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第4章 モブなので、婚約破棄された悪役令嬢をドラゴン調教師にします。……え、どういうこと?

第55話 キミ、この仕事向いてるよ

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「……あら、今日は逃げ出しませんのね」

 ――人気ひとけがなくなった調教場。

 そこで木の切り株に座っていると、思った通り彼女がやって来た。

 クローディア・ベルメールが。

「意気地なしらしく、またすぐに走り去ってしまうかと思ったけれど」

 ……ふっ、とんでもねぇ。
 待ってたんだ。

「うん、今日はキミとお話しようと思ってね」

「きゅーん」

 スピカを肩に乗せたまま、俺は立ち上がる。

 そして振り向き、彼女の顔を見た。

「お話ですって……? なにかしら、ようやく私と婚約を進める気にでもなった?」

「まず初めに――すまなかった」

「え……?」

「全部聞いたよ、ベルメール家のこと。俺知らなかったんだ、キミの一族が没落してたなんて……。だから一番最初会った時、キミに酷いことを言ってしまった」

「――――ッ!」

 驚くクローディア。
 俺は構わず話を続ける。

「だから謝らせてほしい。本当にすまな――」

「やめて」

 低い声で、彼女は言った。

「……なに? 同情のおつもりかしら? この私が没落貴族の負け犬だと知って、憐れにでも思った?」

「クローディア……」

「ええ、そうですとも。私は婚約者に捨てられた無価値な女ですわ。たった一夜の舞踏会でベルメール家の権威を地に落とした、一族最悪の汚点であり悪女……それがこのクローディア・ベルメールなのですから」

「キミが無価値だなんて言うつもりは――」

「やめてよッ!!!」

 遂に――クローディアはキレた。

 激昂した彼女を見たスピカが「きゅーん……」と怯える。

「どうせ婚約もしてくれないくせに、無責任なことを言うのはやめて! それに同情も結構よ! ますます惨めになるだけだもの……!」

 ――彼女の性格は、傲慢で横柄で自分勝手でワガママだ。

 ハッキリ言ってクズである。
 だいぶド畜生である。

 だけど……それはプライドの高さの裏返し。

 プライドが高く責任感が強いからこそ、一族再興の希望を捨てようとしない。

 きっと一族の中からも相当な罵詈雑言があったはずなのに。

 もうどこにも味方がいないはずなのに。

 それでも、未だに諦めてはいない。

 彼女の心は折れていない。

 まさに諦めの悪さは一級品ということなのだ。

 ――だから向いている・・・・・

「……キミと婚約はできない。でも――ベルメール家の再興を手助けすることはできるかもしれない」

「……え?」

「いい方法を思いついたんだ。時間はかかるし"ちょっと大変"だけど、上手くいけばベルメール家が新しい権威を手に入れる切っ掛けになるかもしれない」

「う、嘘よ……! そんな都合のいい話があるワケ……!」

「そうだね、約束はできない。でも俺は、クローディアならできると思ってる」

「…………」

「話を聞く気になった?」

「……いえ、説得はもう結構ですわ。やります」

 彼女は即断した。
 あまりにも潔く。

「なんでもいいです。どんな汚れ仕事でも、ベルメール家の権威を取り戻せるなら構いませんわ。それで、私はなにをすればよろしくて?」

 ――きっと藁にもすがる思いなのだろう。

 こういうところは貴族らしいというか、ある意味大物感あるよな。

 で、そんな彼女の返答を聞いた俺は――とてもにこやかに笑った。

「……よかったあぁ――! 決断してくれて嬉しいよ! でもクローディアならやってくれると思ってた! うん、ホントマジで!」

「は、はぁ……?」

「いや実はさ、ずっと同業者・・・が欲しいと思ってたんだよな~! それじゃ満を持して、キミにこの決め台詞を送ろう!」

 嬉々としてそう叫んで、俺はクローディアを見据える。

 そして右腕を掲げ――


「お前も”ドラゴン調教師テイマー”にならないか?」
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