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十五話

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「ここか。 見た目は教会なんだな」

 目的地へと飛んでやってきたのだが、そこは古びた教会のようだった。
 古びたといっても手入れは行き届いており、何度も補修を行ったような跡がある。
 そういえばフェルレシア教は一体何を信仰しているのだろうか。
 信徒も少なからずいるようだし、それ相応の求心力のある神なのだろうか。
 ヨシュアの記憶をみる限り彼は別に信じていないようだったので何に祈りを捧げているのかも分からないな。

「……通常形態でいくか」

 人型でいくメリットがあまり無いし、ギブレ族長が言っていた実力者が出てくる可能性もある。
 もし白金等級レベルの者だとしたら人型では対応出来ない。
 勝てない事はないと思うが人型だと負傷を見られた時に人ではないとバレてしまう。
 それなら最初から通常形態で行った方がややこしくなくていい。
 身体をいつもの状態に戻すとなんとも言えない解放感がある。
 頭の触手が解放に喜びうち振るえているようだ。

「さて、レーティア達はどこに……地下か」

 再度捜索用の魔力波を飛ばし位置を確認する。
 そこそこに大きい施設なため普通に探していては時間がかかるだろう。
 こうやって索敵が出来なかったら問答無用で色々と破壊していたかもしれない。

「……あ、そうか。 レーティアもアイレノールの民の魔力反応も地下だ。 と言うことは上にいる連中は全部敵か」

 と言うことはだ。
 地表の教会をまるっと消せばいいじゃないか。
 地下にも五、六人程アイレノールの民ではない者達もいるが、ほとんどが教会にいる。
 まとめて葬るには絶好のチャンスだ。

「となればまとめて殺しつつ、地下には影響を与えない魔法がいいか」

 炎や雷、水や風等々の自然現象に干渉する魔法は破壊の影響が大きい。
 ここは相性が最も良く使い勝手のいい闇魔法に頼るとしよう。

「暗き者の呼び声 混沌の澱 沈みゆく世界」

 足元から伸びる影が一瞬にして広がり教会全体に広がっていく。
 音もなく広がる影は建物全体の地面に拡散すると同時に影の接触する物を一気に消滅させはじめる。
 支えを突然失った建物は崩壊を始めるが地面に当たる事なく影に触れただけで全て消滅していくため、目の前で起きる崩壊とそれに伴う破壊の音の無さに違和感を覚えるな。

 ものの数分で地表にある教会や中にいた人間が全て消滅してしまった。
 自分で言うのもなんだが中々の悪逆非道では無かろうか。罪悪感などは欠片もないが。
 剥き出しになった地下階段の入り口が三つ程ある。
 下から駆けてくる足音が聞こえるのでとりあえず待ってみよう。

「な、なんださっきの音……は?」

 厳つい赤い鎧を纏った壮年の男性が剥き出しの地下階段の一つからやってきた。 
 いかにも何かしらの階級を持っていそうな男だ。
 鬣のような赤毛に蓄えた髭が野性味を感じさせる。
 多分戦士としてかなりの実力者のような気がする。少なくともヴェルドよりは強そうだ。
 そしてさらにもう一人姿を現した。
 こちらは顔の一部が爛れ崩れた男性で頭髪は所々しかなく、眼には暗い光を感じさせるなんとも危なっかしい雰囲気を纏っている。
 身に纏っている黒い外套からは魔力を感じる事から何かしらの魔道具なのだろう。
 
「おいおいおい……なんだあの化物は!? 教会はどこ行ったよ!?」

「うるさいよサイラス。 ……見たことの無い化物だね。 興味深いから捕まえてよ」

「グクロス、無茶言うんじゃねぇよ。 ありゃあ間違いなくやべぇぞ」

「僕も手伝うからさ。 それにこの状況をラハット司教にどう説明するのさ。 あれを捕まえて、もしくは死体だけでも準備しておかないと説明難しいよ」

 戦士がサイラス。根暗そうなのがグクロスか。
 彼等の背後にはラハット司教とやらもいるのか。
 フェルレシア教全体がアイレノールの民の敵と考えていたけど、この町のフェルレシア教だけが敵の可能性もあるのか。

「ちっ、折角集まった信者達が全滅かよ。 本当になんなんだこの化物は」

 サイラスが周囲をちらりと見やり、教会ごと信者が消滅したことに悪態をついている。
 なるほど信者獲得というのもなかなか大変なのかもしれない。
 私には分からんが、彼等も色々と努力していたのだろう。

「炎よ! 其の破壊の力を宿せ!」

 グクロスと呼ばれた男が剣に炎の力を宿らせ、こちらに剣先を向けてきた。
 なるほど膂力が足りなくても魔法の力を剣に乗せて補っているのか。
 人間は器用だな。そんな使い方は考えた事がなかった。大体がいつもぶっ放して終わりだからな。

 二人は特に合図も無しに同時に踏み込んできた。
 グクロスは炎の剣を、サイラスは両手に装着したガントレットを武器にしているようだ。
 触手を唸らせ刺し殺そうと飛ばすと二人は触手を回避し、それぞれの武器を向けてきた。
 人型の時であれば絶対に避けられない攻撃。
 人の身体など容易に溶かし切り裂きそうなグクロスの剣を指で受け止め、サイラスの拳を身体で受け止めてみた。
 どちらも私には有効打とはなり得ないようだ。
 掴んだ剣を放してやると二人は一瞬驚いたような顔を浮かべるが、戦士としての矜持か恐慌なのかひたすらに攻撃を加えてきた。
 凄まじい炎の剣戟を閃かせるグクロス。
 岩をも砕かん威力の拳を打ち続けるサイラス。
 レイラに勝るとも劣らない実力者のようだ。

「まあまあ楽しめた。 褒美にお前達は私の実験道具にしてやろう」

 二人が私の声に反応し後ろへ飛び退こうとした所を影の鎖で捕らえ、両者の頭部を掴む。
 脳を念波で破壊し、死体となった身体を異空間へ放り込む。

「……ここからは人型になっておくか。 アイレノールの民が怖がっても面倒だからな」

 助けようとしてもこちらの話を聞いてくれないのでは時間がかかるからな。
 アイレノールの民は正直ついでなのだが、レーティアが無事でいてくれるといいのだが。

 サイラスとグクロスが現れた剥き出しの階段に足を踏み入れつつそんなことを考えていた。




※龍角散先生って本当に良いよね!喉の痛みには最適ちゃん(*´∀`*)!
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