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六話

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 ※今話は割りと危ない人が出るのでご注意!


 剣を渡した後、すぐに準備が出来るわけでもないので取り敢えず金貨五十枚と銀貨三十枚、銅貨百枚を頂いたわけで。
 さぁその大量になったくそ重い金貨達をどこに持つかと思っただろう。
 恐ろしい事に冒険者カードの中に収納出来るのだ。
 中世を思わせる時代にカードである。
 しかも本人の血液で造られたカードなので複製や盗難に対する防止にもなっている。
 DNA認証とか、四次元ポケットとかかなりの技術力じゃないかと思う。
 なお無くしたらもう一度再発行出来るが、カード内にストレージされた金はさようならするしかない。
 保険とかないのかなぁ。

 話が逸れたな。
 
 あくまで使い魔なのでこの金も、後から支払われる金も全てリリア行きである。
 一部を使わせてもらえれば残りはリリアの総取りでもいいので気にしないのだが、リリアは初めて扱うであろう金額がストレージされた事に恐れを抱いていた。 
 
 「ここ、こここここんな金額がっ、ストレージにあるのは初めって、です!」
 
 「奢ってくださいとか言ってくる奴が出てきそうだな」
 
 「なんで私なんですかぁ!? 自分で冒険者になってカード造ってもらってそこに入れれば良いじゃないですかぁ!?」
 
 「それでも良かったんだけど、一応俺はリリアの使い魔だからな。 あんまり束縛を増やすつもりはないんだよ。 それに……」
 
 「それに?」
 
 「リリアが困ってる顔って可愛いじゃん?」
 
 「困った顔が見たいから困らせるとか嫌ですよぉ……」
 
 落ち込むリリアの頭をポンポンと叩き、視線を合わせる。
 
 「俺はな困った顔だけじゃない。 笑った顔も、泣きそうな顔も、喜んでるときの顔も。全部ひっくるめてリリアのよく変わる表情が好きなんだよ」 
 
 「ふぇぇぁ!? き、急になひを、何を言い出ふんでつか!?」
 
 顔を真っ赤にして慌てるリリア。
 顔の前で手をブンブンと振り否定しているが実に良い表情だ。
 慌てて呂律が回っていないところも好印象である。
 
 「まぁそれは置いといて。 俺のご飯買うのに付き合ってくれ」
 
 「うぅぅ……あんまりおちょくられると私泣きますからね」
 
 「程々にするよ。 ……多分」
 
 「そこは自信を持って答えてほしいですよ!?」
 
 会って数日だが確実にツッコミのレベルが上昇している気がする。
 なかなか才能があるじゃないかと思う今日この頃。
 
 そんな他愛もない事を話ながら二人で買い物を楽しむことにした。
 
 
 
 
 
 
 
 召喚されて約三週間。
 最近分かったことがある。
 どうやらその気になれば自分の意思で外に出ることも、宝石の中に戻ることも出来る様だ。
 
 何気なくホームの玄関から外に出てみたら、宝石の外に出ることが出来た。
 
 そのときはタイミング悪くリリアのお着替え中に遭遇してしまい怒られた。
 出るタイミングには声をかけることにしようと心に誓った。
 
 
 
 さてそんな訳でリリアに許可を貰って脱け出せるようになった訳で、このレムナントの王立学園を探検中である。
 
 新人戦が近いとかで年上連中は実に楽しそうに賭け事などをしているが、出場者達はみな殺気だっている。
 将来の進路にも関わる事らしいので、受験戦争みたいなものだろうと勝手に解釈している。
 
 そんなものに関わりたくはないので、主に上級生らしき連中や教員連中と交流を深める事にしていた。
 
 ちなみにこの王立学園は三年過程で、一年目は基礎、二年目で実技をメインに色々と学び三年目で各個人の適正にあった方向性の学習を行う。
 入学出来るのは十六歳かららしいが、特例もあるらしい。
 全校生徒は約三百人。
 
 
 この学園は貴族が半数、平民が半数といった所か。
 貴族は入学金を必要とするが入試はなく、平民は入試があるが入学金や諸々の諸経費は無料らしい。
 貴族がノブレスオブリーシュを貫いている訳ではない。
 
 そうしないと平民は入学出来ないし貴族も優秀な平民を手に入れる事が出来ないからだ。
 そんな事を少なくするための制度でもあるらしいが、このせいで貴族が金を払っているのだから平民は学園では従えという風潮がある。
 
 因みにリリアも一応貴族らしい。
 貴族の三姉妹の中の二女だとか。
 
 
  
 「ゼクトさん。 今日も散歩ですか?」
 
 「これはセイン様。 今日は使い魔を使う授業もないとの事なので、美しい学園の中庭に心奪われていたところです」
 
 「そうですか。 ゼクトさんのような使い魔がいてリリアさんが羨ましいです」
 
 「セイン様にも素晴らしき使い魔がいらっしゃると聞き及んでおります。 私などよりも遥かに優秀でしょうに」
 
 中庭を探検中休憩のためにベンチで休んでいると、黒髪を腰まで伸ばした美女が話しかけてきた。
 名をセイン・フェルガモート。
 この学園の副会長で二年生らしい。
 二週間程前に知り合ったのだが、その時から妙に馴れ馴れしいというか、絡んでくるので取り敢えず相手をしている。
 
 「この時間は授業ではないのですか?」
 
 「ゼクトさんを見つけたので脱け出してきた所です。 私はゼクトさんに興味があるんですから」
 
 「お戯れを。 私などにセイン様が御時間を割くほどの価値はありませんよ」
 
 俺の返答がおかしかったのかクスクスと笑うセイン。
 話し方や仕草が実に上品だが、どこか腹黒い感じがする。
 こういう人は割りと嫌いじゃない。
 
 「そんな事はないです。 出来ればそんなに堅苦しく話さずに普通に話して欲しいです。 普段からそんな話し方という訳でもないのでしょう?」

 
 「……では、お言葉にあまえて。 そういうセイン様こそ結構裏がありそうだな。 もう少し力を抜いて話してもいいんだけと」 
 
 
 「ふふふ。 そっちが素のようですね。 なら私も少し肩の力を抜くとしましょう」
 
 セインは嬉しそうに笑うと密着するように腰掛けてきた。
 完全に恋人とかの距離だ。
 
 「ゼクトさんはこうやって近付いてもあまり慌てないんですね」
 
 「なんだ慌ててほしいのか?」
 
 「私くらいの美女が隣に来たんですからもう少し動揺して欲しいとは思います」
 
 少し不満そうな表情だが、楽しそうでもある。
 しかし授業をサボってくるとは中々に剛胆な副会長だな。
 
 「セイン様は良い女だとは思うけど、流石にその程度で慌てるような年でもなくてね」
 
 「ほほぅ。 ゼクトさんはいくつなのかな?」
 
 「……二十七か八くらい?」
 
 「なんでそこが曖昧なのか分からないけど意外ですね。 もっと若いかと思っていました」
 
 まぁいつ産まれたのか誕生日も知らないから、正確な年齢は分からん。
 若く見られるといってもこの体ははもともとアバターだから見た目と実年齢が釣り合ってないのは仕方ない。
 というか、リベラルファンタジアを女キャラでやってなくて良かったと今更ながら思う。
 
 心は男、体は女!
 
 ってなってしまったら正直どう生活すれば良いのか分からないからな。
 
 「それはどうも。 あ、そうだ。 新人戦って大変なのかね? 殺気だってる人が多くてな」
 
 「確かゼクトさんはゴーレムを一撃で倒したんですよね。 ならそこそこに良い所までいけると思いますよ」
 
 「そっか。 ……近い近い」
 
 「ふふふふ。 少しはドキドキしてくれる?」
 
 答えながら体を寄せて胸も押し当ててくるとか実に気持ち良……じゃなくてけしからん。
 顔ももう少しで頬に触れそうな距離まで近付いている。
 こういうタイプは意外と逆に攻めてみると弱い事が多いから攻めてみるか?
 
 「そんなに近付くと周りから誤解されるぞ?」
 
 近付いたセインの頬に触れ、そこから顎のラインまでをゆっくりと撫で、首筋まで指を這わせていく。
 
 「他人の意見なんて関係ないわ。 それに私は誤解されても構いません。 むしろ好都合です」
 
 うっすらと頬が朱に染まり、目に妖しい光が宿る。

 あ、ガチに危ない人かも知れない。
 手を出したら色々と危ない気がする。
 
 「セイン様ー! どこですかー! いい加減授業抜けるのは止めてください!」
 
 ナイスタイミング!
 いいタイミングで教員らしき人物が近付いてきていた。
 というかこの御嬢さんは頻繁に抜け出してるのか。
 
 「チッ……」
 
 「なんてお嬢様らしくない舌打ち」
 
 「……またお喋りでもしましょう。 二人っきりで」
 
 
 ベンチから立ち上がりヒラヒラと手を振って立ち去るセイン。
 
 最後に意味あり気に微笑んで去っていく。正直そこら辺の男より男らしく、そこらの女よりエロい気がしなくもない。
 
 一息ついた後、俺はリリアの元へと帰る事にした。
 
 
 
 
 
 「心配になるので抜け出すのはお止めくださいセイン様」
 
 「そうですね。 ……でも、ゼクトさんは本当に良い匂い。 ……うふふ、ふふふふふふふ」
 
 妖しく艶のある笑みを浮かべるセインを見て教員は背筋がゾクリと粟立つような感覚を覚える。
 普段から飄々とした人物ではあったが、今彼女が見せるその表情は今までとは明らかに違っていた。
 セインの細い指が先程ゼクトの触れた部分に沿って動く。
 ゼクトが触れた部分を愛でるように。
 
 「あぁ……欲しい。 あの人が欲しい。 どうすれば私のものになってくれるのかな? ねぇ……ゼクトさん」
 
 熱に浮かされたような、色気のある表情を浮かべ言葉を紡ぎゼクトと出会った時の事を思い出す。
 
 
 
 
 セイン・フェルガモートはとある事情を隠しながらも恙無く、のんびりと日々を過ごしていた。
 成績も優秀で容姿端麗。
 その性格は穏やかながらも自信に溢れ、老若男女を惑わす罪作りな女性だった。
 本気になれば間違いなくこの学園の中でも最強の部類に入る。
 そんな彼女は今まで本気で何かを欲しいと思ったことが無かった。必要であれば大概のものは簡単に手に入れる事も出来る。
 そんな彼女が中等生となってしばらくした頃。
 
 初年度生の使い魔召喚が行われ、人間が召喚されたと。
 夢魔のような悪魔などで人型が喚ばれる事はあっても、完全に人である存在が喚ばれた事はなくセインもその存在に少しだけ興味を持った。
 興味といっても一目見て「あぁこんなものか」と思う程度の筈だった。
 
 後輩で知己でもあるリリアがその使い魔の主ということで、セインは見せてもらえないかと頼んでみた。
 リリアは本人に聞いてみると言い、確認を取る。
 本来なら使い魔に確認など必要ないが、人である以上確認も必要なのだろうと思いセインは特に気にもしなかった。
 
 そして出会った時、衝撃という言葉では生温い感情が一気に彼女を襲った。
 そこまでの感情の波に襲われたことのない彼女から考えれば、この時表情に出なかったことは奇跡に近かった。
 
 「は、初めまして。 セイン・フェルガモートです」
 
 「これは御丁寧に。 ゼクトと申します。 どうぞお見知り置きを」
 
 「……ゼクト、さん……」
 
 一緒に来ていた取り巻きの女性達もゼクトと挨拶をしていたが、セインはそれどころではなかった。
 恐らく自分だけしか感じないであろう匂い。ともすればこのままゼクトを襲ってしまいかねないまでの暴力的なまでの甘露で濃密な。
 
 その時は挨拶だけを済ませ、セインは何とか乗りきった。
 だが、一人で部屋に戻るとセインはベッドに身を沈めその瞬間を思い出した。
 
 
 「……クフ。 クフフ……アハハハハハハ!!! スゴイスゴイスゴイスゴイ!!! なんなのアレは!!!」
 
 
 蕩けるような笑みを浮かべ、その男を思い出す。
 セインは自分が女だとは知っている。
 知っていたつもりだった。
 しかし女らしい感情など今まで感じたことはなかった。
 
 「あぁ……これが恋なのかしら……。 愛しくて愛しくて堪らない……。 あぁ……もし味わう事が出来たのなら私はどうなってしまうのかしら……」
 
 自らの身に宿る特性を知りながらも、今まで大したことはない衝動だった。
 故にコントロールも出来ていた。
 
 だが、そのコントロールを簡単に狂わせるものの出現にセインは歓喜している。
 本来ならこの学園にいるものに知られてはならない事であるというのに。
 
 セインは己が秘部に指を伸ばし、熱く濡れている事にさらにゾクゾクとした快感を覚えた。
 
 「……あぁ……あなたの血を私に……。 いえ、血だけなんて勿体無い。 ……あなたの綺麗な髪も! 綺麗な瞳も! その白い肌も指も鼻も口も腕も足も全部全部欲しい!!! あなたが欲しい!!!」
 
 自分の中で次から次に沸き上がる想いに身を焦がれ、そして歓喜する。
 始めて感じるその想いに。
 
 「絶対に私のモノにしてみせるわ。……ねぇゼクトさん」
 
 まるで粘性でもあるかのような言葉を熱い吐息と共に愛しいその男の名前も口にした。
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