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1巻
1-2
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するとなぜか、雪人はお弁当に興味を示した。
「ひなこさんが作ったの?」
「はい。といってもやる気がなかったので、適当なサンドイッチだけですが」
家にあるものだけで簡単に作った、料理と言えないような代物だ。
けれど彼の瞳はさらに輝いた。
「ぜひ、食べてみたいな」
「えぇっ? いえ、人にあげられるようなものでは……」
「お願い。ね?」
ニッコリ笑顔には、なぜか有無を言わさぬ迫力があった。
――この人、やんわり強引な人だ……
そういえば今までの経緯全て、彼の思い通りにことが運んでいる。
ひなこは渋々と、学院指定のかばんから赤いランチボックスを取り出した。
四つある内の一つしか食べていないのでまだ三つ残っている。
具材はツナと卵がメインで、レタスやトマトなどは入っていない。最近は買いものすら億劫だったため、鮮度が命の野菜は冷蔵庫内になかったのだ。なので断面はどこまでも地味。
「こんなの、お口に合わないと思うので……」
見た目で食欲が失せればと思った。けれど雪人は躊躇せずツナのサンドイッチを取り、そのままラップを開け始めてしまう。
「ちょっ……さすがに店内ではっ」
小声で注意したものの、彼は堂々と口に運んだ。
幸い周囲に人はいないが、マナーとしてたいへんまずい。
「――おいしい」
雪人が子どもみたいに無防備な声を上げたため、ひなこは目を瞬かせた。
もぐもぐ一気に食べ進めていくのをつい見守ってしまう。
「とてもおいしいです。ただのツナサンドかと思ったら、玉ねぎのみじん切りも入っているし」
「食材を駄目にするのはもったいなかったので」
「パンにも何か塗っているでしょう?」
「片側にマスタードマヨネーズ、もう片側にクリームチーズが塗ってあります」
本当は、チキンやベーコンのようなボリュームのある具材の方が合うのだが、これも早く消費しなくてはと少し多めに塗っていた。
「やる気のない、適当なサンドイッチでこのレベルなのか……有賀さんの絶賛は真実だったんだね」
「いやいや、大げさですよ」
「大げさなんかじゃありません」
きっぱり言うと、雪人はひなこの両手を握った。手を握るのが癖なのだろうか。
「ひなこさん」
「はい」
「私と結婚してくださいませんか?」
「――――――はい?」
ひなこは呆然としながらも頭の片隅で、やっぱり変な人だと思った。
出会ったばかり、しかも平凡としか表しようのないひなこに、プロポーズなんて。
「改めまして、私は三嶋雪人といいます。三月十二日生まれのO型。現在二十九歳。二十二歳の大学卒業と同時に輸入インテリア家具の会社を立ち上げました。会社が潰れでもしないかぎり、あなたに苦労はさせないと誓います。趣味は読書。休日は家でのんびりするのが好きです。好きな言葉は克己心」
雪人はにこやかな表情のまま、つらつらと自らのプロフィールを述べていく。まさに立て板に水だ。
「ちなみにバツイチです。二十四歳の時に妻と別れました。原因は仕事を理由に、家庭のことを全て任せきりにしてしまったこと。完全に私の責任です。それから色々な方にハウスキーパーを依頼しましたがどの方も長続きせず、二十五歳の頃に有賀さんと出会いました。なのであなたのお母さんとは四年近くの付き合いです」
そこで彼はすっかり冷めたコーヒーを飲み、少しいたずらっ子のように笑った。
「フフ。一応自己紹介は敬語にしてみたよ。ちょっとお見合いっぽいでしょう?」
いや、何を言っているのか。
彼からの提案に理解が追い付いていないのに、これ以上ボケないでほしい。
ぽかんとしたままフリーズしてしまったひなこに気付き、雪人はようやく自己紹介という名のプロモーションをやめてくれた。
「ごめんね。突然すぎたね」
「はぁ……」
突然すぎることは謝っても、訂正するつもりはないらしい。
「結婚といっても難しく考えないでほしい。契約結婚をしないかと、そういう話」
「契約結婚……」
「いわゆる事実婚をするんだよ。ひなこさんが住民票を私の住所に移すだけ。続柄を『妻』にしてね。それだけで健康保険を受けることもできるんだよ」
婚姻届の提出も必要ないから、お互いの戸籍にも瑕が付かないということか。
「恋愛関係はないからただの同居だね。そして、あなたには家事をこなしてもらう。もちろん働いた分の給料は支払うよ。住み込みのハウスキーパーということかな」
「では、住み込みのハウスキーパーという肩書きでいいのでは……」
「御園学院はバイト禁止でしょう? ばれたら退学になる恐れもある」
「……よくご存じで」
「私はあそこの卒業生なんだ」
それはひなこも頭を抱えていた問題だった。
学費は免除してもらっていても、生活していくだけでかかるお金がある。食費に水道光熱費、家賃などだ。
学院も事情を考慮すれば、特例としてアルバイトの許可をくれるだろう。
けれど、某有名大学にも毎年多数の合格者を輩出している御園学院の授業に、アルバイトをこなしながらついていけるのかという根本的な不安があった。
母が遺してくれた財産も決して多くはないので、収入なしでは卒業までにいずれ底をついてしまうだろう。奨学金をもらったとしても、生活は厳しい。かといって特待生として入学しているからには、アルバイトを理由に留年など許されない。
このまま今の学校に籍を置いていても、無意味なのではないか。悲観的になった頭では自主退学する以外の道が見えなくて、軽く絶望しかけていた。
なので、雪人の申し出には心がぐらついて仕方がない。
住む場所を確保できる上、給料がもらえる。しかもひなこは得意な家事をするだけでいいのだ。家事と学業の両立ならば、今までもなんとかなってきた。
だが、ここで流されるべきではないとも思う。生活のために偽りとはいえ結婚するなんて、人として問題がある。
――たとえ相手が、一生縁がなさそうなほど格好よくても。肩書きが眩しくても。
お断りしようと口を開いた時、またもや手を握られた。
「小学生になる息子には、食品アレルギーがあるんだ」
「え……」
「有賀さんには、その辺を配慮したごはんを作ってもらっていた。それでも彼女の料理はおいしくて、息子はとても懐いていたんだ。今は弁当を買ってしのいでいるが、いつまでも既製品を食べさせ続けるのも――」
雪人は苦悩をにじませて俯く。それは、父親の顔だった。
ひなことしても、食に関するこだわりが強いからこそ、いたいけな子どもがアレルギーに苦しんでいるなんて胸が痛い。
「お願いです、私達家族を助けてほしい。どうしてもあなたが必要なんだ」
雪人はおもむろに姿勢を正すと、なんの躊躇もなく頭を下げた。社会的地位のある大人が、平凡な女子高生に。
けれどそれ以上にひなこを驚かせたのは、彼に必要とされたことだった。
母がいなくなり、もう誰にも求められず生きていくのだと思っていたのに。
「ひなこさん。どうか、家族になってくれませんか?」
家族。その言葉に、はっきりと心が震えた。
家族といるだけで得られる温もりを知っているからこそ、何よりも独りきりの寄る辺なさを実感していたのだから。
――私が、家族になってもいいの……?
目の前に、新たな居場所を示されているような気がした。ひなこの存在を許し、受け入れてくれる場所。
それは、間違いだと分かっていても掴まずにいられない、甘い誘惑だった。
ひなこは立ち上がると、自ら雪人に近付いた。そして、膝の上で握られた彼のこぶしに、おずおずと手を添える。
「――私なんかで、よかったら」
その一言に、彼は勢いよく顔を上げた。
「あぁ、本当にありがとう!」
雪人はそのまま立ち上がると、喜びもあらわにひなこを抱きしめる。
ひなこは驚いて体を縮こまらせた。男の人に抱きしめられたのは初めてだ。
母とは違う広い胸、頑丈な体。グリーン系の香水と雪人自身の匂いが混ざり、落ち着いた香りがする。幼い頃に死んだ父もこんな感じだったのだろうか。
ハッと我に返った雪人が、慌てて体を離した。
「ご、ごめん。馴れ馴れしかったね。あまりにも嬉しくて、つい」
「いえ……」
ドキドキしたけれど、言いようのない安心感もあった。
人の温かさは安心する。
二週間前の母の冷たさが、今までずっとひなこの感覚を支配していた。それが、温もりに上書きされていく。
契約結婚でも疑似家族でもなんでもいいから、ひなこはすがりたかっただけなのかもしれない。優しく、温かい誰かに。
勢いに押され決断してしまったけれど、きっと後悔はしないだろうと思った。
この温もりを分けてくれた人の側にいられるのだから――
◇ ◆ ◇
言質を取った雪人の行動は迅速で、すぐに家族と顔合わせする段取りが組まれた。
スケジュールを調整して無理やり休みを作り、子どもに話を済ませてからひなこが暮らす部屋作りを始める。家具会社の社長だけあってその辺は抜かりない。
仕事の合間を縫い、住民異動届をもらってくることも忘れなかった。
そして、あっという間に顔合わせ当日。
初めて出会った日にお茶をしたホテルの、フレンチレストランに案内された。
場に相応しいフォーマルを持っていないため、ひなこは制服姿だった。
御園学院の制服なら問題ないだろうと考えたのだが、雪人になぜか謝罪された。
「気が利かなくてごめん。今度、二人でショッピングに行こう」
しっかり遠慮しておいたが、彼は「一度ブルジョアっぽい豪快な買いものがしてみたかったんだ」と不穏なことを楽しげに呟いている。
フレンチレストランはなんと貸し切りだった。
フロア中央のテーブルに座る人影を見て――ひなこは早速後悔しそうになった。
「あの……連れ子四人って、聞いてませんでしたけど」
第一話 晴れ空と蒸しケーキ
朝目覚めると、見慣れない天井がそこにあった。
部屋を見回してみれば、木目調で統一された机とクロゼット、本棚。壁紙は爽やかなペールブルーで、カーペットはアイボリー。女の子らしい白いソファには淡いミントグリーンとピンクのクッションが並んでいる。
しばらくぼうっと考え、ひなこはようやく自分の今の状況を呑み込んだ。
――そうだ。私、契約結婚したんだった……
実感が湧かないままベッドから降りると、身支度を整え始める。
制服に着替えて髪をとかし、通学かばんを片手に階下に向かう。L字型ソファの背もたれにブレザーをかけて顔を洗ってから、広々としたアイランドキッチンでエプロンを装着する。
今日の朝食は、たまには和食にしてみよう。
ひなこは冷蔵庫から大根や長ネギを取り出していく。他にもさばや納豆、ごぼうや人参なども出した。
朝食と同時進行でお弁当を作るからなかなか大変だ。小、中学校に通う年下組には給食があるため、ひなこと長男と雪人とで三人分。
当初は、自分と長男の分だけを作っていた。それを見て拗ねた雪人の分まで作るようになったのは一昨日からだ。
おいしいランチをいくらでも食べられるだろうと思うのだが、雪人は毎日嬉しそうに『愛妻弁当』を持っていく。照れくさいが確かな喜びも感じていた。
六人分のさばを二度に分けて焼いていく間に、ごぼうや人参、大根や長ネギなどの野菜を刻む。早く火を通したいため全て薄めに切った。
お弁当用の卵焼きを作り、ウインナーを焼く。ミニトマトやわさびマヨで和えたブロッコリーは栄養バランスと彩りを考えてのものだ。
手際よく味噌汁を作り始めたところで、人の気配に気付いた。
「楓君、おはようございます」
「おはよ、お義母さん」
背後に立っていたのは長男の楓だった。
長めの前髪に、無造作に遊ばせた毛先。顔立ちは近くにいるだけで緊張してしまうほど綺麗だが、雪人の禁欲的な雰囲気に比べると少々粗野な印象だ。距離感が近い点もいかにも女性に慣れていそうだと思う。
人を食ったような笑みでの『お義母さん』など皮肉にしか聞こえないし、もしや突然現れた気に入らない人間への嫌がらせだろうかと勘繰ってしまう。
――そりゃすぐに受け入れてもらえるとは思わないけど、これは心臓に悪い……
肘が触れ合いそうな近さだったため、ひなこはそっと距離を取った。
「もうすぐさばが焼けるので離れててくださいね。火傷しますよ」
「いい匂い。今日は和食なんだ」
「ちょっと……」
「しかし幼妻っていい響きだな。しかも義理の母とか、やらしい想像しかできない」
直接的な言葉に、さすがに顔が赤くなる。
そういった反応さえ彼には面白いらしく、大型の肉食獣が獲物をいたぶるように目を細めた。完全に遊ばれている。
「いい加減にしなよ、楓」
さらに過激になりそうだった彼を、凛とした声が制止する。
振り向いた先には、大きめのカラーが特徴的なセーラーと、紺色のサロペットスカートを身に着けた少女が立っていた。少女といってもひなこより背が高く、ずっと大人びた顔をしている。
彼女は長女の譲葉。
中学二年生で、生まれつき色素が薄いのか髪は栗色だ。さらさらのショートカットに切れ長の瞳、白磁のように透明な肌。文句なしの美少女なのだが――
「ひなこさん、大丈夫だった? この男は手が早いから、なるべく二人きりにはならないようにね」
楓との間に割って入って微笑む様は、まるで生まれながらの王子様のようだ。彼女が通っているのはミッション系の女子校だが、それでも憧れる生徒があとを絶たないだろう。
「ありがとう、ございます。譲葉さん。おはようございます」
「おはよう、ひなこさん。あと、敬語なんていらないよ?」
年下だと分かっていても、自然と『さん』付けになってしまうほどの雰囲気があるのだ。呼び捨てなんて恐れ多い。
それにあくまで友好的だが、彼女からはどことなく余所余所しさも感じていた。そのため、今一歩踏み出せない自分がいる。
「この男とか手が早いとか、ひどくねぇ? 可愛い子を可愛がって何が悪いんだよ?」
「楓の場合、その可愛い子は何人いるんだか」
「数えたことないから分かんねぇ」
けらけら笑う楓は全く悪びれない。
ひなこも元々そんな性格を知っていたから、怒りすら湧かなかった。
彼が着崩している制服は、ベージュのブレザーにスラックス。そう、楓はひなこと同じ御園学院の生徒で、同学年なのだ。
しかもその他大勢に埋もれるひなこと違い、彼は有名だった。
御園学院の『学院一のイケメン』。入学当初から騒がれていたのも知っている。
彼の教室の前は楓目的の生徒が集まりいつでも歩行困難で、見かけるたびに違う女の子を連れているというのはよく聞く話だ。来るもの拒まずという噂もある。
そこまで遊んでいたら同性から恨まれそうなものだが、意外なことに友達は多く交友関係も広い。とにかく世渡り上手なのだろう。
隣のクラスだが、もちろん楓はひなこを知らなかった。雪人が設けた会食の席で、御園学院の制服を着た姿を見て、初めて同じ学院の生徒だと気付いたくらいだ。
――まぁ、影が薄いのは仕方ないけどね。私は無個性だから。
さばを皿に移している後ろでは、楓と譲葉の口論が続いている。お願いだからリビングでやってほしい。
そうこうしている内に他の兄弟も下りてきた。
大きな黒ぶち眼鏡が特徴的な次男の茜。
小学四年生にして、いつも難しそうな本を小脇に抱えている。口数が少ない方で、ひなこは未だにまともな会話をしたことがなかった。兄弟が話しかけても首を振る仕草だけで答えることが多い。
そのあとに続いてきたのは三男の柊。
小学一年生。譲葉と同じく色素の薄い髪に、少しきつい目元。つんとして懐かない猫のような印象の少年だ。
雪人の実子はこの柊一人だけらしい。
前妻は雪人にとって年上の幼馴染みにあたる女性で、小さな子どもを三人抱えて実家に出戻りしていたところを親同士の勧めもあって入籍したのだという。
何はともあれ、離婚後に前妻の連れ子をも引き取った雪人は、度を超えたお人好しなのかもしれない。
「茜君、柊君。おはようございます」
「……おはようございます、ひなこさん」
朝の挨拶に返ってきたのは、独特の間がある茜の声だけ。
柊は兄弟達の挨拶にのみ応じ、ひなことは目を合わせようともしない。義母として歓迎されていないことがひしひしと伝わってくる。
子どもにとって、親の離婚や再婚は繊細な問題だ。
幼い場合特にそうなので、こんな反応も仕方がないと考えていた。
契約結婚であることは雪人と二人だけの秘密だが、もし柊に知られたら大変なことになるだろうと簡単に想像がつく。
お弁当を完成させ、ダイニングテーブルに料理を運び終えても、雪人だけが下りてこない。普段ならこのくらいの時間に起きてくるはずなのだが。
心配になって階段の方に向かうと、広い胸に正面からぶつかってしまった。
「あぁ、ごめん」
よろけたひなこの肩を支えたのは雪人だった。
いつも通りきっちりスーツを着ているが、今はなんだか慌てている。
「おはよう、ひなこさん。ごめんね。朝から会議だから早く行かなきゃいけないって忘れてた。せっかく作ってくれた朝ごはん、食べていけそうにない」
「そんなのいいですけど……遅刻ですか?」
「いや。今出れば間に合うと思う」
答えながら、彼は足早に洗面所に向かう。
雪人が歯みがきなどをしている間に、ひなこは手早くおにぎりを握った。間に合わせのため具はさばの塩焼きだ。
洗面所から出てきた彼は、髪を整えすっかり仕事モードだ。セットしていない姿も若々しくて好きだが、やはりキリッとした髪型も格好いいと思う。
家族全員と挨拶を終えた雪人を、玄関まで見送りに出る。
かばんとお弁当、加えておにぎりを渡すと、彼は目を瞬かせた。
「行きがけに召し上がってください。運転中は危ないからやめた方がいいんでしょうけど、お腹が空いたら元気が出ませんし」
「……ありがとう。ちゃんと信号待ちの時に、いただくね」
雪人は、それだけで元気が出たように頷いた。そしてぐっと腰を屈めると、ひなこの頬に触れるか触れないかの距離まで唇を寄せる。
空気にキスするようにして、彼は極上の笑みを浮かべた。
「新婚さんの大事な儀式、でしょ?」
「……あの、契約結婚ですよね!?」
「ははは。行ってきます」
雪人は真面目に取り合わず玄関を出て行こうとする。
その背に赤い頬のまま「行ってらっしゃい」を言うと、彼は一瞬意外そうにしたものの、甘い微笑を残して行った。
「はぁ……どこもかしこも心臓に悪い」
「ひなこさんが作ったの?」
「はい。といってもやる気がなかったので、適当なサンドイッチだけですが」
家にあるものだけで簡単に作った、料理と言えないような代物だ。
けれど彼の瞳はさらに輝いた。
「ぜひ、食べてみたいな」
「えぇっ? いえ、人にあげられるようなものでは……」
「お願い。ね?」
ニッコリ笑顔には、なぜか有無を言わさぬ迫力があった。
――この人、やんわり強引な人だ……
そういえば今までの経緯全て、彼の思い通りにことが運んでいる。
ひなこは渋々と、学院指定のかばんから赤いランチボックスを取り出した。
四つある内の一つしか食べていないのでまだ三つ残っている。
具材はツナと卵がメインで、レタスやトマトなどは入っていない。最近は買いものすら億劫だったため、鮮度が命の野菜は冷蔵庫内になかったのだ。なので断面はどこまでも地味。
「こんなの、お口に合わないと思うので……」
見た目で食欲が失せればと思った。けれど雪人は躊躇せずツナのサンドイッチを取り、そのままラップを開け始めてしまう。
「ちょっ……さすがに店内ではっ」
小声で注意したものの、彼は堂々と口に運んだ。
幸い周囲に人はいないが、マナーとしてたいへんまずい。
「――おいしい」
雪人が子どもみたいに無防備な声を上げたため、ひなこは目を瞬かせた。
もぐもぐ一気に食べ進めていくのをつい見守ってしまう。
「とてもおいしいです。ただのツナサンドかと思ったら、玉ねぎのみじん切りも入っているし」
「食材を駄目にするのはもったいなかったので」
「パンにも何か塗っているでしょう?」
「片側にマスタードマヨネーズ、もう片側にクリームチーズが塗ってあります」
本当は、チキンやベーコンのようなボリュームのある具材の方が合うのだが、これも早く消費しなくてはと少し多めに塗っていた。
「やる気のない、適当なサンドイッチでこのレベルなのか……有賀さんの絶賛は真実だったんだね」
「いやいや、大げさですよ」
「大げさなんかじゃありません」
きっぱり言うと、雪人はひなこの両手を握った。手を握るのが癖なのだろうか。
「ひなこさん」
「はい」
「私と結婚してくださいませんか?」
「――――――はい?」
ひなこは呆然としながらも頭の片隅で、やっぱり変な人だと思った。
出会ったばかり、しかも平凡としか表しようのないひなこに、プロポーズなんて。
「改めまして、私は三嶋雪人といいます。三月十二日生まれのO型。現在二十九歳。二十二歳の大学卒業と同時に輸入インテリア家具の会社を立ち上げました。会社が潰れでもしないかぎり、あなたに苦労はさせないと誓います。趣味は読書。休日は家でのんびりするのが好きです。好きな言葉は克己心」
雪人はにこやかな表情のまま、つらつらと自らのプロフィールを述べていく。まさに立て板に水だ。
「ちなみにバツイチです。二十四歳の時に妻と別れました。原因は仕事を理由に、家庭のことを全て任せきりにしてしまったこと。完全に私の責任です。それから色々な方にハウスキーパーを依頼しましたがどの方も長続きせず、二十五歳の頃に有賀さんと出会いました。なのであなたのお母さんとは四年近くの付き合いです」
そこで彼はすっかり冷めたコーヒーを飲み、少しいたずらっ子のように笑った。
「フフ。一応自己紹介は敬語にしてみたよ。ちょっとお見合いっぽいでしょう?」
いや、何を言っているのか。
彼からの提案に理解が追い付いていないのに、これ以上ボケないでほしい。
ぽかんとしたままフリーズしてしまったひなこに気付き、雪人はようやく自己紹介という名のプロモーションをやめてくれた。
「ごめんね。突然すぎたね」
「はぁ……」
突然すぎることは謝っても、訂正するつもりはないらしい。
「結婚といっても難しく考えないでほしい。契約結婚をしないかと、そういう話」
「契約結婚……」
「いわゆる事実婚をするんだよ。ひなこさんが住民票を私の住所に移すだけ。続柄を『妻』にしてね。それだけで健康保険を受けることもできるんだよ」
婚姻届の提出も必要ないから、お互いの戸籍にも瑕が付かないということか。
「恋愛関係はないからただの同居だね。そして、あなたには家事をこなしてもらう。もちろん働いた分の給料は支払うよ。住み込みのハウスキーパーということかな」
「では、住み込みのハウスキーパーという肩書きでいいのでは……」
「御園学院はバイト禁止でしょう? ばれたら退学になる恐れもある」
「……よくご存じで」
「私はあそこの卒業生なんだ」
それはひなこも頭を抱えていた問題だった。
学費は免除してもらっていても、生活していくだけでかかるお金がある。食費に水道光熱費、家賃などだ。
学院も事情を考慮すれば、特例としてアルバイトの許可をくれるだろう。
けれど、某有名大学にも毎年多数の合格者を輩出している御園学院の授業に、アルバイトをこなしながらついていけるのかという根本的な不安があった。
母が遺してくれた財産も決して多くはないので、収入なしでは卒業までにいずれ底をついてしまうだろう。奨学金をもらったとしても、生活は厳しい。かといって特待生として入学しているからには、アルバイトを理由に留年など許されない。
このまま今の学校に籍を置いていても、無意味なのではないか。悲観的になった頭では自主退学する以外の道が見えなくて、軽く絶望しかけていた。
なので、雪人の申し出には心がぐらついて仕方がない。
住む場所を確保できる上、給料がもらえる。しかもひなこは得意な家事をするだけでいいのだ。家事と学業の両立ならば、今までもなんとかなってきた。
だが、ここで流されるべきではないとも思う。生活のために偽りとはいえ結婚するなんて、人として問題がある。
――たとえ相手が、一生縁がなさそうなほど格好よくても。肩書きが眩しくても。
お断りしようと口を開いた時、またもや手を握られた。
「小学生になる息子には、食品アレルギーがあるんだ」
「え……」
「有賀さんには、その辺を配慮したごはんを作ってもらっていた。それでも彼女の料理はおいしくて、息子はとても懐いていたんだ。今は弁当を買ってしのいでいるが、いつまでも既製品を食べさせ続けるのも――」
雪人は苦悩をにじませて俯く。それは、父親の顔だった。
ひなことしても、食に関するこだわりが強いからこそ、いたいけな子どもがアレルギーに苦しんでいるなんて胸が痛い。
「お願いです、私達家族を助けてほしい。どうしてもあなたが必要なんだ」
雪人はおもむろに姿勢を正すと、なんの躊躇もなく頭を下げた。社会的地位のある大人が、平凡な女子高生に。
けれどそれ以上にひなこを驚かせたのは、彼に必要とされたことだった。
母がいなくなり、もう誰にも求められず生きていくのだと思っていたのに。
「ひなこさん。どうか、家族になってくれませんか?」
家族。その言葉に、はっきりと心が震えた。
家族といるだけで得られる温もりを知っているからこそ、何よりも独りきりの寄る辺なさを実感していたのだから。
――私が、家族になってもいいの……?
目の前に、新たな居場所を示されているような気がした。ひなこの存在を許し、受け入れてくれる場所。
それは、間違いだと分かっていても掴まずにいられない、甘い誘惑だった。
ひなこは立ち上がると、自ら雪人に近付いた。そして、膝の上で握られた彼のこぶしに、おずおずと手を添える。
「――私なんかで、よかったら」
その一言に、彼は勢いよく顔を上げた。
「あぁ、本当にありがとう!」
雪人はそのまま立ち上がると、喜びもあらわにひなこを抱きしめる。
ひなこは驚いて体を縮こまらせた。男の人に抱きしめられたのは初めてだ。
母とは違う広い胸、頑丈な体。グリーン系の香水と雪人自身の匂いが混ざり、落ち着いた香りがする。幼い頃に死んだ父もこんな感じだったのだろうか。
ハッと我に返った雪人が、慌てて体を離した。
「ご、ごめん。馴れ馴れしかったね。あまりにも嬉しくて、つい」
「いえ……」
ドキドキしたけれど、言いようのない安心感もあった。
人の温かさは安心する。
二週間前の母の冷たさが、今までずっとひなこの感覚を支配していた。それが、温もりに上書きされていく。
契約結婚でも疑似家族でもなんでもいいから、ひなこはすがりたかっただけなのかもしれない。優しく、温かい誰かに。
勢いに押され決断してしまったけれど、きっと後悔はしないだろうと思った。
この温もりを分けてくれた人の側にいられるのだから――
◇ ◆ ◇
言質を取った雪人の行動は迅速で、すぐに家族と顔合わせする段取りが組まれた。
スケジュールを調整して無理やり休みを作り、子どもに話を済ませてからひなこが暮らす部屋作りを始める。家具会社の社長だけあってその辺は抜かりない。
仕事の合間を縫い、住民異動届をもらってくることも忘れなかった。
そして、あっという間に顔合わせ当日。
初めて出会った日にお茶をしたホテルの、フレンチレストランに案内された。
場に相応しいフォーマルを持っていないため、ひなこは制服姿だった。
御園学院の制服なら問題ないだろうと考えたのだが、雪人になぜか謝罪された。
「気が利かなくてごめん。今度、二人でショッピングに行こう」
しっかり遠慮しておいたが、彼は「一度ブルジョアっぽい豪快な買いものがしてみたかったんだ」と不穏なことを楽しげに呟いている。
フレンチレストランはなんと貸し切りだった。
フロア中央のテーブルに座る人影を見て――ひなこは早速後悔しそうになった。
「あの……連れ子四人って、聞いてませんでしたけど」
第一話 晴れ空と蒸しケーキ
朝目覚めると、見慣れない天井がそこにあった。
部屋を見回してみれば、木目調で統一された机とクロゼット、本棚。壁紙は爽やかなペールブルーで、カーペットはアイボリー。女の子らしい白いソファには淡いミントグリーンとピンクのクッションが並んでいる。
しばらくぼうっと考え、ひなこはようやく自分の今の状況を呑み込んだ。
――そうだ。私、契約結婚したんだった……
実感が湧かないままベッドから降りると、身支度を整え始める。
制服に着替えて髪をとかし、通学かばんを片手に階下に向かう。L字型ソファの背もたれにブレザーをかけて顔を洗ってから、広々としたアイランドキッチンでエプロンを装着する。
今日の朝食は、たまには和食にしてみよう。
ひなこは冷蔵庫から大根や長ネギを取り出していく。他にもさばや納豆、ごぼうや人参なども出した。
朝食と同時進行でお弁当を作るからなかなか大変だ。小、中学校に通う年下組には給食があるため、ひなこと長男と雪人とで三人分。
当初は、自分と長男の分だけを作っていた。それを見て拗ねた雪人の分まで作るようになったのは一昨日からだ。
おいしいランチをいくらでも食べられるだろうと思うのだが、雪人は毎日嬉しそうに『愛妻弁当』を持っていく。照れくさいが確かな喜びも感じていた。
六人分のさばを二度に分けて焼いていく間に、ごぼうや人参、大根や長ネギなどの野菜を刻む。早く火を通したいため全て薄めに切った。
お弁当用の卵焼きを作り、ウインナーを焼く。ミニトマトやわさびマヨで和えたブロッコリーは栄養バランスと彩りを考えてのものだ。
手際よく味噌汁を作り始めたところで、人の気配に気付いた。
「楓君、おはようございます」
「おはよ、お義母さん」
背後に立っていたのは長男の楓だった。
長めの前髪に、無造作に遊ばせた毛先。顔立ちは近くにいるだけで緊張してしまうほど綺麗だが、雪人の禁欲的な雰囲気に比べると少々粗野な印象だ。距離感が近い点もいかにも女性に慣れていそうだと思う。
人を食ったような笑みでの『お義母さん』など皮肉にしか聞こえないし、もしや突然現れた気に入らない人間への嫌がらせだろうかと勘繰ってしまう。
――そりゃすぐに受け入れてもらえるとは思わないけど、これは心臓に悪い……
肘が触れ合いそうな近さだったため、ひなこはそっと距離を取った。
「もうすぐさばが焼けるので離れててくださいね。火傷しますよ」
「いい匂い。今日は和食なんだ」
「ちょっと……」
「しかし幼妻っていい響きだな。しかも義理の母とか、やらしい想像しかできない」
直接的な言葉に、さすがに顔が赤くなる。
そういった反応さえ彼には面白いらしく、大型の肉食獣が獲物をいたぶるように目を細めた。完全に遊ばれている。
「いい加減にしなよ、楓」
さらに過激になりそうだった彼を、凛とした声が制止する。
振り向いた先には、大きめのカラーが特徴的なセーラーと、紺色のサロペットスカートを身に着けた少女が立っていた。少女といってもひなこより背が高く、ずっと大人びた顔をしている。
彼女は長女の譲葉。
中学二年生で、生まれつき色素が薄いのか髪は栗色だ。さらさらのショートカットに切れ長の瞳、白磁のように透明な肌。文句なしの美少女なのだが――
「ひなこさん、大丈夫だった? この男は手が早いから、なるべく二人きりにはならないようにね」
楓との間に割って入って微笑む様は、まるで生まれながらの王子様のようだ。彼女が通っているのはミッション系の女子校だが、それでも憧れる生徒があとを絶たないだろう。
「ありがとう、ございます。譲葉さん。おはようございます」
「おはよう、ひなこさん。あと、敬語なんていらないよ?」
年下だと分かっていても、自然と『さん』付けになってしまうほどの雰囲気があるのだ。呼び捨てなんて恐れ多い。
それにあくまで友好的だが、彼女からはどことなく余所余所しさも感じていた。そのため、今一歩踏み出せない自分がいる。
「この男とか手が早いとか、ひどくねぇ? 可愛い子を可愛がって何が悪いんだよ?」
「楓の場合、その可愛い子は何人いるんだか」
「数えたことないから分かんねぇ」
けらけら笑う楓は全く悪びれない。
ひなこも元々そんな性格を知っていたから、怒りすら湧かなかった。
彼が着崩している制服は、ベージュのブレザーにスラックス。そう、楓はひなこと同じ御園学院の生徒で、同学年なのだ。
しかもその他大勢に埋もれるひなこと違い、彼は有名だった。
御園学院の『学院一のイケメン』。入学当初から騒がれていたのも知っている。
彼の教室の前は楓目的の生徒が集まりいつでも歩行困難で、見かけるたびに違う女の子を連れているというのはよく聞く話だ。来るもの拒まずという噂もある。
そこまで遊んでいたら同性から恨まれそうなものだが、意外なことに友達は多く交友関係も広い。とにかく世渡り上手なのだろう。
隣のクラスだが、もちろん楓はひなこを知らなかった。雪人が設けた会食の席で、御園学院の制服を着た姿を見て、初めて同じ学院の生徒だと気付いたくらいだ。
――まぁ、影が薄いのは仕方ないけどね。私は無個性だから。
さばを皿に移している後ろでは、楓と譲葉の口論が続いている。お願いだからリビングでやってほしい。
そうこうしている内に他の兄弟も下りてきた。
大きな黒ぶち眼鏡が特徴的な次男の茜。
小学四年生にして、いつも難しそうな本を小脇に抱えている。口数が少ない方で、ひなこは未だにまともな会話をしたことがなかった。兄弟が話しかけても首を振る仕草だけで答えることが多い。
そのあとに続いてきたのは三男の柊。
小学一年生。譲葉と同じく色素の薄い髪に、少しきつい目元。つんとして懐かない猫のような印象の少年だ。
雪人の実子はこの柊一人だけらしい。
前妻は雪人にとって年上の幼馴染みにあたる女性で、小さな子どもを三人抱えて実家に出戻りしていたところを親同士の勧めもあって入籍したのだという。
何はともあれ、離婚後に前妻の連れ子をも引き取った雪人は、度を超えたお人好しなのかもしれない。
「茜君、柊君。おはようございます」
「……おはようございます、ひなこさん」
朝の挨拶に返ってきたのは、独特の間がある茜の声だけ。
柊は兄弟達の挨拶にのみ応じ、ひなことは目を合わせようともしない。義母として歓迎されていないことがひしひしと伝わってくる。
子どもにとって、親の離婚や再婚は繊細な問題だ。
幼い場合特にそうなので、こんな反応も仕方がないと考えていた。
契約結婚であることは雪人と二人だけの秘密だが、もし柊に知られたら大変なことになるだろうと簡単に想像がつく。
お弁当を完成させ、ダイニングテーブルに料理を運び終えても、雪人だけが下りてこない。普段ならこのくらいの時間に起きてくるはずなのだが。
心配になって階段の方に向かうと、広い胸に正面からぶつかってしまった。
「あぁ、ごめん」
よろけたひなこの肩を支えたのは雪人だった。
いつも通りきっちりスーツを着ているが、今はなんだか慌てている。
「おはよう、ひなこさん。ごめんね。朝から会議だから早く行かなきゃいけないって忘れてた。せっかく作ってくれた朝ごはん、食べていけそうにない」
「そんなのいいですけど……遅刻ですか?」
「いや。今出れば間に合うと思う」
答えながら、彼は足早に洗面所に向かう。
雪人が歯みがきなどをしている間に、ひなこは手早くおにぎりを握った。間に合わせのため具はさばの塩焼きだ。
洗面所から出てきた彼は、髪を整えすっかり仕事モードだ。セットしていない姿も若々しくて好きだが、やはりキリッとした髪型も格好いいと思う。
家族全員と挨拶を終えた雪人を、玄関まで見送りに出る。
かばんとお弁当、加えておにぎりを渡すと、彼は目を瞬かせた。
「行きがけに召し上がってください。運転中は危ないからやめた方がいいんでしょうけど、お腹が空いたら元気が出ませんし」
「……ありがとう。ちゃんと信号待ちの時に、いただくね」
雪人は、それだけで元気が出たように頷いた。そしてぐっと腰を屈めると、ひなこの頬に触れるか触れないかの距離まで唇を寄せる。
空気にキスするようにして、彼は極上の笑みを浮かべた。
「新婚さんの大事な儀式、でしょ?」
「……あの、契約結婚ですよね!?」
「ははは。行ってきます」
雪人は真面目に取り合わず玄関を出て行こうとする。
その背に赤い頬のまま「行ってらっしゃい」を言うと、彼は一瞬意外そうにしたものの、甘い微笑を残して行った。
「はぁ……どこもかしこも心臓に悪い」
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