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十四話
しおりを挟む「……む? レーティアがいないな」
あの後。二人が魔物の首を取り、諸々の事後処理は全て任せて一人先に町へと帰ってきた。
早朝に帰ってくる事になり、レーティアも寝ているだろうかなどと考えていたが、部屋に入ると冷たい空気が漂っていた。
空気の感じからそもそも昨日は帰ってきていないような様子だ。
物品の配置が一切変わっていない。
あれからおおよそ二日ほど経っているのに帰ってきた様子がないのは流石におかしいか。
別にレーティアの行動の全てを把握しておきたい訳でもないし、何をするにも彼女の自由ではあるのだが、何も言わずに勝手をするタイプではないのは分かっている。
「……念のため居場所だけでも把握しておくか」
町の中に捜索用の魔力波を飛ばし、レーティアの居場所を確認しておこう。
………………うん?町にいない?
そんなことがあるだろうか?
勝手に町の外に行くとは考えにくい。他に可能性があるとしたら……レーティアが死んでいて魔力が感知出来ない可能性もあるか。
なんだろうかこの胸の辺りのモヤモヤする感じは。
不快……いや怒りか?何に?
レーティアが死んでいるかもしれないということ
に、だろうか?
もしレーティアが惨殺されている姿を見たらこの不快感は一体どうなるのだろうか。
人間を面白いと思っていたけど、この感情はあまり好きにはなれないな。
「魔力で感知出来ないとなると……」
考えろ私。
論理的な思考過程を辿ることを気に入っていただろう。
レーティアはこの町に来たのは初めてだと言っていた。
縁故の関係は無い筈だ。
アイレノールの民として狙われる事もない筈だ。
レーティアはハーフ。しかも魔族とのハーフならヨシュアの記憶と照らし合わせると捕獲対象では無いと思っていたが……いや、レーティアはアイレノールの民特有の民族衣装を着ていた。
ハーフだとしても狙われた可能性はあるか?
アイレノールの民のほとんどが生捕りにされていた事を考えると、レーティアが殺される可能性は少なくとも今は低いのではないだろうか。
いや決めつけるのは早い。他の可能性だって十分にある。
他は?
この町に来て何があった?
宿に入ってこちらを嘗めるような視線で見てくる連中はいたが、少なくとも近辺に気配が無いことを考えると奴らが手を出した可能性は低い。
冒険者組合で絡んできた連中は?
あれだけの実力差を見せつけて尚こんな報復手段に出るとも考えにくい。
「……どちらにしろ殺されたのでは魔力では感知出来ない。 他の方法としては……あ、あるな」
探しようが無いし、こうなったら組合に依頼するかと考えたが、方法を思いついた。
レーティアの傷を消したさいに私の触手を使い、皮膚に同調させて貼り付けている。
極微細な反応ではあるだろうが、それを辿れば見つけられるかもしれない。
「うむむむ……むぅん? やはり反応が無いということは町の外か?」
再度捜索用の魔力波を展開するも引っ掛からない。
自分の肉片を対象にしているからたとえレーティアが死んでいたとしても見つけられないことはないと思っていたんだけど……見つからんな。
そうなるとやはり町の外にいると考えられる。
「仕方無い。 負担がかなり大きくなるが、背に腹は代えられん」
魔力波から返ってくる情報量が馬鹿げた量になるのであまりやりたくはないが、全力で広げてみよう。
それこそアイレノールの民の村がある付近まで飛ばす勢いで全力で魔力波を広げる。
襲ってくる情報の量が多く、処理にどうしても時間がかかる。
人を喰らった時の情報は割りと整理されているためまだ見やすいが、無秩序に入り込んでくる情報には統一性など皆無のため理解するにも時間がかかってしまう。
「……ん、見つけた。 なるほどこれはやはり町の外に拠点を作っていたかフェルレシア教とやら。 ついでにアイレノールの民の他の連中も生きてるな」
魔力波を飛ばすこと十分近くかかっただろうか。
サリドルドの町の北側の少し離れた位置にレーティアを見つけた。
レーティアの周囲にそこそこの数の人間が捕らわれており、魔力の質から見てアイレノールの民で間違いは無さそうだ。
「助けに行くのはいいが、フェルレシア教は結局アイレノールの民を集めて何がしたいんだろうか」
ヨシュアの記憶ではアイレノールの民の血が世界を救うなどとあったが、そもそも何から守るというのか?
私が森にいたから知らないだけで本当に差し迫った脅威があったのだろうか?それならフェルレシア教なる者達だけでなく、国や町が総力を挙げてやるものだろうし。
……分からんな。
分からんが、とりあえずレーティアは助けておこう。
ついでに偉そうな奴を捕まえて確認してみるか。
喰らい呑み込めば手っ取り早いが、侵食が厄介なのでそこはなるべく避けたいな。
事と次第によっては消してもいいし、残しても良いだろう。
※普通に考えたら邪神が攻め込んでくるなんて想像しないし、イレギュラーって怖いよね(´゚ω゚`)
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