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六十六話

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 ※最近のおふざけがそろそろ怒られるんじゃなかろうかとドキドキなぺすさんです(;´・ω・)
 他の作家さんの作品をあんまり見ないけど、皆こんなもんよね(*´ω`*)?




 

 学園長との面談を終えて学内の休憩所にて三人で軽食を取っていると、ミソラとアカネとルリアがこちらに向かってきた。
 面談の最中は退屈だろうから二人に遊び相手をお願いしていたのだが……。

 遠目に見ても何というかあの三人かなり仲良くなっているような気がするな。
 あのルリアの天然オーラの前にはあの二人ですら陥落するのか。
 ……恐るべし。

 「あ、アリアお姉ちゃん、リリアお姉ちゃん! お話は終わったー?」

 「ええ。 ばっちりリリアの恥ずかしい話も聞いてきたわ」

 「えー何々? 気になるー」

 「……お姉ちゃん?」

 「うふふ。 冗談よ。 アカネさんもミソラさんもこの子の面倒を見て頂いてありがとうございました」

 「きにしないでいい。 わたしもたのしかった」

 「妾も非常に楽しめましたわ。 ルリアならいつでも歓迎いたしますわ」

 おぉぉぉぉぉ…………この二人にここまで言わせるとはルリア一体何者だ!
 リリアも驚きのあまり固まっている。

 「うそ……ルリアの方が私より打ち解けてるなんて……」

 その光景に誰よりショックを受けるリリア。
 まぁ立ち位置がリリアは恋のライバルみたいなもので、ルリアは可愛い妹ポジションみたいなものだから仕方ない気もするな。
 
 「うふふふ。 人徳の差かしらね」

 「おねえちゃん酷いよ!? 流石に私もそれは傷つくからね!?」

 酷い追い打ちをかけたなアリア。
 そんな事を考えていると、かすかに何か叫ぶような声が聞こえた気がした。
 学園内であるためバカ騒ぎをしている者も多いが、それよりももっと切迫したような声だ。

 聞こえたのは俺だけじゃなかったようで、リリアとアカネ、ミソラも揃って声の方向に目を向ける。
 
 「今の……ゼクトさん達も聞こえました?」

 「ええ。 ちょっと緊急事態そうですね。 万が一の時のためにリリア様とアカネはここに残って二人を守って下さい。 私とミソラで様子を見てきます」

 「いまのこえ……」

 普段なら目の前で人が叫んでいても気にしないミソラが、妙に顔を顰めている。
 何かあったのか?

 「どうしたミソラ?」

 「しりあいかもしれない。 ちょっとだけはなしたあいてだけど……。 いそごうますたー」

 「……ああ。 アカネ、お前なら大丈夫だろうけど、しっかり守れよ」

 「心得ておりますわ。 ご主人様もお気をつけて」

 
 これでこっちは安心だな。
 ミソラと視線を交わして、声の方向へと一気に走り出す。
 少し離れているが、これなら一分もあれば到着するだろう。

 面倒なので学園の壁を飛び越えて裏路地に抜けて走る事四十秒。

 思ったよりもその現場は近かった。

 「……これは」

 「子供を相手にやることが中々にえぐいな」


 到着した現場では両足を切断され、首を剣で貫かれた子供の死体があった。
 両足が少し離れた所に落ちており、少しずつ血が垂れている所をみるとまだ新しい。
 
 「……このこしってる。 ぎるどでわたしのおかねをぬすんだはんにんをみたこ。 うけつけのひとがアリンとよんでた」

 「そうか……。 ん? お金を盗まれたのか?」

 「たいしたがくでもないからするーしてた。 てへっ」

 「いやまぁ、それならいいけど。 取りあえず蘇生させてやろう。 このまま放っておくのも可哀想だからな」

 「はーい」

 ミソラが蘇生を始めるが……こんな子供を狙うなんてなかなかに心根の腐った奴だな。
 俺も大概人の事は言えない立場だし、同じような事をやっていたから批判できる権利もないが。

 殺し方がタチが悪い。

 こんな子供なら一瞬で殺してやればいいのに、わざわざ足を斬り落として更に喉を貫いている。
 喉の中心に突き刺しているだけで、外頚静脈なんかは傷つけていないところを見ると、死因は出血死だろうが、死ぬまでの間に息を吸う事が出来ないという苦しみも味わったはずだ。

 少しの間だとしても苦しみながら死なせるのはかなりタチが悪い。
 この子供に相当な恨みでもあったのか?

 「ん、なにこれ?」

 考え込んでいると、ミソラが声をあげる。見るとミソラの足元に妙な魔方陣が浮き上がっていた。
 リベラルファンタジアでも見た事がある、転移術式の方陣だ。

 「ミソラ! さがれ!」

 「だめ、いまうごくとそせいがとぎれる」

 離れて改めて蘇生を行えばいいだろうと口にしようとして思いとどまる。
 普段のミソラと違い顔に罪悪感のような表情が浮かんでいた。

 「……それは転移術式だ。 お前なら大丈夫とは思うが……必ず見つけて迎えにいく」

 「むふふふふ。 とらわれのおひめさまもわるくない。 じりきでもどるとおもうけど」

 罪悪感の表情に伝えるべき言葉を失い、ため息をついてそう伝える。
 囚われの御姫様は流石に似合わんがな。
 蘇生が終わるその瞬間に転移が発動し、ミソラの姿は光と共に空中に溶けていった。

 「…………ホームに戻ってフィールドサーチのアイテムを取りに行くか。 どれほど離れたかは分からないが」

 しかしミソラを狙ったのか……? 蘇生の方法欲しさだとしたら、誰がやったのか。
 相手が分かりにくいがこの少年なら何かしら覚えてるかもしれないな。
 そう言えばこの子が盗難の犯人を知っているとか言っていたな。
 そいつがミソラを転移で誘拐?
 いやそもそも転移が使えるようなレベル帯のやつが盗難なんぞやらないといけない程に金に困るのか?

 ……どうも腑に落ちないな。

 この少年が何かしら知っているかもしれないし、取り合えず運ぶか。

 
 しかし犯人……大丈夫かなぁ?
 この世界のレベル水準だと戦闘状態に入ったミソラの相手ってほぼ無理だと思うけど。

 

 ミソラを攫った相手に勿論怒りはあるが、少しだけ同情もしてしまう。








 「ここは……どこ?」

 光に包まれたあと、ミソラが目を開けるとそこは豪奢な造りの謁見の間のような場所だった。
 金銀をこれでもかとふんだんに使った趣味の悪い調度品や床。
 奥には玉座のような場所があり、そこにふんぞり返って座る魔族が一人。

 「よくやったレイブン。 そしてこんな形で誘って申し訳ないな。 邪神様よ」

 「じゃしんさま?」

 ミソラはこの青白い男が何を言っているのか意味が分からなかった。
 突然転移で移動させられたのだから分かるはずもない。

 「まずは自己紹介を。 俺はグラネス。 真祖の吸血鬼だ。 あんたを連れて来たのはレイブン」

 「突然の事に驚きかと思いますが、このような手段を取ってしまった事をお詫びします」

 「…………それはいい。 それでわたしになんのよう?」

 真祖の吸血鬼を名乗った男は銀髪に真っ青な肌が妙に目に付く男だ。
 レイブンと呼ばれた男は黒い髪にこちらも真っ青な肌をしている。
 
 グラネスは玉座に座ったまま、ミソラの方をじっと見つめている。

 「なぁ……なんで邪神様が使い魔なんてやってんだ?」

 「よばれたから。 それだけ」

 「はっ……。 じゃあ俺がそれを解いてやるよ」

 グラネスはそう言うと、指を鳴らす。
 すると一人のメイドが老人を一人連れて来た。
 老人は酷く怯えた様子でグラネスの方を見ている。

 「この爺はフォームランドの魔法使いでな。 使い魔の契約を破棄出来る術式を扱えるんだよ。 これで邪神様も自由の身だぜ? おい、やれ」

 「ひっひぃぃぃぃ! か、彼の者の魂の束縛を解放せよ! アンリーシュ!」

 薄っすらとした淡い光がミソラを包み、そして砕け散る。
 その反応に首をかしげるグラネス。

 「おい。 妙な反応したぞ。 失敗か?」

 「い、いえ。 今のは契約を行っていない者に使用した時に起きる反応です! け、けけ、決して失敗ではございません!」

 「…………どういうことだ?」

 「そもそもけいやくなんてしてない。 わたしはますたーのせいどれい。 ただそれだけ」

 ミソラの言葉に一瞬三人とも言葉を失い、そして考える。
 せいどれい?

 「つ、つまり邪神様はあの女に契約で縛られているわけではなく……ご自分から従っている……という事でしょうか?」

 レイブンが何とか絞り出すように声をかける。
 信じがたいその言葉を何とか否定したいレイブン。
 もしミソラが本当に契約に縛られずに人間に付き従っているのなら、この行為はただただ邪神と思われる相手を不機嫌にさせているだけなのだから。
 

 「うむり。 ところでかくにん。 あのこどもをころしたのはあなた? わたしをつれてくるために?」

 「は、はい。 その通りです」

 ミソラは指を指して確認し、次に指を動かしてグラネスへと向ける。

 「そしてめいれいしたのはあなた? わたしをつれていくけいかくはあなたひとりのもの?」

 「ちげーよ。 あぁいや計画したのは俺だ。 だが邪神様を顕現させようとしているのは六魔人の総意だ」

 「ろくまじん?」

 聞きなれない言葉に首をかしげるミソラ。
 人間の世界で過ごしているため聞きなれないのも仕方のない事である。
 
 六魔人とは筆頭たるヴァーディクトを中心に邪神を復活させる事を目的とした実力者達の事である。
 いずれもレベルが百二十を超える大物達である。

 「まぁ魔族のトップみたいなもんだ。 邪神様は契約じゃなく自分の意思でいるってことは人間に味方すんのか
?」

 「べつに。 りりあ様やますたーがまぞくをてきとみなすならてき。 みかたとおもうならみかた」

 「つまりそっちを口説かないとダメなのか」
 
 「申し訳ありません。 私の情報収集不足でした」

 「それより。 そのろくまじんとかいうのあつめられる?」

 「あいつらを? ……あぁいや、俺が見つけたってことにするだけでも功績にはなるか。 いいぜ、ちょっと待ってろ。 レイブン、あいつらをリーンスレイブの王城に集めろ」

 「了解しました。 しばしお待ちを」

 まだすぐに仲間にするのは難しそうではあるが、光明はあると感じているグラネス。
 自分の功績になると確信し、他の者達よりも自分は優れているという優越感に浸り、グラネスは気付かない。

 基本的に無表情なミソラが小さく、しかし禍々しい笑みを浮かべている事に。













 その後、グラネスとレイブンが連絡をつけリーンスレイブの王城に他の五人の魔族が集められていた。

 全身鎧に身をつつむヴァーディクトは最初に話を聞いたときに、まさかと思っていた。
 本来なら器はまだ完成していないはずだというのに既に邪神様が顕現しているなどと。
 しかしグラネスの報告であがった蒼いオーラや触手をあつかう様子を聞き、信憑性が高まった。

 故にヴァーディクトは緊急集会を行う事を通知し、オリヴィアだけは内密で先に来るように説明をしていた。

 一足先に監視をしていたオリヴィアに相手の様子を聞き、まだ少女の様ではあったが飛びぬけた魔力とオリヴィアでも解析できない程のレベルの持ち主であるという事だった。

 それを聞いてきっとその少女こそ邪神様だと確信したヴァーディクトは悲願の成就が間近である事に感動すら覚えていた。

 そして……時は来た。



 「おう、無能共。 アホ面さげて待ってたか?」

 第一声にそう言って五人のいる部屋に入ってきたのは後ろにレイブンを連れたグラネス。
 普段のイライラした様子はなく、むしろ勝ち誇ったような様子である。
 特に白銀の鎧を着た騎士に対しては鬱陶しい程に見下した視線を向けている。
 当の騎士は特に気にした様子はないが、わずかに面白くなさそうな様子である。

 「ようやったようじゃのうグラ坊。 いやはやまさかお主が見つけてくるとは。 世の中分からんもんじゃのう」
 
 「バカなのだから、もしかして全く違う相手を引っ張ってきている可能性だってある」

 「うふふふふ。 シャルル君は相変わらずグラネスが嫌いなのね」

 ロムやオリヴィアが苛立つシャルルと呼ばれた白銀の騎士を宥める。
 唯一獣人の男だけは黙したままである。

 「けっ、無能のくせにバカか。 まぁいい。 その目で見て見ろや。 おい、邪神様よ。 入ってくれ」

 グラネスがそう言い、中に入って来たのは蒼いオーラをまとった少女、ミソラである。
 見た目通りの少女と思うには恐ろしいまでのプレッシャーを放ち、その黒い眼球の中に浮かぶ青い光彩が見る者の心を鷲掴みにされるような恐怖感を与えている。
 背後には不定形な触手のようなものがうねうねと動いており、本人を守っているようだった。
 見た事もないような杖と装備に身を包んでおり、邪神という言葉も分からないではないと思える。

 「お、おぉぉぉ……これが邪神のオーラ! なんと神々しい……」

 シャルルはその容姿を見た瞬間に頭を垂れ、続いて他の者達も同時に頭を垂れる。
 グラネスだけは何故か勝ち誇ったような様子で他の五人を見下しているが。

 『……あなた達が私を探しているという事でいい?』

 「はっ! 我々魔族は少しずつ衰退の一途を辿っており、このままでは低俗な人間風情にこの世界を牛耳られてしまいます。 どうか! 我々に力を貸していただきとうございます!」

 ミソラの問いに答えたのはヴァーディクト。
 本来の目的はまた別にあるが、いま告げた言葉もまた真実である。
 例えこの六人がどれだけ強かろうと、やはり物量の差を覆せる程ではない。
 また人間には友好的な種族も若干ではあるが存在し、そこからその者達も含めた総力戦になれば魔族は間違いなく滅びる事になる。
 もちろん魔族も全力で抵抗するし、それで人間にかなりの被害を与える事は出来るだろうが、負けるのは間違いないのだ。

 『そう……。 うーん。 ……役に立ちそうなのは三人……かな。 あとはいいや』

 「どういう……ことでしょうか?」

 レイブン、そしてオリヴィア、獣人の男を見てそう呟いたミソラ。
 その言葉の真意が分からずヴァーディクトは顔を上げ問いかける。
 無表情かと思われたミソラの顔に凶笑が浮かぶ。

 『わたしは……わたしの邪魔をするやつも、ますたーの邪魔をする奴も嫌い。 嫌いなものは全部……殺したくなる』

 突如として横にいたグラネスにミソラの触手が突き刺さり、次いでその身体を黒い粘液が覆う。
 いきなりの凶行にヴァーディクトは腰の剣を抜き、他の面々も同様に武器を取る。

 黒い粘液は一瞬にしてグラネスを飲み込み、一瞬にして消化・吸収していく。
 
 『雑魚だけど、そこそこにいい栄養。 他はどうかな?』

 瞬きをすれば、その間に突き殺されそうな触手の攻撃を魔人達は何とか回避して、態勢を整えようと動く。
 中でもヴァーディクトは恐ろしい程に研ぎ澄まされた剣技を駆使して、一瞬にしてミソラへ接近する。

 「おのれ、邪神様を騙る偽物か!」

 『そもそも邪神だなんて名乗ってない。 そっちの勘違い』

 ヴァーディクトの裂迫の気合が乗った横薙ぎがミソラに当たるかと思われた瞬間。
 ミソラはその剣を掌で受け止め、剣をそのまま握りつぶす。
 長年愛用していた剣がただのそれだけで破壊された事に驚きを隠せないヴァーディクト。

 その隙をついてシャルルが手にしたランスでミソラを突き殺そうと神速の突きを放つ。
 顔面を狙ったその一撃はしかし、首を傾けるだけで躱された。
 握りつぶした剣の破片をシャルルの顔に投げつけ、深々と突き刺さり視界も奪われるシャルル。
 
 次の瞬間には触手がシャルルの腹部を貫き、グラネス同様に一瞬にして飲み込まれていく。

 
 「くそっ! 何よこの女! やりたい放題じゃない!」

 手に闇を凝縮したような黒々とした球体を作り出すオリヴィア。
 そこから散弾のように細かい球体が大量に飛び出し、ミソラに襲いかかる。
 小さな球体が瓦礫に触れるとその瓦礫を消滅させている様子から、生身に直撃すれば間違いなく致命傷となるような魔法だと分かる。

 その危険な魔法をミソラは一瞥すると杖を一振りする。
 それだけで淡く薄い光の壁が出現し、小さな球体の全てを受け止め消滅させていく。

 それなりに自信のあった魔法でもありオリヴィアは何とか一矢報いようと動くが、やがて触手の一つが足と翼を奪い、機動力を失った所に触手が殺到し刺し殺す。
 しかしオリヴィアは飲み込まれず、そのまま放置される。

 『あとは四人』

 今まで詠唱を続けていたロムの空気を圧縮して造り出した風の爆弾を弾ける前に近づいて握り潰しながらミソラは呟く。
 抵抗の意思をみせるヴァーディクトとロム、そしてレイブン。
 それとは対照的に獣人の男は諦めたように無抵抗の意思を示している。

 「ベルダ! 貴様、なぜ戦わん!?」

 ベルダと呼ばれた獅子の男は首を振り応えようとしない。
 ただこの状況を受け入れている。


 『うむり。 素直はいいこと。 そっちはさっさと死のうか』

 更に触手の本数を増やし、殺到させるミソラ。
 その数は三十にも及び、当初の三倍の量を操っている。
 剣を失ったヴァーディクトはシャルルのランスを拾い何とか対応するが、数が多すぎる上に速く鋭い。
 ロムは全魔力を障壁に注ぎ、何とか触手を防いでいる。
 
 しかし……。

 『耐えられるのもめんどう』

 ミソラは杖の先端を二人に向け、詠唱を開始する。
 レイブンが何とかそれを阻止しようと動くが触手に全身を絡めとられ締め上げられる。
 転移しようにも口も塞がれたため詠唱も出来ない。

 『黄金に輝く腕。 其は万象貫く輝きなり』

 杖の先端に一瞬にして光球が出現し、その輝きはミソラが魔力を込める程に強まっていく。

 『ブリューナク』

 光球は一瞬膨張し、一条の閃光となってヴァーディクトとロムを飲み込み進路上の全てを消滅させながら突き進み天をも貫いた。
 ブリューナクによって部屋は半壊し壁は破壊され進路上にあったものは文字通り塵も残さず消えていた。

 『ゴミ掃除終了。 さて、レイブン……だったかな? きみに選択肢を二つ。 わたしの家畜となってあの子を殺した罪を償うか。 それともここで死ぬか。 選んでいいよ』

 「わ……私は……」

 『ちなみに、殺すときは優しくは殺さない。 興味はないけど、わたしを慕う子供なら言ってみれば私のファン。 あいどるとしてはファンを殺した犯人に優しくする必要はない』

 優しくは殺さないという事は逆説的に言えば惨たらしく殺すと宣言しているようなものである。
 最初は抵抗しようとも考えたレイブンだが、先ほどの魔法を見た後でどれほど危険な事をされるのかと想像してしまったレイブンはそうそうに心が折れてしまった。

 「わかり……ました。 私は、家畜です……」

 『うむり。 そっちのねこはどうする?』

 「……よければ見逃してほしいな。 元々この国に恩義があり、なんとかこの国の人々を助けるためにこの地位にまで来たのだ。 流石に殺されるにしても、こいつらと一緒にというのは勘弁していただきたい」

 ヴァーディクトがベルダと呼んだ獅子の魔族はそういい、両手を挙げる。
 本当かどうか判断のつかないミソラはちらりとレイブンを見る。

 「……本当です。 彼は六魔人の中で唯一人間を家畜として扱わず、なるべく待遇をよくするように働きかけている方です」

 それを聞いたミソラは戦闘状態を解き、無表情のままサムズアップをするとオリヴィアの死体に蘇生を施す。
 グラネスとシャルルは触手で飲み込んでいたのに、オリヴィアだけは貫くだけにとどめていたことをレイブンは思い出し、ミソラに問いかける。 

 「なぜ……オリヴィア様は残されたのですか……?」

 「ますたーがむかしさきゅばすのすばらしさをかたっていたことがあった。 かちくにしてみるのもいいかな。 ますたーがいらないならしんでもらうけど」

 知らない所でちょっと恥ずかしい秘密を暴露されるゼクト。
 さらっと家畜と言うあたり流石はミソラというべきか。

 「じゃあそこのねこさんにここはまかせもいい? ここのをたおしたのは、れむなんとのえいゆうりりあ様のつかいまということで」

 その言葉に少し困惑した表情を見せるベルダ。
 普通なら自分が助けたと喧伝して名声を得たいと思うものなのではないだろうかと考えたからだ。

 「よいのか? 邪神様がここの連中を片付けたのだから邪神様こそこの国の英雄だというのに」

 「わたしはそんなのきょうみない。 きょうみあるのはますたーとのいちゃらぶだけ。 というわけでかえる。 ほられいぶんだっけ? さっさとてんいしてれむなんとにかえる。 ますたーとこれいじょうはなれつづけるとわたしははっきょうする!」

 「わ、分かりました!」

 ミソラは面倒そうにオリヴィアを持ち上げ、レイブンと共に転移でレムナントへと戻る。
 残されたベルダは長年計画していた他の魔人達を消す計画が、あっさりと消えた事に妙な虚脱感を覚えた。

 「むぅぅぅ。 いや、助かったのは良かったが……。 レムナントの英雄リリアと言っていたな。 レムナントと言えばたしかリクシアの町の一つだったか。 ……この国を再建するにしても感謝しかないな」

 ふと、多くの足音が近づいてくる音が聞こえて我に返るベルダ。
 例え親玉となる魔人達を倒したとしても、配下となる者達はまだ残っている。
 
 「ふん。 魔人共を相手にするよりは兵士共を倒す方がはるかに楽だな。 このままこの城を制圧して、城下の人々を解放せねばな」

 ベルダは向かってくる兵士達を制圧するために動き出す。
 最大の障害がなくなったいま。
 魔人の一人ベルダを止める事が出来る者などおらず、残っていた魔族の兵士達は次々と撃破されていった。

 ミソラが魔人達を倒した翌日。
 リーンスレイブは英雄の使い魔と一人の魔人の手によって人々の元に戻る事となる。

 魔人ベルダは昔から人々の環境を変えるために動き続けていた事が知られていたため、あっさりと受け入れられる事となり、やがて彼は蘇ったリーンスレイブの新しい王となる。

 そしてベルダの口から、リクシアのレムナントという町から英雄の使い魔が現れて魔人を倒してくれたという事も伝えられた。
 レムナントから遠く離れたこの地で英雄リリアとその使い魔の噂は尾ひれをつけながら広まっていくのであった。

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