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第1章 目隠し皇女
第16話 魔術の申し子
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彼女は足元を探るように少しだけ歩き、
「えっと……こちらの方角は開けておりますでしょうか?」
「ああ、問題ない。なにもないから安心しろ」
――まあ厳密に言うと、百メートルくらい先に木が一本立ってるけど。
とはいえ王宮の中庭はさながら草原のようにだだっ広いし、ほぼなにもないと言っても――
「それでは謹んで……」
右手を掲げ、前方へと突き出すシャノア。
すると彼女の掌に刻まれた術式が、魔力の光を灯す。
「聖術式・炎風の画――〔フレイム・トルネード〕」
刹那――彼女の手元から、豪炎の竜巻が放たれた。
巨大な灼熱の渦は地面を抉りながら遥か遠方まで直進し、百メートル先にあった木に直撃。
幹の真ん中を抉り抜いて伐倒し、さらに根っ子から枝に至るまで全体を火だるまへと変えてしまった。
とてつもないド迫力である。
「――」
「あ、あら? この音は……? 私、なにかに当ててしまったのでしょうか? かなり威力は弱めたのですが……」
茫然とする俺と、遠くから聞こえるメラメラという音に焦るシャノア。
……マジ、か。
この子、初っ端から〔属性〕をミックスしちまった。
基礎ができてるどころか、もう応用までマスターしてるレベルだぞ。
しかも今の威力……これで弱めただって?
明らかに並の魔術師の最大出力より上だったぞ。
……魔力量の底が知れない。
まるで真っ暗な深海を海面から覗き込んでいる気分だ。
ただ一つハッキリと言えるのは――俺よりも魔力量が上だということ。
疑いの余地もない、魔術の天才。
魔術の神に愛された、魔術の申し子とすら呼べるだろう。
グレイめ……これも知った上で教えなかったな……?
どうせ「娘の魔術を見て驚いてほしい」みたいな親バカ心が働いたんだろう。
こんなの驚くに決まってるからな!
「ど、どうでしょうか先生。私、上手くできたでしょうか……?」
「あ~……うん、充分過ぎるくらい上手くできたと思う。かなり驚いた」
「! 本当ですか!? ウフフ、私先生を驚かせちゃいました……!」
嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねるシャノア。
いやもうホント、度肝を抜かれたよ。
史上二人目の【全属性使い】とはいえ、まさかここまでとは……。
……もしこの子の目が見えていたなら、今頃とっくに”戦後最高の天才”ともてはやされたはずだ。
歴史を塗り替えた人物として世界中に名を轟かせ、俺なんかあっという間に忘れ去られていただろうに。
そうならなかったのは……運命の悪戯と言う他ない。
――いや、そうじゃないよな。
俺はこの子の教師になったんだ。
だったら――その運命を、彼女の手に引き戻してやるのが役目だ。
それに俺より魔力量が上と判明したのも重畳。
即ち、俺が扱える魔術なら確実に彼女も扱えるということなのだから。
となれば……ここからは俺次第、だな。
「えっと……こちらの方角は開けておりますでしょうか?」
「ああ、問題ない。なにもないから安心しろ」
――まあ厳密に言うと、百メートルくらい先に木が一本立ってるけど。
とはいえ王宮の中庭はさながら草原のようにだだっ広いし、ほぼなにもないと言っても――
「それでは謹んで……」
右手を掲げ、前方へと突き出すシャノア。
すると彼女の掌に刻まれた術式が、魔力の光を灯す。
「聖術式・炎風の画――〔フレイム・トルネード〕」
刹那――彼女の手元から、豪炎の竜巻が放たれた。
巨大な灼熱の渦は地面を抉りながら遥か遠方まで直進し、百メートル先にあった木に直撃。
幹の真ん中を抉り抜いて伐倒し、さらに根っ子から枝に至るまで全体を火だるまへと変えてしまった。
とてつもないド迫力である。
「――」
「あ、あら? この音は……? 私、なにかに当ててしまったのでしょうか? かなり威力は弱めたのですが……」
茫然とする俺と、遠くから聞こえるメラメラという音に焦るシャノア。
……マジ、か。
この子、初っ端から〔属性〕をミックスしちまった。
基礎ができてるどころか、もう応用までマスターしてるレベルだぞ。
しかも今の威力……これで弱めただって?
明らかに並の魔術師の最大出力より上だったぞ。
……魔力量の底が知れない。
まるで真っ暗な深海を海面から覗き込んでいる気分だ。
ただ一つハッキリと言えるのは――俺よりも魔力量が上だということ。
疑いの余地もない、魔術の天才。
魔術の神に愛された、魔術の申し子とすら呼べるだろう。
グレイめ……これも知った上で教えなかったな……?
どうせ「娘の魔術を見て驚いてほしい」みたいな親バカ心が働いたんだろう。
こんなの驚くに決まってるからな!
「ど、どうでしょうか先生。私、上手くできたでしょうか……?」
「あ~……うん、充分過ぎるくらい上手くできたと思う。かなり驚いた」
「! 本当ですか!? ウフフ、私先生を驚かせちゃいました……!」
嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねるシャノア。
いやもうホント、度肝を抜かれたよ。
史上二人目の【全属性使い】とはいえ、まさかここまでとは……。
……もしこの子の目が見えていたなら、今頃とっくに”戦後最高の天才”ともてはやされたはずだ。
歴史を塗り替えた人物として世界中に名を轟かせ、俺なんかあっという間に忘れ去られていただろうに。
そうならなかったのは……運命の悪戯と言う他ない。
――いや、そうじゃないよな。
俺はこの子の教師になったんだ。
だったら――その運命を、彼女の手に引き戻してやるのが役目だ。
それに俺より魔力量が上と判明したのも重畳。
即ち、俺が扱える魔術なら確実に彼女も扱えるということなのだから。
となれば……ここからは俺次第、だな。
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