、乳頭に触れるかどうかの空間をウロウロさせている。ジッと見つめてくるいたずらな瞳。居ても立っても居られなかった。
「お願い、ハルナ……」
「うふふ、ゾクッとしますね。ご褒美です」
 ピンッと両乳首が人差し指で弾かれる。
「あう……っ!」
 桜庭は、私の乳首に思い切り強く吸い付いた。激しい音を立てて吸い続け、音の振動がさらなる刺激を発生させた。
「んん……っ! あぁ、いいっ……!」
 ぢゅぽっ、と唇と舌が乳首を離れた。吸われ続けた乳頭は充血し、赤くなっている。
「乳首弱いですよね。そういうところが本当に大好きです」
 そう言うと桜庭は、充血した乳首を指で刺激しながら、もう片方の乳首を咥えて前歯で軽く噛んだ。
「んぎぃっ……それ好き……っ! ふぁぁっ……!」
 何度も強さを変えて噛まれる。不規則な快感が下半身と脳みそを行き来する。
「美波さんっ……! 美波さん、美波さん、好き好き、好きですっ!」
 耳元で『好き』を連呼され、快感が増幅される。
「ハルナっ! すごい気持ちいいっ……! あっ、イクっ、あぁっ!」
 私は絶頂し、体を震わせた。しかし、桜庭は攻めの手を止めない。
「まだですよ、美波さんっ……! もう一回……!」
 再び乳首が口に含まれ、吸われながら口の中で舐め回される。指での愛撫も激しさを増している。
「イってるっ……! イっでるからぁっ! もうダメ、ダメらよぉぉっ!」
 快楽の波が怒涛の勢いで押し寄せ、訳が分からなくなっている。全身の神経が弾けたような感覚の後、小刻みに痙攣する体。

「はぁっ……、ふぅっ……」
 桜庭は息が上がっているが、満足そうに私の体を抱きしめている。私は、連続絶頂の負担で動けない。お互い汗だくなので、二人のかいた汗が混ざり合う。
「こん、なの……初めて……」
「美波さんが、可愛すぎるからですよ……?」
 そう言われて顔が熱くなるのを感じた。残暑も過ぎ、だいぶ涼しい時期になっているが、このまま続けたら脱水症になってしまう。
「休憩しよ、ハルナ……。お水飲まなきゃ、死んじゃう……」
「え……。あははっ!」
「どうしたの……?」
「いえ。『おしまい』じゃなくて、『休憩』なんだなって。休憩の後、まだしていいってことですよね」
 自分でも驚いたが、無意識にそういう意味を込めて言った言葉だった。

 この日は結局、下でも一回イかされた。(準備の良いことに、桜庭は爪も短くしてあった)終電前に彼女は元気に家に帰って行ったが、私はしばらく放心していた。

 ――桜庭は、本気で私を落とそうとしている。
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