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一話

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 西暦二千百年。
 人類の文明はその栄華をこれでもかと極めていき、ついには宇宙へと進出して火星へのテラフォーミングを実現させるなど躍進を続けていた。
 
 そんな世界においてとあるVRMMOが熱狂的な支持を得ていた。
 
 『リベラルファンタジア』
 
 キャラクリエイションの圧倒的な自由度やとてつもなく広大なマップ。
 システム周りの使いやすさや様々なジョブクラスでの多彩な戦闘とその爽快感。
 更にはペット育成やギルド等々楽しめる要素が非常に多く組み込まれた素晴らしいゲームだった。
 
 
 廃人クラスになるまでのめりこんでプレイする者も多く、全世界の人々がこのゲームに傾倒していた。
 
 そんな世界一のシェアを誇るリベラルファンタジアの中で、五剣《いつるぎ》と呼ばれる者達がいた。
 
 剣や刀などの刀剣類を使用するクラスの中で特に強いトップ五人の事で、いつの間にかその呼称が定着していた。
 
 そのうちの一人。
 侍のクラスで刀と苻術で戦う一人の男がいた。

 プレイヤー名をゼクト。
 
 
 二十代後半に見える端正な顔立ちの青年キャラで、白いシャツと黒のスラックスに濃紺の裾近くまであるマントを羽織っているのが特徴的だ。
 
 リベラルファンタジアのやり込み具合と課金の額が常軌を逸しており、またその強さも恐ろしいほどのプレイヤースキルで敵を圧倒する様は芸術的ですらある。
 
 十二人単位で挑むレイドボスと戦う時に最速記録を出したいという理由から武器を攻撃特化にし、防具も防御力を捨てて攻撃力に加算される物をつけて挑んでいた。
 
 普通ならその状態で挑めばボスの通常攻撃で一撃で殺されてパーティの御荷物状態になる。 他の人であれば間違いなくパーティーから蹴られて入れてもらえないか、ボスとの戦闘中蘇生してもらえないかのどちらかだ。
 場合によってはネットの掲示板に地雷プレイヤーとして晒される。
 
 ゼクトはレベルによる強さよりも、その超絶テクニックで戦っていた。
 
 敵の攻撃に対してタイミングよくガードするとダメージがゼロになりカウンターを発動するスキルがあった。
 
 ゼクトはそれを駆使し、敵の攻撃を全て回避とカウンターだけで対処していた。
 更には苻術によるバフやデバフも使い戦うその姿は悪魔そのものである。
 
 ゼクトは基本的にソロプレイヤーで大型クエストなどの時に募集に入る形式をとっていたが、ゼクトがパーティーに来たときは大抵の人が「ゼクトさん来たーーー!!!」となる程度には人気だった。
 
 
 これはそんなゼクトの物語である。
 
 
 
 
 
 「……黒鉄装備……だと……!?」
 
 俺は今猛烈に感動していた。
 新しく実装される予定の新装備である黒鉄シリーズ。
 その中にある黒鉄後光と名付けられた刀が非常に秀逸なデザインだったからだ。
 
 「しかも給料日の当日夜に実装とか分かってるじゃないか運営……。 物欲センサーさえ発動しなければきっといける」
 
 黒鉄シリーズはとあるボスからのドロップ品であるが、リベラルファンタジアというゲームはとにかくドロップ率が悪い。
 それはもう泣きたくなって泣いて、土下座して神頼みしたくなる程に悪い。
 たまに一発ドロップする豪運の持ち主がいるが、そういう奴は殴りたくなってしまうくらいだ。
 
 そんなドロップ率を上昇させるものが課金アイテム。
 
 ……そういう事さ。
 
 つまり課金してそのアイテムを使ってひたすらマラソンしないといけないのだ。
 
 「何日かかるかなぁ……。 今回の黒鉄後光は絶対に手に入れたいな」
 
 漆黒の鞘に銀の美しい装飾。
 抜き放たれた刀身には常に赤い光のラインが無軌道に輝き続けている。
 プロモーション映像ではその刀が振るわれる度に赤い残光が尾を引き、俺の心を鷲掴みにしてきた。
 まさに一目惚れである。
 攻撃力も高く、スキルを発動するのに必要なSP(スキルポイント)の八十%軽減と自動回復もついているという。
 正に壊れ性能。
 
 「くくくくく、絶対に手に入れてやるからな!!!」
 
  その日を楽しみにしつつ日々を過ごしていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「……心が……折れそうだ……」
 
 「ゼクトさんドンマイ。 性能が良いからか今回のドロップ率ヤバイね~」
 
 黒鉄後光を手に入れるため、課金アイテムを使ってドロップ率を上昇させてからはや二ヶ月。
 
 空いた時間を使って毎日定時にあるイベントクエストに参加し、黒鉄シリーズをドロップするモンスターである黒龍ヴェルデガンドを狩り続けた。
 挑戦当初は倒すのに二十分近くかかっていたが、今では十分以内で倒せるほどに慣れた。
 
 「他の黒鉄シリーズは手に入ったのにどうして後光だけ出ないんだ……」
 
 「確かにそうね~。 というか他のプレイヤーからも後光が出たって話は聞いたことないね。 ……実は不具合で確率ゼロだったりして」
 
 「やめろ、その言葉は俺に効く」
 
 もし、そうだったら運営に慰謝料請求してやる。
 ドロップ率アップの課金アイテムにいくら使ったと思ってる。
 
 疲れたのでその場に座り込むと今話していた相手も隣に座ってきた。
 
 彼女は猫姫さん。
 蒼銀の美しいロングヘアーに黒いドレス姿の美女である。
 切れ長の目に余裕のある表情のせいか御姉さん系の人だ。ターコイズブルーの瞳が特に綺麗。
 アバターだから本物の容姿は知らないけど、中身は間違いなく女性である。
 
 猫姫さんはフレンドで五剣の一人でもあり、今回の黒鉄シリーズマラソンを手伝ってくれている人だ。 こんな苦行を手伝ってくれるあたり超優しいと思う。
 
 「ふふふ。 まぁ今日はイベント終わりだし、また明日かな?」
 
 「そうだな。 本当に物欲センサーの壊し方が知りたい」
 
 「それは私も知りたいよ」
 
 他愛ない話で盛り上がった後、姫猫さんは帰っていった。
 今日は両親と外食らしい。
 なんとも羨ましい話だ。
 俺も少し休んだら飯でも作るか。
 
 メニューアイコンを開いて帰還用アイテムを使おうとすると、Newアイテムの欄にチェックがついていた。
 
 「あれ? 新しいのは手にいれてない筈だけど」
 
 確認してみると黒鉄後光というアイテムを手に入れていた。
 
 「なんだ黒鉄後光…………。 はぁ? はぁぁぁぁ!?」
 
 なんだこれ!?
 ドロップしてないじゃん!?
 なんで手に入れてんの!?
 
 興奮しつつアイテムを見ると概要欄にこう書かれていた。
 
 『※黒龍を五百体討伐した報酬です』
 
 ………………マジかよ。
 そういうのはちゃんとアナウンスしろよ。
 入手条件ドロップじゃないとか………。
 しかも五百体討伐とかただの廃人使用じゃないか。俺みたいなやつでないと手に入れれる訳ないだろ。
 
 「……まぁでもいいか。 手に入ったんだしな! ぃぃよっしゃぁぁぁ!!!」
 
 とりあえず飯くってその後に黒鉄後光の使い勝手を見てみないとな。
 試し切りが楽しみだぜ。
 
 ダンジョンから出るアイテムを使い、ホームへと帰還しようとしたその時。
 
 「ん? バグか?」
 
 一瞬ノイズが走ったかと思った瞬間、転送された。
 テクスチャーのバグか?
 珍しいな。
 リベラルファンタジアの運営は優秀な人が多いのか、基本的にバグなどのトラブルや不具合報告が非常に少ない。
 テクスチャーバグなんて聞いたこともないくらいだ。
 
 
 
 
 ホームへと帰還したと思った俺が最初に見たのは、この世のものとは思えないほどの美女だった。
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