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八十六話
しおりを挟む※三千字を消失させてしまった時……ぺすさんはあまりのショックに変な声をだしてしまった……( °Д°)ホアッ!?
王都リクシアから東。
リクシアの騒動が起きてからしばらく経ったころ。
ダークエルフの谷に向けて疾走する四つの影があった。
谷に向かう道は舗装されておらず、走って移動するには適さない道であるが、そんな環境でありながらも信じられない速度で影は移動している。
普通に歩けばかなりの時間を要する距離をもう半分手前まで走破している。
「カーラ様。 谷の者達は無事でしょうか……」
「分からない。 封印が破壊されたって事は谷の深くまで侵入されたって事だろうね。 無理に抗わずに逃げてくれてると良いんだけど」
「谷の者達は精強な者ばかりだぞ姉上。 引き際もきっと見定めておるであろう。 …………封を破られた以上、最早秘密にすることもないと思うのだが……あの封印は結局何を封じておったのだ姉上?」
「悪魔としか言っていなかったから、知らない者が多いか。 そうだな……破られてしまった以上隠す必要も無いな。 これは五百年前の話だ」
カーラは速度を緩める事なく、ゆっくりと語り始めた。
五百年前。
とある男が三人の悪魔を従えてこの世界に現れた。
男は自らを異邦人と名乗り、現れた当初は周囲に溶け込むように生活していた。
しかし男はこの世界で自らが強者であると知ると態度を一変させ、力で支配を始めたという。
男は三人の悪魔を従え、この世界で欲望のままに暴虐の限りを尽くした。
このままでは世界は滅ぶと判断し、解決の為にヒトや魔族は手を取り合い永い時間をかけて男や悪魔達を封印したという。
正確に言えば男は寿命で力尽き、主人が逝去して弱った所を当時の者達が幾人もの犠牲の上に赤と黒の悪魔の封印を施して今に至るという。
三人の悪魔のうち、白の悪魔は主人が死んだ後に姿を消し行方は分かっていないという。
赤の悪魔は現在のベルトラントに、黒の悪魔はダークエルフの谷にそれぞれ封印された。
「そんな事が……しかしなぜ今になって封印を破ろうなどと。 それにダークエルフ以外があの谷の魔素に耐えられるとは思えませんが」
「さぁな。 ただ私の不在の時を狙うとは……敵はこちらを監視していたんだろうな。 これは完全に私のミスだ。 悔やんでも悔やみきれんな」
永い間、谷を護り続けていたカーラの油断……とも言えるが彼女に責があるとは誰も思ってはいない。
彼女が里のために尽くしてきた時間や今までの功績を考えればむしろそんなものは失態ですらない。
族長になり三百年という時を護り続けてきた彼女を責められる者などいる筈がないのである。
それでもカーラの自責の念は消えない。
「ぬはははははは! どうやら姉上も世代交代の時のようだ! 我が族長を継ぐ時が来たのであろう!」
「ガーチ様が族長なら私は何の憂いもなく谷を出れますね! もしかしたら谷が無くなるかも……」
「キリネア殿……ゼクト殿に会ってから我に対する当たりがキツくなってきておらぬか?」
「気のせいですよ。 うふふふふふ」
「…………ふっ。 まだお前のような未熟者に長の座を渡す気はないぞ」
二人のやり取りを見て頬を緩ませるカーラ。
雰囲気を変えようとしてくれているのが分かる二人のやり取りに感謝しつつカーラは思う。
どうか……里の者達が無理をしていないように、と。
やぁ、皆大好きゼクトさんだよ。
ライノルトの楽しい人体逆再生を観賞したあと。
レイブンを呼び出して待つ間に、折角なのでテアトリスから話を聞くことにした。
「そう言えば貴女の弟さんはどこで人質になっているんですか? 流石にこの国には連れてきてないでしょう?」
「ああ。 国の方で囚われている。 ……たぶんお前達に勝てないのだろうから、弟の救出はこちらが落ち着いてからでいい」
「おや、素直というか諦めがいいですね。 良いんですか?」
「助けてくれるのだろう? タ・ダ・で☆。 ……これ恥ずかしいな」
ウィンクしながら真似をしたテアトリス。やった後に恥ずかしそうにしているが、騎士然としたお堅い人かと思っていたが意外とお茶目でノリがいいな。
そんな姿を見たリリアさんが最高に不機嫌そうな笑顔を向けている。別に俺がやったわけじゃないんだけどなー。
「勿論です。 折角なので貴女にはうちの国に引き抜かせてもらいますけどね。 ベルトラントより待遇も保証しますよ。 たぶん……陛下が……たぶん」
「なんでそんな自信無さそうなんっ!? なんだ!」
そんな話しをしていると、部屋の一角に光が溢れレイブンが姿を見せる。
「お待たせしました。 すぐに転移されますか?」
優雅な仕草で一礼し、姿を見せたレイブン。
いちいち様になってて格好いいなこいつ。
俺よりも執事っぽい気がしなくも……いやいや、そんな事はないはず。ゼクトさん負けませんからな。
「そうしましょうか。 テアトリスさんは……邪魔になりそうなので、リリア様と一緒にここに残ってもらいましょうか」
「え! 私残っていいんですか!? いつもだったら無理矢理連れていくのに!?」
「何ですか、連れていかれたかったんですか? 仕方無い。 じゃあ連れていきますね」
「あ、ちちち、違うんですー! の、残れて嬉しいなーアハハハ!」
「ちなみに残るならそこのライノルトさんを見張らないといけませんけどね」
「あ、やっぱり行きます。 行かせてくださいお願いします!」
ライノルトの見張りと聞いた瞬間、一瞬にして表情と態度を変えるリリア。
秒で態度を変えるあたりリリアのライノルトに対する嫌悪がよく分かる。
「えー残れて嬉しいんですよねー?」
「違うんですー! ちょっと面倒だなー、とかまたヤバそうなヒトに出くわすのかなーなんて考えてません! なので連れていってください!」
「……いじろうと思ったのに素直な感想と必死さが表に出すぎててちょっとやる気が削がれました。 じゃあ行きましょうか。 レイブン、狙った相手の場所に直接転移とか出来ますか?」
「流石にそれは無理ですね。 相手がどこにいるか分かれば直接そこに転移出来ますが」
「かなりの速度で移動中らしいので難しいですね……。 ルベドとやらの狙いがダークエルフの谷にあるのであれば、そっちに移動している可能性が高いですね。 じゃあダークエルフの谷に向かいましょう。 テアトリスさん」
「うむ。 なんだ?」
「そこのライノルト殿下をよろしくお願いしますね。 貴女がここで魅了されると面倒なので……えっと……あ、これだ。 こちらのネックレスを付けておいてください。 大概の状態異常はレジストできるので」
リベラルファンタジアで状態異常が面倒な相手によく使っていたレジスト能力を高めるネックレスだ。
少なくともテアトリスがライノルトよりもレベルが低いという事はないだろうし、これで大丈夫だろう。
ここでライノルトがまた自由になったら面倒くさいしな。
「……綺麗だな……」
渡したネックレスを嬉しそうに見ている。
確かに装飾はかなり凝っているもんな。
美しい花束をモチーフにしたネックレスだ。
ただの装飾品としても価値は高いだろう。売ればいくらだろうか。
リベラルファンタジア内はこういう装飾品は売ればゴミみたいな値段だけど。
……よくよく考えればゲームだから仕方無いけど、あの世界もおかしいな。
課金アイテムのコスチュームなんかはゲーム内通過でかなりの額で取引されて、ドロップ系のちょっと強い武器や防具はショボい値段で売られるからな。
武器より大概の衣類の方が高い世界。
…………だいぶ変な世界だ。
「あぁ……またゼクトさんが女のヒトを落とそうと……」
おおっと、リリアさんから何やら恐ろしい視線が飛んできてますなー。
なんだか背筋がゾクゾクしちゃいますな。
「違いますよー。 誤解しないでくださいねーリリア様」
「…………あんまり他の女のヒトに優しくしすぎないでくださいね?」
「……分かりました。 以降、気を付けます」
うちのご主人様は甘えん坊というべきか、独占欲が強いと思うべきなのか。
正直拗ねてる感じも可愛くて悪くない。
「あ、あのぅ……差し出がましいかもしれませんが、そろそろ……行きますか?」
「あ、忘れてました。 じゃあ行きましょうか。 テアトリスさん、後はよろしくお願いしますね。 ……このままだとテアトリスさんも疑われますかね? もしテアトリスさんも説明して通じなかった時は陛下にゼクトが『紳士に栄光あれ』と言っていたと話せば伝わりますので」
「わ、分かった。 ……紳士?」
紳士の集いの事を知っているヒトは少ないからな。これを言えば間違いなくゴードには伝わる。
「そう、紳士です。 じゃあ行きましょうか」
準備万端のレイブンに声をかけ、リリアと共に転移に移る。
しかし……今回の王都での出来事はかなり大規模なものだ。友誼に厚いダークエルフ、というよりガチムチさんやキリネアさんがこういう事態を放っておいて別の案件で動くとは考えにくい。
つまり、ダークエルフの谷を襲われる、若しくはダークエルフの谷にある何かは王都を攻められるよりも重要な案件だという事だ。
何が出てくるのか……少し楽しみ、と思うのは不謹慎かな。
※ちょっと長くなりそうなので一旦ここで区切り(*つ´・∀・)つ!
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