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第2章・アイドルへの試練
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***
ー王宮ー
フルールお気に入りのガーデンハウスに、しとしと…と、雨の降る音が木霊する。
フルールは雨音のメロディに乗せ、そっと唄を口ずさむ。妖精のプリュームは気持ち良さそうに、ひらひらと舞った。
すると、あいにくの雨にどんよりとしていた王宮内の空気が一瞬で変わった。
澄んだ美しい歌声が響き渡り、空気は浄化され、従者達の心も晴れていった。
「…本当に美しい歌声だわ…」
「王妃様がキラキラと輝いてみえる…」
「王妃様の歌声を聞くと、何でか元気になるんだよな…」
あの日以来、フルールは王宮内の至る所で唄を口ずさむようになった。今ではその歌声が従者達の活力となっていた。
「今日のおやつは何かな?プリューム」
『アップルパイ!』
「アップルパイか…いいね!ふふっ」
そんな事はつゆ知らず、最近恒例となったプリュームとのおやつ会議に、フルールは夢中なのであった。
そんなフルールの元に
「王妃様、国王様がお呼びです」
騎士の一人が迎えにきたのだった。
***
ー国王執務室ー
コンコン…
「国王様、王妃様をお連れいたしました」
「入れ」
フルールが執務室に入ると、そこにはウルティムスをはじめ
側近のウィズダム、騎士団長のビクトリア、そして、魔法省大臣のレオンがいた。
「何事か」と、大きな瞳をぱちくりさせるフルールに
「座れ」
と、ふかふかのソファーを指さし、促すウルティムス。
「単刀直入に言う。今後一切、王宮内でも外でも…」
「唄を歌う事を禁ずる」
「えっ…」
フルールはウルティムスに言われた言葉の意味が理解出来ず、激しく動揺した。そんなフルールに、三人が即座にフォローに入る。
「国王!ちゃんとご説明してください…。それでは王妃様が可哀想です!」
「一国の王が口下手ですか?国の行く末が心配でなりません」
「んふっ、本当ですよ。何の為に口があるんでしょうか?役に立たない口など必要ありませんね?あっても無駄なので取ってしまいましょうか?」
「………」
有能な部下達の正論に、ウルティムスはぐうの音も出ない。レオンに関しては、もはや脅しではない。
「はぁー…」
「お前は「聖歌人」だ」
***
「聖歌人」
それは「歌うことで魔法が使える者」のことを指す。
その為、魔力そのものは必要なく「無限」に「どんな」魔法でも使用することが出来る。
何故、そんな者が存在するのか、一体どういう仕組みなのか。
全ては「妖精の加護」の伝承に繋がっていた。
妖精は、愛する我が子達に「魔力」を与えたが、愛する獣には「魔力」を与えなかった。
与えられなかったのだ。
妖精からの「寵愛」を一身に受ける獣は、もはや「獣」ではなくなってしまっていた。
しかし「妖精」でもない。
いうならば「神」の領域のような、澄んだ不確かな存在。
そんな不確かな存在に「魔力」という「地上の力」は耐えられなかった。
妖精は愛する獣を、そんな不確かな存在にしてしまったことを嘆いた。
しかし、獣は「それすらも愛おしい」と、嘆く妖精に毎夜「聖歌」を唄った。
妖精は獣の「歌声」を生涯、愛し続けた。
すると、何百年に1度
テルース星に「魔力」を持たず、だが「歌うことで魔法が使える」という者が生まれて来るようになった。
民は、その者を「獣」の生まれ変わりと信じ、その「歌声」は「神の力」だと、崇拝したのだった。
***
「…僕が、その聖歌人って、こと?」
「(…てっきり、妖精が何かしてると思ってたんだけど…僕の魔法だったの?)」
話を聞き終えたフルールは、コテンッ…と、首を横に傾げる。
「んふっ、今日も愛らしいです!王妃様!」
「「ヒム」と言うのは、その獣の名前だったと言われているのですよ!」
「へぇー…でも、何で?何で歌ったらいけないの?」
「それに、僕が本当に聖歌人って言う証拠は?」
説明を聞いても納得が出来ないフルールは、三人に詰め寄った。
すると…
***
ー王宮ー
フルールお気に入りのガーデンハウスに、しとしと…と、雨の降る音が木霊する。
フルールは雨音のメロディに乗せ、そっと唄を口ずさむ。妖精のプリュームは気持ち良さそうに、ひらひらと舞った。
すると、あいにくの雨にどんよりとしていた王宮内の空気が一瞬で変わった。
澄んだ美しい歌声が響き渡り、空気は浄化され、従者達の心も晴れていった。
「…本当に美しい歌声だわ…」
「王妃様がキラキラと輝いてみえる…」
「王妃様の歌声を聞くと、何でか元気になるんだよな…」
あの日以来、フルールは王宮内の至る所で唄を口ずさむようになった。今ではその歌声が従者達の活力となっていた。
「今日のおやつは何かな?プリューム」
『アップルパイ!』
「アップルパイか…いいね!ふふっ」
そんな事はつゆ知らず、最近恒例となったプリュームとのおやつ会議に、フルールは夢中なのであった。
そんなフルールの元に
「王妃様、国王様がお呼びです」
騎士の一人が迎えにきたのだった。
***
ー国王執務室ー
コンコン…
「国王様、王妃様をお連れいたしました」
「入れ」
フルールが執務室に入ると、そこにはウルティムスをはじめ
側近のウィズダム、騎士団長のビクトリア、そして、魔法省大臣のレオンがいた。
「何事か」と、大きな瞳をぱちくりさせるフルールに
「座れ」
と、ふかふかのソファーを指さし、促すウルティムス。
「単刀直入に言う。今後一切、王宮内でも外でも…」
「唄を歌う事を禁ずる」
「えっ…」
フルールはウルティムスに言われた言葉の意味が理解出来ず、激しく動揺した。そんなフルールに、三人が即座にフォローに入る。
「国王!ちゃんとご説明してください…。それでは王妃様が可哀想です!」
「一国の王が口下手ですか?国の行く末が心配でなりません」
「んふっ、本当ですよ。何の為に口があるんでしょうか?役に立たない口など必要ありませんね?あっても無駄なので取ってしまいましょうか?」
「………」
有能な部下達の正論に、ウルティムスはぐうの音も出ない。レオンに関しては、もはや脅しではない。
「はぁー…」
「お前は「聖歌人」だ」
***
「聖歌人」
それは「歌うことで魔法が使える者」のことを指す。
その為、魔力そのものは必要なく「無限」に「どんな」魔法でも使用することが出来る。
何故、そんな者が存在するのか、一体どういう仕組みなのか。
全ては「妖精の加護」の伝承に繋がっていた。
妖精は、愛する我が子達に「魔力」を与えたが、愛する獣には「魔力」を与えなかった。
与えられなかったのだ。
妖精からの「寵愛」を一身に受ける獣は、もはや「獣」ではなくなってしまっていた。
しかし「妖精」でもない。
いうならば「神」の領域のような、澄んだ不確かな存在。
そんな不確かな存在に「魔力」という「地上の力」は耐えられなかった。
妖精は愛する獣を、そんな不確かな存在にしてしまったことを嘆いた。
しかし、獣は「それすらも愛おしい」と、嘆く妖精に毎夜「聖歌」を唄った。
妖精は獣の「歌声」を生涯、愛し続けた。
すると、何百年に1度
テルース星に「魔力」を持たず、だが「歌うことで魔法が使える」という者が生まれて来るようになった。
民は、その者を「獣」の生まれ変わりと信じ、その「歌声」は「神の力」だと、崇拝したのだった。
***
「…僕が、その聖歌人って、こと?」
「(…てっきり、妖精が何かしてると思ってたんだけど…僕の魔法だったの?)」
話を聞き終えたフルールは、コテンッ…と、首を横に傾げる。
「んふっ、今日も愛らしいです!王妃様!」
「「ヒム」と言うのは、その獣の名前だったと言われているのですよ!」
「へぇー…でも、何で?何で歌ったらいけないの?」
「それに、僕が本当に聖歌人って言う証拠は?」
説明を聞いても納得が出来ないフルールは、三人に詰め寄った。
すると…
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