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九話
しおりを挟む「あ、あの……ゾア様? 私達凄く見られてませんか?」
「私達のような武装もしていない若い男女が気軽に来る場所ではないようだからな」
町に出てまずは最初に確認しておきたかった冒険者組合とやらにやってきた。
町の一角を占める非常に大きな施設で人の出入りも多い。
ここでは冒険者登録を行ったもの達が組合から紹介、斡旋された依頼を受けたり報告等を行う場所だ。
冒険者達でクランを作り、旗揚げをした者達には冒険者組合から専属の者が派遣される為、大きなクランの者達はほとんどやってこないようだが。
ここに来る一般人というのはだいたい依頼を持ちこむ者がほとんどで、それ以外はクランに属していないフリーの冒険者達や旗揚げまで進んでいないクランの者達だ。
そんな者達から見たら私達のような若造に見える二人が一体どんな依頼を出すのか気になるといったところだろう。まったくそんな予定は無いが。
「冒険者組合へようこそ。 ご依頼でしょうか?」
受付へ近付くと柔らかい雰囲気の女性が声をかけてきた。
金髪碧眼のエルフだ。エルフは容姿が整っていると聞くが、確かにその通りだと思わされる美貌だ。
若草色のベストやパンツタイプのズボンが活発さを思わせよく似合っている。
レーティアはアイレノールの民の独特な衣装を着用しておりよく似合っているが、この受付の女性のような服も似合うのではなかろうか。
後で購入を勧めてみよう。
「いや魔物の素材の買い取りをお願いしたい」
「買い取りですね。 組合の登録証はお持ちでしょうか?」
「いや、ない。 登録をしていないからな」
「それですと魔物の素材の買い取りに手数料が発生してしまいますがよろしいですか? 今冒険者組合に登録すれば手数料も免除されますが」
「構わない。 手数料を差し引いてくれ」
ヨシュアの知識の断片で魔物の素材を買い取ってくれるという情報があったので、生活費を手に入れる為にここへ来た。
魔物の素材といっても多種多様にあり、どの魔物の何が素材となるかを把握しておく必要がある。
本来なら必要な素材を依頼として出し、それを冒険者が受けて持ってくるというのが通例らしい。
しかし、冒険者以外でも魔物を倒して素材として持ち込み売却する事が出来る。
その際に先程受付の女性が言ったように組合員ではないと手数料が発生する。
私にはそこに一体どんな手間がかかっているのかは理解出来ないが、そういうものなのだろう。
一見組合員になった方がメリットもあるように見えるが、ヨシュアの知識だとそうでもないらしい。
まず一つ目に組合からの命令はほぼ絶対。
例えば町の危機や何かしらの組合にとって不利になる争いが起きた場合、冒険者組合に所属する者に否応なしの命令権を持つ。
これを断れば降格や場合によっては一時的な依頼の斡旋の停止、酷い場合は組合からの追放もあるらしい。
二つ目が定期的な組合への支払いと在留報告義務。
支払いそのものは高額でもないしツケもきくから融通はいいのだが後者の在留報告義務。これが面倒だ。
おおよそ二週間毎に組合へ町にいる事を報告する必要がある。緊急時などに誰が町にいるのかを把握する為のものらしい。
そして三つ目。
冒険者としてのランク付けだ。
競争心を煽る為、そしてその冒険者への信頼度も含めてランクがつけられる。
上から順に白金、白銀、金、銀、銅等級に分けられる。
依頼の達成率やその強さに応じてランクは上がり、それが顧客への信頼に繋がる。
このシステムも一見すればただの指標に見えるが、ヨシュアによるとランク制にしたことで依頼の報酬の額も大きくなり、低ランク帯の者達にとっては不満の原因となっているらしい。
ランクを上げればいい話ではあるが、昇格なども色々と基準があるらしく一筋縄ではいかないと。
ハッキリと言おう。
私は面倒は嫌いだ。余計な束縛も同様だ。
よって冒険者になる選択肢は無い。
多少手数料を取られようともその程度で面倒が無くなるなら大歓迎だ。
「承りました。 買い取りをご希望する素材はあちらの買い取り場でお渡しください」
一個人にも丁寧に頭を下げるその対応に感心しつつ、素材の受け取り場へ向かう。
色々な素材を受け取るからか、室内でありながら非常に広い場所が取られており奥の扉の先には解体場のようなものが見える。
待ち構えているのは先程の女性とはうってかわって無骨な男性で愛想というものが欠片も感じられない。
筋肉が盛り上がっておりレーティアの二倍はありそうな体格に見える。
「おう、持ってきたもの出しな。 査定してやるよ」
「少し大きいが、ここで出していいのか?」
「あん? なんだ手ぶらじゃねぇか。 いいから出せ」
「承知した。 では」
別に構わないというので以前食べようと思って狩った一際大きなフォレストオークを収納用異空間から取り出す。
やっぱりサイズが大きいからこんな場所に出すのは邪魔だが、本人が出せというのだから仕方無い。
「よいしょ。 さあ査定を頼む」
「な、なななななんだそりゃ!? どこからそんなもん出しやがった!?」
「物を異空間に保存する魔法だ。 いいから早くやってくれ」
言われてみれば確かにこういう魔法を使っているものを見たことはない。驚くのも無理はないかもしれないがそんなことはどうでもいいから早くしてほしい。
「そ、そんな魔法があるのか……いや、聞いたこと無いけど本当なら画期的なものじゃねぇか……ってこいつぁフォレストオークじゃねぇか! しかもデケぇ!」
ぶつぶつと何か言いながらオークに触れた男は更に大きな声をあげる。
その声に連られて余計な連中まで集まり始めた。
驚いてないでさっさと仕事を始めろと言いたいのだが。
「あんた強えんだな。 悪い、奥まで持っていくからちょっと待っててくれ。 おい作業班! 仕事だ! 持っていってくれ!」
男が大声で命令を飛ばすと奥の扉からこれまた男に負けず劣らずの体格をした者達が姿を見せ口々に色々と言いながらフォレストオークを運び出していった。
人間五人でも意外と持ち上がるものだな。結構な重量だったと思うが。
「いや悪いな。 正直あんたみたいな若造がそっちの嬢ちゃんに良いところ見せようとして来たんだろうと思ってつい態度に出ちまった。 あんたが狩ったのか?」
「別に態度など気にはしていない。 狩ったのは私だ」
「そうかすげぇな! あんな大物は久しぶりに見たぜ。 フォレストオークは肉も良い値段で取引出来るし、今回のやつは魔石も良いのがありそうだから結構な額で取引出来ると思うぜ。 査定が終わるまで少しかかるがどうする? 中で待つか?」
「どうするか……レーティアはどうする? ってなんだその顔は?」
査定が長引くなら待つだけも時間の無駄かと思い、レーティアはどうしたいか確認しようとするとなんとも恐ろしげというかおっかなびっくりといった表情をしている。いったいどうしたというのか。
「い、いえあの、正体を知らないとはいえゾア様にとても非礼な振る舞いをしているのを見るとハラハラしてしまって」
「ああ、私が怒るとおもったのか?」
「はい……流石にあの言葉遣いはちょっと」
「私は気にしていない。 なんならレーティアも私への敬称は不要だぞ?」
「そ、そそそそそそんな畏れ多い! 私のようなものは本来口を聞くのも畏れ多いというのに!」
「……以前から思っていたが、森の主などとお前達が呼んでいるだけだが、そもそも私はそんな敬われるべき存在ですらないのだぞ? ただの一生命体だ。 立場で言えば君達と大した違いはない……いやむしろ私は気味の悪い生き物だな」
「確かにゾア様は変な生き物ですけど!」
そこはちゃんと認めるのか。
「でも私は敬われるべき凄い存在だと思います!」
鼻息荒く訴えてくるレーティア。
まさかそこまで考えてくれていたとは思わなかった。
普通にただ気味が悪くて怖い存在くらいと思っていたが、敬われるべきとは……いやただの社交辞令かな?
まあいいか。
「あー……どうすんだ兄ちゃん達。 しばらくしてまた来るか、ここで待つか」
「あ、すいません! えっと、もしゾア様がよければもう少し町を見てみたいです」
「そうか。 ではまた後で来る」
「おう! 三時間はかかるとみてくれ」
三時間か。そこら辺をうろついていればすぐだろう。
私も物価など見てみたいものは多々あるしな。
「では行こう」
「はい! 楽しみです!」
町の散策か。どんなものがあるかちょっと楽しみだな。
※小話
レ「ゾア様の触手ってどこまで伸びるんですか?」
ゾ「どこまで? んー……分からん。 有効な射程範囲なら多分一キロメートルくらいじゃないか」
レ「そんなに伸びるんですか! すごいなぁ。 ちょっとしたものを取る時なんかも便利ですよね」
ゾ「それはあるな。 食事している時なんかに物が欲しい時動かなくても取れるからな」
レ「羨ましいですねー」
ゾ「レーティアもつけてみるか?」
レ「え? つける?」
ゾ「ほーら私の触手を分けてやろう」
レ「え!? そ、それって大丈夫なやつですよね!? 私支配されたり痛かったりしませんよね!?」
ゾ「大丈夫大丈夫……たぶん」
レ「それダメです! 自信無いやつじゃなあぁぁぁぁぁ!」
レ「はっ!? …………………夢!? 夢かぁ」
ゾ「起きたかレーティア。 ものは相談なんだがちょっと実験に付き合わないか?」
レ「すいません! 勘弁してくださいーーーーー!」
※執筆時にテンション上がるいい曲がないか募集中なり.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.
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