50 / 77
最終章・アイドルの幸せ
song.47
しおりを挟む
***
-王妃宮-
朝焼けの空に、ぼんやりと浮かぶ有明月。
夜明けの空に月白色の光を放つ月は、淋しげであり、孤独を感じさせる。
静寂した王宮の一室には、寄り添い眠る二つの影があった。
腹部にまわされた逞しい腕の重さと、隣から聞こえてくる微かな寝息に、王妃・エレジーはうっすらと瞼を開く。
昨夜の激しい営みにより、思うように体を動かせないエレジーは、カーテンの隙間から見える白っぽい薄明の空をぼんやりと眺める。
エイビスの逞しい腕に触れながら、エレジーは再び瞼を閉じた。
まるで、現実から目を背くように…。
***
-マーレ王国・王宮-
数ヵ月前
海の香り漂う涼しげな風が、草花を大きく揺らす。
太陽の日差しが照り付ける王宮の廊下を、エレジーはワゴンを押しながらゆっくりと歩く。
「~♪~♪♪~…(ビス、喜んでくれるかな…?)」
本来ならば侍女の仕事であるが、エレジーは業務で忙しいエイビスの為に「少しでも疲れを癒やしてあげられたら…」と、自ら執務室に赴くことを決めた。
この「決断」が、エレジーの「未来」を大きく狂わせるのだった。
***
ワゴンを押しながら、執務室前にやって来たエレジー。
扉に近付くと、既に扉が少し開いていた。
「----ぃ-----ジー----……」
「-----ぉ------っ----」
中ではエイビスと宰相が「何やら」深刻な顔で話し込んでおり、エレジーは時間を改めようと踵を返す。
すると
「……エレジー」
「!!」
自分の名が出てきたことに驚き、良心が痛むものの、エレジーは扉に耳を澄ました。
聞こえてきた会話の内容に、エレジーは「絶望」する。
「王妃様は何故、子を授からないのでしょう?こんなにも国王が毎夜、通われているというのに…」
「……子は授かり物だ、そう焦るではない……」
エレジーは自分でも「気にしている」ことを話題にされ、体がこわばる。
「しかし…!貴族達から「不満の声」が上がっているのは事実です!」
「一層のこと「側妃」を娶ってはいかがでしょうか?」
「!!!」
宰相の言葉に、エレジーは顔を青ざめ立ち竦む。
「…(側妃…そんな…ビスが僕でない者と…子を…)」
エレジーは「そんなの嫌だ!」と、体をガタガタ震わせるも
「…側妃など必要ない」
「余の子を産むのは、エレジーだけだ」
エイビスの言葉にエレジーはホッ…と、胸を撫で下ろす。
しかし
「エレジーは聖歌人なのだからな!」
エレジーは一瞬にして「地獄」に突き落とされた。
「側妃など娶って、離縁だと言い出しらどうするのだ…?聖歌人と離縁など「民」から暴動が起きる!」
「隙をつかれ「他国」に奪われたら…?余は笑い者ではないか!」
「………………」
エレジーは扉の前で茫然とする。
「他国は喉から手が出るほど、聖歌人を欲しているのだ!」
「それが余の「番」だぞ!愉快で堪らん!」
「……っ……」
エレジーは皮膚に爪が食い込むほど、固く拳を握りしめた。
喉を鳴らしながら、不気味な笑みを浮かべるエイビスの姿に
「自分が見てきたエイビスは「偽物」だった…」
エレジーの頬には涙が伝う。
エレジーとエイビスは「政略結婚」だった。
最初こそは愛がなく、毎日が不安だったエレジー。
だが、エイビスは誠実にエレジーと向き合ってくれた。宝物を扱うように優しく触れられ、真っ直ぐな愛を毎日、囁いてくれた。
そんなエイビスを、エレジーは次第に「愛して」いった。
しかし
それは全て「エレジーが聖歌人」だったから…。
「…(僕が聖歌人でなかったら、とっくに捨てられてた…それどころか)」
「…(ビスに選ばれもしなかったんだ…)」
「偽りの愛」だったと知ったエレジーは、ただひたすらに涙を流し続けたのだった…。
***
-王妃宮-
朝焼けの空に、ぼんやりと浮かぶ有明月。
夜明けの空に月白色の光を放つ月は、淋しげであり、孤独を感じさせる。
静寂した王宮の一室には、寄り添い眠る二つの影があった。
腹部にまわされた逞しい腕の重さと、隣から聞こえてくる微かな寝息に、王妃・エレジーはうっすらと瞼を開く。
昨夜の激しい営みにより、思うように体を動かせないエレジーは、カーテンの隙間から見える白っぽい薄明の空をぼんやりと眺める。
エイビスの逞しい腕に触れながら、エレジーは再び瞼を閉じた。
まるで、現実から目を背くように…。
***
-マーレ王国・王宮-
数ヵ月前
海の香り漂う涼しげな風が、草花を大きく揺らす。
太陽の日差しが照り付ける王宮の廊下を、エレジーはワゴンを押しながらゆっくりと歩く。
「~♪~♪♪~…(ビス、喜んでくれるかな…?)」
本来ならば侍女の仕事であるが、エレジーは業務で忙しいエイビスの為に「少しでも疲れを癒やしてあげられたら…」と、自ら執務室に赴くことを決めた。
この「決断」が、エレジーの「未来」を大きく狂わせるのだった。
***
ワゴンを押しながら、執務室前にやって来たエレジー。
扉に近付くと、既に扉が少し開いていた。
「----ぃ-----ジー----……」
「-----ぉ------っ----」
中ではエイビスと宰相が「何やら」深刻な顔で話し込んでおり、エレジーは時間を改めようと踵を返す。
すると
「……エレジー」
「!!」
自分の名が出てきたことに驚き、良心が痛むものの、エレジーは扉に耳を澄ました。
聞こえてきた会話の内容に、エレジーは「絶望」する。
「王妃様は何故、子を授からないのでしょう?こんなにも国王が毎夜、通われているというのに…」
「……子は授かり物だ、そう焦るではない……」
エレジーは自分でも「気にしている」ことを話題にされ、体がこわばる。
「しかし…!貴族達から「不満の声」が上がっているのは事実です!」
「一層のこと「側妃」を娶ってはいかがでしょうか?」
「!!!」
宰相の言葉に、エレジーは顔を青ざめ立ち竦む。
「…(側妃…そんな…ビスが僕でない者と…子を…)」
エレジーは「そんなの嫌だ!」と、体をガタガタ震わせるも
「…側妃など必要ない」
「余の子を産むのは、エレジーだけだ」
エイビスの言葉にエレジーはホッ…と、胸を撫で下ろす。
しかし
「エレジーは聖歌人なのだからな!」
エレジーは一瞬にして「地獄」に突き落とされた。
「側妃など娶って、離縁だと言い出しらどうするのだ…?聖歌人と離縁など「民」から暴動が起きる!」
「隙をつかれ「他国」に奪われたら…?余は笑い者ではないか!」
「………………」
エレジーは扉の前で茫然とする。
「他国は喉から手が出るほど、聖歌人を欲しているのだ!」
「それが余の「番」だぞ!愉快で堪らん!」
「……っ……」
エレジーは皮膚に爪が食い込むほど、固く拳を握りしめた。
喉を鳴らしながら、不気味な笑みを浮かべるエイビスの姿に
「自分が見てきたエイビスは「偽物」だった…」
エレジーの頬には涙が伝う。
エレジーとエイビスは「政略結婚」だった。
最初こそは愛がなく、毎日が不安だったエレジー。
だが、エイビスは誠実にエレジーと向き合ってくれた。宝物を扱うように優しく触れられ、真っ直ぐな愛を毎日、囁いてくれた。
そんなエイビスを、エレジーは次第に「愛して」いった。
しかし
それは全て「エレジーが聖歌人」だったから…。
「…(僕が聖歌人でなかったら、とっくに捨てられてた…それどころか)」
「…(ビスに選ばれもしなかったんだ…)」
「偽りの愛」だったと知ったエレジーは、ただひたすらに涙を流し続けたのだった…。
***
13
お気に入りに追加
444
あなたにおすすめの小説


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる