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九十七話

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 ※教えられるまで百話到達していた事に気づいていないぺすさんです(*´∀`*)
 いやー……百話かぁ……ははっ(*´ノ∀`*)w






 レーゲンスファル王宮から少し離れた場所に兵士達の宿舎と訓練場がある。
 王宮の景観を壊さないように配慮された場所に造られたものだが、利用者からは不評も多い。
 王宮からの移動が面倒だからだ。
 とはいえ近くに設置する訳にはいかないと皆分かっているので諦められている。

 中は広大で部隊編成規模の演習でも余裕で実施できる広さだ。大規模な魔法の使用にも耐えうる構造になっていると噂である。
 
 そんな訓練場の一角。二人の人物が対峙していた。
 ハーフプレートアーマーに、うっすらと赤く輝くロングソードを持ったレーゲンスファル最強の騎士イグニスがいた。

 
 そしてもう一人はゼット。
 貴族服は脱ぎ捨て、魔法使いなどが好むような外套を羽織、中にはピッチりとした黒いボディスーツを着込んでいる。
 手には槍とも杖ともつかない謎の武器を手にしている。

 「手合わせ、感謝する」

 「いえいえ、お気になさらず。 あの時は貴方も油断していたでしょうから、今回はきちんと全力をだしてみてください。 まぁ」

 あくまでにこやかな挨拶を交わす二人。
 だが、次の瞬間ゼットの気の質が変わる。

 「全力で来てくれないと……殺しちゃうかとしれませんけどね」

 先程の人物と同じ人物とは到底思えないような彼の表情に、危険なものを感じたイグニスは一足飛びに下がり剣を抜く。
 ゼットはその動きを見ても特に反応はしない。
 イグニスは瞬間、不味いと判断する。

 今のゼクトは少なくとも中距離型の武器を手にしている。
 そんな相手に距離を取ってしまっては間合いの調整ができない。

 直ぐ様構えを取り、ゼットに狙いを定めるイグニス。

 「……風穿ち!」

 その名の通り風、いや空間そのものに穴を開けるのではと錯覚させられるような鋭く速い一撃がゼットの胸を目掛けて放たれる。
 ゼットはと言えば見ているだけである。 
 ギリギリになっても動こうとしないゼット。

 これなら先手でいい一撃を与えられる。

 そう思ったイグニスだったが、その剣の鋒は不可視の壁によって遮られる。
 肉眼で捉えるのも難しいほどの薄く淡い光がイグニスの攻撃を遮ったのだ。
 それに気づいたイグニスは流れに逆らい強引に剣を引き抜き、上段から全膂力をもって障壁に叩きつける。

 「ぬぅあああああ!」

 叩きつけた衝撃波で広い訓練場内が一瞬揺れた。
 それほどまでに強い一撃をもって尚、ゼットの障壁は揺れもしない。

 「どうですか私の魔法障壁は? 貫けそうですか?」

 「ふん……ぶち抜いてやるさ」

 「なるほど。 では受けるだけも芸がないのでこちらもいきますよ。 『トリプルスペル・ファーストトリガー・フレア』」

 ゼットの手に掌大の小さい、しかし複雑な紋様を描く魔法陣が形成される。
 この位置ではまずいと判断したゼットは一瞬にしてその場を離れる。
 同時にゼットの魔方陣から三つの火球が飛び出し、複雑な軌道を描きながらイグニスへと向かう。
 その速度は普通の魔法使いが使うようなものよりも更に速い火球で、イグニスはなんとか二つを避けきるが一つは避けきれず剣で切り払う。向かってくる魔法を切り払うという芸当でそれだけでも十分にイグニスの強さがわかる。
 そんなイグニスの耳にゼクトの言葉が届く。

 『トリプルスペル・セカンドトリガー・フレイムピラー』

 何があるかは分からないが、距離を取っている以上対処出来る。そう踏んでいたイグニスだが、自分の足元から不穏な気配を感じ反射的に身を投げ出す。
 次の瞬間赤々とした炎が屹立する柱となって天をも焦がすような勢いで立ち上った。
 その場にいれば間違いなく巻き込まれて焼死するレベルだ。

 そんな魔法をしっかりと避けきったイグニス。
 反撃に移ろうとして、さらにゼットの言葉が耳に届く。

 『トリプルスペル・ファイナルトリガー・イフリートキャリバー』

 ゼットが腕を水平に伸ばす。
 すると腕に炎が巻き付き、みるみるうちに巨大な大剣の如く形を変える。
 その炎は白色化しており、通常の炎よりも危険を感じるものだ。

 「あ、一応言っておきますが、防御出来るようなものではないので。 逃げるか何かしら対策はしてくださいね」

 ゼットがこれから行う残虐行為の割りには非常にいい笑顔で炎の剣を振り下ろす。

 構えるイグニス。
 受ければ死。
 避けきれなければ死。
 こちらからの攻撃で打ち消そうにも、打ち負けて死。
 手詰まりの状態でもあるこの状況。
 どうするか。
 たった数瞬の間にイグニスの出した答えは単純で……恐ろしいものだった。

 彼は前に出た。

 イグニスには何故かは分からなかったが、ゼットは剣で勝負に来ていない。
 どちらが得意なのかは不明だが、少なくとも剣でない以上戦いかたはある。
 イグニスは自分が殺された時の事を思い出す。
 なにも出来ず、気付く事も出来ずに首を落とされた。
 しかし今は違う。今は敵の攻撃が見えている。
 ならばやれることはある。

 (そうだ……あの時とは違う!)

 勇ある一歩で死の恐怖を乗り越え、突貫するイグニス。
 振り下ろされる巨大な炎剣はかなり巨大で横にも広いが、その分入り込めば隙も大きい。
 一か八かの賭けにでたイグニス。

 「うおぉぉぉぉぉ!」

 自らの剣を盾代わりに滑るように受けながら、ギリギリまで接近するイグニス。
 彼の手は剣から伝わる熱で火傷し、剣そのものも溶解していた。
 それでもそれを乗り越えた彼の前に勝機があった。

 ゼットを相手に魔法を避けてギリギリまで接近したイグニス。
 残された武器は己の拳のみである。
 だがアドレナリンの作用によるものか、興奮状態にあるイグニスは迷う事なくその拳をゼットに叩き付ける。
 しかし…………。

 『ディレイスペル発動。 シャドウバインド』

 イグニスの背後から急速に影が触手のように伸びて彼の腕や身体、脚を絡めとり自由を奪う。
 その力は凄まじく、どれだけの力をこめようともびくともしないものだった。
 
 『ストックスペル発動。 シャドウセイバー』

 影が剣を型どり、十もの剣がイグニスを覆っている。

 「これは…………完敗だな。 まさか魔法で戦いが本職なのか?」

 「いえ。 本来はサムライで刀ばかり使ってますがたまには別の戦いかたもしてみようかと思いまして。 それにしても最初のトリプルスペルを突破するとは。 大体の敵はアレで死ぬんですがよく避けきりましたね」

 「必死だったからな。 いや、いい経験になった。 どちらにしろ君の障壁を突破出来るようにならないとな」

 「その時を楽しみにしていますよ」

 「今日はありがとう。 またよろしく頼む」

 「ええ、喜んで」

 イグニスとゼットがいい笑顔で握手を交わし、いつのまにか集まっていたギャラリー達はその光景に圧倒されながらも、健闘した二人に惜しみ無い拍手が贈られた。

 戦いを志すもの、身を置くもの達であれば先程の戦いが如何にハイレベルなものなのかは十分にわかる。
 魔法の発動をしたほうもそうだが、魔法を完全に避けきってくる相手など、実際に対峙した魔法使いからすれば厄介なことこの上ない存在だ。

 普通に生きていれば間違いなく見ることのできない極上の手合わせに見ていたもの達から惜しみ無い称賛の拍手がいつまでも続いていた。







 模擬戦も終わり、通された部屋のラウンジで休むことになった。

 「…………ゼットさん……」

 「あ、はい。 なんでしょうかリリネア様」

 感動的にも見える素晴らしい御指導をしたあと。
 俺も久しぶりに別クラスで遊べたので楽しかったのだが、なぜかリリア……じゃないリリネア様に捕まってしまった。

 「もう……いちおう視察で来てるんですから大人し目の魔法でチャチャッとやってくださいよぉ。 ゼットさんなら出来るじゃないですか」

 「いやぁ……でもゼクトとして来ているわけでもないので多少は見せ場がないとですね。 あぁでも……あのイグニスさんは良いですねぇ。 恐怖に打ち勝ち前に進めるあの心の強さは決して簡単に手にはいるものではありません。 いっそ……ぬふ」

 「うわぁぁぁ! ゼットさんが気持ち悪い声で笑いましたよ!?」

 「気持ち悪いとは失礼なリリネア様。 ちょっと邪な事を考えただけじゃないですか」

 「いや、絶対ちょっとじゃないですよね!?」

 いやいやちょっとだよ。
 引き抜きたいとは思うけど。
 ただそれよりエイワスにとっては良い見本かもしれない。
 あいつに鍛練をつけているのは俺かミソラだからな。
 身近にいる連中だとどうしても気が引けてしまう部分もあるが、こういう相手なら全力をもって戦える分気兼ねなくやれるだろう。今度相談しないと。

 「ぬっふっふっふ。 リリア様にはなにもないので大丈夫ですよ。 それとも残念でした?」

 「いえ、まったく。  むしろ安心しました。 ……あ、でも一つ聞きたいんですけど、ゼットさんの魔法変じゃなかったですか? 魔方陣は一つなのに発動した魔法は三つだったじゃないですか。 今さらゼットさんの扱うものに疑問を持つのも変ですけど、今までの非常識と比べるとかなり私達よりだったのでちょっと気になっちゃいました」

 うーん。
 言いたい事は分かるけど、最近は本当に遠慮が無くなったなリリアさんや。誰が非常識ですたい。

 「あれはスキルなんで口で説明するのは難しいんですけど……うーん……魔法陣を三つ並べて陣を再構築して段階的に撃てるようにしてるんですけど……」


 「へー! ただ三つ重ねただけだと術式の邪魔をしそうですけど、そんな事も出来るんですね」

 ん?あぁそう言うことか。
 トリプルスペルは三つの魔方陣を並べてその間に直列させた術式があるだけだが、どうも三つの魔方陣そのものを合体させていると思っているのかもしれない。

 「リリネア様には見せればわかるかもしれませんね。 『トリプルスペル』」

 リリアにも見えるように掌の上にトリプルスペルを発動する。
 三つの魔方陣を繋ぐための土台、といえばいいだろうか。
 この土台にそれぞれ順番に必要な魔方陣を順番にセットさせて選ぶのである。
 ディレイスペルやストックスペルは待機時間もゴリゴリと魔力を削ってくるが、トリプルスペルはそんな事はないのでリベラルファンタジアのクラスである魔導士ではポピュラーな戦いかたである。
 一度魔導士のクラスレベルをあげるために嵌まっていた時期もあったが、そのときは今回のような温い魔法三発ではなく、一発目で敵の耐性を下げて二発目でこちらにバフをかけて三発目に止めの中級ながら速攻型で大威力の魔法をぶちこむのが一つのルーチンになっていた。

 「ふむぅ……トリプルスペルですかぁ。 私もレベルだけは高いですけど、その割りには経験が少なすぎるので困っていたのでこういうのは勉強になります。 ちょっと練習しないと……」

 「リリア様ならたぶんレベル的にもトリプルスペルくらいは出来る気がするんですよね」

 ここの技術力とリベラルファンタジア内での技術力に天と地の差があったとしても流石にこれくらいはいける……はずだと思う。

 「うーん……イメージはなんとなく分かったんで……あ、いけるかも」

 「ほぁっ?」

 予想外の言葉にゼクトさん……あ、違ったゼットさんは変な声を出してしまいましたよ?
 いけるかもとな?ポンコツリリアちゃんが?

 「『トリプルスペル!』………あっ! あー……これ展開したらすぐに使う魔方陣を追加しないと維持出来ないですねー」

 「…………天才であったか……さすがリリア様」

 ついつい名前で読んじゃったけど、まさか一発でやるとは。嘘だろう。
 こっちはリベラルファンタジアでの経験とイメージがあったりするからやりやすいだけで、リリアは自分の脳内だけでそれを処理しているんだよな。
 凄まじいなうちのご主人様。流石はレベル百五十台突破だけはある。

 「ふっふっふーん。 もっと褒めても良いんですよゼットさん」

 「最高に可愛くてスタイルもよくて優しくて包容力もあって悪戯っ子なゼットさんを受け止めてくれるリリネアさん本当にスゴいです!」

 「あぁぁう!? そこまでいくと恥ずかしいですよぅ!?」

 「まったく……誰にも渡したくないくらいに最高の私の恋人です」

 「やだゼクトさん……」

 ちょっとぶさけ半分真面目半分で言ってみたらリリアさんうるうるになってしまった。
 うちのリリアさんにはもう少し称賛に対する耐性をつけて欲しいものだ。
 リリア……じゃなくてリリネアさんは恥ずかしそうに袖をつかんできて上目遣いで、少し潤んだ瞳でこちらを見上げてきた。
 これは紳士として答えないわけにはいかないが……恋人宣言からゼクトさんはちょっと甘やかしすぎなんじゃなかろうかとドキドキしている。
 だが、それでもそれを不快に思わないのだから不思議なものだと思う。

 これがきっと……


 恋、なのだろうか……













 ※甘ーーーーーーーーげほっげほっ! 甘ーーーーーーーーーーーーーーーいでござるなぁ(*´∀`*)
 せっかく百話更新したという事で近いうちに百話突破記念の何かを作る……………………かもしれません(*´ノ∀`*)
 その時に百話記念の挨拶もぶちこみます(人*´∀`)
 
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