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二話

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 ※今日はもう無いと思っただろう(*´∀`*)ヘヘッ




 私は基本的に生きるために必要な行動以上の事をあまりしない。
 食事のために月に二回程獣を狩り、洞窟の奥でボーッとしている。
 人の死体を喰らい思考能力を手にしてからは少しだけ考えることが増えた。
 人間の魔法の真似事をしてはその研鑽に励み、飽きたらまた呆ける。
 それ以外には極希に現れる森を騒がしくするものを排除して、生活の場の安寧を保つ。
 自分のために動くことはあっても何かに影響されて動いたことはあまりない。
 だからだろうか、レーティアのために動くと思うと頭の奥のような胸のような……とにかくムズムズとするような感覚が消えない。
 けして不快なものではない。
 が、いつまでも続くのは止めてほしい。そんな感覚だ。

「アイレノールの民は着の身着のままでどこかから来たようだが……これではレーティアの衣類やベッドなど頼めないか」

 レーティアの衣類を求めて森にやってきたアイレノールの民の様子を見にきたのだが、まさに逃げ出してきたという言葉が相応しい様子だ。
 多くのものが必要最低限の荷物を背負い、子の手を繋いで歩いており、悲壮な空気が流れている。
 私が危険な生き物でありこの森の主として認識した上で、それでもこの森に逃げ込まねばならない何かがあったのだろう。
 荷物も十分にまとめる暇もなくここに逃げ込む程にに急を要する出来事が。
 流石にこんな窮状にある彼等に衣類や寝具を要求するのは酷と思った方がいいか。

「少しだけ話を聞いてみるか」

 となれば話をしやすい相手を選びたい。
 レーティアを連れてきたあの男はいるだろうか?
 眼を複数開眼させ、アイレノールの民達の中から男を探してみると他の者達と比べて一際荷物運びに精を出しているように見える者がいた。
 レーティアを連れてきた禿げ頭の男だ。

「……このまま行くと面倒なことになるか」

 私の姿そのままで姿を現すとパニックが起きるかもしれんな。レーティアもあの男も最初は怯えていたしな。
 高速で移動してあの男だけを捕らえる……いや、移動の負荷に耐えられんかもしれんな。
 時間を止めるか。
 
「悠久の時に停滞を」

 人が使う魔法を応用して造った時を止める魔法。
 魔法というものは実に面白い。魔力という世界に満ちる力をもって理に干渉し法則を書き換える。
 神の領域をも犯す業だ。
 勿論書き換えるには相応の魔力や負荷に耐えうる身体が必要になる。
 基本的には負荷を軽減する為に魔方陣や触媒を使うのが普通らしい。
 私はそんなものを使わず魔力だけで強引に使っているが。
 魔法の発動に伴い世界の時が止まり、全てのものが停滞した歪な風景が生まれる。
 正直この魔法は世界から何もかもが消え去ったような違和感があるのであまり好きではない。
 さっさと済ませよう。
 男に近づき、彼だけの時間の流れを再開させる。

「む……な、なんだこれは? ってうおっ!? も、も森の主様!? なぜここに!?」

「貴様に用事があって来た。 私の姿を見て騒がれても面倒なので時を止めて貴様だけを動けるようにしている。 質問に答えろ」

「と、時を止める!? な、なんという……あ、ああ、いや申し訳ない。 し、質問とはなんだろうか?」

「アイレノールの民といったか。 私のような存在がいることを知っていながら何故この森に逃げるようにやって来たのかを知りたい。 私に生け贄を捧げたということは、私が勝てはしないがまだ話の分かる存在だと認識したうえでだろう? そんなことをしなければならないほど何に追い詰められている?」

「それは……我等が住んでいた村がサリドルドの町の人間に襲われたのです。 奴等は突然現れたかと思うと次々に仲間を捕らえ抗う者を容赦なく斬り伏せ、抵抗虚しく村は壊滅しました。 近隣の村や町はサリドルドの町と交流も盛んな為そちらへ逃げる事も出来ず、考えた末に森の主がいる誰も近付かないこの森に逃げ込む事に決めたのです」

 彼等の一方的な意見ではあるが、なるほど。
 人間が突然襲ってきたと。襲ってきた理由が気になるが、理由は分かった。
 しかしアイレノールの民とは人に襲われ抗う事も出来ない程に貧弱なのだろうか?
 それだと危険な生き物も多くいるこの森で生きていくのは厳しいかもしれないが。

「事情は理解した。 ならば生活の基盤をここで整えねばならないが、どこからの支援も無しでとなると自分達の力だけでか。 難しそうだな」

「そうですな……正直、明日を生きるも難しい状況ではあります」

 苦々しい表情を見せる男。
 場合によってはここでアイレノールの民は滅びてしまうかもしれない。
 手を貸してもいいが、メリットをあまり感じないというのが正直なところだが……どうするか。

「貴様達はこの森の魔物達と戦って勝てるのか? 人間の強さをあまり知らんが、そう簡単に負けるようなら森に入っても殺されるだけだぞ」

「多少の相手なら問題はありません。 人間に負けはしましたが普通の兵士であれば遅れはそうそう取りませぬ。 我等が抗えなかったのは襲ってきた者の中に明らかに人間離れした者達がおりましたゆえ」

「人間離れした者達……それほどまでに強いのか?」

「ええ。 ただの腕の一振で地を割り、嵐を生み、炎の渦を巻き起こすという凄まじい使い手がおりました。 とてもではありませんが我々では太刀打ち出来ず」

 それがどれほどの強さの基準なのかは分からないが、彼の様子を見るにそれはとても恐ろしい実力なのだろう。
 ……しかし彼等がこの森の魔物に負けないというのなら放置しても全滅する心配はそれほど無いのか。
 大型の魔物は大半私が潰してしまっているので彼等にとって危険となるものはそうそういないとは思うが。

「そうか。 ある程度は理解した。 そうだ、一つ提案なのだがいいか?」

「何でしょうか?」

「アイレノールの民は魔物はどんなものでも食べられるか?」

「それは……普通の肉であれば問題ありませんが」

「うむ、では貴様達が食べられそうな魔物をまとまった量を提供しよう。 代わりにレーティアの服をいくつか貰えないか?」

「え!? そ、それは構いませんが……レーティアを食されていないのですか?」

 心底驚いたような表情だな。
 人を食べたいなんて思ったことはないのに、そもそもなんで生け贄など考えたのか……私の見た目のせいか。
 まあいいか。

「私も食べるものは選ぶ。 そのまま送り返そうと思ったが、戻ったら殺されるだけだと喚いていたからそのまま再利用している」

「そうでしたか。 あの子に責は無いとはいえ村では不幸な境遇でしたし、主様の元で生きる方がよいのかもしれませんな」

 なにやらしたり顔で一人納得しているが……まあどうでもいいか。
 変な話を聞いて同情などしてしまっては今後関わりにくくなるかもしれない。
 悲痛そうな話を聞いても私が同情するかどうか怪しいところではあるけど。

「うむ。 では服を用意しておいてくれ。 しばらくしたらまた獲物を持って戻ってくる」

「分かりました。 準備してお待ちしております」

 頭を下げる男から離れ、アイレノールの民が見えない位置で時間停止を解除する。
 急に押し寄せてくる重力や風の圧力が妙に心地いい。やはり停滞した時間というのはつまらないな。

「さて……狩るか」

 見たところ移動してきたアイレノールの民はざっと百名程度。
 一日二食程度と考えて、更に調理する者達の人数を考えればあまり多く持ってきても腐らせるだけかもしれんが……フォレストオークなら肉としては申し分ないだろう。
 レーティアもフォレストオークを狩ってきた時は喜んでいたし、さしあたって十頭程度持っていけばいいか。
 あとはレーティアが保存食に加工しやすいと言っていたグレイファングを何頭か確保しておくのもいいかもしれないな。





※基本のんびり不定期更新よー(*´∀`*)
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